第68回 交通事故とスローモーション
2016/07/14
「交通事故に遭った時、視界がスローモーションに見えた」という言葉、
どこかで見聞きしたこと、ありますよね?
そのことが実験の結果、世界で初めて確認したという論文が発表されました。
論文を発表したのは、コメントで声が出ている、
千葉大学 文学部 認知心理学研究室 一川誠(いちかわ・まこと) 教授。
そして、卒業生の小林美沙さん。
小林さんの卒業論文に向けた研究に
担当教授の一川さんが協力するかたちで実験は行われました。
一川教授は心理学に基づき「知覚」や「認知」の特性を調べる専門家。
今回は特に時間的な「認知」の特性を調べたということになります。
この「事故の瞬間がスローモーション」を証明するための実験は、
過去にも行われことはあるそうです。
しかし、その“現象”を取り出すことは出来ていないのだそうです。
でも、一川教授はうまくやれば確認できるだろうと思っていました。
そこで、違う方法でトライしてみます。
実験の被験者16人。
安全な画像12枚 危険な画像12枚 計24枚を
1枚の写真を1秒間見せて、最後のごく短い時間、
数ミリ/secだけモノクロにして、
写真によってそのモノクロにする時間の長さを変えて見せます。
危険を感じるような写真や覚醒するような写真のほうが、
ふつうの状態よりモノクロになる時間が短くても変化に気づくことがわかりました。
ちょっとデフォルメした例として、
ふつうの心理状態では、色の変化は1秒ないと気づかないとします。
危険を感じる心理状態だと、色の変化は0.5秒で気づくとする。
この時、処理情報量は・・・
ふつうの心理状態の1秒=危険を感じる心理状態の0.5秒
では、この2つの心理状態で、
1秒かけて同じ「動く光景」を見た時にどうなるか?
ふつうの心理状態は1秒なのでそのまま。
でも、危険を感じる心理状態は本来0.5秒で処理できる情報量を
2倍の時間をかけて見ているので、時間が引き伸ばされてゆっくり見えるのです。
30分番組が入ったVTRを60分で見るようなものと言えばわかりやすいしょうか。
この情報処理速度が速くなるような状態、
例えば音を聞かせたり、薬で人工的にそうした状態を作り出せば、
交通事故の回避につながるかもしれません。
ただ、そうしたモノに頼らなくても
交通上の危険が生じないことが理想です。