聴取期限 2022年1月28日(金)PM 10:00まで
音を学ぶ"音学"の授業、サカナLOCKS!。
今回は、SCHOOL OF LOCK!の生放送授業で大人気だった、ボカロ楽曲を聴く授業、『ボカロNight!』をサカナLOCKS!でも開催します。
まず "ボカロ" とは、ボーカロイドというヤマハが開発した音声合成技術のこと。代表的なものに「初音ミク」がありますが、自分の歌わせたいメロディーや発音で歌わせることができます。そのボーカロイドを使ってオリジナル楽曲を作成し、You Tubeやニコニコ動画などにアップするのが「ボカロP」です。
山口「2007年に初音ミクのソフトが発売されて、ちょうどその頃ニコニコ動画やYouTubeのサービスが普及してきたので、一気にボーカロイドを使った曲が広がっていきました。YouTubeでは、ミュージシャンがミュージックビデオを上げ始めた時期ですよね。それが当たり前になり始めた頃かな。もともとボカロ曲を作っていたボカロPには、米津玄師先生……ハチって名前でしたよね。Ayase先生、須田景凪先生など、メジャーシーンで活躍する人もたくさんいると。」
「先生は、ボカロ曲を研究材料として聴いたことはありましたね。SEKAI NO OWARI先生とかも、ボーカルにオートチューンをかけたりして、そういうムーブメントみたいなのがありましたよね。ゲスの極み乙女。とかもそうじゃなかった?ちょっとそういう雰囲気がありましたよね。ムーブメントとして一世を風靡して、かつ、今も生きているボカロ曲の深さみたいなものを、先生久々に体感しようかなと思っています。この間、「うまぴょい伝説」もびっくりしちゃったから。あれ本当にすごい曲ですからね。発作的に「うまぴょい!うまぴょい!」ってつぶやいちゃったくらいだから(笑)。今日も楽しみにしています。」
うまぴょい!うまぴょい!
— 山口 一郎 (@SAKANAICHIRO) January 5, 2022
「ミュージシャン目線でボカロ曲を分析していきたいと思います。まずは、Chinozoの「エリート」という曲です。」
■ Chinozo
2018年からボカロPとしての活動を開始。元バンドのギタリスト。
代表曲「グッバイ宣言」は、YouTubeで8000万再生超え。TikTokでは32.5億再生と、2021年に最も再生された楽曲となった。影響を受けたミュージシャンは、L'Arc〜en〜Ciel、菅野よう子。
「いやー、よくできてるね。僕が当時聴いていたボカロから進化の幅が大きいですね。正直、当時のボカロってダンスミュージックとしての考え方がちょっと希薄だったところがあったけど、ルーツミュージックを研究している感じもあるし、日本のメロディのツボみたいなものも押さえているし、構成的にもポップスとしての役割を担えている。ボカロとしてのメロディーの飛躍っていうところも、"人間が歌えばいいじゃん"になっていないというか……よくできてる。」
「僕ね、いつかボカロの人と話す機会があったら聞いてみたいんだけど、ボカロである理由……本質的な、ボカロというものの大義って、僕はルールがわからないからあんまり安易なことは言っちゃいけないと思うんだけど、音楽的なことを言うと、人間が歌えないキーの飛躍、声質が無機質なことであるっていうことでの感情移入のしかた……そういう部分でしか僕は人間が歌わない理由がないんだけど、多分、様式美があると思うんです。そこを聞いてみたい気がします。人間だとこうなるって感じるのを、ボーカロイドであるが故に無機質に感じて、違う意味を成しているというか……そういうところを感じるね。」
「次は、wotakuの「シャンティ」という曲ですね。」
■ wotaku
ユニット"Jimmy'z"としても活動中。
2017年「斯くも素直なアンドロイド」でデビュー。
HIP HOPのひとつのジャンル"トラップ"をボカロで作っていることで話題となっている。
「これは結構面白い現象が起きていますね。HIP HOPの性質っていうのは、ローカリズム……そのエリアで起きているリアリティみたいなものをリリックに乗せて表現するっていう性質があると思うんですけど、それがボーカロイドがラップをするということで、違う作為性が生まれるのかな。なんていうか……何に例えたらいいかな……Siriでいきなり怒られる、みたいな(笑)。お母さんに怒られたら響くけど、Siriに怒られた時の心の刺さり方ってちょっと違うっていうか……今まで動かなかった感情を動かされるところがありますよね。何なんだろうな……言っていることが嘘に感じるんじゃなくて、本当なんだけど、違う刺さり方してくる感じ。……分かるかな?そういうのがあるね。面白い違和感があります。」
「次。傘村トータ「15歳の主張」という曲ですね。」
■ 傘村トータ
2017年ニコニコ動画に初投稿し、ボカロPとしてデビュー。
幼少期からピアノを習っており、中学生の頃ボカロに触れ、作曲教室に通っていたこともあり、ボーカロイド楽曲制作を始める。
好んで聴くのはバラード。自身もバラードをメインに制作中。
「なるほどね。あー……これは非常に興味深い現象が起きてますね。まず、技術的なところで、僕はボーカロイドで音楽を制作したことがないので、どういう風に歌わせているのかとか分からないけど、歌うときに起きるブレスの位置っていうのがボーカロイドが歌うとすごく特異になる。多分、人間がブレスするところでブレスをさせることができるのかどうかとか、その辺が分からないんだけど。歌のリズムを自分でコントロールできて、ブレスをさせるのもさせないのもコントロールできるとしたら、人間が歌うのとちょっと性質が違うことができますよね。リズムを作れるというか。あともうひとつあるのが、この曲を聞いて気づいたんだけど……ボーカロイドって匿名性があるよね。その匿名性が生まれることによって、メッセージがすごく拡大される。個人が歌うっていうものよりも、ボーカロイドが主張するっていう匿名性が、心を違う動かし方にするっていうところがあるね。これはすごい面白い発見だな。感情がないものが感情を伝えるっていう正義感、正当性……そこがあるね。多分、この曲を普通に女の子が歌っていたら違う意味が生まれちゃうよね。でも、ボーカロイドだからこそ心をえぐるっていう……」
「あと、これひとつすごく重要だなって思うのは、我々メジャーでミュージシャンをやっている人間たちからすると、批評に晒される瞬間って表面的にはないんですよ。雑誌で「この作品は駄作だ」「聴く必要がない」とか言われないんですね。SNS上で言われるだけであると。でも、ボカロPの人たちっていうのはすごい批評の中で戦っていると思うんです。公なメディアが存在していないからこそ、アンダーグラウンドな批評がメイン批評になっていくわけだから、ある種アニメであったり漫画と同じような立ち位置で批評されていると。この批評が厳しい文化っていうものは、著しい成長を果たすんです。きっとそういう要素があるんじゃないかなっていうのは、飛躍の理由として強くあるのかなって思いました。」
「あと、やっぱり人間が歌っていないっていうことに対する感情移入のしかたや心のえぐり方って、ボカロしか聴いていない人からすると、生歌聴くと刺さらなくなってくるのはあるでしょうね。つまり、生歌に惹かれている人は、ボーカロイドが歌っている歌に関して感情移入するっていう順序は構成できるけど、ボカロPしか聴いてこなかった人が人間の歌に対して感動するっていう経路っていうのは非常に特殊なケースになってくるんじゃないかなって思う。もちろん、どっちも好きっていう人もいると思うけど、全然違うものだね。」
「予言しよう。5年後にはボーカロイドが主流になっている可能性がある。なぜなら、人間が歌うというものが当たり前である……その当たり前であるということに対して感動しなくなってくる状況に陥る気がするね。今、SNSでどんな人がどんなものを作っているかっていうのがすごい重要な時代がきているじゃないですか。良い歌があっても、それをどんな人が作っているんでしょうかっていう。その作っている人が好きじゃなかったら、その歌に対して反応できないっていうか。でも、ボーカロイドって歌っているのは本人じゃなくて、クリエイターが生み出したものをボーカロイドが歌っているわけだから、作品としての評価だけに執着すると。ただ、それがいつか主流になったり大きな割合を占めるようになったとしても、ずっと続かない気がする。なぜなら、ボーカロイドの課題っていうのは、長く聞かれるものがうまれるかどうかだと思うんですよね。ずっと愛される曲がボーカロイドから生み出されると……音楽として大衆性を持ってずっと聴かれるものになるかっていうのがボーカロイドの課題だと思うし、人間が歌って人間が作ったものの感動っていうのをどれくらい洗練させられるかっていうのがそれ以外のジャンルとしての課題になってくるというか。例えば、ボーカロイドってボーカロイドっぽい歌声がいいのか、本当にリアルな声にしていきたいのかっていう最終地点でボーカロイドとしての派閥が生まれる気がするんですよ。クリエイターとしては人間っぽくしていきたいっていう人もいると思うんですよね。じゃあどういう風にに進むのかっていうのは注目すべき観点だと思います。」
「果たしてAIが作った音楽に人間は感動できるのか……これも多分問題として出てくるんだと思うんですけど。すでにAIが音楽を作っているかもしれない。みんなが感動している音楽は、裏でAIが作っているかもしれない……(♪『X-ファイル』のテーマが流れて……)みんなの知らない世界……あなたの大好きな音楽も、ひょっとしたら……AIが作っているかもしれません。実在しないかもしれません……ふふふ(笑)。」
「実際、こういう系統が好きだ、こういうのに人は反応するっていうことを分析して、映画の脚本はそういう風に作られているわけだから、音楽もそういう作り方をしているというか。我々も無意識にそういう風にしているからね。それをAIが作っているっていうのはありえるかもしれないし、もうあるんじゃない?」
そろそろ今回の授業も終了の時間になりました。
「本当に勉強になりましたね。今回ボカロ曲を聴いて思ったのは、ボーカロイドが歌うことによって、感動の性質が変わるっていうのはひとつ感じた。それを聴き続けることによって、人間が歌うというものとは違う感動に慣れすぎることで、同じ音楽ではあるけど、本当に違うものになっていってるっていうのは良い進化なんじゃないかと。ボカロでサカナクションの歌を歌わせてみるみたいな実験をやってみようかな。……ちょっと、サカナLOCKS!を聴いているボカロP諸君、サカナクションのカラオケ音源があるんですよ。それにボカロで歌わせて送ってきてくれ。どう感じるか実験したいです。……暇な人ね(笑)。」
「さて、来週1月24日(月) のSCHOOL OF LOCK!の生放送教室で、サカナクションの新曲「ショック!」を初フルオンエアしたいと思います。ショックを受けたいあなたたち……あなたたち……あなたたち!集まりなさーい!ぜひ聴いてください。そちらもお楽しみに!」
聴取期限 2022年1月28日(金)PM 10:00 まで