2017.11
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【東京会場】川村元気講義レポート

未来授業最後の講義、3限目を担当したのは映画プロデューサー・小説家の川村元気さん。講義のテーマは大きく2つ。「集合的無意識の発見」、そして「クリエイティブの発明」。

【発見と発明】
川村さんは映画「君の名は。」や小説「世界から猫が消えたなら」を始めとして、多くのヒット作を世に送り出している。「ヒットメーカー」とも言われる川村さんが、どのようにネタを「発見」し、作品を「発明」していくのか。作品が出来るまでを、順に説明し、種明かしをするところから授業は始まった。

「企画の仕事は料理と一緒。良い素材(作品のネタ)を適切な方法と工夫を凝らした方法で組み合わせることでいいものが生まれる。」
川村さんの言葉に生徒たちは興味深そうに顔を上げた。

川村さんがいう良い素材とは、集合的無意識(=誰もが感じているけれども言葉にされていない無意識)である。それを見つけ出すことを「集合的無意識の発見」と言う。作品づくりは「集合的無意識の発見」から始まるのだ。

そして、適切な方法と工夫を凝らした方法、それがすなわち「クリエイティブの発明」である。見つけてきた良い素材が、どうしたら今を生きる人にとって面白くなるかを考えあぐねること。
普遍性を求めた「集合的無意識の発見」と、時代を意識した「クリエイティブの発明」。
この対照的な2つを組み合わせることで、「ヒット作」は生まれるのだという。

川村さんはそんな無数の「発見」と「発明」を繰り返し、トライアンドエラーを重ねてヒット作を生み出しているのだ。
そうして生まれた多くのヒット作の裏話に、生徒たちは目を輝かせ、引き込まれていった。


【テクノロジーと物語の目指すゴールは人間の幸福】

「最終的には『何をしたら人間は幸せになるか?』をゴールにしているのはテクノロジーも僕のやっていることも一緒。」
川村さんはこんな言葉を残した。

映画・小説共に、先生の作品にある根底のテーマは"人間がコントロールできないもの"。すなわち「死」「恋愛」「お金」「記憶」だ。あえてコントロール出来ないものを描くことで、人間そのものが見えてくる。そして、それを描いた先にあるのは「人間の幸福とはどこにあるのか」という問いだという。
では、テクノロジーは何をゴールにしているのか。何のために便利さや技術を求めるのか。それはひとえに「何をしたら人間は幸せになるのか」という答えを追求するためなのだ。
一見真反対にいるように思える、小説や映画を作る川村さんの仕事とテクノロジーは、『人間の幸福』という同じゴールを見ているのだ、と教えてくれた。


【生徒からの質問コーナー】

質疑応答の時間では、川村さんの作品の源となる考え、集合的無意識について詳しく聞くことができた。

皆がなんとなく思っていることや感覚、違和感を集合的無意識と呼ぶ川村さん。しかしその中で不思議と表現されていないものを文書あるいは映像にするのだ。
この集合的無意識を意識して色々なことを見ると生活の中で沢山の違和感が見つかる。これを違和感ボックスにいれて貯めておき、それが発明とかけ合わさって物語になる瞬間を待っているそうだ。ちなみにこの違和感ボックスは学生時代からあり、大切に積み重ねてきたという。

講義の中で川村さんは人間のコントロールできないものとして死、愛、お金の三つを挙げたが、生徒の中には「死は今の時代コントロール出来るものではないのか?」という質問が出た。
確かに医療技術、さらには人工知能が発達した今、死ぬことのない世界がやって来るかもしれない。その上で川村さんは、「死なないことが問題解決ではない。」と言う。死というのは人間にとって一種のアドバンテージであり、解決できないのは死なないということではなく、死というものと幸せの関係を見つけることである。これはとても難しいことで、恋愛も恋愛を解決するかしないかが問題なのではなく、それに対して自分が幸せだと感じる定位置をつかむのが難しいのだ。つまり解決できないというのは、それをもって幸せをと感じるのがとても難しい、ということである。
さらに、川村さんは最近もう一つ、人間にコントロール出来ないものを見つけたという。それは記憶である。
人間らしさを、何を体験したかでできていると思っていたという川村さん。しかし、本当に人間を特徴づけているものは、どうしても覚えていないといけないのに忘れてしまうもの、どうしても忘れたいのに忘れられないもの、といういびつな記憶の仕方、記憶のされ方であり、記憶も人の幸せに結びついているものであると発見したそうだ。このことを受け、記憶がテーマの新しい小説を連載しているという。

また、今回のテーマである人工知能については、「人間にはこうすればこの感情が動くといったセオリーがあるとすれば、人工知能がセオリーを見つけ、人を感動させるような作品を作り、代替可能な将来がやって来るのでは?」という質問が出た。
これに対し川村さんは、「確かに人間には感情のセオリーが存在するが、人間は同じセオリーを繰り返すと、次に何が来るか予想できてしまい感情が動かなくなるという複雑さを持っている。たとえ人工知能がセオリーを見つけることができるようになったとしても、私たちの代替になることは難しいのではないだろうか。しかし、人工知能が見つけたセオリーは今まで私たちが作ってきたセオリーであるから、そのセオリーからずらすことによってまた新しいセオリーを見つけ、作品を生み出していくことができるだろう。その意味で人工知能は人間の複雑さを明快にしてくれるものである。」と答えた。

残念なことにまだまだ質問があるものの、時間がきてしまい質疑応答の時間は終わってしまった。しかし川村さんの世界観に触れることのできた、とても貴重な70分であった。

これにて三限、そして2017年の未来授業は幕を閉じた。

【講義後、帰りの電車で】
今回は時間の関係で、直接インタビューすることは難しかったが、帰り道に川村元気さんの本を買わずに家に帰ることはできず、もちろん著書を一冊買い、電車の中で講義を思い返しながら読んだ。
 「仕事。(川村元気著、集英社、2014)」という本である。
本人も、これには自分の仕事の姿勢に関係することがかなり込められていると述べていた。
対談形式で、いわゆる巨匠と呼ばれる人たちから、仕事について川村さん自身が突っ込んで聞いていく。対談相手は、山田洋次監督をはじめ、秋元康、宮崎駿、糸井重里、谷川俊太郎など、そうそうたるメンバーだ。

 これは講義でも感じたことだが、実際文章にすると、川村さんのいい意味でのラフさ、まっすぐさが見えてくる。講義で、ジャンルや年代が違う人からアイデアをもらうと言っていたが、この本の中にもその貪欲な姿勢が表れていた。
 また、”人間くささ”を全力で楽しんでいる人だなあと思った。巨匠たちは皆、これまで生きてきて培ったそれを川村さんに話し、川村さんがそれを全力で受け止める。ワクワク感が文面から溢れ出ている。

わたしが特にそれを感じた部分は、川村さんが倉本聰さんとの対談を振り返って書いた部分だ。
「『テレビドラマは”チック”だ』と倉本聰は言った。『物語』の上に、人間くさい不規則な言葉や言動、つまり『チック』が乗って初めてドラマが輝く。そしてそこに『感動』が生まれる。
(中略)
人生どう転ぶかわからない。だが予定調和を超えたところに感動はある。倉本聰の人生そのものが『チック』にあふれた素晴らしい『ドラマ』なのだ。」(本書p95より引用)

予想と違うものが来た時に人の心は揺さぶられる。そして、私たちはAIを、AIの提案するセオリーからあえて外れるという使い方ができるのではないか、と川村さんは講義で言っていた。覚えているか覚えていないかというのが特徴となるAIは、さっき起きたことをすぐに忘れてしまったり、10年以上経ってもなぜか忘れられない瞬間があったりといびつな記憶方法をとる人間とは対照的である。AIによって、人間らしさがより浮き彫りになるという。

AIとわたしたち人間。それはわたしたちからは遠いもののように思われるが、意外と近くにあり、外国語を学んで自分の母国語を意識するように、AIによってさらにわたしたちは自分たちの人間らしさ・人間くささを感じ、そこに楽しみを見出せるのかもしれない。そんな未来を、全力で楽しみ、そしてワクワクしながら想像したい。

(文責:早稲田大学政治経済学部4年原田妙 早稲田大学法学部1年石名遥
    青山学院大学文学部1年上部美香子)

【東京会場】講義レポート