上原ひろみとジャズレジェンドたち
ニューアルバム『OUT THERE』をリリースし、「Hiromi’s Sonicwonder」として精力的な活動を展開する中、今回は、上原さんの音楽人生を形作ってきた「出会い」について伺いました。
そこには、数々のジャズレジェンドとの忘れられない物語が!
■ チック・コリアとの衝撃的な出会い
高校生のとき、偶然が生んだ奇跡のような出会いを果たしたのが、ジャズ界の巨匠チック・コリア。
東京でピアノのレッスンを受けていたビルで、チック・コリアがリハーサルをしていたと聞きつけた上原さん。
「彼が同じビルにいるって聞いて、会いに行ったんです。ピアノがあったので、何か弾いてみてと言われて即興で演奏したら、彼が入ってきて…一緒に演奏してくれました。」
翌日のコンサートに誘われ、そのまま共演へと、信じられない展開に。
「最初の印象は、優しいおじさんって感じでした。本当に物腰が柔らかくて、“弾いてごらん”って気さくに声をかけてくれて」
その後、10年の時を経て、2人は再会を果たした二人。ライブフェスでの共演後、チック・コリアから「アルバムを作らないか」と声をかけられ、正式な共演作品が実現しました。
「彼と演奏するたびに、自分の“語彙”がどれだけあるか試されている気がするんです。チックは、まるで巨大な図書館のような人。いつも、新しい言葉(音)が出てくる」
■ 世界に踏み出した転機、バークリー音楽大学へ
1999年、上原さんは日本の大学を中退し、単身ボストンのバークリー音楽大学へ。これが、人生の大きな転換点になりました。
「世界中から、同じ志を持った人たちが集まっていて本当に刺激的でした。音楽しかない生活。ご飯を食べながらも音楽の話をしてました」
卒業直前には、伝説的なピアニスト・アーマッド・ジャマルと出会い、彼のサポートを受けてプロデビューを果たします。
「ジャマルさんは“音楽の探求者”という感じで、常に新しい音を求めていました。“今までで一番の演奏は?”と聞かれて、“次の作品”と答えるような人なんです。80代でもそうだった。私、いつも“大人になったらあなたみたいになりたい”って言ってました」
彼は、上原さんのデビューアルバムのプロデューサーも務めています。
■ 原点にあるジャズの“スイング”
そんな上原さんが初めてジャズに触れたのは、なんと8歳のとき。
音楽教室の先生が聴かせてくれたオスカー・ピーターソンのアルバム『Porgy and Bess』がその原点でした。
「それまでは、音楽で身体が自然に動くなんてことがなかったのに、その時、思わず体が揺れて“楽しい!”って思ったんです。それが“スイング”というものだと、後から知りました」
のちに、憧れのオスカー・ピーターソンとステージで共演。オープニングアクトを務め、演奏後には一緒にステージに立ち、客席へお辞儀も交わしました。
「もう夢のような時間でした。ショパンやベートーヴェンと並ぶ存在だと思っていた人に、実際に会えて、一緒に演奏までさせていただけて…信じられない時間でした」
■ ロックギターに憧れて
影響を受けた音楽は、ジャズだけではありません。
フランク・ザッパ、ジェフ・ベック、ピート・タウンゼントなど、ロックギタリストにも強く惹かれたといいます。
「ピアノは、弾いた瞬間が一番大きな音。でもギターは違って、音を曲げたり、伸ばしたりできる。そこにすごく惹かれたんです」
その影響から、上原さんはピアノに加えてシンセサイザーやキーボードでも音を表現するようになります。まるでギターを奏でるように、鍵盤で“音を曲げる”アプローチを模索し続けているそうです。
■ 音で語り、音で通じ合う
「音楽は、言葉と同じ“会話”だと思っています。言葉の語彙が少ないと話せないように、音楽にも語彙が必要なんです」
上原ひろみさんが語る“語彙”とは、音を使って気持ちを伝えるための手段。
チック・コリアとの出会い、アーマッド・ジャマルとの時間、そして憧れのピーターソンとのステージ——それぞれの出会いが、上原さんの音楽の「言語」を育ててくれたようです。