山口「はい、授業を始めますから、席に着いて下さい。マンガを読んでいる生徒は、今日は、マンガを開いていてください!どんなマンガでもいいです(笑)。Twitterを開いている生徒は、Twitterは、一度閉じなさい。授業が始まりますよ。今日はね、やることがいっぱいあるので、先に黒板を書きます。」
山口「本日のゲスト講師は、この方です!」
大根「こんばんは。映画『バクマン。』の監督をやらせていただきました、大根仁です。よろしくお願いします。」
山口「よろしくお願いします。現在発売中のサカナクションのニューシングル「新宝島」が主題歌になっている、映画『バクマン。』……こちらが、今週末、10月3日より全国ロードショーとなります。原作は、週刊少年ジャンプで連載されておりまして、累計発行部数1500万部を突破……すごいですね。」
大根「ということは、印税が……(笑)。」
山口「ははは!(笑) 大ヒットマンガで、週刊少年ジャンプの頂点を目指す2人の高校生の物語となっています。みんなも、読んだことがある人がたくさんいると思うんですけど。いよいよ公開間近で、明後日ですよね。」
大根「そうですね。長かったー……。撮影が去年の5月〜6月くらいだったから、もう1年以上経っているんですよね。」
山口「先日は、9月8日に完成披露イベントへ……」
大根「派手な、派手なやつね(笑)。六本木ヒルズで。」
山口「いや、僕ね、人生初めてのレッドカーペットだったんですけど、いろいろ酷でしたよ、あれ……(笑)。」
大根「ははは!(笑)」
山口「あの俳優陣の一番最後に僕らがコメントを毎回求められるんですよ。あれね……本当、ひどい!しかも司会の方も、いまいち僕らのことを知らないっぽい感じだから……」
大根「そんなことない!それは被害妄想。」
山口「でもね、さかなクンって言ってたんですよ、僕のことを。「さかなクンの皆さんでした!」って言われた時に、いやいやいや……みたいな。」
大根「ははは!(笑) そんなわけないじゃない。そんな、「ギョギョギョ!」とか言わないでしょ(笑)。」
山口「いやー、すごい難しかったですね。」
大根「難しいんですよ、あれは本当に。特に今回は、佐藤健、神木隆之介のダブル主演で、若い子に人気の子たちだと、……俺だって感じてたよ(笑)。こんなおっさんに興味ねーだろうなって。」
山口「いや、監督ですから。」
大根「健とか神木のかわいい話聞かせて!って感じじゃない。俺に求められているのは。現場の裏話聞かせて!って。」
山口「いやー、でも、貴重な経験をさせていただいて。」
大根「ちゃんとお客さんたちにハイタッチしたの?」
山口「しましたよ!ただ、一個ね、良いことがあったんですよ。レッドカーペットで。僕らがばーっと歩いていたら、前の柵にいた子がぎゅうぎゅうに押されていたんですよ。僕、押されているのを見て「大丈夫?」って声をかけたんですね。そしたら、後日Twitterで、「あの時、大丈夫って声をかけてもらったものです。あの瞬間に「新宝島」を買うことが確定しました!」って(笑)。」
大根「よかったじゃーん!(笑)」
山口「それだけは良かったなと思うんですけど(笑)。でも、本当に貴重な体験をさせていただきました。」
山口「今回僕らは映画『バクマン。』の主題歌と映画の劇伴……つまり、劇中で流れている音楽をすべて担当させていただくことになったんですが、これを僕らにお願いした経緯や流れをお聞きできたらなと思うんですけど。」
大根「はい。もともとね、『モテキ』って映画があって、それは深夜ドラマで始まって、深夜の時にいろんなJ-POP、J-ROCKのアンセムというか、いろんな曲を流していて、その中でサカナクションの「インナーワールド」を使っていたんですよね。それは、『モテキ』のドラマ版に登場するオム先生という、在日ファンクのハマケン(浜野謙太)演じる漫画家役のキャラクターが、執筆中、締切ギリギリの時にがーっと描く時に「インナーワールド」が流れて、“(歌詞) 描いた 描いた 描いた”……っていう、そういうシーンに当てていたんですよ。その時に、なんとなくマンガを執筆するシーンにサカナクションは合うと頭の中にインプットしていて。それで、バクマンの話がきたときに、あ、劇伴はサカナクションでいきたい、って。なかなか直感的な。」
山口「へぇー……。」
大根「あとは、なんか、漫画家ってやっぱり作業っていうか……地味な作業じゃないですか。紙に向かってペンでずっと描くっていう。見た目は熱の低い感じがするけど、中に秘めたるものの熱さたるや……っていうところとか、バクマンが青春映画になるのが分かっていたので、見た目はクール、でも中身は熱い。そして、青春っぽいってなると、音楽はサカナクションだなっていう感じですね。」
山口「僕は、大根監督から劇伴と主題歌をやってもらえないかってお話をいただいたときに、遂に来たと思ったんですよ。今までは、映画の主題歌は何度もやってきていたんですけど、劇中の音楽までやったことがなくて。そういうお話があったらいつかやりたいなと思っていたんですけど、一番(話が)来てほしい監督さんからお話が来たので。大根監督の作品で、ゆらゆら帝国の野音のライブ映像があって、僕それが大好きで。毎年DVDを見ながらみんなで鍋をするっていう定期イベントがあるんですけど(笑)。」
大根「大丈夫?そのイベント(笑)。」
山口「PAのサニーさん(佐々木幸生さん/Acoustic)とか……そのときPAをやっていた。ゆらゆら帝国のPAをやっていて、僕らのPAもやってくれている人と一緒に鍋パーティをするときに、必ずそれを見るっていう定期イベントがあったんですけど、それをずっと見てきたから、この人はきっと同じ種族だって感覚がずっとあったんですよね。」
大根「そうですよね。俺はドラマとか映画だけじゃなくて、音楽ビデオとかライブビデオもやっているので。」
山口「ミュージックビデオもやってるんですよね。」
大根「やってますね、はい。」
山口「なので、同じ種族の方だなって思っていた矢先に劇伴の話がきたので、これは絶対楽しくやれるって。下手に分かりやすくしてくれとか、そういうことは言われないだろうって(笑)。」
大根「ははは!(笑)」
山口「好きなことやって、ディスカッションができるだろうなっていうのがあったので、すごく率直に嬉しかったのと、どんな風に劇伴って作られていくのかなっていうのがあって。」
大根「うん、うん。」
山口「僕は最初に大根監督からお話があって、現実的に作業が進んでいったじゃないですか。いきなり「デモをください」って言われたんですよ。」
大根「ははは(笑)。まず、脚本を読んで、って。」
山口「そうそう。台本を渡されて、「これを読んで、10曲から20曲くらい送ってもらえたら嬉しい」みたいな話があって。細かい指示は全然なかったですよね。」
大根「うん。とりあえず好きに考えてみてくれって。」
山口「なので、僕らもアルバムでインスト曲を作るときって、テンポが早目の曲だったり、ライブでどう活きるかっていうのを意識するインストしか作れていなかったので、これは本領発揮だと思って。テンポが遅い曲だったり、暗い曲だったり、好きなことをデモとして作って、それを監督にお渡ししたんですよね。」
大根「うん。俺の場合は、撮影に入る時には楽曲のイメージが欲しいっていう。で、撮りながら、このシーンにはあの曲が合う、あのシーンにはこの曲を流そう……っていうことは、芝居のトーンとか、台詞のニュアンスはこれくらいかなっていうのを考える。」
山口「じゃあ、撮影している時に僕らのデモが流れていたんですか?」
大根「うん。現場で流してた。このシーンはこんな曲が流れるよ、みたいな。」
山口「じゃあ、役者さんもデモの音楽を聴きながら演技をしたり?」
大根「そうそう。そういうシーンもある。全部が全部じゃないけど。」
山口「へー……それは結構意外でしたね。そして、実際に仮編集された映像に
僕らのデモが当てられたものを大根監督に見せてもらって、そこから……」
大根「そう。そこでメンバー全員で一緒に一回見て、今の曲はもうちょっとこうしよう、こういう曲がもうちょっと足りない……って。」
山口「大根監督から細かい指示を僕らが聞いて直すっていう作業が、どのくらいだろう……1年くらいかかりましたかね?」
大根「そうだね。一番最初の打合わせから考えるとそうだね。」
山口「その作業はね、もう本当にね……大根監督は鬼だなって思うくらい(笑)。」
大根「はっはっははははっ……(笑)」
山口「慣れてくるまでは大変でしたね。」
大根「でも、割合最初の頃から「サカナクションというバンドとしてではなく、映画の劇伴を作るスタッフとして参加するんだっていう意識があって、何でも言ってください」って言ってたから何でも言ったんだよ(笑)。」
山口「まぁ、確かに(笑)。」
山口「ちょっとお聞きしたいんですけど、大根監督的に一番好きなシーンの音楽は?映画がこれから公開なので、具体的には言えないと思うんですけど……。」
大根「劇伴で?あー……マンガを描くシーンがいくつかあって、その中でVFXとかCGを使ったシーンがあるんですけど、主人公のサイコー、シュージンがいろいろ紆余曲折あって、初めて自分たちの手応えがあるマンガを描けるっていうシーン。ちょっと特殊なシーンになっているんですけど、そこにかかる劇伴……あれは超気持ち良い。」
山口「あー……。」
大根「マンガのペンを走らせる音とか、紙をめくる音、鉛筆のシャシャシャって音とか、いわゆるSEというものを細かく細かく重ねていって、そこからリズムが入っていって、すごく大きな世界観が広がっていくっていう曲があるんだけど。それは、デモ何回目かの段階で作ってきてくれたやつで、それ合わせで、あのシーンができたの。」
山口「そうだったんですね。実際に僕らは紙を買ってペンを買って、描いた音を録音して、サンプリングしながら作っていったんですよね。」
大根「そんなことをするミュージシャンはいないので(笑)、あれは聴いたときも嬉しかったし、この曲があるならこのシーンはこうしようって。だから先に曲が欲しいんですよね。」
山口「なるほど。じゃあ、曲によって編集が変わっていくんですか?」
大根「全然変わる。」
山口「じゃあ、だんだんディスカッションをして曲がブラッシュアップしていく度に変わっていったりしていたんですか?」
大根「そうですね。」
山口「僕が一番好きなシーンと音楽は、主人公の二人、サイコーとシュージンが初めて出版社にマンガを持っていくところ。」
大根「冒頭ってこと?」
山口「編集部の、山田孝之さんが初めて原稿を受け取って読むシーンがあるじゃないですか。」
大根「あー、はいはい。ちょっとゆるめのテンポの。」
山口「はい。あそこがね、めちゃくちゃ好きなんです。」
大根「あ!あれなんだ!」
山口「あの音楽めちゃくちゃ好きで、最初にデモで送った、ピアノが跳ねていたとき……」
大根「タッタッタタタ、タッタッタタタッてね。」
山口「あそこが、大根監督とディスカッションしたことによってフレーズが減っていったり、ちょっとずつ音数が減っていったんですよね。あれがめちゃくちゃ好きなんです。」
大根「へー、意外(笑)。」
山口「そういった部分に注目して、映画を是非見に行って欲しいなと思います。」
山口「そして、主題歌。「新宝島」なんですけど、ちょっと苦戦していろんなかたに迷惑をかけた……振り返ると、6ヶ月間歌詞にかかった、大スランプの曲になったんですけど。」
大根「オケっていうかメロディっていうかね……それは結構初期の段階からあったんですよ。劇伴と一緒に主題歌もお願いしていて、主題歌候補っていうのがいくつかあって、「新宝島」のほぼ原型になっている曲があって。「これめっちゃいい!これでお願いします。」っていうのが。これは始めの方に決めたから、納期通り、スケジュール通りピタッと終わるだろうという計算だったんだけど(笑)。これがですねー……ここまでに仕上げなければまずいっていう、本当にシャレになんないっていう時期から5ヶ月経っているっていう(笑)。」
山口「あははは(笑)。……そうなんですよ。」
大根「周りの大人たちはピリピリ、カンカン。まぁ、俺は脚本とかも書くので、書けない苦しみは分かっているんで、できたときで良いって。映画が10月公開なら、最悪9月にできれば良いじゃんって(笑)。そんなわけないんだけど(笑)。」
山口「ははは(笑)。」
大根「本当の本当にシャレにならないギリが、5月末くらいだったかな。」
山口「そうですね。その時に、周りの大人の配慮もあって、1回ちょっと大根監督とサシで会ってお話した方がいいんじゃないかって話があって。そこで実際に自分の考えていることだったり、ちょっとしたパーツとかフレーズをお話ししたりして、「それはちょっと突き放し過ぎだよ」とか、書いていたことに対していろいろアドバイスをいただいたりとか。そのときに僕のヒントになった大根監督の言葉が、漫画家っていうのは、1本の自分の線を引けるようになったことで、漫画家として1人前になるって。そういう話を漫画家さんから聞いたんだって、取材されたときの話を聞いたときに、自分も、線を引くっていうことは、歌詞を書く上でよくあることだなって思って。書いていって、1本線を引いて、また新しく書いていって、また線を引いて、次に書いていく……っていう。漫画家さんに使われる言葉と、僕が音楽を作る上で使う言葉で、意味は違っても重なる部分がいろいろあるんじゃないかっていうのがヒントになって。じゃあ、1曲の中にミュージシャンとしてのストーリーと、漫画家さんとしてのストーリーを混ぜ合わせるような曲にしようっていうのがそこでパッと決まったんですね。そこから進んでいったんですけど。」
山口「実際に完成して、聴いていただいて、どうでした?」
大根「もう……最高ですよ!これはもう、お世辞抜きで。」
山口「いやー、よかった。」
大根「データで送られてきて、その時は、もう少しでやる電気グルーヴの映画を今作っているんですけど。それを一緒にやる大関(泰幸)君っていう人が一緒にいて、大関君はバクマンの編集もしていて、彼も音楽にはすごい詳しい。で、2人で編集作業をしているときに、やっときたよ……あのエンドロールに当てはめて聴いてみようよって、その場でチャカチャカッと編集して聴いたらですよ……。もう、2人でハイタッチ。すげーこの曲、って(笑)。」
山口「イェーイ。良かった。映画の中にもハイタッチありますもんね。」
大根「ふふふ(笑)。もう1回!もう1回聴かせて!って、2人で10回くらい連続で聴いて、これは良い曲だねって。」
山口「よかった……。」
大根「詞が、ものすごいシンプルなことで、歌詞カードを見ちゃうとすごくすくないじゃない。これに半年?っていう気もするかもしれないけど(笑)、この少ない言葉がどれだけ練って出てきたかっていうのをね、感じて欲しいですよ。」
山口「今回は、Aメロとサビしかないですからね。」
大根「そうそう、そうなんだよね。その楽曲構成も面白い。あの……“(歌詞) 丁寧 丁寧 丁寧”……っていうのが、最初に入ってこなくて、何て言ってるんだろうって。歌詞で丁寧ってあまり言わないじゃない。で、歌詞を見たら、丁寧って。えっと……近田春夫が言ってたのかな。「これまでにない、新しい素晴らしい楽曲が生まれたときっていうのはひとつ条件があって、歌詞においてもそれまでに使われたことがない言葉が入っているんだ」って。ワンフレーズとか単語とかで。サカナクションをどこのジャンルに位置づけるかは難しいけど、ロックバンドの歌詞で、丁寧って言葉は今までに入ったことがないんじゃないかな。」
山口「そうかもしれないですね。でも、実はあれ、デモの段階ではベイベーだったんですよ(笑)。」
大根「あははは!(笑)」
山口「“ベイベー ベイベー ベイベー”だったんですよ、あれ(笑)。デモの段階ではね。」
大根「空耳(笑)。ははは(笑)。」
■ サカナクション 「新宝島」
そろそろ今回の授業も終了の時間となりました。
山口「今夜は、10月3日から公開になる映画『バクマン。』の大根仁監督をお迎えしてお届けしてきましたが、まだまだ話足りないというか、話してないことがいっぱいあるので……」
大根「そうね。いっぱいあるね。話せないこともたくさんあるね(笑)。」
山口「あはは!(笑) 話せるギリギリのところでね。ここでしか話せない部分とかもまだまだあるので、来週も大根監督にお越し頂きたいなと思います。」
大根「よろしくお願いします。」
山口「あさって公開になりますね。僕も映画館へ見に行こうと思っていて。しかも10月3日は、僕は札幌でのライブをやっているので、札幌で見てこようかなって思って。」
大根「あー、いいね。ついでに舞台挨拶もしてきてくれる?(笑)」
山口「絶っ対に嫌です!(笑)」
今週末から公開する映画『バクマン。』を見に行った生徒の皆さん、そして、サカナクションの全国ツアー、SAKANAQUARIUM2015-2016“NF Records launch tour”に参加した生徒の皆さんは、是非、感想を[ サカナLOCKS! 掲示板 ] に書き込んでください!
■映画『バクマン。』予告