2023年12月09日
小川哲さんは、千葉県のお生まれです。
東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程 在学中に、
2015年、『ユートロニカのこちら側』で、第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞し、
デビューされました。
その後、2017年、『ゲームの王国』で、第31回山本周五郎賞、そして、
第38回日本SF大賞を受賞。
2019年には、短篇集『嘘と正典』が、第162回直木賞候補となり、
2022年刊行の『地図と拳』で、第13回山田風太郎賞と、第168回直木賞を受賞。
また、同じ年に刊行された『君のクイズ』は、
第76回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉を受賞されていらっしゃいます。
──小説の道のりを考えることが一番楽しい
茂木:小川さんはこれからもどんどん活躍されていかれると思うんですけど、ちょっと視点を広げて、小説・物語の今後の流れと言うか、未来について、何か傾向として感じてらっしゃることはありますか。
小川:小説で言うと、最近はやっぱりAIが同業者の中でも「どうなるんだ」とすごく話題になったりはしてますよね。ChatGPTとかが、物語っぽいものを生成したりするようになっていて、「仕事がなくなるんじゃないか」とか恐れてる人もいたりはしますね。
茂木:東大時代は、野矢茂樹さんにもずいぶん教えを受けたということですけど、野矢さんなんかは、やっぱりずっとウィトゲンシュタインなんかを参考にして、言葉の意味論とかをされていたじゃないすか。どうですか? まさに今おっしゃったような人工知能の時代に、だからこそ人間の書く小説の意味というのは、小川さんが考えてらっしゃることはありますか。
小川:僕はChatGPTとかの仕組みもそうだけど、人工知能というのは、人間が持っている「人間がどうやったら納得するか」とか、「どうやったら分かったつもりになるか」みたいなことを満たすような答えを出すことは、すごく上手なわけですよ。だから、小説はある意味ではそういう側面もあって、こういう欲求を満たしたいと思ってる人が、その欲求のために読む。例えば、“泣きたいと思っている人が、感動するために読む小説”や、“驚きたいと思ってる人が、驚くために手に取るミステリー小説”なんかもやっぱりあって。そういう小説というのは、今後も需要はずっとあると思うんですけど、そういう、その“読者が欲しがってるものを与える”みたいな形では、いつか僕はAIに敵わなくなる危機が来るのかもしれないと思いつつ…。
ただ小説はそれだけじゃなくて、読者がまだ欲しがってないはずの欲望を生み出したりとか、あるいは読者の欲望の仕組みとか価値観自体を変えたりとか、そういうこともできるものだと思っているので、そういうのはAIの得意とするものじゃないのかなと僕は思っています。なので、そこでは全然人間もまだまだしばらくは勝負できる。本当に何十年も経ったら、今から想像もつかないようなことをAIもできるようになっているかもしれないので、何とも言えないんですけど、結構楽観的に思っていますね。
茂木:小川さんが生成AIと明らかに違うのは、一作ごとに全然違う世界に行くということで(笑)。今回の『君が手にするはずだった黄金について』も、今までの作品を生成AIに入れて、「この作家の次の作品を生成してみよう」と言ったら、絶対にこれは出てこないじゃないですか。
小川:確かにそうですね。そういう作家を名乗っていきますかね。“AI時代に強い”みたいな(笑)。
茂木:(笑)。今後は、どういう作品を書かれる予定ですか?
小川:次に連載で書く予定なのは、ベンチャー企業の話で、それも現在が舞台なんですけど、また全然違う話にはなるかなと思っていますね。
茂木:世の中にある噂で、“小川さんは小説を書く時に、プロットを考えないで書き始める”というのは、本当ですか?
小川:はい、そうです。「この話がどこに行くのかな?」というのを、常に自分と相談しながら進んでいくと言うか。僕の中で、小説を書いている時に、「どういう風な道のりで進もうか?」と考えてる時が一番楽しいので、最初にプロット書いちゃうとその楽しみがなくなっちゃうから、ちょっと作業みたいになって苦痛かな、みたいな気がしていて。だから、書きながら「どうしようかな?」と考える時間を残すために、プロットは書かないで(小説を)書いている、という感じですかね。
茂木:ということは、次の作品も?
小川:もちろん、どういう話になるかは書いてみないと分からないんですけど…。ただ、一応大枠は僕の中で決めてはいるんですけど、それに従いつつも、どういうテーマになるかな、と、ちょっと自分でも期待してるという感じですね。
茂木:だとすると、何でプロットなしで書き始めて、全部、起承転結、辻褄が合うんですかね?
小川:結構ね、辻褄が合うんですよ。合わせに行くこともあるし、もちろん、自分が辻褄を忘れていて、合ってないこともあるんですよ。でも、なんか自然と収まっていくんですよね。
茂木:今の話は衝撃です。
小川:そうですか(笑)。
茂木:小川さん、すごいですね…! それは、普通の作家が皆そうというわけじゃないですよね。
小川:いやでもね、僕が同業者に聞いたアンケートだと、プロット書く人と書かない人は半々ですね。ただ、プロットを書かない人の方が、辻褄が合わなくなることが多いんですけど。僕もどうしようもなくなることもあるので。ただ、作家の半分ぐらいの人は、皆プロットを書かないで書くと言っていますね。
茂木:リスナーの皆さんは真似をしないでくださいね(笑)。
どうですか? 作家になりたいという人も聞いていると思うんですけど、何かアドバイスありますか?
小川:僕は、何事もそうだと思うんですけど、“楽しむこと”が一番大事だと思うんですよね。楽しくないと長続きしないので。だから、自分が何を書いてる時が一番楽しいかとか、自分がどういう時に楽しんで執筆しているかというのを、自分でちゃんと自覚して、長く続けることが一番大事なのかなという気はしますね。
本当に自分が書く時に楽しんでいたら、例え評価されなかったり、他の人に何を言われても、楽しかったという経験は否定されないので。結構それはプロでも中々できないことなので、“仕事を楽しむ”というのが僕は一番精神的にもいいし、結果にもそれが一番繋がるんじゃないかな、と思います。
茂木:とても深いお話を伺っていると思います。皆さん、楽しんで継続してくださいね。
──小川哲さんの『夢・挑戦』
茂木:この番組のテーマは『夢と挑戦』なんですけども、今後、挑戦したいこと、そして夢、何でしょうか?
小川:去年からずっと休みがなく過ごしてきているので、すごく身近なところで言うと、休みたいですね(笑)。例えば、何ヶ月かぐらい、どこかへ行ったりとか、遠くへ行ったりとか、旅行したりとか、コロナで海外旅行とかもしばらく行けなかった時期があったので、ちょっとじっくり海外とかへ行きたいというのが、ちっちゃいかもしれないですけど、今の夢ですね。
茂木:是非お休みになってください。
■プレゼントのお知らせ
番組でご紹介してきました、現在発売中の小川哲さんの
ご著書『君が手にするはずだった黄金について』に
小川さんの直筆サインを入れて、3名の方にプレゼントいたします。
ご希望の方は、お名前やご住所、電話番号など、必要事項を明記の上、
メッセージフォームより、ご応募ください。
私、茂木に聞きたい事や相談したい事など、
メッセージを添えていただけると嬉しいです。
尚、当選者の発表は、商品の発送をもってかえさせていただきます。
たくさんのご応募、お待ちしております。
●新潮社「君が手にするはずだった黄金について」特設サイト
●「君が手にするはずだった黄金について」/ 小川哲 (著)
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東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程 在学中に、
2015年、『ユートロニカのこちら側』で、第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞し、
デビューされました。
その後、2017年、『ゲームの王国』で、第31回山本周五郎賞、そして、
第38回日本SF大賞を受賞。
2019年には、短篇集『嘘と正典』が、第162回直木賞候補となり、
2022年刊行の『地図と拳』で、第13回山田風太郎賞と、第168回直木賞を受賞。
また、同じ年に刊行された『君のクイズ』は、
第76回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉を受賞されていらっしゃいます。
──小説の道のりを考えることが一番楽しい
茂木:小川さんはこれからもどんどん活躍されていかれると思うんですけど、ちょっと視点を広げて、小説・物語の今後の流れと言うか、未来について、何か傾向として感じてらっしゃることはありますか。
小川:小説で言うと、最近はやっぱりAIが同業者の中でも「どうなるんだ」とすごく話題になったりはしてますよね。ChatGPTとかが、物語っぽいものを生成したりするようになっていて、「仕事がなくなるんじゃないか」とか恐れてる人もいたりはしますね。
茂木:東大時代は、野矢茂樹さんにもずいぶん教えを受けたということですけど、野矢さんなんかは、やっぱりずっとウィトゲンシュタインなんかを参考にして、言葉の意味論とかをされていたじゃないすか。どうですか? まさに今おっしゃったような人工知能の時代に、だからこそ人間の書く小説の意味というのは、小川さんが考えてらっしゃることはありますか。
小川:僕はChatGPTとかの仕組みもそうだけど、人工知能というのは、人間が持っている「人間がどうやったら納得するか」とか、「どうやったら分かったつもりになるか」みたいなことを満たすような答えを出すことは、すごく上手なわけですよ。だから、小説はある意味ではそういう側面もあって、こういう欲求を満たしたいと思ってる人が、その欲求のために読む。例えば、“泣きたいと思っている人が、感動するために読む小説”や、“驚きたいと思ってる人が、驚くために手に取るミステリー小説”なんかもやっぱりあって。そういう小説というのは、今後も需要はずっとあると思うんですけど、そういう、その“読者が欲しがってるものを与える”みたいな形では、いつか僕はAIに敵わなくなる危機が来るのかもしれないと思いつつ…。
ただ小説はそれだけじゃなくて、読者がまだ欲しがってないはずの欲望を生み出したりとか、あるいは読者の欲望の仕組みとか価値観自体を変えたりとか、そういうこともできるものだと思っているので、そういうのはAIの得意とするものじゃないのかなと僕は思っています。なので、そこでは全然人間もまだまだしばらくは勝負できる。本当に何十年も経ったら、今から想像もつかないようなことをAIもできるようになっているかもしれないので、何とも言えないんですけど、結構楽観的に思っていますね。
茂木:小川さんが生成AIと明らかに違うのは、一作ごとに全然違う世界に行くということで(笑)。今回の『君が手にするはずだった黄金について』も、今までの作品を生成AIに入れて、「この作家の次の作品を生成してみよう」と言ったら、絶対にこれは出てこないじゃないですか。
小川:確かにそうですね。そういう作家を名乗っていきますかね。“AI時代に強い”みたいな(笑)。
茂木:(笑)。今後は、どういう作品を書かれる予定ですか?
小川:次に連載で書く予定なのは、ベンチャー企業の話で、それも現在が舞台なんですけど、また全然違う話にはなるかなと思っていますね。
茂木:世の中にある噂で、“小川さんは小説を書く時に、プロットを考えないで書き始める”というのは、本当ですか?
小川:はい、そうです。「この話がどこに行くのかな?」というのを、常に自分と相談しながら進んでいくと言うか。僕の中で、小説を書いている時に、「どういう風な道のりで進もうか?」と考えてる時が一番楽しいので、最初にプロット書いちゃうとその楽しみがなくなっちゃうから、ちょっと作業みたいになって苦痛かな、みたいな気がしていて。だから、書きながら「どうしようかな?」と考える時間を残すために、プロットは書かないで(小説を)書いている、という感じですかね。
茂木:ということは、次の作品も?
小川:もちろん、どういう話になるかは書いてみないと分からないんですけど…。ただ、一応大枠は僕の中で決めてはいるんですけど、それに従いつつも、どういうテーマになるかな、と、ちょっと自分でも期待してるという感じですね。
茂木:だとすると、何でプロットなしで書き始めて、全部、起承転結、辻褄が合うんですかね?
小川:結構ね、辻褄が合うんですよ。合わせに行くこともあるし、もちろん、自分が辻褄を忘れていて、合ってないこともあるんですよ。でも、なんか自然と収まっていくんですよね。
茂木:今の話は衝撃です。
小川:そうですか(笑)。
茂木:小川さん、すごいですね…! それは、普通の作家が皆そうというわけじゃないですよね。
小川:いやでもね、僕が同業者に聞いたアンケートだと、プロット書く人と書かない人は半々ですね。ただ、プロットを書かない人の方が、辻褄が合わなくなることが多いんですけど。僕もどうしようもなくなることもあるので。ただ、作家の半分ぐらいの人は、皆プロットを書かないで書くと言っていますね。
茂木:リスナーの皆さんは真似をしないでくださいね(笑)。
どうですか? 作家になりたいという人も聞いていると思うんですけど、何かアドバイスありますか?
小川:僕は、何事もそうだと思うんですけど、“楽しむこと”が一番大事だと思うんですよね。楽しくないと長続きしないので。だから、自分が何を書いてる時が一番楽しいかとか、自分がどういう時に楽しんで執筆しているかというのを、自分でちゃんと自覚して、長く続けることが一番大事なのかなという気はしますね。
本当に自分が書く時に楽しんでいたら、例え評価されなかったり、他の人に何を言われても、楽しかったという経験は否定されないので。結構それはプロでも中々できないことなので、“仕事を楽しむ”というのが僕は一番精神的にもいいし、結果にもそれが一番繋がるんじゃないかな、と思います。
茂木:とても深いお話を伺っていると思います。皆さん、楽しんで継続してくださいね。
──小川哲さんの『夢・挑戦』
茂木:この番組のテーマは『夢と挑戦』なんですけども、今後、挑戦したいこと、そして夢、何でしょうか?
小川:去年からずっと休みがなく過ごしてきているので、すごく身近なところで言うと、休みたいですね(笑)。例えば、何ヶ月かぐらい、どこかへ行ったりとか、遠くへ行ったりとか、旅行したりとか、コロナで海外旅行とかもしばらく行けなかった時期があったので、ちょっとじっくり海外とかへ行きたいというのが、ちっちゃいかもしれないですけど、今の夢ですね。
茂木:是非お休みになってください。
■プレゼントのお知らせ
番組でご紹介してきました、現在発売中の小川哲さんの
ご著書『君が手にするはずだった黄金について』に
小川さんの直筆サインを入れて、3名の方にプレゼントいたします。
ご希望の方は、お名前やご住所、電話番号など、必要事項を明記の上、
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私、茂木に聞きたい事や相談したい事など、
メッセージを添えていただけると嬉しいです。
尚、当選者の発表は、商品の発送をもってかえさせていただきます。
たくさんのご応募、お待ちしております。
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