2024年04月27日
トミヤマユキコさんは、1979年、秋田県のお生まれ。
早稲田大学法学部をご卒業後、早稲田大学大学院文学研究科に進み、
少女マンガにおける女性労働表象の研究で博士号(文学)を取得。
現在、東北芸術工科大学芸術学部准教授を務めていらっしゃいます。
また、ライターとして、日本の文学、マンガ、フードカルチャーについて書く一方、
大学教員として、少女マンガの研究を中心とした
サブカルチャー関連の講義を担当していらっしゃいます。
著書も多数、出版されており、先日、リトルモアから『ネオ日本食』を発売されました。
──戦後の食糧難の中で生まれた“ネオ日本食”
茂木:まず、“ネオ日本食”というワードは、どこから降ってきたんですか?
トミヤマ:どこからと言うか、ぼんやりしてる時に降りてきたとしか言いようがなくて。ただ、その時に何か引っかかると言うか、覚えておいた方がいいと思ったんでしょうね。当時のTwitterに、ちょろっと書いているんですよ。「私の好きな食べ物はこういうものとか、こういうものとか、こういうもので、それってネオ日本食なんじゃないか」みたいなことを、10年前ぐらいに書いていたんです。
茂木:10年前にその発想があって。それで、これは連載されていたんだと思うんですけど、どういう経緯で連載することになったんですか?
トミヤマ:リトルモアの加藤さんという名物編集者がいるんですけど、Twitterに書いたそのつぶやきを見ていて、「あのネオ日本食って何なんですか?」みたいな感じで連絡をしてきたんです。「掘り下げた方がいいんじゃないですか?」と言われて、その気にさせられて、「やってみようか」というのが始まりです。だから本当にひょんなことからと言うか、最初は計画性も何もあったものではないんですよ。
茂木:改めてご紹介しますと、“ネオ日本食”の定義ですが、「海外から持ち込まれたはずなのに日本で独自の進化を遂げ、わたしたちの食文化にすっかり溶け込んでいる食べ物&飲み物」ということなんですけど。帯には非常に刺激的な…「無形文化遺産に和食を登録。ユネスコは、『ネオ日本食』を見落としている」と書いてあります。
トミヤマ:ちょっと強気に出てみました。ユネスコは、和食は登録してくれているんですけど、その和食の定義をよく読んでみると、どうもネオ日本食のことは入っていないんですよね。
茂木:あ、そうなんですか。
トミヤマ:そうなんです。古き良き、日本の四季を反映したような、伝統的な日本の食べ物のことは定義上入っているんですけど、スパゲティナポリタンとか、パフェとか、ああいうものはどうも入っていないなと思って。「ユネスコさん? ネオ日本食も美味しいんですけど」ということを、アピールしたいという(笑)。
茂木:このナポリタンなんですけど、横浜のホテルが発祥なんですか?
トミヤマ:と、言われています。
茂木:どういう経緯で出たんでしょうかね。
トミヤマ:ネオ日本食の多くは、いわゆる戦後のどさくさ期に、食糧があんまりないとか材料があんまりないという状態で、工夫されて作られた食べ物なんです。ナポリタンに関しては、横浜にあるホテルの調理人が、その当時そこにあった材料だけで、イタリアのトマトパスタ的なものをケチャップで作る、ということをやったのが始まりとされています。
茂木:そうなんですね。
改めて取材を振り返ってみて、ネオ日本食の今の風景というのはどうですか?
トミヤマ:日本というのはすごい不思議な食文化を持った国だと思いますが、そのことに皆気づかずにただ「うまいうまい」と言って食べている平和なところもまた、愛せるなと思っていますね。
茂木:これだけ多様なものがある日本とは何なんでしょうか。
トミヤマ:そうなんですよ。これだけ、例えば情報化社会だったりとか、飛行機で海外とかかなり行きやすくなっていて、本場の味をそのまま再現できるだろうと思うんですが、何か“ネオる”んですよね(笑)。
茂木:何かネオる(笑)。国風文化と言うか。
トミヤマ:そうだと思いますね。海外でも、もちろん海外なりにネオっている食べ物というのはあるとは思うんですけど、日本の場合は、ネオらせの展開が早いと言うか、スピードが速いんですよ。どんどんネオらせて行く。美味しければお客さんも怒らないと言うか、「これ美味しいじゃない」という感じでネオりを後押しする客がいるということもあって、とっても不思議な国だと思います。
だから最近だと、海外からいらっしゃる旅行客の人とかが、寿司・天ぷらみたいな古き良き…それこそユネスコが“和食”としているような食べ物だけではなく、トンカツを食べに行ったりとか。海外のパンケーキというよりは、ふわふわで甘い…日本のホットケーキを食べようとしたりとか。あとはラーメンとかも最近では人気がありますけど。
茂木:ネオったものを欲しがっている。
トミヤマ:そうです。ネオったものも食べたい、という流れは来ていると思います。
茂木:トミヤマユキコさんは、手塚治虫文化賞の選考委員もされているほどのマンガ研究家でいらっしゃるんですが…。今、こういうネオ日本食を取り上げているマンガは、何かあるんですか?
トミヤマ:まず、喫茶店のメニューがネオりがちなので(笑)。パフェもあるし、ホットケーキもあるし、ナポリタンもあるので、もしかしたら、喫茶店が出てくるマンガだとネオっている食べ物もそこに描かれている可能性があるかもしれません。あと、マンガの中でオムライスは結構出てきがちなんですよね。たぶん、フォトジェニックだからだと思うんですけど。
茂木:確かに。オムライスはかなりネオっているんですよね(笑)?
トミヤマ:ネオっています…! 「“ケチャップライス”って何だ?」という話ですからね。
茂木:僕は今まで当たり前だと思っていたんですけど、確かにケチャップライスとは何だろう?
トミヤマ:(笑)。そうなんですよ。イタリアとかに行けば、普通にトマトを使うわけですよね。アメリカとかでもケチャップは使いますけど、それが日本に渡ってくると何かまたネオり出すと言うか(笑)。だから、ネオ日本食というのは、とっても追いかけがいがあるんですよ。
茂木:これはいくらでも続編ができそうですよね。Part2、Part3とか。あとは、それこそマンガの原作になったりとか。
トミヤマ:ぜひやりたいですね。量が多すぎるので、今回の本は本当に入門編なんです。
茂木:あ、これは入門編ですか(笑)。
トミヤマ:そうです。これは本当に、入口のドアの周辺です。だから、「あれも載ってないじゃないか」とか「これがあるじゃないか」と読者から言われるのはもう覚悟の上で、「すいません! 今回は入口付近です!」ということで、出しております。
茂木:(笑)。皆さん、まだネオ日本食の入口付近です。ユネスコは『ネオ日本食』を見落としている! でも、ユネスコ以前に、我々日本人がちょっと見落としているかもしれないですね。
トミヤマ:そうかもしれないですね。
茂木:僕も読んで本当に面白かったんですが、これから読むという方も多いと思うので、今回のご著書『ネオ日本食』のこれからの読者の方に対して、メッセージを頂けますでしょうか?
トミヤマ:食いしん坊の方にもおすすめなんですけど、『ネオ日本食』は食いしん坊じゃない方、知的好奇心がある方がお腹いっぱいになる、というような本でもあります。ちょっと真面目な言い方をすると、「戦後のどさくさ期に食文化がどういう風に変化して行ったか」という証言集にもなっておりますので、戦後カルチャーみたいなものに興味がある方にもお楽しみ頂けるかなとは思います。
茂木:そうですよね。“食”という事象を取り上げているんですけど、トミヤマさんの物の見方とか言葉の使い方は、それ自体が面白いなと思いますので、エッセイ集としても、皆さんご堪能して頂けたらと思います。
●トミヤマユキコ さん(@tomicatomica) / X(旧Twitter)公式アカウント
●トミヤマユキコ さん (@tomicatomica) Instagram 公式アカウント
●ネオ日本食 / トミヤマ ユキコ (著)
(Amazon)
●リトルモア 公式サイト
早稲田大学法学部をご卒業後、早稲田大学大学院文学研究科に進み、
少女マンガにおける女性労働表象の研究で博士号(文学)を取得。
現在、東北芸術工科大学芸術学部准教授を務めていらっしゃいます。
また、ライターとして、日本の文学、マンガ、フードカルチャーについて書く一方、
大学教員として、少女マンガの研究を中心とした
サブカルチャー関連の講義を担当していらっしゃいます。
著書も多数、出版されており、先日、リトルモアから『ネオ日本食』を発売されました。
──戦後の食糧難の中で生まれた“ネオ日本食”
茂木:まず、“ネオ日本食”というワードは、どこから降ってきたんですか?
トミヤマ:どこからと言うか、ぼんやりしてる時に降りてきたとしか言いようがなくて。ただ、その時に何か引っかかると言うか、覚えておいた方がいいと思ったんでしょうね。当時のTwitterに、ちょろっと書いているんですよ。「私の好きな食べ物はこういうものとか、こういうものとか、こういうもので、それってネオ日本食なんじゃないか」みたいなことを、10年前ぐらいに書いていたんです。
茂木:10年前にその発想があって。それで、これは連載されていたんだと思うんですけど、どういう経緯で連載することになったんですか?
トミヤマ:リトルモアの加藤さんという名物編集者がいるんですけど、Twitterに書いたそのつぶやきを見ていて、「あのネオ日本食って何なんですか?」みたいな感じで連絡をしてきたんです。「掘り下げた方がいいんじゃないですか?」と言われて、その気にさせられて、「やってみようか」というのが始まりです。だから本当にひょんなことからと言うか、最初は計画性も何もあったものではないんですよ。
茂木:改めてご紹介しますと、“ネオ日本食”の定義ですが、「海外から持ち込まれたはずなのに日本で独自の進化を遂げ、わたしたちの食文化にすっかり溶け込んでいる食べ物&飲み物」ということなんですけど。帯には非常に刺激的な…「無形文化遺産に和食を登録。ユネスコは、『ネオ日本食』を見落としている」と書いてあります。
トミヤマ:ちょっと強気に出てみました。ユネスコは、和食は登録してくれているんですけど、その和食の定義をよく読んでみると、どうもネオ日本食のことは入っていないんですよね。
茂木:あ、そうなんですか。
トミヤマ:そうなんです。古き良き、日本の四季を反映したような、伝統的な日本の食べ物のことは定義上入っているんですけど、スパゲティナポリタンとか、パフェとか、ああいうものはどうも入っていないなと思って。「ユネスコさん? ネオ日本食も美味しいんですけど」ということを、アピールしたいという(笑)。
茂木:このナポリタンなんですけど、横浜のホテルが発祥なんですか?
トミヤマ:と、言われています。
茂木:どういう経緯で出たんでしょうかね。
トミヤマ:ネオ日本食の多くは、いわゆる戦後のどさくさ期に、食糧があんまりないとか材料があんまりないという状態で、工夫されて作られた食べ物なんです。ナポリタンに関しては、横浜にあるホテルの調理人が、その当時そこにあった材料だけで、イタリアのトマトパスタ的なものをケチャップで作る、ということをやったのが始まりとされています。
茂木:そうなんですね。
改めて取材を振り返ってみて、ネオ日本食の今の風景というのはどうですか?
トミヤマ:日本というのはすごい不思議な食文化を持った国だと思いますが、そのことに皆気づかずにただ「うまいうまい」と言って食べている平和なところもまた、愛せるなと思っていますね。
茂木:これだけ多様なものがある日本とは何なんでしょうか。
トミヤマ:そうなんですよ。これだけ、例えば情報化社会だったりとか、飛行機で海外とかかなり行きやすくなっていて、本場の味をそのまま再現できるだろうと思うんですが、何か“ネオる”んですよね(笑)。
茂木:何かネオる(笑)。国風文化と言うか。
トミヤマ:そうだと思いますね。海外でも、もちろん海外なりにネオっている食べ物というのはあるとは思うんですけど、日本の場合は、ネオらせの展開が早いと言うか、スピードが速いんですよ。どんどんネオらせて行く。美味しければお客さんも怒らないと言うか、「これ美味しいじゃない」という感じでネオりを後押しする客がいるということもあって、とっても不思議な国だと思います。
だから最近だと、海外からいらっしゃる旅行客の人とかが、寿司・天ぷらみたいな古き良き…それこそユネスコが“和食”としているような食べ物だけではなく、トンカツを食べに行ったりとか。海外のパンケーキというよりは、ふわふわで甘い…日本のホットケーキを食べようとしたりとか。あとはラーメンとかも最近では人気がありますけど。
茂木:ネオったものを欲しがっている。
トミヤマ:そうです。ネオったものも食べたい、という流れは来ていると思います。
茂木:トミヤマユキコさんは、手塚治虫文化賞の選考委員もされているほどのマンガ研究家でいらっしゃるんですが…。今、こういうネオ日本食を取り上げているマンガは、何かあるんですか?
トミヤマ:まず、喫茶店のメニューがネオりがちなので(笑)。パフェもあるし、ホットケーキもあるし、ナポリタンもあるので、もしかしたら、喫茶店が出てくるマンガだとネオっている食べ物もそこに描かれている可能性があるかもしれません。あと、マンガの中でオムライスは結構出てきがちなんですよね。たぶん、フォトジェニックだからだと思うんですけど。
茂木:確かに。オムライスはかなりネオっているんですよね(笑)?
トミヤマ:ネオっています…! 「“ケチャップライス”って何だ?」という話ですからね。
茂木:僕は今まで当たり前だと思っていたんですけど、確かにケチャップライスとは何だろう?
トミヤマ:(笑)。そうなんですよ。イタリアとかに行けば、普通にトマトを使うわけですよね。アメリカとかでもケチャップは使いますけど、それが日本に渡ってくると何かまたネオり出すと言うか(笑)。だから、ネオ日本食というのは、とっても追いかけがいがあるんですよ。
茂木:これはいくらでも続編ができそうですよね。Part2、Part3とか。あとは、それこそマンガの原作になったりとか。
トミヤマ:ぜひやりたいですね。量が多すぎるので、今回の本は本当に入門編なんです。
茂木:あ、これは入門編ですか(笑)。
トミヤマ:そうです。これは本当に、入口のドアの周辺です。だから、「あれも載ってないじゃないか」とか「これがあるじゃないか」と読者から言われるのはもう覚悟の上で、「すいません! 今回は入口付近です!」ということで、出しております。
茂木:(笑)。皆さん、まだネオ日本食の入口付近です。ユネスコは『ネオ日本食』を見落としている! でも、ユネスコ以前に、我々日本人がちょっと見落としているかもしれないですね。
トミヤマ:そうかもしれないですね。
茂木:僕も読んで本当に面白かったんですが、これから読むという方も多いと思うので、今回のご著書『ネオ日本食』のこれからの読者の方に対して、メッセージを頂けますでしょうか?
トミヤマ:食いしん坊の方にもおすすめなんですけど、『ネオ日本食』は食いしん坊じゃない方、知的好奇心がある方がお腹いっぱいになる、というような本でもあります。ちょっと真面目な言い方をすると、「戦後のどさくさ期に食文化がどういう風に変化して行ったか」という証言集にもなっておりますので、戦後カルチャーみたいなものに興味がある方にもお楽しみ頂けるかなとは思います。
茂木:そうですよね。“食”という事象を取り上げているんですけど、トミヤマさんの物の見方とか言葉の使い方は、それ自体が面白いなと思いますので、エッセイ集としても、皆さんご堪能して頂けたらと思います。
●トミヤマユキコ さん(@tomicatomica) / X(旧Twitter)公式アカウント
●トミヤマユキコ さん (@tomicatomica) Instagram 公式アカウント
●ネオ日本食 / トミヤマ ユキコ (著)
(Amazon)
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