Dream Heart(ドリームハート)

土曜22:00-22:30 TOKYO FM/全国38局でON AIR 各局放送時間

REPORT 最新のオンエアレポート

Dream HEART vol.542 特別編「茂木健一郎のお悩み相談室」

2023年08月19日

「Dream Heart」は日本、そして世界で、挑戦をテーマにチャレンジしている人々を毎週ゲストに迎え、その挑戦に迫っていきますが、今週はスペシャルバージョン!

みなさんからお送りいただいたメッセージを、番組パーソナリティの茂木健一郎が、脳科学者として答えていきます!


null


──チャレンジと習慣化のバランス

茂木:では、まずこちらのメッセージから。東京都 ラジオネーム <ぼのぼのぼ>さんです。

茂木さん、はじめまして。

茂木さんに質問ですが、挑戦するときのプレッシャーや不安を軽減する方法って、何かありますか?

私は仕事で日々、自分の中の不安感と戦っているので、何か良い解消法などあれば教えていただけるとありがたいです。


茂木:まず、ぼのぼのぼさん。仕事で日々プレッシャーや不安と戦うというのは、これは素敵なことではないでしょうか。僕が色んな人にお話を伺うと、仕事がついルーティーンになってしまったり、代わり映えがしなかったり。むしろチャレンジとかそういうことがなくなっていっちゃってるという人も多いんです。
そんな中で、ぼのぼのぼさんは、恐らく、色々新しいことに挑戦しているのかな、と。毎回毎回新しい学びがあるので、脳が『強化学習』というメカニズムを通して成長していけると。ですから、ぼのぼのぼさんは、仕事を通して、ドーパミンの強化学習をされてるんだと思うんですね。
これ、実は今、人工知能が使ってるやり方でもあるんです。ですから、今発展している人工知能と同じようなチャレンジを、ぼのぼのぼさんは毎日仕事でされてるのかと思うんですけど。とは言っても、人間には感情がありますよね。

不安とかプレッシャーとか、これはある程度は薬になるんですけど、ありすぎると毒にもなっちゃうんですね。ですから、不安とかプレッシャーを解消する、乗り越える、いい方法というのは、“自分の中でできることと、チャレンジなことを、切り分ける”と言いますか。
できることについては、ある意味であんまりそこを意識しないで、無意識のうちに自動化してやる・習慣してやる。習慣でできるところを少しずつ増やしていって、その上に、新しいことをやっていく、ということがいいんですね。

ですから、一見チャレンジで不安を感じるような状況でも、実は今までの経験で、ある種習慣として、無意識のうちに自動化してできることもあると思うんですよ。そこは今まで通りのやり方でやって、本当にその新しいこと、ちょっと集中して学ばなければいけないこと、そういうことに集中していくのがいいのかな、と思うんですね。このバランスですね。ルーティンでやること・習慣化していることと、新しいことのバランスが、とてもとても大事なのかなと思います。

私自身も、色んな仕事をしたり、研究をする中で、ルーティン化できるものはもうルーティン化しようと思うんですね。そこまではチャレンジする必要はなくて。ただ、その『習慣』というものがあればあるほど、それがある種の安全基地となって、ドーパミンによる新しい学びもすることができます。
ぜひ、ぼのぼのぼさんの中に既にある、“身につけていること”、“習慣化していること”、“毎日ルーティンのようにやっていること”、これをもう一度見直していただきたいな、と。

野球のイチロー選手などが、毎日ルーティンでやってることがあるというのは、やはりそういうことなんだろうと思います。大谷翔平選手もですね。そういう形でルーティンでやってることってきっとあると思うので。ある意味では、『ホームランを打った時に兜を被る』というのは、ルーティンだと思うんですよね。
そういうルーティンはルーティンでやっていながら、新しいことに挑戦するという、ぜひ、そのような心がけで仕事に向き合って頂けたらなと思います。

──前頭葉の使い方

茂木:続きまして、神奈川県 ラジオネーム <アリー>さんからのメッセージです。

茂木さん、こんばんは。
私は夏になると、夏休みの宿題の事を思い出します。

夏休みの宿題は、毎日、コツコツやることが良いのは分かっていますが、最後の1週間で済ませる派でした。
私のように、締め切り間際でやる「のんびり派な人」と毎日少しずつやる 「コツコツ派な人」は、脳科学的に、何が違うのでしょうか?


茂木:はい。これは“前頭葉の使い方”なんですけれども。
毎日コツコツやるというのは、実はそんなに前頭葉を使わなくても大丈夫なんですよ。これは要するに、『習慣化している』ということなので。毎日少しずつやるわけですよね。そういう習慣をつけると、実は、あまり前頭葉を使わなくても、そういう良い習慣がついてるということですね。

一方、間際にやるという方ですね。これは、前頭葉の使い方としては、実は微妙なんですね。それまでの、夏休みの前半から半ばにかけては、計画的にやってないという意味においては前頭葉使ってないんですけども、最後の馬鹿力でやれるということは、前頭葉が「1週間で宿題をやらないと間に合わないぞ」と判断してるわけですから、その時には前頭葉を使ってるんですね。この前頭葉というのは、色んな計画を立てたり、集中する時に使う回路なんですけども。

この、最後に間際でやる、というタイプの方は、惜しいんですよ。そこから一歩進んで、最後の1週間で集中してやるのを最初の1週間でやっちゃうとか、そういう風に脱皮して頂けると、大変、人生前倒しの『計画実行人間』になることができます。

null


茂木:僕も、小学校の時に、最初は意外と間際でやるタイプだったんですけど、ある時ハッと気づいて、だんだん「前倒しでやっちゃおう」と思ってやるようになっていったんです。そうすると、夏休みの後半とかになるとちょっと余裕があるじゃないですか。その分、何か少し前向きになれると言うか、次のことをやってみようかなと思ったりできるようになるんですね。
なので、時間に追われるか、時間をリードするか、という、この発想の差なんですよ。時間に追われてしまうと、結局、その前頭葉の計画とか集中する回路を使う機会が失われてしまうので。これは夏休みの宿題だけじゃないんですけども、人生は色々やんなくちゃいけないことがあるじゃないですか。できるだけ前倒しでやるようなタイプになると、前頭葉の使い方としてはとても良くて。

アリーさん、「どうやったら前倒しに変えられるか」と言うと、早め早めにやって、ちょっと余裕を持つということに喜びを感じて頂きたいんですよね。それを感じると、脳の中で、嬉しい時にはドーパミンが出るという『強化学習』ですね。そうすると前倒しでやって、色んなことを仕上げていく喜びに目覚めることができます。
僕、本当に原稿とかの締め切りも早いですよ。早めに送って、編集者がびっくりするんですけど。それはね、前倒しすると、ギリギリに締め切りに迫られてやるよりも2倍、3倍嬉しい。それを経験して頂けると、前倒しの脳になっていけるのかなと思います。

肝心なことは、先ほども言いましたように、最後の1週間で集中してやるという人は、前頭葉が使えるんですよ。あとは、その前頭葉を前倒しで使えるようになるといいですね。
アリーさん、もうアリーさんには、そういう素晴らしい前頭葉の働きがあるんです。いざとなったら、集中する力があるんです。今度、それを前倒しで色んなことをやるようにされると、更に脳の前頭葉達人になれるのではないかなと思います。


──ポジティブ心理学

茂木:続きまして、宮崎県 ラジオネーム <佐藤茶>さんからのメッセージです。

茂木さんに質問です。
こちらのラジオ、ドリームハートやAuDeeのポジティブ脳教室、茂木さんのYoutubeなど、茂木さんのお話を見たり、聞いたりしているのですが、私は、どうしてもネガティブな思考の方へいってしまいます。
これは、なぜでしょうか?対処法などあれば、教えてください。


茂木:だからこれは、根拠のない自信が大切でね。「私はできる」と、前向きな根拠のない自信があれば、それにふさわしい努力もできるんですけど、ネガティブになっちゃうと、どうしても「努力しても無駄だ」とか、「私はできない」と思ってしまうから、ここが大きな別れ道なんですけど。

ただ、『ポジティブ心理学』というものが心理学でありまして。元々心理学というのは、フロイトとかユングが、心のバランスを崩しちゃったよ、という時に、どうしてそれを治そうか、というネガティブな方から始まったんですけども、徐々に心理学が進むと、「いや、ポジティブな心理をもっと研究しようよ」ということになって、『ポジティブ心理学』というものが出てきたんです。そこで分かったことは、“ポジティブな心理はネガティブな心理と表裏一体である”と。
ポジティブな心理は、ネガティブな心理と無関係にあるのではなくて、むしろ、ネガティブな心の持ち方をちょっと見方を変えると、ポジティブに変えることができるんだということが、分かって来たわけです。

例えば、『不安』というのは不確実な状況に対して、どうなるかわからないと思うから不安なんですけど、それはちょっと見方を変えると、『希望』になるわけですよね。「どうなるかわからないから、きっと素敵なことが起こるに違いない」という形で希望になる、と。
それから、『嫉妬』というのはネガティブですよね。「あの人、あんな風になっていいな」と、「私はこうなのに」と比較して嫉妬しちゃう、と。だけど、嫉妬するということは、「その人のようになりたい」ということじゃないですか。「本当は自分もそうなりたい」とか、「自分も成長したい」というポジティブな気持ちのすぐ傍に、ネガティブな嫉妬という感情があるわけですよね。そういうことがポジティブ心理学の研究でわかってきたんですけれども。

ですから、佐藤茶さんも、“ネガティブな気持ちがあるということは、佐藤茶さんの中に、ポジティブな気持ちもあるということ”なんですよ。ポジティブな気持ちの“芽”があるということなんですよ。
ですので、これからぜひ、もし『不安』というネガティブな思考になった場合、不安を感じてるということは、どうなるかわからないことがあるわけですよね? どうなるかわからないことで、「どうなったら嬉しいのかな」とか、「どうなったら自分にとって幸せなのかな」と考えて頂いて、そうしたら、「それを少しでも実現するにはどうすればいいんだろう?」というふうに、ちょっと発想を変えて頂く。
嫉妬した場合には、「なんで私はあの人が羨ましいんだろう」とか、そういう風にちょっと見方を変えていただけると、自分が本当に欲しいものが分かってきます。
そういう形で、ネガティブな自分の心の近くにある、ポジティブな気持ちの芽をぜひ見つけて頂いて、それを伸ばして頂きたいなと思うんです。

実はね、ネガティブな気持ちになっている時というのは、人に相談して聞いてもらうのも一つのやり方なんです。今、相談して頂いていますけども、このようなことも一つのやり方なんですね。
なぜかと言うと、他人というのは、自分にとっての鏡になります。ですから、ひょっとしたら、ネガティブな気持ちについて他人と話してる時に、その人の受け答えとか、あるいはそのときの佐藤茶さん自身の心の動きで、「そうか。私の中には、実はこんなポジティブな気持ちもあったんだ」、「ネガティブな思考は、実はポジティブな思考のすぐ傍にあったものなんだ」という風に気づけるかもしれませんよね。

ぜひ、自分の中にあるポジティブな芽に気づいて頂きたいな、と。ネガティブな思考が強い人は、その分、ポジティブな思考も強い。それだけ芽があるんです。それをぜひ大きく花まで育てて頂きたいなと思います。佐藤茶さん、自分の中のポジティブを見つめ直して頂けたら嬉しいです。

null



●今夜ご紹介したような、茂木さんへのご質問メールは、
 すべてメッセージフォームにお送りください。
 お待ちしております!


●音声配信アプリ「AuDee」では、「茂木健一郎のポジティブ脳教室」を配信中です。
 こちらでも、みなさんからのご質問にお答えしています。
 (毎週・土曜日、夜10:30に更新)


茂木健一郎(@kenichiromogi) X(Twitter)