2016年6月7日
6月7日 防災アドバイザー山村武彦さん(2)
今週は、防災システム研究所所長で防災アドバイザーの山村武彦さんのインタビューです。山村さんは、およそ50年に渡り災害の現場に丹念に足を運び、被害や実態を調査するとともにその教訓を伝え続けてきました。
そんな山村さんが注目するのが「防災心理学」。災害が発生したとき、人はどんな心理状態に陥り、とっさにどんな行動をとるのか。その特徴を知ることが防災に大いに役立つと山村さんは言います。その一つが「正常性バイアス」です。
◆正常性バイアス
「正常性バイアス」というのは、「正常性の偏見」ともいうが、物事は平常な状態で続いていると、それが継続的に続くものだという認識を持ちたくなる。首都直下地震もいつか起こると思いながら「今夜は起こらない」と思っている。明日は?明日もまだ起こらないだろう。根拠はない。なんとなく。想定できることを想定しないように、自分の意識のなかに正常性バイアスをかけ、「自分には嫌なことは起こらない」「昨日も大丈夫だから明日も大丈夫だろう」「これは永遠に続くんじゃないか」と考えてします。これは違う。首都直下地震のような大災害が今夜も起こるかもしれない。明日起こるかもしれない。そう思っていれば、想定外ではない。
さらに山村さんが指摘するのが「凍り付き症候群」、そして「同調性バイアス」です。
◆「正常性バイアス」「凍り付き症候群」「同調性バイアス」を知っていることが重要
東日本大震災のとき、津波がすぐそばに迫っているのにゆっくり歩いている人の映像が見かけられた。私は被災地で避難者にインタビューをしたとき、「津波が来ていたのは知っていたでしょう?なぜ走らなかったのですか?足腰が悪いのですか?」と聞いた。すると、「いいえ、そうじゃないのです。走っているつもりでした。足が宙に浮いて進まないのです。体がゆっくりしか動かなかったのです」若い人たちの中からもこんな答えが返ってきた。体が硬直し、自分では走っているつもりなのに、ゆっくりしか動かないのがじれったかった、頭のなかでは「急げ、急げ」といっているのに、体はいうことを聞かなかったというのです。こういう状態を「凍りつき症候群」という。
イギリスの心理学者・ジョン・リーチ博士の調査によると、突発災害が起こったときに正常な対応ができる人はせいぜい15パーセント程度。取り乱す人が約10パーセント程度。残りの75パーセントは茫然自失になって、その半数くらいはその状態から覚めない。それを「凍りつき症候群」というのです。体と心が凍りついてしまって、思うような行動が取れない状態になってしまう。これも「認知心理バイアス」といって、自分で自分の心を固定したり、動かしたりしてしまうこと。
もう一つ「同調性バイアス」というものもある。これは大勢の人がいると、その中にいるほうが安全、その人たちと同じ行動をとるほうが安全につながると考え、その集団に同調してしまうこと。「変だな、おかしいな、危険かな」と思っても、みんながなにもしないなら自分もなにもしないようがいい、あるいは自分がこの秩序を乱してしまうことへの抵抗もある。お互いがけん制しあって、一人や二人なら行動を起こすにもかかわらず、大勢だったから逆に行動が遅れてしまう。
「正常性バイアス」や「凍り付き症候群」「同調性バイアス」というのがあるいうことを知っていることが重要。自分がいまその状態になっているのかもしれないと気付くことができる。
今日は「災害時の人間の心理」=「防災心理学」のお話でした。
「正常性バイアス」「凍り付き症候群」そして「同調性バイアス」。とにかく災害時は自分の心と身体が「正常な判断ができない場合もある」ということをしっかり覚えておきたいですね。
明日も山村武彦さんのお話です。