2023年08月26日
立川志らくさんは、1963年8月16日東京都のご出身。
1985年に立川談志に入門され、1988年二つ目昇進、1995年真打に昇進されました。
創意溢れる古典落語に加え、映画に材をとった『シネマ落語』でも注目を集め、
落語界きっての論客としても知られていらっしゃいます。
また、落語家のほかに、映画監督(日本映画監督協会所属)、映画評論家、
エッセイスト、昭和歌謡曲博士、劇団主宰と幅広く活動されていらっしゃいます。
──寅さんは落語に通ずる
茂木:志らく師匠は今回、『決定版 寅さんの金言・現代に響く名言集』を発売されました。師匠が、山田洋次監督の国民的映画、寅さんシリーズ『男はつらいよ』が好きだということを存じ上げていたんですけど、ついに1冊の本にされてしまいましたね。
志らく:そうですね。『男はつらいよ』は、我々の世代だともう知ってて当たり前。だけど、ある程度若い世代になると、寅さんすら知らない。でもこれは、もの凄いもったいないことだなと思って。だから、寅さんを懐かしむんじゃなくて、新しい映画として、若い世代の人にも観てもらいたいですね。そのハンドブック的な本です。
茂木:確かに、今回の本の作りなんですけど、作品ガイドにもなってますよね。
志らく:はい。とにかく48作あるから、好きな人でもなかなか全部を通して観てはいないですよ。だけど若い子なんかは、「え? そんな48本もあるの? どこから観ていいかわかんない!」と、こうなっちゃうんで。本当はどこから観てもいいんですよ。でも、『24 -TWENTY FOUR-』とか『ウォーキング・デッド』とか、ああいうTVシリーズと同じで、1作目から順々に観ていくのが本当は一番楽しいんだけども、寅さんがどういう言葉を残したのか、それを読んでまた映画を観ると、全然違ってくるかなと思って。
茂木:『男はつらいよ』シリーズを山田洋次監督がずっと撮り続けられていて、本当に国民的な映画と言っていいと思うんですけども。師匠が今回書かれていらっしゃるように、「落語にも通じるところがある」と。
志らく:山田洋次監督は落語が大好きで、元々落語をイメージして『男はつらいよ』を作ってるんですよね。だから落語だと“熊さん”だけれども、それを“寅さん”に変えて、という。渥美清さんももの凄く落語が好きで、よく、談志の独演会にお忍びで来てました。そのぐらい落語が大好きで。だから、落語の日本人で一番面白いところ、それと『男はつらいよ』は、すごく通ずるものがありますね。
茂木:今回、僕が拝読して、実は一番心を打たれたのが、『誰かを好きになる、愛するってことは、その人の幸せを願うことだ』みたいなことを寅さんが言っている、と。これは現代だと、すごく新鮮ですよね(笑)。
志らく:そうなんです。要は、『犠牲愛』ということなんで、今はもう本当に、それこそストーカーになってでも、自分の好きな人を自分のものにしたい。下手すりゃ殺してしまうこともあるわけですよね。寅さんの場合は、「その人が幸せになる為に、自分は何ができるか」。で、最終的にその人が他の素敵な男性と一緒になるんだったら、自分は顔で笑って、はらで泣いて、消えていく、というね。それが、本来は当たり前といえば当たり前なんですよね。だから、今の世の中はそれが新鮮に感じるんですよね。
茂木:日本人が忘れてしまっている色んなことがあって…。例えば、『インテリ』という言葉が出てきてね。今の時代は、なんかちょっと「賢く上手くやる」、みたいなのが褒められたりしますけど、寅さん、インテリは嫌いなんですよね。
志らく:嫌いです。何かあると、「お前、さしずめインテリだな」と言って、インテリをもの凄く毛嫌いするんだけれども、でも、インテリにもちゃんと心があって、そこに悲しみがあったり喜びがある、と。それが分かると、寅さんはそのインテリを応援するようになっていくんですよ。ちゃんと人間の、裸同士で付き合うという風にする。それが寅さんの魅力だし、この作品の中には、今の日本人が忘れてしまっているものがいっぱい入ってますね。
茂木:今回、この『寅さんの金言』を作られるにあたって、なんと、山田洋次監督と1時間お話になられた、と。
志らく:1時間か2時間ぐらい。
茂木:しかも、それを全く本に使ってないという贅沢な作りなんですけど。
志らく:(笑)。この本を書くにあたって、山田洋次監督が、「本を書く前に志らくさんともう一遍話したい」と言って、2時間ぐらい喫茶店みたいなところでお話しましたね。その前も、山田洋次監督の今回の新作映画…吉永小百合さんの『こんにちは、母さん』の、あの現場にも呼んでいただいて、撮影の休憩の30分ぐらい、山田洋次監督とお話したりとか。やっぱり山田洋次監督は、こういう本とかでも、人と人とのちゃんとした心の触れ合いがないと嫌なんですよね。
茂木:筋を通すと言うか、ちゃんと段階を踏んで、ということなんですね。
茂木:山田洋次監督と言えば、本当に日本映画の黄金期のことを受け継いでる方だと思うんですけど。改めて山田監督と話し合って、師匠はこの『寅さんシリーズ』というのは何なんだと思われましたか。
志らく:やっぱり、日本人をずっと山田監督が描き続けてきた、ということですよね。「粋」とか「野暮」とか、それから「人を好きになるということはどういうことか」。「人生というのは、8割〜9割は辛いんだけども、本当に1割〜2割、幸せなことがあると。それで全てチャラになる」、というね。だから「幸せな、楽しいことの方が多いんじゃない」というのを…だからタイトルもそうですよ。『男はつらいよ』という。
茂木:僕、なるほどなと思ったんですけど。『生きてる意味』を、すぐに今の若者は聞きますけど、「生きてる意味なんて、生きていればそのうち分かる時もあるかもね」ぐらいな感じで、寅さんは言いますよね。
志らく:そうです。だって寅さんがね…。これは18作目で、京マチ子がマドンナの回の時に、マドンナが病気でまもなくお亡くなりになるんじゃないかという状況で、寅さんは恋するんだけども、京マチ子が「寅さん、何で人間は死んじゃうの?」と言うと、その返しが見事なんですよ。
茂木:あれは痺れますね〜…!
志らく:「丘の上にたくさん人がいるだろう?」と。「それでいっぱいになると、落ちちゃうんだ」と。「そういうことなんだよ」というね。こんなすごい回答はないですよね。
茂木:あれはちょっとゾクッとするような回答ですけども…。
やっぱり師匠の場合は、最後は落語に活かされていく、ということだと思うんですが。やっぱりこの『男はつらいよ』シリーズを観てきてることは、やっぱり落語家としても色々と得るところがあるんですか。
志らく:はい、落語と共有する部分がもの凄くたくさんあるので、落語にも凄く活きてきますね。
●立川志らくさん 公式ホームページ
独演会「立川志らく落語大全集」
16年かけて志らく持ち根多(プラス根多おろし)203席をテーマごとに分けて全部演じ切ろうというプロジェクト!(2015年にスタートした)
次回は10月11日(水)19:00開演 会場/渋谷・伝承ホール
テーマ:大河ドラマ与太郎 演目「牛ほめ」「金明竹」「道具や」「大工調べ」
前売 3500円(全席指定) チケット発売 9/2(土) 10時
・チケットぴあ(Pコード521-708) ・ローソンチケット(Lコード34402)・イープラスで発売
*その他立川志らくさんの独演会の情報など、詳しくは公式サイトでご確認ください。
●立川志らくさん 公式アカウント(@shiraku666) / X(旧Twitter)
●立川志らくさん 公式Instagram
●『決定版 寅さんの金言・現代に響く名言集』立川志らく(著)
(Amazon)
1985年に立川談志に入門され、1988年二つ目昇進、1995年真打に昇進されました。
創意溢れる古典落語に加え、映画に材をとった『シネマ落語』でも注目を集め、
落語界きっての論客としても知られていらっしゃいます。
また、落語家のほかに、映画監督(日本映画監督協会所属)、映画評論家、
エッセイスト、昭和歌謡曲博士、劇団主宰と幅広く活動されていらっしゃいます。
──寅さんは落語に通ずる
茂木:志らく師匠は今回、『決定版 寅さんの金言・現代に響く名言集』を発売されました。師匠が、山田洋次監督の国民的映画、寅さんシリーズ『男はつらいよ』が好きだということを存じ上げていたんですけど、ついに1冊の本にされてしまいましたね。
志らく:そうですね。『男はつらいよ』は、我々の世代だともう知ってて当たり前。だけど、ある程度若い世代になると、寅さんすら知らない。でもこれは、もの凄いもったいないことだなと思って。だから、寅さんを懐かしむんじゃなくて、新しい映画として、若い世代の人にも観てもらいたいですね。そのハンドブック的な本です。
茂木:確かに、今回の本の作りなんですけど、作品ガイドにもなってますよね。
志らく:はい。とにかく48作あるから、好きな人でもなかなか全部を通して観てはいないですよ。だけど若い子なんかは、「え? そんな48本もあるの? どこから観ていいかわかんない!」と、こうなっちゃうんで。本当はどこから観てもいいんですよ。でも、『24 -TWENTY FOUR-』とか『ウォーキング・デッド』とか、ああいうTVシリーズと同じで、1作目から順々に観ていくのが本当は一番楽しいんだけども、寅さんがどういう言葉を残したのか、それを読んでまた映画を観ると、全然違ってくるかなと思って。
茂木:『男はつらいよ』シリーズを山田洋次監督がずっと撮り続けられていて、本当に国民的な映画と言っていいと思うんですけども。師匠が今回書かれていらっしゃるように、「落語にも通じるところがある」と。
志らく:山田洋次監督は落語が大好きで、元々落語をイメージして『男はつらいよ』を作ってるんですよね。だから落語だと“熊さん”だけれども、それを“寅さん”に変えて、という。渥美清さんももの凄く落語が好きで、よく、談志の独演会にお忍びで来てました。そのぐらい落語が大好きで。だから、落語の日本人で一番面白いところ、それと『男はつらいよ』は、すごく通ずるものがありますね。
茂木:今回、僕が拝読して、実は一番心を打たれたのが、『誰かを好きになる、愛するってことは、その人の幸せを願うことだ』みたいなことを寅さんが言っている、と。これは現代だと、すごく新鮮ですよね(笑)。
志らく:そうなんです。要は、『犠牲愛』ということなんで、今はもう本当に、それこそストーカーになってでも、自分の好きな人を自分のものにしたい。下手すりゃ殺してしまうこともあるわけですよね。寅さんの場合は、「その人が幸せになる為に、自分は何ができるか」。で、最終的にその人が他の素敵な男性と一緒になるんだったら、自分は顔で笑って、はらで泣いて、消えていく、というね。それが、本来は当たり前といえば当たり前なんですよね。だから、今の世の中はそれが新鮮に感じるんですよね。
茂木:日本人が忘れてしまっている色んなことがあって…。例えば、『インテリ』という言葉が出てきてね。今の時代は、なんかちょっと「賢く上手くやる」、みたいなのが褒められたりしますけど、寅さん、インテリは嫌いなんですよね。
志らく:嫌いです。何かあると、「お前、さしずめインテリだな」と言って、インテリをもの凄く毛嫌いするんだけれども、でも、インテリにもちゃんと心があって、そこに悲しみがあったり喜びがある、と。それが分かると、寅さんはそのインテリを応援するようになっていくんですよ。ちゃんと人間の、裸同士で付き合うという風にする。それが寅さんの魅力だし、この作品の中には、今の日本人が忘れてしまっているものがいっぱい入ってますね。
茂木:今回、この『寅さんの金言』を作られるにあたって、なんと、山田洋次監督と1時間お話になられた、と。
志らく:1時間か2時間ぐらい。
茂木:しかも、それを全く本に使ってないという贅沢な作りなんですけど。
志らく:(笑)。この本を書くにあたって、山田洋次監督が、「本を書く前に志らくさんともう一遍話したい」と言って、2時間ぐらい喫茶店みたいなところでお話しましたね。その前も、山田洋次監督の今回の新作映画…吉永小百合さんの『こんにちは、母さん』の、あの現場にも呼んでいただいて、撮影の休憩の30分ぐらい、山田洋次監督とお話したりとか。やっぱり山田洋次監督は、こういう本とかでも、人と人とのちゃんとした心の触れ合いがないと嫌なんですよね。
茂木:筋を通すと言うか、ちゃんと段階を踏んで、ということなんですね。
茂木:山田洋次監督と言えば、本当に日本映画の黄金期のことを受け継いでる方だと思うんですけど。改めて山田監督と話し合って、師匠はこの『寅さんシリーズ』というのは何なんだと思われましたか。
志らく:やっぱり、日本人をずっと山田監督が描き続けてきた、ということですよね。「粋」とか「野暮」とか、それから「人を好きになるということはどういうことか」。「人生というのは、8割〜9割は辛いんだけども、本当に1割〜2割、幸せなことがあると。それで全てチャラになる」、というね。だから「幸せな、楽しいことの方が多いんじゃない」というのを…だからタイトルもそうですよ。『男はつらいよ』という。
茂木:僕、なるほどなと思ったんですけど。『生きてる意味』を、すぐに今の若者は聞きますけど、「生きてる意味なんて、生きていればそのうち分かる時もあるかもね」ぐらいな感じで、寅さんは言いますよね。
志らく:そうです。だって寅さんがね…。これは18作目で、京マチ子がマドンナの回の時に、マドンナが病気でまもなくお亡くなりになるんじゃないかという状況で、寅さんは恋するんだけども、京マチ子が「寅さん、何で人間は死んじゃうの?」と言うと、その返しが見事なんですよ。
茂木:あれは痺れますね〜…!
志らく:「丘の上にたくさん人がいるだろう?」と。「それでいっぱいになると、落ちちゃうんだ」と。「そういうことなんだよ」というね。こんなすごい回答はないですよね。
茂木:あれはちょっとゾクッとするような回答ですけども…。
やっぱり師匠の場合は、最後は落語に活かされていく、ということだと思うんですが。やっぱりこの『男はつらいよ』シリーズを観てきてることは、やっぱり落語家としても色々と得るところがあるんですか。
志らく:はい、落語と共有する部分がもの凄くたくさんあるので、落語にも凄く活きてきますね。
●立川志らくさん 公式ホームページ
独演会「立川志らく落語大全集」
16年かけて志らく持ち根多(プラス根多おろし)203席をテーマごとに分けて全部演じ切ろうというプロジェクト!(2015年にスタートした)
次回は10月11日(水)19:00開演 会場/渋谷・伝承ホール
テーマ:大河ドラマ与太郎 演目「牛ほめ」「金明竹」「道具や」「大工調べ」
前売 3500円(全席指定) チケット発売 9/2(土) 10時
・チケットぴあ(Pコード521-708) ・ローソンチケット(Lコード34402)・イープラスで発売
*その他立川志らくさんの独演会の情報など、詳しくは公式サイトでご確認ください。
●立川志らくさん 公式アカウント(@shiraku666) / X(旧Twitter)
●立川志らくさん 公式Instagram
●『決定版 寅さんの金言・現代に響く名言集』立川志らく(著)
(Amazon)