「対談:江島啓一×世武裕子 (前編)」

SCHOOL OF LOCK!


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聴取期限 2022年9月16日(金)PM 10:00まで




音を学ぶ “音学” の授業、サカナLOCKS!。
現在は、このクラスの副担任・サカナクションのドラム:江島啓一先生が授業を担当中です。

今回のゲスト講師は、 世武裕子 先生です。
世武さんは、映画やドラマ・CMなどのサウンドトラックを手がける映画音楽作曲家、鍵盤プレイヤーとしても活躍する演奏家。一郎先生が歌っていたCMソング「風をあつめて」のカバーのアレンジを担当されていたり、サカナクション主催のイベント『NF』の第一回にも出演。ご自身のLIVEではサカナクションの「ユリイカ」をカバーしていたり、たくさんのサカナクションとの繋がりがあります。


江島「今週のゲストは、映画音楽作曲家で演奏家(笑)の……世武裕子さんです。」

世武「こんにちはー!……なんでさ、"演奏家"のときにちょっと笑ったの?」

江島「いやいや、初めて聞いた。演奏家って。」

世武「そうだね。回りくどいよね、ちょっと(笑)。」

江島「前に、ピアニストって呼ばれるのはちょっとな……みたいな話してなかったっけ?」

世武「そうなの。そんな、とんでもない……ピアニストなんて、ピアニストの前で言えないからっていう理由ですね。」

江島「自分で名乗ってるんだ?演奏家って。」

世武「要するに、誤魔化してるっていう(笑)。」

江島「そうなんだ(笑)。」

世武「そうそう(笑)。」

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江島「世武さんと、僕の出会いは……ちょっと覚えているか分からないけど、10年以上前なんですよ。」

世武「え、っていうかそういうの覚えてるタイプ?(笑)」

江島「いや、出会いくらいは覚えてるでしょ(笑)。」

世武「何?何?」

江島「あのね、plentyってバンドがいまして。僕は元々知り合いだったんだけど、ドラムが脱退しちゃった時期がありまして、その時にレコーディングでちょっと1曲手伝ってくれと。「あいという」 っていう曲があるのね。」



江島「この曲にはピアノを入れたいって(江沼)郁弥くんが言っていて。誰がいいっていう話をしていた時に、世武さんがいいんじゃないって。世武さんっていう良いピアニストがいるんですよねっていう話をしていたんだけど、当時、おフランスの方にいらっしゃって……」

世武「ちょっと違う。それWikipediaだったら修正するところだから。」

江島「あれ、おフランスじゃなかった?」

世武「ギリシャです。」

江島「ギリシャか!(笑)」

世武「ちょっと違ったなー(笑)。」

江島「ははは(笑)。それで、会ってないの。おギリシャにいらっしゃって。その後に、plentyがライブをやる時、僕はドラムじゃなかったんだけど、ライブは。その時に世武さんがピアノを弾いていて、あれが世武さんなんだ……っていう。」

世武「そうだね。」

江島「ふふ(笑)。でもそれから、サカナクションの曲をカバーしてくれたり、『NF』っていう、LIQUIDROOMでやっているイベントにライブで出てくれたりもしたじゃん。最近では、一郎先生がCMでカバーした「風をあつめて」のアレンジを世武さんがやってくれたり。」

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世武「そうそう、やったやった。あれよかったなー。」

江島「あと、世武さんのソロの曲に僕が参加させてもらったり……なんやかんやずっと定期的に。」

世武「なんだったら、江島啓一参加が一番多いんじゃないかと思う。私のプロジェクトのドラムで。気付いたらエジーにLINEしてる(笑)。」

江島「都合の良い感じだ(笑)。」

世武「そうやって聞こえて最悪だよね(笑)。ごめんごめん、そういう意味じゃない(笑)。」

江島「でも、名だたるドラマーとやられてますよ?割と。」

世武「そう。好きな演奏家がいたら一緒にやりたいもんじゃん、音楽家って。だから、気付いたら呼び出していて(笑)。」

江島「ありがたい、ありがたい。」

世武「こっちがありがたい話ですよ。」


江島「そんな世武さんは、映画音楽をめちゃめちゃいっぱいやってるよね。」

世武「まあまあやってると思う。」

江島「映画『ストロボエッジ』、『オオカミ少女と黒王子』、『ママレードボーイ』、『生きてるだけで、愛。』、『ロマンスドール』、『星の子』、『Pure Japanese』、『女子高生に殺されたい』。テレビドラマも、『恋仲』、『好きな人がいること』、連続テレビ小説『べっぴんさん』、NHK『心の傷を癒すということ』、WOWOWドラマ『椅子』……って、めちゃめちゃやってる。」

世武「結構やってますね。」

江島「今のところ、どっちがメインとかないんですか?」

世武「でも私、元々はサントラを作りたかったんよ。」

江島「音楽をやり始めた時から?」

世武「そう。だって、小1の時の1年の終わりの文集みたいなので、みんな自分のページ……そこに、映画音楽の作曲家になりたいって書いてたの。」

江島「え!小1で?」

世武「そう。」

江島「小1の時にはもうピアノをやっていたの?」

世武「ピアノは3歳の時からやっていて、4歳から曲は作り始めてた。」

江島「早熟……!」

世武「ただ、映画音楽をやりたいっていう意識は、もうちょっと自分の中では後だったはずが、小1の時に既に思ってた……っていうのが、後から分かったの。」

江島「何かきっかけがあったの?この映画にハマったとか。」

世武「自分の意識だと、『ジュラシック・パーク』だったのよ。だから、(ジュラシック・パークの音楽を手がける)ジョン・ウィリアムズがすごいって思ったのが初めだったはずが、小1ってなると、その前に観ていたのって、キョンシーと『電撃戦隊チェンジマン』と、『Dr.スランプ アラレちゃん』と、ウルトラマンのハヌマーンの(『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』)……」

江島「そこらへんの映画を見て、私は映画音楽をやるんだって思った?」

世武「うん。でも多分、キョンシーじゃない?『幽幻道士』だと思うよ。」

江島「あれ?キョンシーってリアルタイム?」

世武「全然リアルタイムじゃない。父親の持っていたビデオを観てた。でも、ビデオが擦り切れるほど観すぎて親に心配されて、もう観たらだめって言われて。」

江島「VHSかな?擦り切れるっていうのは(笑)。」

世武「そうそう(笑)。みんな知らないかもしれないですけど(笑)。VHSっていう幻の。」

江島「擦り切らないの、今の子たちは(笑)。」

世武「全然擦り切ってない(笑)。」

江島「でも普通さ、子供の頃って、映画を観て女優さんになりたいとか、こんな物語を書いてみたいとかは分かるんだけど……」

世武「多分、曲を書いていたからじゃないかな。こういう曲を書きたいっていう。だから、音楽入りなんだけど、映画ファンみたいな感じなのかも。」

江島「自分で作曲をしていたやつは、歌が入っているやつなの?」

世武「いや、私、歌は成人するまで歌ったこともないから。サントラ的なもの。」

江島「ピアノ一本で?」

世武「ピアノ一本なんだけど、脳内ではオーケストラが流れていたりもするから。」

江島「ちょっと待って(笑)。あのね……レベルが高すぎるんだよ。小学校でさ、なんでピアノ弾きながら頭の中でオーケストラが流れたりするの?」

世武「なんでかって……だって、オーケストラはオーケストラじゃん……ごめん、全然説明できないんだけど(笑)。」

江島「おー、きたきたきた(笑)。天才発言よ、さっきから(笑)。」

世武「でも説明できないよね、なんでかとか言われても(笑)。別に私、学校で習ったりとかしていたとかじゃないから。」

江島「小学校の時?」

世武「その時も。音楽高校とかも行ってないし、なんだったら、音大の試験も分からなさすぎて、日本の音大には入れないから諦めろって言われて。楽典の一番はじめの質問の意味が分からないのを1年くらいやっていて、先生に見放されたの。」

江島「音楽の先生に?」

世武「そうそう、音楽教室の先生に。学校と別に。」

江島「高校は普通の高校に行っていたの?」

世武「そう。」

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江島「そこから、勉強して、ふらっと海外行っちゃったの?」

世武「もともと私、全然音大とかに入るつもりもなくて。それこそ、小学校の頃から、私はいつプロになれるんだっていうのですごい焦って生きてたのよ。」

江島「生き急いでるね(笑)。」

世武「ふふふ(笑)。なんでこんなに、学校で毎日無駄な時間を消費して1日過ごしているのを何年も義務でやらなきゃだめなのか……ってすごい焦っていて。いつになったら、そもそもここで私が曲を書いていることを然るべき映画の人が見るのかっていう悩みで、毎日それで溢れてた。小学校の時からそうだった。その気持ちはすごい覚えているの。その焦ってる……私はいつプロになれるのかっていう気持ち。」

江島「それはブレたことがないの?」

世武「全くない。みんなで遊んでいて、みんなが楽しそうにしているのも、全部が意味が分からんかったわけよ。っていうのは、あいつらそんなことが面白いなんて意味分かんねーよっていうことじゃなくて、どっちかというと、それを一緒に楽しめない自分ってちょっと……っていう悩みの分からないっていうことね。だから私って人としては終わってるんじゃないかみたいな。余計にそれが拍車をかけて、音楽でやっていかないと生きてる意味がないわってなっちゃったの。」

江島「あー。その悩みを聞いてくれる人もいなかったの?」

世武「説明しても……その、演奏している時に見えているもう一個の世界の話をしてもさ、みんな、『は……?』みたいな感じになるじゃん。」

江島「なかなか難しいよね、小学生とかにその話はね。」

世武「だからこれは人とシェアしても、何も共有できない気持ち……しかも、その世界があまりにも素晴らしいからピアノを弾いているのに、それが見えないなんて、ちょっと一緒に生きていくのは無理かもしれん……みたいな感じだったの、小さい時は。」

江島「あー。世武さん的にはどうやって解決したの?ずっとモヤモヤした感じ?」

世武「ずっと練習よ。明日呼ばれてもいいように(笑)。」

江島「映画関係者に?(笑)」

世武「そうそう(笑)。よく考えたらさ、田舎で育って、呼ばれるわけないのにさ。 明日呼ばれていいように、そういうチャンスがきた時に確実にものにできるようにせめてしておかないと。」

江島「常にスタンバってたの?」

世武「スタンバってた(笑)。気持ちはね。」

江島「常にアップができている状態を保ってたんだ(笑)。」

世武「っていうかね、アップだけ、してた(笑)。」

江島「ははは(笑)」

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江島「そのあと海外に行ったわけじゃないですか。それは1から勉強しよう、みたいな?」

世武「それは、エジーの良さやん。そうやって考えられるってところが。」

江島「おっと?」

世武「私ね、そういうね、勉強して……って、そういう真面目さはあんまりないのよ。じゃなくて、こんなところで燻ってる場合じゃないだろう……みたいな(笑)。オラついてるっていう、単純に(笑)。だから、海外に行って、海外で見つけてもらえるんじゃないかって(笑)。」

江島「あー、海外の音楽関係者に会えるチャンスがね!」

世武「ばかなのよ(笑)。」

江島「自分から動いていったって感じだ。待ってるんじゃなくて。」

世武「そう。それで、そもそも私、日本の音大には入れないじゃん。」

江島「"入れないじゃん" (笑)。」

世武「ふふ(笑)。で、海外の音大にも入れないわけ。」

江島「……ほう?」

世武「だから、入学の時に、理論は何も分かっていないかもしれないけど、この曲を書きましたので聴いていただいていいですかって。この曲を書けたんだったら、作曲できるってことなんだから入れろって言って(笑)。それを言うためにフランス語を勉強して、それを説明できる語学力を身につけて。それで持って行って。」

江島「それで受かったの?」

世武「そうそう。」

江島「ははは(笑)。」

世武「そこが海外の良いところよね。面接でそういう話ができる。」

江島「ちゃんとアピールタイムがあるんだ。そこでアピールしまくったんだ?」
世武「そうそう。アピールタイム以外何もないから(笑)。何もできないから(笑)。」

江島「それで曲を聴いて、入学しなよってなったんだね。」

世武「そう。試験にスコア(楽譜)を書くとかあるわけ。それを提出とか。それは書けないから……逆に、入った後に書き方を教えてくれたら、スコアを書く勉強もするから、それは頑張るから、それを教えてくださいって言ったら、分かったって。」

江島「へー……!」

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江島「それで大学で何年間か勉強した後に、どういうきっかけで映画音楽業界に入っていったの?」

世武「それがやっぱね、そんなに簡単には見つけてくれないわけでさ(笑)。だから、フランスでまずエージェントを探したんだけど……まず、アジア人なんて皆無なわけよ。そこでも門前払いで。そもそも聴いてももらえないし、入れてくれないし。で、一回日本に帰って、日本でキャリアを積んでから、いつか絶対もう一回来て見つけてもらう!って思って、一回帰国したの。」

江島「はいはいはい。」

世武「でも、日本でも結局、コネクションが0なわけよ。」

江島「海外にいたもんね。」

世武「そう。日本の音大っていうコネクションもないし、みんなその先輩後輩の繋がりでちょっと仕事をもらったりするし、でもアシスタント向きのタイプでもないし。とりあえずやり方が分からないから、芸大とかの映画を作っている人たちのところに接触していって、ただで作るからっていろいろ作っていたら、その中の一人の生徒がぴあのフィルムフェスティバルで賞をとって、ぴあのスカラシップ(PFFスカラシップ)で作品を撮るってなった時に、音楽なんか全然入っていない映画だったんだけど、エンディングの曲がいるからって、音楽をつけさせてもらって。そこで初めてちゃんと録音して、学生の作品じゃないものに曲をつけたわけ。」

江島「はいはい。」

世武「そしたらそれを東宝映画のプロデューサーの人がたまたま観て、あのエンディング……あんな音楽つけるの誰?ってなって。」

江島「目に留まった!」

世武「留まったんですよー!!」

江島「ようやく関係者に……ずっとスタンバって、アップもできていて、小1から!ようやく……ようやく東宝の音楽関係者の目に留まった!……っていうところで、お時間がきてしまいました(笑)。」

(授業終了のチャイムが鳴る)

世武「申し訳ございません(笑)。」

江島「もっと聞きたかったんだけどねー。」

世武「ちょっと、ごめんね、本当に(笑)。」

江島「でも、面白い!やっぱ、ちょっとぶっ飛んでるんだね、世武さん。」

世武「これこそさ、学生たちに聞いてほしいよね。コネがなくて、田舎で育って、無理だ俺、私ってならなくても、いくらでもあるよと。」

江島「自分から動けばね、積極的に。」

世武「そう。」

江島「人と違っていて不安感を抱えている子も、全然大丈夫だよっていう感じを体現してるよね。」

世武「むしろ、一緒の方が怖い。それが安心で、メンタルが整ってっていう人はそれはそれで良いけど、そうじゃない人は、する必要はないし。」

江島「そのままでいいじゃん、無理しないで。合わせなくて良いよね、ってことだね。」

世武「うん。」

江島「それはもう、完全に体現してるね。世武さんのここまで……小1からの流れ(笑)。」

世武「聞いていただいてもろて、本当に(笑)。」

江島「ちょっとね、全然聞きたいことが聞けなかったんです。また来週も来ていただきたいなと思っております。」

世武「よろしくお願いします。」


今回、授業のさいごには、サカナクション「ユリイカ」の世武先生がカバーしたバージョンもオンエアしました。

ということで、世武裕子先生を迎えたこの授業は来週に続きます。
映像に音楽をつけるという映画音楽作曲家のお仕事について、そしてソロのミュージシャンとして活動にすることについてなどを伺います。お楽しみに!

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