Dream Heart(ドリームハート)

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Dream HEART vol.568 作詞家・音楽プロデューサー 秋元康さん 「コンテンツはカルピスの原液でなければいけない」

2024年02月17日

秋元康さんは、1958年、東京都のお生まれです。

高校時代から放送作家として『ザ・ベストテン』等数々の番組構成を担当。
作詞家としては美空ひばりさんの『川の流れのように』をはじめ、
多くのヒット曲を誕生させていらっしゃいます。

そのほか、企画・原作の映画『着信アリ』はハリウッドでリメイクされ、
2008年『One Missed Call』としてアメリカで公開。
また、原作の『象の背中』は 2012年、韓国JTBCでテレビドラマ化され、
オペラの演出や歌舞伎公演の作・演出等も手掛けていらっしゃいます。
AKB48ほか、乃木坂46、櫻坂46、日向坂46等、
女性グループのプロデューサーとしてだけではなく、SHOW-WAやMATSURI等の
男性グループのプロデュースも手掛けていらっしゃいます。
2022年4月には、紫綬褒章を受章されるなど、
日本を代表するクリエイターとしてご活躍中でいらっしゃいます。


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──オタク特区から一般へ

茂木:僕が未だに思い出すのは、秋元さんが、「茂木さん。今度秋葉原に、“会いに行けるアイドル”の劇場を作るんだよ」と仰っていたのが、まさにAKB48の始まりで。

秋元:20年ぐらい前ですよね。

茂木:でもあの時から、こんなになると思っていたんですよね?

秋元:映画の『着信アリ』を当てなきゃいけない…つまり僕らは、打席に立たないといけない。ということは、監督に指名されないと打席に立てない。そうすると、打率が落ちてきたら監督が呼んでくれないんですよ。だから常に、作詞でも、テレビドラマでも、映画でも、コマーシャルでも、何か勝ててないといけない。
でもそれが、時々余裕がある時があるんですよ。「この間これやってたからな」とか、当時は、もしかしたら湯川専務のセガのコマーシャルが話題になっている時かもしれないし、『着信アリ』が当たった時かもしれない。

茂木:じゃあ、AKBの時は余裕があったんですか?

秋元:そう、余裕があった。だから、余裕があると、バットを一番長く持って大振りができるでしょう? だって誰も見てないし、外しても誰も文句言わないから。

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茂木:(笑)。あれは大振りしたんですか?

秋元:大振りですよ。だって、秋葉原のドン・キホーテの8階に、キャパ250人の客席の(ステージで)毎日同じ公演をやる、というのは、無謀なことじゃない。当時「そういうことやろうと思うんだよね」と言ったら、「いやいや、秋元さん。秋葉原って本当に人気のあるグラビアアイドルが来て、土日でも握手会(の来場者は)100人とか200人ですよ」と言われたわけ。「それを毎日250人埋めるのは、大変ですよ」と言われたんだけど、「いや、何か当たるような気がする」という、大振りですよね。

茂木:それ以来も、ずっと、いわゆる“推し活”とか“推し”とかが続いていますが、今のこの世間の“推し”に対してどうですか?

秋元:“推し活”というものはよく分からないけれども、でもあの時から、皆は市民権を得たんだと思うんです。例えば、AKB48が紅白に出た時、一番初めは秋葉原枠だったんですよ。

茂木:秋葉原枠というのがあったんですか。

秋元:あったんですよ。たまたまその年の企画だと思うんですけど、AKBと中川翔子さんとリア・ディゾンさん。

茂木:じゃあ、企画枠で出たんですね。

秋元:そう。企画物の人達。つまりある種、秋葉原というのは、オタク特区みたいなイメージがあるじゃないですか。その秋葉原のオタク特区に、時々一般の人達が覗きに来て、観光名所になったりするように、だんだん流動していくわけですよ。
だから多分、そこの中で『オタク』という言葉とか、そういうこともだんだん分かるようになってきて、そこから『推す』という言葉も。『推す』というのも、初めは皆知らなかったと思うんですよね。漢字で見れば分かりますよ? でも、“推し活”という、例えば、秋葉原特区のアイドル、あるいはそういうアイドルが好きな人達にとっては、日常会話であるわけですよ。「推しメン誰?」とか。『推す』というのは「推してるメンバーは誰ですか?」という、それがだんだん変わってくる。
僕も全然分からなかったのは、例えばAKBが「次のシングルを発売します」と言うと、その発売日の前日に、CDショップに入るわけですよね。並べるために、店着日は前日になります。その時に皆ネットで『フラゲした』『フラゲした』と書いてあったんですよ。で、「何だろう?」と思って。

茂木:僕も分からないです。『フラゲ』とは何ですか?

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秋元:フライングゲット。

茂木:あ、フライングゲット(笑)!

秋元:つまり、“発売日より先に手に入れること”を『フラゲ』と言うんだ、ということから、面白いと思って、『フライングゲット』という歌を作ったんですよ。

茂木:いや〜、すごいな。これがここまで続いているというのは、どう思われます? だってもう、20年近いですよね。

秋元:20年ぐらいですね。

茂木:しかも外国にも飛び火していて、インドネシアだとかタイだとか…。

秋元:コンテンツとかIPというのは、要するに、カルピスの原液にしなきゃ駄目なんだと。カルピスの原液は、それを薄めるわけじゃないですか。だから、それを薄めても持つぐらいの濃さがなきゃいけないわけですよ。そして、その原液を管理する人は、それを不用意に薄めて希薄化すると、どんどん力がなくなってしまうんです。
今で言うと、乃木坂46がすごい人気だとすれば、例えば、白の何でもないTシャツに『乃木坂』とプリントしただけで、売れるんですよ。このペットボトルにも『乃木坂46』というフィルムを貼ったら売れるのか、と言うと、売れると思うけども、意味がないですよね。そこに何か…例えば、乃木坂のメンバー全員に色んな味のジュースを飲ませて、その中で一番美味しいというものの集合体…「乃木坂のメンバーが美味しいと言ったもの、5種類が入っている乃木坂ドリンク」だったら、意味はあるじゃない? つまり、そこに何か、それでなきゃいけない理由がないと、希薄化しちゃうわけですよ。

茂木:なるほどなぁ。
僕、秋元さんが前に仰っていたことでずっと忘れられないのが、「タレントやアイドルが売れる時というのは、周りの人が“この子は本当にすごいんだ”と本気で思わないと売れないんだ」と仰っていたことなんです。あれも今の原液の話と繋がりますが、やっぱり実際そうですか?

秋元:やっぱり、結局エネルギーじゃないですか。だから、一番初めのドミノが倒れないと、オーディエンスまでドミノが倒れていかないでしょう。一番初めのドミノとは、結局、AKBを作ってから一番初めにその傍で見ている人とか、マネージャーとか。その人たちがエネルギーを持って「絶対売れます!」「すごいんですよ! 見に来てください!」と言うから、テレビ局のディレクターとかプロデューサーとかラジオのディレクターとかが知って。彼らが来て、ラジオやテレビ、雑誌に出て。それを一般の人が見て「いいな」と言って…。そこが、初めから現場の人たちが「これは売れないと思いますよ」と感じていたら、それは絶対に売れないですよ。

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秋元康さん(@yasushi6057) 公式Instagram


AKB48 公式サイト