聴取期限 2023年4月21日(金)PM 10:00まで
音を学ぶ "音学(おんがく)" の授業、サカナLOCKS!。
今回は、音楽にまつわるあらゆるお悩みに処方箋を出して解決する「ドクター山口の音楽処方箋」の授業です。今回は、4月から新社会人になった生徒からの相談、 "自分の気持ちに合わせた音楽の探し方をみつけたい" という悩みに処方箋を出して解決していきます!
「(いつもと違う口調で) ドクター山口でございます。どうもこんばんみ。東洋音楽から西洋音楽……全て精通しておりますこのドクター山口がね、音楽にお悩みの生徒諸君を救っていきたいと思っております。」
自分の気持ちに合わせた音楽の探し方を教えていただきたいです。
4月から新社会人となり、朝、日中に活動することが多くなったのですが、その時間に自分の気持ちに寄り添ってくれる音楽を聴きたいのですが、うまく探すことができておりません。
サカナクションは自分の中で夜に聞くことで一番自分に寄り添ってくれて心地よくなると思っているように、「○○の気持ち」「○○の時間帯」に聴くことで、心地よくなるような音楽を知りたいです。
最近では、荒井由実さん、サイモン、チューリップを日中に聴いております。
東京都/22歳/男性
山口「あー……いいね。音楽の探し方ね。分かりましたよ。」
山口「それでは、あきよしさん、診察室へどうぞ。こんばんは。」
あきよし「こんばんは。あきよしと申します。」
山口「あきよしさんはこの春から社会人。どう、どう?新社会人は。」
あきよし「いやー……大変ですね、本当に。」
山口「やっぱり学生時代と違う?」
あきよし「そうですね。責任も伴いますし、そこはちょっと感じてますね。」
山口「なるほど。」
山口「今までは夜の音楽を聴いていたけども、朝と昼に合う曲も探していると。どういうことなのかな?元気を出したいとか、自分の世界に浸りたいとか……どういうモチベーションで、朝昼聞きたいって思うようになったの?」
あきよし「今、一郎さんがおっしゃったことだと後者なのかなって。シャットダウンはしたくないんですけど……東京に住んでると、なんかシャットダウンしたくなる環境になっちゃって。そうなると、やっぱりイヤホンを付けるので、音楽を聴きたいとはなるんですけど、そこで何かぐっとくるような……通勤とか通学とかで今まで浸ってた時間で音楽を聴くってなったときには、どんな音楽聴けばいいのかなっていうのがあります。」
山口「なるほどね。問診票見させていただいたんですけども、最近は荒井由実さんであったりとか、サイモンっていうのは、サイモン&ガーファンクルってこと?」
あきよし「はい。おっしゃる通りです。」
山口「チューリップとかも聴いてる……22歳で。」
あきよし「聴いてますね。」
山口「そういう系統が好きなんだね。それは、サブスクリプションで自分が聴いているものを勝手に関連関連……って、偶然を装っていろいろ選曲はしてくれるじゃない?そうじゃなくて、能動的に探したいの?」
あきよし「そうですね。能動的に探したくて。なんか、手段と目的が乖離してるのがすごい嫌なんですよね。」
山口「おー……真面目やなー。」
あきよし「ふふふ(笑)。サブスクリプションの良さっていっぱいあると思ってるんですけど、気軽に得られるからこそ、先走って求めちゃうのってちょっと違うなっていうのがあるんですよね……大切にできないなっていうか。」
山口「じゃあね……この曲かなっていう処方箋(おすすめする曲)は、大体見当ついてきてるんだけど、探し方だよね。探し方としてのアドバイスを1個言うとすると……例えば、荒井由実さんの『ひこうき雲』ってアルバム知ってる?」
あきよし「はい。」
山口「『ひこうき雲』をレコーディングしていたメンバー……ドラム:林立夫さん、ベース:細野晴臣さん、ギター:鈴木茂さん、キーボード:松任谷正隆さんっていうメンバーでレコーディングしてるのよ。この細野晴臣さんっていうのは、YMO(Yellow Magic Orchestra)のメンバーですよね。はっぴいえんどってグループもやっていて、かつ、アイドルの曲を提供したりとかもしてるわけです。鈴木茂さんは鈴木茂さんで、自分のソロアルバム出してたり、いろんなところでギタリストとして参加したりしてるんですね。林立夫さんも、様々なグループでドラムとして参加しておりますと。松任谷正隆さんは、いろんな方のサポートをやってらっしゃったり、荒井由実さんを松任谷由実として、結婚してからもプロデュースしているわけですからね。ってなると、荒井由実という一つの作品から、様々なミュージシャンの様々なアルバムにたどり着くわけじゃないですか。なので、その曲を聴くだけじゃなくて、プレイヤーから音楽を探っていくっていうのもありですよね。つまり、その年代を知るっていうこと。その年代にどんなミュージシャンたちがいて、その中に自分の好きな作品はどういう風に聴かれていたのかっていうのを探っていくと、これまたね、いろんなミュージシャン出会えると思いますよ。」
あきよし「へー……!」
山口「さらに、チューリップ好きっていうことだから。チューリップはどういう系譜で生まれてきたのかっていうのも知れるわけですよ。そこを掘ってくと、どのミュージシャンと仲良くてとか、どういうシーンの中で生まれてきてとか。自分が聴いてきたものと、ここがこう繋がるんだな……とか。そういうふうに知っていくといいかなと思いますけどね。」
山口「ドクター山口的には、あきよしは絶対に細野晴臣が好きだと思うから。聴いたことある?細野晴臣さん(の曲)。」
あきよし「いや、聴いたことないです。」
山口「聞いたことない!それはね……特効薬だね、これ。あきよしの特効薬だと思うね、細野晴臣。まず細野晴臣の『HOSONO HOUSE』。あと、はっぴいえんど。このあたりを聴いて、何年のアルバムか調べて。細野晴臣ヒストリーを追いかけていくと、いろんなものに出会えるからね。YMOってこういう流れでいきなり出てきたの!?……とかね。知れちゃうよ。この人の曲、細野さんが書いてたの!?とかね。いろいろ出てくるからね。あきよしは、まず細野晴臣研究をすることによって、朝昼聞く曲を能動的に見つけれると思う。もう、学者レベルでJ-POPを研究するぐらいの気持ちになっていくんじゃないかな、真面目なあきよしは。」
あきよし「かしこました。」
山口「その辺を掘っていったら、多分小坂忠に出会うからね。小坂忠に出会って、『ほうろう』を聴いて……あー、僕もここまで来たな……って思えばいいと思うかな(笑)。そういえば一郎さん言ってな、小坂忠って……って思うから。そのときにはリマスター版じゃない方を聴くのをおすすめするね。」
あきよし「かしこまりました。」
山口「どうかな、これ。あきよし。」
あきよし「ありがとうございます。納得しました。」
山口「納得した?細野晴臣ね。この辺はもう、J-POP界の神々たちが集まってた年代だから。1972年から80年にかけてとか……神様たちの集いだから。その神様を知らないと、現代音楽の素晴らしさを知ったことにならないからね。彼らがいたから、今の我々がいるからね。はっぴいえんどは日本語ロックの祖だから。それを知らないと駄目よ、あきよしくん。」
あきよし「かしこまりました(笑)。」
山口「ふふふ(笑)。大丈夫かな、こんな感じで。」
あきよし「ありがとうございます。」
山口「せっかくだから、何か質問あればどんなことでも答えるよ。」
あきよし「あ!聞きたいことがあって。」
山口「いいよ。」
あきよし「なんか……東京に住むことになって、いっぱい変わるのかな、これから……って思うんですけど。」
山口「自分が?」
あきよし「はい。いい意味でも、悪い意味でも。一郎さんが、何か自分が変わるなっていう……何か前兆があるときには、それが良いか悪いか分からない状況でも、不安にはなるじゃないですか、変わることに対して。そういった不安に対してどういう対処されているのか……」
山口「例えば、10代の自分が、現代のサカナクションの山口一郎を見たとしたら、多分軽蔑すると思うよ(笑)。それくらい当時の自分は尖ってたし、大衆性っていうものに対してすごく反発してたんだよね。でも、今この年齢になって、ある種の大衆性みたいなものの素晴らしさであったり、さっき細野晴臣さんを知っていくと音楽の深さを知れるよみたいなこと言ってたけど、いろんな事を東京にいると知れるのよ。いろんな環境でいろんな人と出会って、こんな人がいるんだとか、自分はこの人とは全然性格が違うなとか……あと、その人に会うためだけの自分が生まれたりするんだよね。その人に話すための自分を作らなきゃいけないっていうか……なんかそれにすごく嫌になったりすることもあるけど。それって、自分が変わっていってるんじゃなくて、変わらない自分がいるからこそ、変わろうとするわけじゃん。だから、変わらないまま変わるって僕は思うんだけど。東京にいて、絶対自分が変わらないって思う部分を持ちながらも、変わっていくっていう。変わらないまま変わっていく。僕は、過去の自分が今の自分を見たら軽蔑するだろうなっていうことが理解できてるんだよね。それは、自分の中にまだそれがあるから。あるにも関わらず、今こうしてるっていうことに根拠があるっていうか。だから、変わらないまま変わっていくっていうことを意識するとすごい楽になるんじゃないかなと思うけど。変わっていくことに対して、すごく楽になると思うけどね。」
あきよし「あー……」
山口「だって、変わるわけないじゃんって思うことってあるじゃん、自分の中で。でも、些細なことで……笑い方であったりとか、人との接し方であったりとかさ。なんか、昔の自分が見たら、嫌な奴だな自分って思うような瞬間があるかもしれないじゃん。でも、自分今嫌な奴だなって思ってることが大事っていうか、思えてれば大丈夫っていうかね。ちゃんと自分に戻って帰って来られればいいんじゃないかなと思うけど。それは東京に住んでる時間が過ぎ去って、老後になったときにでもいいんだけどね。いつでもいいんだけど。自分がちゃんと帰れる場所があると楽だなって思う。それは、僕にとって音楽だったり、釣りだったりするんだよ。そうしてるときの自分に帰れるっていうかさ。それがなくなると、本当に本当の自分が分からなくなるっていうか。でも、あきよしは音楽が好きだから多分大丈夫だと思うよ。」
あきよし「いやー……ありがとうございます。」
山口「音楽に帰っていけば、大丈夫だと思う。だっていきなり、一郎さん、『俺サイバートランス好きになって、毎日パラパラやってるんです!』って5年後にならない気がする(笑)。なってもいいんだけどね。最高じゃん!ってなるけど、それはそれで(笑)。」
あきよし「(笑)」
山口「だから、音楽を好きでいれば、ちゃんと自分の芯を持っていられるんじゃないかなって勝手に思うけどね。」
山口「他は?」
あきよし「全然もう……関係ないことになっちゃうんですけど、一郎さんって、大人になってから恋愛ってされることあるんですか?」
山口「僕はね、男性女性問わず好きになるんだよ。人を好きになっちゃうからね。だから、それが恋愛かどうか気づかないっていうことの方が多いかな。」
あきよし「あー……」
山口「だから、すごいこの人好きだな、人間として好きだなって思って距離が近くなっていくと、一郎くんこの人のこと好きなのかなとか、この人付き合ってるのかなとか、誤解されることがあったりする。それは男性でもそう。あれ、一郎くんってバイセクシャルなのかなとか言われることもあるくらいその人でずっと一緒にいたりするから。だから、自分の中で恋愛してるっていう感覚よりは、この人すごい尊敬できるとか、この人は何か自分の人生にとって大切だなとか、そう思う人を大切にしてるって感じかな。中学生の頃みたいに、思春期で、うわー……もう、大好き!大好き!もう一生一緒にいる!卒業アルバムにプリクラ貼っちゃおう!みたいな……(笑)。プリクラとかもうないか?あきよしの時代は(笑)。」
あきよし「あります、あります(笑)。」
山口「ある?(笑) そういう感じはもうないよ、歳を取ると。でもあきよしなんてまだ22でしょ?」
あきよし「いや、"もう"ですよ。」
山口「ウキウキだよ!何言ってんだよ、"もう"じゃねーよ。あのね……いっぱい恋愛した方がいいよ、絶対。もったいない。おじさんは……おじさんって言っちゃったけど(笑)。おじさんは、いっぱい恋愛しとけばよかったと思う。音楽をこれだけやりきっちゃってるから。だからいっぱい恋愛した方がいいんじゃない?あきよしくん。」
あきよし「かしこまりました。」
山口「ふふふ(笑)」
あきよし「ありがとうございます。」
山口「じゃあ、あきよし、細野晴臣を掘ってください。」
あきよし「はい。」
山口「それじゃあ、お大事に。ばいばい。」
あきよし「ありがとうございました!」
今回の授業も、そろそろ終了の時間になりました。
山口「あきよしはもう、真面目だな。オンライン会議アプリで対談したけど、メモ取ってたからな。やっぱそういうところだよな。真面目なやつはやっぱり、音楽の聴き方も真面目だよな。でも、いろんな聴き方があっていいからね、みんな。今回先生があきよしに言ったことが正解じゃなくて、いろんな聴き方、いろんな探り方があっていいわけだから。何も正解、不正解はないってことは、誤解しないでもらいたいなと思います。」
引き続き、ドクター山口に相談したい音楽にまつわるお悩み、お待ちしています。メッセージは[→コチラ]から!
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