東京大学 先端科学技術研究センター
数理創発システム分野 西成活裕教授は数理物理学の専門家。
水や空気の流れを研究していました。
子供の頃から渋滞がキライだったという西成教授。
20年ほど前のある時、水や空気も「流れ」なら人やクルマも「流れ」。
水や空気に使われている数学を交通渋滞にも応用できないか?と考えました。
そして、やってみると・・・ イケる!
ということで確立してきたのが「渋滞学」です。
出版した本は売れ、メディアにも頻繁に登場。
渋滞学と西成教授は全国に知られるようになりました。
西成教授はその考えを発展させて、日常生活でムダを省く方法、
仕事の効率を上げるコツなどの提言もしています。
夏休み。
渋滞が他の時期よりも起こりやすい時期。
今週と来週は前後編にわけて西成教授の「渋滞学」をお伝えします。
数学を使って渋滞を解析した結果、わかったことがあります。
「40m」という車間距離が渋滞とそうではない状態をわける鍵だということ。
それまでの習慣だと高速道路では時速40km以下での走行になると「渋滞」の表示を出し、
一般道路では時速10km以下の走行になると「渋滞」としていたのですが、
それでは渋滞の捉え方に一貫性がない。
全てに共通する渋滞の定義は何か追求していったところ、
距離で分類したほうが早さで分類するよりも良いという事が見えてきました。
とっている車間距離が少ないと前の車がブレーキを踏めば、
追突を避けるために自分もブレーキを踏まなければいけません。
前の車との車間距離が十分にとっていれば
前のクルマがブレーキを踏んでも自分は一定の早さで走っていけます。
自分がブレーキを踏んだことで、そのブレーキを踏む行為が後ろにも伝わっていくのか。
自分はブレーキを踏まず、後続車にブレーキを踏む行為が伝わることはないのか。
ここが渋滞のポイントになります。
車間距離が40m以下だとブレーキを踏む行為が伝わっていってしまう。
しかも、それは増幅していく。
車間距離を40m以上開けていればブレ―キを踏む行為は伝わらず、
渋滞の小さい波も吸収できて、渋滞を未然に防ぐ効果もあるのです。
ただし、道路のキャパシティもあります。
1時間に2,000台のクルマが集まると渋滞は避けられません。
それは例えば、ゴールデンウィークやお盆の帰省ラッシュ。
でも、1時間2,000台に満たないのに渋滞が起きるのは、
みんなが「車間を詰めすぎているから」なのです。
それは例えば、日曜日の夕方のような、頻繁に起こっている渋滞です。
前のクルマのスピードが遅い時や、
全体的なクルマの流れのスピードが落ちてきた時は、
早く進みたいという意識から車間距離を詰めてしまうもの。
しかし、それは反対の結果を生むことになります。
1回渋滞が起こると、その渋滞を解消するのに時間がかかります。
渋滞になると、止まったり、動いたりという状態が繰り返されため、
遅くても一定の早さで走るよりも到着時間はずいぶん遅れます。
燃費もかなり悪くなって西成教授の実験では、
渋滞になる場合と、緩いスピードでも一定の速さで進める場合、
最大で約40%も燃費が違うという結果が出ているそうです。
また、渋滞でクルマの到着が1時間遅れると、
その時間で生み出せたはずなのに生み出せなかった経済損失が3,600円。
その1年間の総額は日本全体で・・・ 12兆円 !
という数字を国土交通省が出しているそうです。
覚えておいていただきたいのは、いちばんの渋滞発生ポイントは登り坂。
登り坂は渋滞原因全体のうち1/3以上を占めています。
渋滞の名所と言われている花園インターチェンジや小仏トンネル。
あれらは実はちょっとした登り坂なのだそうです。
なぜこうしたところで渋滞が起こるかというと、
運転手がちょっとした登り坂だと、登り坂だということに気付きません。
アクセルをそのままに運転するので、クルマは少しずつ遅くなる。
そうすると後続車が車間距離が詰めていた場合、衝突を避けるためにブレーキを踏む。
その後ろのクルマも車間距離を詰めていた場合、より強くブレーキを踏まなければいけない。
そうしてブレーキの連鎖となり、それが十数台続けば、クルマは止まり渋滞が起こります。
1時間のクルマの通行が2,000台に満たない場合、
渋滞が起こるか起こらないかはドライバーの面々の運転にかかっているというわけです。
個々の運転手の努力が集まれば渋滞は回避できるのです。
渋滞が減少すれば、事故の危険も減るもの。
これからの運転は車間距離40mを守るようにしましょう。
来週は『渋滞学 後編』です。