2024年12月14日
今週ゲストにお迎えしたのは、作家の朝井リョウさんです。
朝井さんは、1989年、岐阜県のお生まれです。
早稲田大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で、第22回小説すばる新人賞を受賞しデビューされました。
2013年には『何者』で第148回直木賞を、2014年には『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を、2021年には『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞されていらっしゃいます。
──零れ落ちた言葉を掬い上げる
茂木:先週もお話し頂きましたが、現在、小学館より発売中の朝井さんの新刊『生殖記』。これは凄まじい作品ですよね。
朝井:ありがとうございます。
茂木:ちょっと先週気になることを仰いましたよね。「これがぴったりと感じられる人もいるかもしれない」と。
朝井:そうですね。
私が今回の作品を書くときに1つ決めていたのが、「人類に肩入れをしない」ということなんです。
茂木:これはすごい言葉ですね…。
朝井:書き始めた動機のひとつに、「“人類に肩入れをしていない長い文章”を書いてみたいな」という気持ちがあったんです。
茂木:え、どういうことですか(笑)?
朝井:一人称でも三人称でも、ある特定の人類を主人公に定めて物語を書いていくと、その物語の土台にはどうしても人類主観の善悪が横たわってしまうんですよね。そうなると、大きな意味で、どうしても全部似たような話になってしまいます。
茂木:そうですね。
朝井:大きな意味で、どうしても人類にとっての“善”の方角へと物語が収れんされていく、というところにずっとモヤモヤがありました。悶々と考えていたときに、今回採用した“人類に全く肩入れしていない語り手”の設定を思いついて、これは書いてみたい、と思ったんです。そういう長い文章は、少なくとも自分はあまり読んだことがなかったので。
茂木:僕も初めて読みました。
朝井:嬉しい、ありがとうございます。
読んだことがないとか、これまであまり書かれたことがない文章があるということは、私にとってはすごく救いなんです。その文章でやっと「これがぴったりくる!」と思える人がいるはずなので。
茂木:そういうことで、「ぴったりくる」と仰ったんですね。
朝井:そうです。私自身、「人類にとって、この言動がどうか?」というところを全く考えなくていい語り手を採用したことで、ネガティブにもポジティブにもこれまでにないほど振り切った文章を書くことができて、その中でものすごくぴったりくるものにも出会えました。とてもいい経験でした。
茂木:青春小説作家として揺るぎない地位を築き、世間からは「今の若者の世界観を代弁する作家」として評価されていますが。
朝井:ありがたいことに、そう言っていただくことがありました。
茂木:それが、そこに留まらず。『正欲』。これはすごく重要な作品だと思うんですけど。
朝井:そうですね。
茂木:『正欲』を振り返られて、どうですか?
朝井:「その本が自分にとってどういう本だったのか」ということは、時間を経てわかるものだと思っているのですが、最近それを実感する出来事がありました。今年の10月に久しぶりに東京と大阪でサイン会をしたんですけど、そこで、読者がかなり入れ替わったと感じたんです。
茂木:え、そうですか…!
朝井:「初めて来ました」、「『正欲』を読んで朝井さんを知って」という方がすごくたくさんいらっしゃって。
もちろんずっと私の作品を追ってくださる読者の方も嬉しいんですけど、ここまで初めましての人が多いとは衝撃でした。そのとき、「ああ、『正欲』って自分にとってすごく大きなターニングポイントだったんだな」と改めて実感しましたね。
茂木:でも、要するに、青春小説を書く作家としての地位、今の若者の代弁者という、そういう立ち位置から、見事に場所を移されましたよね。
朝井:私の中では、また青春小説を書きたい気持ちも大いにあるので、場所を移ったというよりは引き出しが増えたというふうに思いたいです。
茂木:あの『正欲』で描かれた、非常に…何て言うんでしょうかね。
朝井:生まれながらに搭載されたものが、現時点での社会構造からは外れている人物たちが登場しますね。
茂木:今の時代、政治的な正しさとか、LGBTQとか、そういうことが言われていて、多様性ということがすごく大事にされている中で、でも、それではちょっと救いきれないものもありますよね。
朝井:結局は、人間、しかも議論を先導する立場にいられる人間が認識できる範囲のものしか議論の俎上に上らない、という問題があると思っています。そしてそこから零れ落ちるほど議論の対象としての優先順位は下がるし、自分がそうであるということを表明しにくくもなる。また、そのせいで生活が成り立たなくなったときに該当者全員が「まさにそれ!」という問題提起をできたとしても、母数が少ない以上、多数決であらゆることが決まる社会においてはまずは多数派の理解を得るところから始めないといけない。
小説を書いていると、言葉にすればするほどそこから零れ落ちる部分があるということを強く感じます。小説が完結するのと同時に、本の麓みたいな場所にその作品では拾いきれなかった言葉たちが毎回こんもりと溜まっている。その麓にある言葉を次の作品で掬い上げようとするんだけど、そうすると別の何かが零れてしまって、ということを小説を書くたびに感じています。
『正欲』は、これまで「どう書いても零れてしまうな」という場所にあった言葉を収納できる器が欲しいなと考えて書いた本でもあるので、そこで新しく読者がついてくれたことは本当に嬉しいです。
茂木:そしてこの『生殖記』が最新作ですが、更に語り得ないものと言うか。
朝井:言葉を収納する器をさらに拡げたかったのですが、私も結局は私が認識しているものしか語れない。今回は「人類に肩入れしない」と決めたものの、私も人類の一員なので、気を抜くとすぐ人類に肩入れした文章が出てきてしまうと痛感しました。そもそも人類に肩入れしているかどうかを人類は完全には判断できないですしね。
でも、こういう作品に挑戦したいなという気持ちがある間は、できるだけ、あらゆる本の外側に零れ落ちてしまった言葉を見つけられないかな、と思います。
茂木:とても素敵ですね。
皆さん、朝井リョウさんのファンの方も、また朝井リョウさんのご著書のタイトルは知っているんだけどまだ読んでないよという方も、是非この最新作『生殖記』を見てください。ここからまた過去に遡っていく読み方もあるかもしれませんね。
朝井:これが1冊目になってもすごく嬉しいなと思います。
──朝井リョウさんの『夢・挑戦』
茂木:色々お話を伺ってきたんですが、この番組は、『夢と挑戦』がテーマなんです。既にもうたくさんのことをやり遂げられているんですけど、朝井リョウさんのこれからの『夢』そして『挑戦』の方向性というのは、どういうものでしょうか?
朝井:はい。今2週に渡って本当に色んなお話をさせて頂いたんですけど、今話したことが全部「言ってること違うじゃん!」という人になりたい、というのがあります。
茂木:ええ(笑)。じゃあもう全部裏切って…。
朝井:そう。もう全然。10年後とかにこのラジオのアーカイブが発見された時に、「何言ってんだコイツ!」という状態になっていたいんですよね。
茂木:でも朝井さんの場合、それが恐らく無理しているわけじゃないんですよね。
朝井:そうだと思います。
茂木:自分の中にある何かを誠実に追っていくと、そうなっちゃうんですよね。
朝井:なんでしょうね、自分に対して天邪鬼みたいなところもあったりするので、過去の人文に反発したくなっちゃうんですよね。なので、どんどん「言ってることちげえ?!」という人になっていけたらいいなと思います(笑)。
茂木:(笑)。皆さん期待してください。
でも、そういう意味においては、朝井リョウ自体が「何者?」という感じですか?
朝井:あ、すごい!
茂木:いやいや(笑)。ありがとうございました。
改めまして、現在小学館より新刊『生殖記』が発売中でございますが、これから読むよという方に、是非メッセージをお願いできますでしょうか?
朝井:はい。今回はあらゆるフィクションで大前提として敷かれている“人類ベースの善悪”をできるだけ取り除くことを意識した作品なので、これを読んで初めて「あっ、しっくりくる」と思う方もいるんじゃないかなと思っています。心の中指が立っている方に届くと嬉しいです。
■プレゼントのお知らせ
番組でご紹介してきました、朝井リョウさんのご著書『生殖記』に、朝井さんの直筆サインを入れて、3名の方にプレゼント致します。
ご希望の方は、お名前やご住所、電話番号など、必要事項を明記の上、メッセージフォームより、ご応募ください。
私、茂木に聞きたい事や相談したい事など、メッセージを添えていただけると嬉しいです。
尚、当選者の発表は、商品の発送をもってかえさせていただきます。
たくさんのご応募、お待ちしております。
●朝井リョウ(@asai__ryo)さん / X(旧Twitter)公式アカウント
●「生殖記」 / 朝井リョウ(著)
(Amazon)
●小学館『生殖記』特設サイト
↑特設サイトでは、冒頭の試し読みが出来ます!
気になった方は、是非、チェックしてください!
朝井さんは、1989年、岐阜県のお生まれです。
早稲田大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で、第22回小説すばる新人賞を受賞しデビューされました。
2013年には『何者』で第148回直木賞を、2014年には『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を、2021年には『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞されていらっしゃいます。
──零れ落ちた言葉を掬い上げる
茂木:先週もお話し頂きましたが、現在、小学館より発売中の朝井さんの新刊『生殖記』。これは凄まじい作品ですよね。
朝井:ありがとうございます。
茂木:ちょっと先週気になることを仰いましたよね。「これがぴったりと感じられる人もいるかもしれない」と。
朝井:そうですね。
私が今回の作品を書くときに1つ決めていたのが、「人類に肩入れをしない」ということなんです。
茂木:これはすごい言葉ですね…。
朝井:書き始めた動機のひとつに、「“人類に肩入れをしていない長い文章”を書いてみたいな」という気持ちがあったんです。
茂木:え、どういうことですか(笑)?
朝井:一人称でも三人称でも、ある特定の人類を主人公に定めて物語を書いていくと、その物語の土台にはどうしても人類主観の善悪が横たわってしまうんですよね。そうなると、大きな意味で、どうしても全部似たような話になってしまいます。
茂木:そうですね。
朝井:大きな意味で、どうしても人類にとっての“善”の方角へと物語が収れんされていく、というところにずっとモヤモヤがありました。悶々と考えていたときに、今回採用した“人類に全く肩入れしていない語り手”の設定を思いついて、これは書いてみたい、と思ったんです。そういう長い文章は、少なくとも自分はあまり読んだことがなかったので。
茂木:僕も初めて読みました。
朝井:嬉しい、ありがとうございます。
読んだことがないとか、これまであまり書かれたことがない文章があるということは、私にとってはすごく救いなんです。その文章でやっと「これがぴったりくる!」と思える人がいるはずなので。
茂木:そういうことで、「ぴったりくる」と仰ったんですね。
朝井:そうです。私自身、「人類にとって、この言動がどうか?」というところを全く考えなくていい語り手を採用したことで、ネガティブにもポジティブにもこれまでにないほど振り切った文章を書くことができて、その中でものすごくぴったりくるものにも出会えました。とてもいい経験でした。
茂木:青春小説作家として揺るぎない地位を築き、世間からは「今の若者の世界観を代弁する作家」として評価されていますが。
朝井:ありがたいことに、そう言っていただくことがありました。
茂木:それが、そこに留まらず。『正欲』。これはすごく重要な作品だと思うんですけど。
朝井:そうですね。
茂木:『正欲』を振り返られて、どうですか?
朝井:「その本が自分にとってどういう本だったのか」ということは、時間を経てわかるものだと思っているのですが、最近それを実感する出来事がありました。今年の10月に久しぶりに東京と大阪でサイン会をしたんですけど、そこで、読者がかなり入れ替わったと感じたんです。
茂木:え、そうですか…!
朝井:「初めて来ました」、「『正欲』を読んで朝井さんを知って」という方がすごくたくさんいらっしゃって。
もちろんずっと私の作品を追ってくださる読者の方も嬉しいんですけど、ここまで初めましての人が多いとは衝撃でした。そのとき、「ああ、『正欲』って自分にとってすごく大きなターニングポイントだったんだな」と改めて実感しましたね。
茂木:でも、要するに、青春小説を書く作家としての地位、今の若者の代弁者という、そういう立ち位置から、見事に場所を移されましたよね。
朝井:私の中では、また青春小説を書きたい気持ちも大いにあるので、場所を移ったというよりは引き出しが増えたというふうに思いたいです。
茂木:あの『正欲』で描かれた、非常に…何て言うんでしょうかね。
朝井:生まれながらに搭載されたものが、現時点での社会構造からは外れている人物たちが登場しますね。
茂木:今の時代、政治的な正しさとか、LGBTQとか、そういうことが言われていて、多様性ということがすごく大事にされている中で、でも、それではちょっと救いきれないものもありますよね。
朝井:結局は、人間、しかも議論を先導する立場にいられる人間が認識できる範囲のものしか議論の俎上に上らない、という問題があると思っています。そしてそこから零れ落ちるほど議論の対象としての優先順位は下がるし、自分がそうであるということを表明しにくくもなる。また、そのせいで生活が成り立たなくなったときに該当者全員が「まさにそれ!」という問題提起をできたとしても、母数が少ない以上、多数決であらゆることが決まる社会においてはまずは多数派の理解を得るところから始めないといけない。
小説を書いていると、言葉にすればするほどそこから零れ落ちる部分があるということを強く感じます。小説が完結するのと同時に、本の麓みたいな場所にその作品では拾いきれなかった言葉たちが毎回こんもりと溜まっている。その麓にある言葉を次の作品で掬い上げようとするんだけど、そうすると別の何かが零れてしまって、ということを小説を書くたびに感じています。
『正欲』は、これまで「どう書いても零れてしまうな」という場所にあった言葉を収納できる器が欲しいなと考えて書いた本でもあるので、そこで新しく読者がついてくれたことは本当に嬉しいです。
茂木:そしてこの『生殖記』が最新作ですが、更に語り得ないものと言うか。
朝井:言葉を収納する器をさらに拡げたかったのですが、私も結局は私が認識しているものしか語れない。今回は「人類に肩入れしない」と決めたものの、私も人類の一員なので、気を抜くとすぐ人類に肩入れした文章が出てきてしまうと痛感しました。そもそも人類に肩入れしているかどうかを人類は完全には判断できないですしね。
でも、こういう作品に挑戦したいなという気持ちがある間は、できるだけ、あらゆる本の外側に零れ落ちてしまった言葉を見つけられないかな、と思います。
茂木:とても素敵ですね。
皆さん、朝井リョウさんのファンの方も、また朝井リョウさんのご著書のタイトルは知っているんだけどまだ読んでないよという方も、是非この最新作『生殖記』を見てください。ここからまた過去に遡っていく読み方もあるかもしれませんね。
朝井:これが1冊目になってもすごく嬉しいなと思います。
──朝井リョウさんの『夢・挑戦』
茂木:色々お話を伺ってきたんですが、この番組は、『夢と挑戦』がテーマなんです。既にもうたくさんのことをやり遂げられているんですけど、朝井リョウさんのこれからの『夢』そして『挑戦』の方向性というのは、どういうものでしょうか?
朝井:はい。今2週に渡って本当に色んなお話をさせて頂いたんですけど、今話したことが全部「言ってること違うじゃん!」という人になりたい、というのがあります。
茂木:ええ(笑)。じゃあもう全部裏切って…。
朝井:そう。もう全然。10年後とかにこのラジオのアーカイブが発見された時に、「何言ってんだコイツ!」という状態になっていたいんですよね。
茂木:でも朝井さんの場合、それが恐らく無理しているわけじゃないんですよね。
朝井:そうだと思います。
茂木:自分の中にある何かを誠実に追っていくと、そうなっちゃうんですよね。
朝井:なんでしょうね、自分に対して天邪鬼みたいなところもあったりするので、過去の人文に反発したくなっちゃうんですよね。なので、どんどん「言ってることちげえ?!」という人になっていけたらいいなと思います(笑)。
茂木:(笑)。皆さん期待してください。
でも、そういう意味においては、朝井リョウ自体が「何者?」という感じですか?
朝井:あ、すごい!
茂木:いやいや(笑)。ありがとうございました。
改めまして、現在小学館より新刊『生殖記』が発売中でございますが、これから読むよという方に、是非メッセージをお願いできますでしょうか?
朝井:はい。今回はあらゆるフィクションで大前提として敷かれている“人類ベースの善悪”をできるだけ取り除くことを意識した作品なので、これを読んで初めて「あっ、しっくりくる」と思う方もいるんじゃないかなと思っています。心の中指が立っている方に届くと嬉しいです。
■プレゼントのお知らせ
番組でご紹介してきました、朝井リョウさんのご著書『生殖記』に、朝井さんの直筆サインを入れて、3名の方にプレゼント致します。
ご希望の方は、お名前やご住所、電話番号など、必要事項を明記の上、メッセージフォームより、ご応募ください。
私、茂木に聞きたい事や相談したい事など、メッセージを添えていただけると嬉しいです。
尚、当選者の発表は、商品の発送をもってかえさせていただきます。
たくさんのご応募、お待ちしております。
●朝井リョウ(@asai__ryo)さん / X(旧Twitter)公式アカウント
●「生殖記」 / 朝井リョウ(著)
(Amazon)
●小学館『生殖記』特設サイト
↑特設サイトでは、冒頭の試し読みが出来ます!
気になった方は、是非、チェックしてください!