「対談:江島啓一×世武裕子 (後編)」

SCHOOL OF LOCK!


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聴取期限 2022年9月23日(金)PM 10:00まで




音を学ぶ "音学" の授業、サカナLOCKS!。
現在は、このクラスの副担任・サカナクションのドラム:江島啓一先生が授業を担当中です。

今回は、ゲスト講師に 世武裕子 先生を迎えしています。
世武さんは、映画やドラマ・CMなどのサウンドトラックを手がける映画音楽作曲家、鍵盤プレイヤーとしても活躍する演奏家です。
先週につづいてのご登場です、今回は映像に音楽を付ける映画音楽作曲家のお仕事について伺っていきます。

■前回の授業 → [2022年9月9日の授業]

先週は世武さんがカバーしているサカナクションの「ユリイカ」をフルコーラス、オンエアしましたが、今回のオープニングは江島先生がドラムで参加している世武さんの楽曲「Capitalism」をオンエアしました。




江島「聴いてもらっている曲は、世武裕子さんのソロ名義の曲「Capitalism」。」

世武「フー!」

江島「激しい!もはや懐かしいけど、僕が(ドラムを)叩かせてもらいまして。」

世武「これ良いドラムよねー。」

江島「ありがとうございます。楽しかった、これ。」

世武「これ楽しかったよね。」

江島「そんな世武さんなんですけど、先週ね、世武さんが小学校1年生で映画音楽家に私はなるって思ったところから、ようやく映画音楽関係者に出会ったところまでで終わったしまったので(笑)。」

世武「ほとんど普段端折るところだよ、それ(笑)。」

江島「映画音楽のことをもうちょっと聞きたいなってところがある(笑)。」

世武「そうね(笑)。本筋の話をしよう。」

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江島「映画音楽って基本、映像があって、そのシーンに合う音楽をつけるわけじゃない?いろんな監督とやられると思うんだけど、その監督からオファーを受けたものに対してどうやってアプローチしているの?」

世武「だいたい映画って、私がいつもオファーをいただく時にお願いしているのは……基本的には編集がロックされている状態(編集が終わっている)のものを見たい。そこから曲を作りたい。ぱって観たときに、これだ、っていうのでさっと作る方が自分に向いているから。」

江島「じゃあ、台本だけの状態では何も作らない?」

世武「映画はね。ただドラマは画(え)がないから、どうしても脚本と、言われているキャラの要素と、この人がキャストで決まっていますっていうのを聞いて、この役をやったらこういうテンションでいくかなって……言い方としてはちょっとおこがましくなっちゃうけど、この人の役作りをどうアプローチしていくかを予想して曲を作っていく……みたいな。」

江島「はー。」

世武「ただやっぱりすごい役者さんって、それでも、観てうわーってなるんだけど。」

江島「想像を超えてくることもあるんだ。」

世武「そう。それが楽しいし。曲を書いている時に、そういう時ってヘッドホンをつけてすごい籠って作っているんだけど、耳の近くでちょっとした足の音……歩いている時に床がミシッといったとか、結構ここのシーンって息を吐くよな……とかさ。そういうのとかで、自然とだんだん自分のイメージしていた音楽とリズムも合ってくるから、作るのにあんまり時間がかからないの。」

江島「はー……!音楽以外の音も影響するんだ。」

世武「そう。それとね、自分の頭の中で出てきた音楽が、本当に自然にふわーっと一緒に交わっていくんよ。」

江島「へー……!初見でその画を見た時にもう流れてくるんだ?」

世武「そうそう。でも、そうやってやっても、このシーンに合う音楽を作る落とし穴ってあって。例えば、映画全部の流れの中でそれが本当に必要かどうかっていう。その時間軸の中でどう音を付けていくのがいいのかっていうのは、割と頭脳戦の部分で。」

江島「それは全体の部分でってことだよね?2時間とか2時間半とかの中でそこが本当に必要かっていうのをジャッジする。」

世武「そう。私はそこが一番映画音楽作曲家がエゴを捨てなきゃいけないと思ってる。そこに音を付けたらいいけど、いらないよねとか。そのジャッジの能力も含んでいると思う、作曲家の能力以外に。」

江島「へー。」

世武「しかも、それを間違うと全然違う解釈に見えてくるのがまた不思議で。情報操作をすごいしちゃうのよ、音楽で。だから、役者の演技をすごい良くも見せられるし、最悪にも見せられるから……そういう責任感もある。」

江島「うんうん。」

世武「私自体も、これはポジティブに捉えているんだけど……例えばオファーがきて、やって、いやいやそれ全然違うってなって、何回か(やりとりを)やって違ったら、それは多分オファー先は私じゃないのよ。そういう時は、例えば○○さんとかがやった方が、監督が言っている音楽の世界観に合うと思うので、私じゃないと思うのでクビにしてください、みたいな(笑)。」

江島「それはさっきのさ、このシーンにこの音楽は必要なんだろうかって、一番エゴを捨てないといけない時があるって言っていたものが、音だけじゃなくて自分の存在もそうなんだ。」

世武「そうそう。だから私はいつもめちゃくちゃ客観的にジャッジしているから、自分が例えばこの仕事をやりたいなって思っても、私じゃないなって思ったら、この人にやってもらった方がもっと良いと思いますよって言っちゃうし。だって作品が良い方が良いから。」

江島「あー、やっぱ一番のゴールはそこなんだ。」

世武「そこ。そこは私が根本的に、映画がもう本当に好きだっていうのがあるから。」

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世武「なんか私さ、キャラが立ってるしアクも強いから、割と自分のエゴが一番だと思われがちなんだけど……自分が作っている曲からアクを引くことはできないのよ。こういう曲しから作れないから。だけど、人としては意外と作品のアクよりはアクが強くなくて。」

江島「あー、なんか分かる気がする。」

世武「なんか筋はあるけど、私がこうしたくて、私を見てほしくて、私はこういうのがかっこいいから……みたいなのが意外とないっていう。」

江島「それ、もしかしたらソロでもちょっと感じるかもしれない。」

世武「それがずっと悩みだったんよ。だから、ソロをやるにはその"私を見て!"が足りないんよね。」

江島「ははは(笑)。逆にね!でもそれがさ、良さな気がするんだけどね。主張みたいなものを音の中にみんな入れると思うんだけど、世武さんって限りなく薄くて。だけど、あるの。それは自然に滲み出ているくらいの濃度なのよ。」

世武「そう(笑)。コントロールできないやつね。」

江島「その薄さを保てるのって結構、稀有だと思ってる。みんなめちゃくちゃ入れるから。」

世武「でもそれって、ある種必要なんだろうと思うのね。例えば、マイク持ってセンターに立つ人は、スター性じゃないけど……自分を見て!俺が私が!っていうのがあるから、そのエネルギーがあったりすんじゃん。私はなんか……おらーっていうぶっこみみたいなのはあるんだけど、やっぱ最終的にそれが作品とか曲に向かってるから、そのバランスが今の歳では自分でそれで良いと思ってるんだけど、昔やっぱり結構悩んでいて。サポートに呼んでもらっても、私って飛び道具サポートにしかならないのよ。なぜならサポートにしては目立っちゃうの。」

江島「そうなんだね(笑)。」

世武「フラットに演奏して、そつなくいろんな音楽の演奏をこなせている鍵盤の人で、いろんな現場に行っても馴染む人とかいるんだけど、ちょっとアクが強いから、いつもはいらないのよねって。はじめはそれがちょっと悲しいって思ってたの。今となっちゃ、それが自分だと思っているんだけど。やっぱ、ないものねだりでさ。ずっと同じところでサポートをしている人を見るとさ、そういう人って人間的にもバランスが取れていて良い感じの人なんだろうな……いい人なんだろうな……みたいに思うわけ(笑)。」

江島「ちょ、ちょっと待って(笑)。ネガティブ成分出てきてるから(笑)。」

世武「そう(笑)。私ポジティブの中に1時間くらいネガティブ入るから、いつも(笑)。」

江島「でもそこは合わせなくていいんじゃないの?」

世武「それがやっぱ20代とかじゃむずいのよ。今になってようやく、これ以上求めるものないですよってなってる。」

江島「今は落ち着いてる状態なの?」

世武「そう。その状態で副担任(江島先生)に会えて本当に良かったんですけども。」

江島「じゃあよかった(笑)。……すごい、落とし所作ってくれたね(笑)。」

世武「ははは(笑)。またやばいと思って。長いって(笑)。」


江島「あ、あの話はしたいな。」

世武「何、何?」

江島「カバーアルバムをレコーディングしてるっていう。」

世武「そう、カバーやりたいなと思って。結構でかいきっかけは、先週聴いてもらった「ユリイカ」もあるんだけど。自分がこの歌詞が良いとか、これを作った人はどういう人なのかを想像することって、結局映画音楽にちょっと近いんだけど……」

江島「はー、そうなんだ。」

世武「例えば、「ユリイカ」の歌詞を見て、この主人公がここで歌っていることのもう一個奥の層で……ここは歌いたいけどかっこつけて歌わなかったこととかを引き出したいわけ。」

江島「あー……!」

世武「みんなが人には伝えないことを引き出したいの。私多分、それが本当に好きなの。それこそがその人の一番愛おしさだと思ってるの。その人が持っている、一番奥のところ。」

江島「でも、敢えて見せてないわけじゃん?原曲では。そこをふわっと、ちょっとだけ前に押すんだ。カバーする時は。」

世武「でも、敢えて見せてないのって、本当の本当はみんな見せたいはずなのよ。だけど、いろんな事情といろんな経験値でみんなそれぞれジャッジして、人とうまく生きていくのに見せる見せないの選択をするわけじゃん。弱いことを言いたいけど、ここで弱いことは言えないなとか。」

江島「かっこ悪いなとか。」

世武「とか、いろんな理由があるけど。だから、そうじゃないところを第三者が、全然知らないところをぱっと出して、もっと一層下から、がーって。わざと見せたい。あなたが出さなかったところを出してやりたいと思うというか。」

江島「へー!」

世武「サカナクションはそれがすごいあるの。本当にどうかは知らないし、当事者のエジーは黙秘権を行使してくれていいんだけど(笑)。」

江島「はい(笑)。」

世武「何か、言っていないことがいっぱいあるようなことをすごい感じるの。サカナクションの曲って。」

江島「余白を大切にしたいみたいな部分はあるよね。」

世武「そうそう。で、それはもうサカナクションとして余白を大事にしてもらって、ファンもそこが好きっていう……全部説明されない日本語の美しさとか、音の隙間とかあるじゃん。そこを第三者である私とかが、それが合っているかは別として……この人が間接的に言っていることの直接的な、もっと奥のところをふって(出したい)。」

江島「それを音で表現するんだ。」

世武「うん。歌詞は変えないから。それを音で、その歌詞のもっと深いところをふわって持ってきたいっていうこと。それは歌い方もあるし、弾き方とかアレンジとかもあるんだけど。」

江島「なるほどね。」

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世武「あとは、曲によっては……例えば、書いた人が亡くなってる曲。それは、生きている時に書いている曲だけど、今の視点からこの曲を作っている状況を歌っている……という想定で作ってたりとか。全然別の視点から。それをまた受けている、生きている人たち。今、私たち……っていう視点もあるよね。そこを映画を作っているみたいな感じでやったりとか。」

江島「それは1曲の中で?」

世武「そうそう。それが、映画音楽作曲家がこういう表現をしていくっていう……自分が今までアーティスト活動と映画音楽作曲家の活動を分けていたのが、歳と共に、全然棲み分けるものじゃないんじゃないって。自然に一本になってきているっていう。」

江島「最近そういうメンタルになってきてるんだ。」

世武「そう。それはやっぱり時間をかけなきゃ気づけなかったことで。セパレートさせてたの、自分が勝手に。」

江島「無意識に、そうしなきゃいけないと思ってた?」

世武「そうやってしないと……例えば、売りにくいんじゃないかとか、映画音楽をやる時に、"アーティストだからあの人。自分が自分がみたいな人だから作曲家然とした人の方が良いですよ" って言われてたよって若い頃に聞いたりとか。それって結局、自分がやったことの結果として音に残せているわけだから、そこを自分が私ってこうで、こうだから……って説明せずに。例えば、映画をやりました、今となって結果としては自分がやってきたことを見て、この人ってエゴでやっている人じゃないんだなって、できた結果物を見てジャッジされているから。私がここで、アーティストなんですけど、エゴで作ってなくて……っていう必要がないっていう。」

江島「わざわざ説明する必要はないと。」

世武「そう。私、ほとんどのことってそうだと思うんよ。どんな仕事でも、結果行動っていうか。言うとか、自分が説明するとか、何かを蛇足することって……特に何かを作る人って、作ったものにめちゃめちゃ説明するようじゃ、それって作品の中で足りてないんじゃないですかっていう。」

江島「まあねー……ちょっと難しい部分もあるよね、そこはね。」

世武「そこはむしろエジーの意見を聞きたいところではある。」

江島「理想で言うと、説明しないで作品だけを聴いて受け取ってほしいっていう部分はめちゃくちゃあるんだけど……そんなに、音楽に人生の大半の時間を使っている人に聴いてもらうわけじゃないじゃん。暇な時間があったら聴くっていうくらいの人にも、できれば聴いてほしいなって思った時に、ちょっとだけ補足してあげるというか……ちょっとだけ、入り口を入りやすくしてあげる。ちょっと入りづらいバーみたいな趣じゃなくて、オープンテラスにしてあげるっていう意味で、軽く言葉で説明してあげるのはちょっとした優しさでもあるし。そんな敷居高いことをやっているわけじゃないんだよっていうスタンスの主張というか……みんな入りやすい、アットホームなお店ですよっていう。」

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世武「そうだよね。そこがさ、私もざっくり言ったけど、難しいのは、そのグラデーションの濃度がどこに寄っているかの問題で、エジーが考えていることと私が考えていることってほとんど一緒……というか、ほとんどのアーティストが同じようなことを考えていると思うんだけど。」

江島「うん、濃度の違いこそあれ。」

世武「そうそう。理想と、現実的に、世の中にはいろんな種類の人がいるから、何かすごく抽象的なことで表現した時に、受け取り手の経験値とかその時の気分とか、いろんなことで全然別のものに聴こえたりするじゃん。」

江島「抽象的なことであればあるほどそうなるよね。」

世武「しかも、芸術において、作品の中でトゥーマッチに説明してしまうことって野暮だよねっていうのもあるじゃん。そこの難しさはあるし、逆に、自分は難しいことをやっているつもりはないのに、『世武さんがやっているのはアカデミックで難しくて』とか言われるわけ。それはエジーに私の幼少期の話をしたのと同じで、私の中では自然だからそれをどう説明するのって。こんなに自然に、何も奇を衒わずにやっているのに、難しい難しい言われたらもう……八方塞がりになっているわけよ。」

江島「難しいって言われるんだ?」

世武「そうそう。そこが自分の悩みで。」

江島「それはやっぱね、実際音楽が難しいことをやっているのか、奇をてらっているのか、めちゃめちゃストレートなことをやっているのかは別に、"今まで聴いたことがある音楽"、"分かりやすい音楽"っていうテンプレートにはまってるか、はまっていないかでジャッジするっていう人も多数いるんだよね。それでいうと、ちょっと外れていることも多いから……テンプレートからは。」

世武「ふふ(笑)。優しさの表現(笑)。」

江島「それは、"らしさ"だから。」

世武「それの結果が弾き語りの音源を作ろうと思ったところに結びついたのかもしれない、自分的にも。」


世武「弾き語りって、これ以上シンプルなことないじゃん。ピアノと歌だけ。声も一本、ピアノも一本っていうので今作っているんだけど、自分の中でずっと納得いっていない……難しい、アカデミックだなんだかんだ言われる……だから、私はじめフランスに行ったことも言わなかった方がよかったんじゃないかって悩んだ時もある。(プロフィールに)フランスに行った人、そこで首席で卒業って書いてあるから、それだけですごい人なんだって。」

江島「アカデミックな人なんだってね。」

世武「聴いてみ、曲結構素朴だからって(笑)。なんだったら、試験も普通の試験受けられなかった人だわって(笑)。そういう。」

江島「でも、聴いてみたいです。そんな世武さんがピアノ一本、歌一本で作るカバーアルバム。」

世武「できたらエジ丸にも報告するわ。」

江島「はい。楽しみにしています。」

世武「できたら一番に送るわ。」

江島「はい!よろしくお願いします。ということで、今回の授業はここまで。サカナクションの江島啓一と、」

世武「世武裕子でした。」

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