2024年11月23日
今週ゲストにお迎えしたのは、昆虫学者で、写真作家としてもご活動されている、砂村栄力さんです。
砂村さんは、1982年、東京都のお生まれです。
東京大学大学院にて、外来種である「アルゼンチンアリの生態」、そして、駆除に関する研究を行い、博士の学位を取得されました。この際、東京大学総長賞受賞を受賞されています。
その後、住友化学株式会社の殺虫剤の研究開発を経て、現在は、国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所にて、害虫の駆除研究に従事されていらっしゃいます。
また、専門とする、アリやカミキリムシなどの外来生物を材料に、生態の記録や美術作品の制作も行っていらっしゃいます。
──生態系を変えてしまう外来アリ
茂木:砂村さんは今回、『世界を支配するアリの生存戦略』というご著書を発売されています。
アルゼンチンアリ駆除の研究もされていらっしゃる一方で、アリの生態とか、社会性昆虫としての奥深い世界も研究されていると思うんですけど、ご自分が研究している対象を同時に駆除しなければいけないという(笑)、そこの辺りはどうですか?
砂村:(笑)。私が研究を始めたきっかけが、元々虫は好きだったんですけれども、大学の研究室に入って、クワガタムシの採集とか、飼育とかやっていまして。昆虫の研究室に入ったんですが、研究対象を選ぶ時に、山口県岩国市をフィールドにして実験をやっていたんですけれども、このアルゼンチンアリというのがすごく害虫化していて、ものすごく困っておられたんです。
茂木:ご著書にもありますけど、これは本当に大変みたいですね。
砂村:はい。もう毎日のようにアルゼンチンアリが家の中に入ってきて、寝ていてもチクチク噛まれていて。
茂木:これは堪らないですよね。
砂村:たかがアリですけれども、舐めてはいけないんで。
茂木:どこにでも入り込んできちゃうみたいですね。
砂村:そうですね。最近の家だと気密性も上がってきているとは思うんですけれども、そういった家でもどこからともなく入って来るという話を聞いています。
茂木:どこからともなく入ってくるんですか? これは本当に、被害を受けていらっしゃる地域の方にとっては、切実な問題だということですよね。
砂村:はい。地域からのそういった対策の要望みたいなものが強くて、研究室の方にも相談が来るようなこともあります。
茂木:既に学生時代にそういう状態だったということですか?
砂村:はい。まだ入り込んでいる地域が少なかったので、全国的な問題視はされていなかったんですが。
茂木:やっぱり駆除するためには、敵の、と言うか、その生態もよく理解しなければいけない、ということなんですかね。
砂村:なので、「まずは駆除しなければ」というところから入っていって、次第に、生態の観察とか、じっと見ていたりするうちに愛着も湧いてきて、というところで。まあ「駆除しないといけない」というところが最初にあったので、何とかやっていますけど、もし最初にこの生態とか社会のすごさ、面白さとかから入っていたら、それを駆除しないといけないとなったら、今より辛くなっていたかもしれないです(笑)。
茂木:アリの生物学というのは本当に奥が深くて。例えば、リスナーの皆さんにクイズ出したらいかがでしょうか?
「アリは何の仲間でしょうか?」。砂村先生、これはいい質問ですよね?
砂村:そうですね。
茂木:実は、アリはある昆虫の仲間なんですよね?
砂村:はい。
茂木:さあ、皆さん、何でしょうか? これはちょっと意外だと思います。じゃあ先生から正解をお願いします。
砂村:はい。アリは、「ハチの仲間」になります。
茂木:ハチ! 全然違う感じがしますけどね。
砂村:そうですよね。体の大きさも、普段見ているミツバチとかスズメバチと、アリだと全然違うのかなと思うんですけど。
ただ、実はアリもハチも、見た目を比較しますと、お腹にくびれがあるというのは共通で、アリも「羽アリ」というのが出ると思うんですけど、あれが本来の姿なんですよね。
茂木:そうか。確かにああなると、ちょっとハチに近づいて来ますね。
砂村:そこから羽を退化させて、主に地上で活動するようになって「働きアリ」になった、というのがアリの進化です。
茂木:そして、皆さんも時々悩まされている「シロアリ」。同じ「アリ」と言っているんですけど、あれは全然違う仲間ということで。ちょっとまたここでクイズでございます。
「アリはハチの仲間です。さて、シロアリは何の仲間でしょうか?」。さあ、何でしょうか? 先生、正解をお願いします。
砂村:はい。シロアリは、「ゴキブリの仲間」になります。
茂木:ゴキブリ(笑)。全然違うんですね。
砂村:そうですね。シロアリとアリとでは、全然進化の道筋と系統が違うんですよね。
茂木:たまたま形態が似ているから、日本語では「シロアリ」という名前が付いてしまった、ということですかね。
砂村:はい。たまたま形が似ていて、あと集団を作って…、ということで付いてしまっていますけど。
茂木:今回のご著書、文春新書『世界を支配するアリの生存戦略』。もちろん、アルゼンチンアリに困って、それを駆除しなければいけないということもあるんですけど、アリの奥深い世界への格好の入門書になっていますよね。
砂村:ありがとうございます。
茂木:そして、写真が見事なんですね。たくさん写真が挿入されているんですけど、この写真は研究の過程で撮られたんですか?
砂村:そうですね。それから私がプライベートで写真撮影なんかをしている時に撮ってきたものになります。
茂木:表紙の写真も素敵ですよね。これは砂村さんの写真が元になっている?
砂村:はい。
茂木:ちょっと芸術的な感覚がありますね。
砂村:これはたまたまうまく撮れたんです(笑)。
茂木:(笑)。なので、本当にアリの魅力が丸ごと1冊、という大変素晴らしい本になってるんですけども。
今、色々アリの研究をされてきて、これからもされていくと思うんですけど、どうですか? アリを研究されてきて、そこから見えてくる人間と自然の関係などは。
砂村:今回対象にしているのが、アリの中でも特に外来のアリ。今皆さんがよくご存知なのは、「ヒアリ」とか、そういった、毒があって、人の生命にも健康にも被害があるアリが有名だと思うんですけれども。
実は、地球の環境や生物多様性をすごく脅かしている一つとして外来種問題があって、その中でも特にアリというのが非常に厄介な外来種のグループだという位置づけになっています。そういった意味で、アルゼンチンアリの研究調査を通して、この手強さとか、蔓延って、実際に世界各地で他のアリがいなくなったり、生態系が変わっていっているという様子を見て、やっぱり大きな問題なんだな、と感じました。
茂木:しかもご著書でもご指摘しているように、人間の活動にも関与しているわけですもんね。
砂村:そうですね。外来アリ自体は、好んで自分から世界進出をしているのかどうかと言われると(笑)、必ずしもそうではなくて。人が不用意に運んでしまって、持ち込まれて、行った先々で何とか頑張って生き抜いている、という、そういった側面もあるので。
茂木:そうですよね。本当にそういう形で、環境のこと、そして人間と自然の関係について考えさせられる、本当に素晴らしいきっかけになる1冊ではないかと思います。
興味を持たれた方は、今回の『世界を支配するアリの生存戦略』をチェックしてみてください。
●文春新書(@bunshunshinsho) / X(旧Twitter)公式アカウント
●「世界を支配するアリの生存戦略」 (文春新書) / 砂村 栄力 (著)
(Amazon)
●文春オンライン(公式サイト)
砂村さんは、1982年、東京都のお生まれです。
東京大学大学院にて、外来種である「アルゼンチンアリの生態」、そして、駆除に関する研究を行い、博士の学位を取得されました。この際、東京大学総長賞受賞を受賞されています。
その後、住友化学株式会社の殺虫剤の研究開発を経て、現在は、国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所にて、害虫の駆除研究に従事されていらっしゃいます。
また、専門とする、アリやカミキリムシなどの外来生物を材料に、生態の記録や美術作品の制作も行っていらっしゃいます。
──生態系を変えてしまう外来アリ
茂木:砂村さんは今回、『世界を支配するアリの生存戦略』というご著書を発売されています。
アルゼンチンアリ駆除の研究もされていらっしゃる一方で、アリの生態とか、社会性昆虫としての奥深い世界も研究されていると思うんですけど、ご自分が研究している対象を同時に駆除しなければいけないという(笑)、そこの辺りはどうですか?
砂村:(笑)。私が研究を始めたきっかけが、元々虫は好きだったんですけれども、大学の研究室に入って、クワガタムシの採集とか、飼育とかやっていまして。昆虫の研究室に入ったんですが、研究対象を選ぶ時に、山口県岩国市をフィールドにして実験をやっていたんですけれども、このアルゼンチンアリというのがすごく害虫化していて、ものすごく困っておられたんです。
茂木:ご著書にもありますけど、これは本当に大変みたいですね。
砂村:はい。もう毎日のようにアルゼンチンアリが家の中に入ってきて、寝ていてもチクチク噛まれていて。
茂木:これは堪らないですよね。
砂村:たかがアリですけれども、舐めてはいけないんで。
茂木:どこにでも入り込んできちゃうみたいですね。
砂村:そうですね。最近の家だと気密性も上がってきているとは思うんですけれども、そういった家でもどこからともなく入って来るという話を聞いています。
茂木:どこからともなく入ってくるんですか? これは本当に、被害を受けていらっしゃる地域の方にとっては、切実な問題だということですよね。
砂村:はい。地域からのそういった対策の要望みたいなものが強くて、研究室の方にも相談が来るようなこともあります。
茂木:既に学生時代にそういう状態だったということですか?
砂村:はい。まだ入り込んでいる地域が少なかったので、全国的な問題視はされていなかったんですが。
茂木:やっぱり駆除するためには、敵の、と言うか、その生態もよく理解しなければいけない、ということなんですかね。
砂村:なので、「まずは駆除しなければ」というところから入っていって、次第に、生態の観察とか、じっと見ていたりするうちに愛着も湧いてきて、というところで。まあ「駆除しないといけない」というところが最初にあったので、何とかやっていますけど、もし最初にこの生態とか社会のすごさ、面白さとかから入っていたら、それを駆除しないといけないとなったら、今より辛くなっていたかもしれないです(笑)。
茂木:アリの生物学というのは本当に奥が深くて。例えば、リスナーの皆さんにクイズ出したらいかがでしょうか?
「アリは何の仲間でしょうか?」。砂村先生、これはいい質問ですよね?
砂村:そうですね。
茂木:実は、アリはある昆虫の仲間なんですよね?
砂村:はい。
茂木:さあ、皆さん、何でしょうか? これはちょっと意外だと思います。じゃあ先生から正解をお願いします。
砂村:はい。アリは、「ハチの仲間」になります。
茂木:ハチ! 全然違う感じがしますけどね。
砂村:そうですよね。体の大きさも、普段見ているミツバチとかスズメバチと、アリだと全然違うのかなと思うんですけど。
ただ、実はアリもハチも、見た目を比較しますと、お腹にくびれがあるというのは共通で、アリも「羽アリ」というのが出ると思うんですけど、あれが本来の姿なんですよね。
茂木:そうか。確かにああなると、ちょっとハチに近づいて来ますね。
砂村:そこから羽を退化させて、主に地上で活動するようになって「働きアリ」になった、というのがアリの進化です。
茂木:そして、皆さんも時々悩まされている「シロアリ」。同じ「アリ」と言っているんですけど、あれは全然違う仲間ということで。ちょっとまたここでクイズでございます。
「アリはハチの仲間です。さて、シロアリは何の仲間でしょうか?」。さあ、何でしょうか? 先生、正解をお願いします。
砂村:はい。シロアリは、「ゴキブリの仲間」になります。
茂木:ゴキブリ(笑)。全然違うんですね。
砂村:そうですね。シロアリとアリとでは、全然進化の道筋と系統が違うんですよね。
茂木:たまたま形態が似ているから、日本語では「シロアリ」という名前が付いてしまった、ということですかね。
砂村:はい。たまたま形が似ていて、あと集団を作って…、ということで付いてしまっていますけど。
茂木:今回のご著書、文春新書『世界を支配するアリの生存戦略』。もちろん、アルゼンチンアリに困って、それを駆除しなければいけないということもあるんですけど、アリの奥深い世界への格好の入門書になっていますよね。
砂村:ありがとうございます。
茂木:そして、写真が見事なんですね。たくさん写真が挿入されているんですけど、この写真は研究の過程で撮られたんですか?
砂村:そうですね。それから私がプライベートで写真撮影なんかをしている時に撮ってきたものになります。
茂木:表紙の写真も素敵ですよね。これは砂村さんの写真が元になっている?
砂村:はい。
茂木:ちょっと芸術的な感覚がありますね。
砂村:これはたまたまうまく撮れたんです(笑)。
茂木:(笑)。なので、本当にアリの魅力が丸ごと1冊、という大変素晴らしい本になってるんですけども。
今、色々アリの研究をされてきて、これからもされていくと思うんですけど、どうですか? アリを研究されてきて、そこから見えてくる人間と自然の関係などは。
砂村:今回対象にしているのが、アリの中でも特に外来のアリ。今皆さんがよくご存知なのは、「ヒアリ」とか、そういった、毒があって、人の生命にも健康にも被害があるアリが有名だと思うんですけれども。
実は、地球の環境や生物多様性をすごく脅かしている一つとして外来種問題があって、その中でも特にアリというのが非常に厄介な外来種のグループだという位置づけになっています。そういった意味で、アルゼンチンアリの研究調査を通して、この手強さとか、蔓延って、実際に世界各地で他のアリがいなくなったり、生態系が変わっていっているという様子を見て、やっぱり大きな問題なんだな、と感じました。
茂木:しかもご著書でもご指摘しているように、人間の活動にも関与しているわけですもんね。
砂村:そうですね。外来アリ自体は、好んで自分から世界進出をしているのかどうかと言われると(笑)、必ずしもそうではなくて。人が不用意に運んでしまって、持ち込まれて、行った先々で何とか頑張って生き抜いている、という、そういった側面もあるので。
茂木:そうですよね。本当にそういう形で、環境のこと、そして人間と自然の関係について考えさせられる、本当に素晴らしいきっかけになる1冊ではないかと思います。
興味を持たれた方は、今回の『世界を支配するアリの生存戦略』をチェックしてみてください。
●文春新書(@bunshunshinsho) / X(旧Twitter)公式アカウント
●「世界を支配するアリの生存戦略」 (文春新書) / 砂村 栄力 (著)
(Amazon)
●文春オンライン(公式サイト)