Dream Heart(ドリームハート)

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Dream HEART vol.536 作家 黒木亮さん 著書「メイク・バンカブル! イギリス国際金融浪漫」

2023年07月08日

黒木さんは、1957年北海道のお生まれ。

早稲田大学法学部をご卒業後、大手銀行に入行し、
海外派遣制度で、カイロ・アメリカン大学に留学され、
中東研究科で修士号を取得されます。

その後、都市銀行、証券会社、総合商社勤務を経て、
2000年、国際協調融資をめぐる攻防を描いた『トップ・レフト』で作家デビュー。
現在は、ロンドンに生活拠点をおき、創作活動を続けていらっしゃいます。

早稲田大学時代は、箱根駅伝に2度出場する一方で、
20kmのレースでも北海道記録を塗り替えた経験をお持ちで、
ランナーとしての半生は、2008年に発売された、
『冬の喝采』に綴られていらっしゃいます。


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──国際的なバンカーの仕事

茂木:黒木さんは集英社より『メイク・バンカブル! イギリス国際金融浪漫』を発売されました。まずちょっと気になってしまうのが、箱根駅伝なんですけど、なんと、あの瀬古利彦さんから襷を受け取った…?

黒木:そうです。3年の時は、瀬古さんが2区で僕は3区だったんです。トップで襷を持って来てくれて、お陰様で僕もずっとトップで行くことができたんですね。

茂木:本当にランナーとしても素晴らしい才能をお持ちなんだと思うんですけれども、そのランナーからパンキングに行くというのは、どういう流れだったんですか。

黒木:僕のそばに瀬古さんという世界のトップランナーがいましたから、自分はいくらやってもあんなところまでは行けないと思いましたし、別の世界で生きようと思って。当時、海外に行けるのは商社とか銀行が多かったので、とりあえず銀行に就職したということです。

茂木:ところが、銀行に行ったら、研修とかがすごくドメスティックだし、あとママチャリかなんかに乗って…?

黒木:そうです。ママチャリに乗って、日本橋支店で外回りなんかをやってまして、もう必死でペダルを漕いでいたんで、ズボンのスーツが破れて、お客さんのところに行って何か股がスースーするなと思ったら、パンツが見えてた、とかですね。結構大変な目にも遭いましたね。

茂木:我々がイメージする銀行の方というのは、そういうお姿か、非常に慎重に色んな融資とかを進めていく、というイメージだったんですけど。今回のご著書『メイク・バンカブル!』で僕が本当に衝撃だったのが、このロンドンのトップ・オブ・ザ・トップのバンカーが何をやっているかというのは、本当びっくりしました。グローバル資本主義とはこうなんだ、と。これは名著ですね。

黒木:ありがとうございます(笑)。やっていた仕事は国際協調融資で、1億ドルとか2億ドルとか引き受けて、世界中に販売して、協調融資団を作っていく…という仕事で、かなりスリリングな仕事でしたね。

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茂木:僕も読んでいてびっくりしたんですけど、例えば、ある国が国営航空会社のために大量の飛行機を買う、というの時のファイナンスを…?

黒木:はい。エジプト航空なんか5億ドルのファイナンスでやっていましたから、かなり大きな案件でしたね。

茂木:そして、これは僕初めて知ったんですけど、“マンデート”というものがあるんですね。マンデートというのはどういうものですか?

黒木:マンデートというのは、“融資団組成委任”という意味です。マンデートを貰って融資団を作っていくという仕事ですね。

茂木:例えば、エジプト航空からマンデートを与えられると、それで融資条件とかを固めて募集するんですよね?

黒木:そうです。色んな銀行を呼んでいくと。ただ、エジプト航空はアメリカのアービング・トラスト銀行がやった大きな案件でしたけど、僕がやったのはサウジアラビア航空で、これは主幹事でやったりしました。

茂木:ご著書を読んでますと、例えばサウジアラビア航空が飛行機を買う時にすごくお金がかかるから、その融資を取り纏めるわけですよね? その時、その融資条件を詰めるのがすごいですね。利率がこれぐらいでとか、担保が何でとか…。

黒木:はい。担保がないと中々貸せない国が多いので、飛行機を担保に取って。サウジアラビア航空の時はかなり値切られて苦しい条件でマーケットに出て、かつ、イスラムの国なので、「金利払うのはみっともないからあんまり中近東の銀行にアプローチしないでくれ」と言われて、すごく組成に苦労した案件でしたね。

茂木:あと、僕は何となく、そうは言っても、バンカーの世界というのはお金だけ見てるのかなと思ったら…。例えば、アフリカのある国でそういう案件の時は、実際に現地に行かれて、どういう状況かを確認する、と。

黒木:それはもう、必ず確認しなきゃいけない案件ですね。やっぱり現地に行くと、雰囲気で大丈夫かどうかが結構分かります。人と話したりとか色々して。

茂木:それは一体、どういうことでわかるんですか?

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黒木:例えばアルジェリアだったら、日本の商社の駐在事務所に行って「どういう支払い状況ですか?」とか、「結構遅れてます」とか色々聞いたりとか。
あとエチオピアの時は、エチオピア航空をやろうとしたんですけども、支店長に「それだけやめてくれ」と言われて。でも「どうしてもやらせてくれ」(と言ったら)、「じゃあ最後に1回だけ、現地の状況を確認してくれ」と言われて、カンファレンスコールでエチオピアの日本大使館に電話しました。「今どういう状況ですか?」と聞いたら、「エリトリア軍が反乱を起こして、アディスアベバの100kmぐらいのところまで来てます」と言われて(笑)、「ちょっとこれはできないな」と断念したんですけどね。

茂木:ですから、実はこの中には、例えば、イラクによるクウェート侵攻のような世界的な事件も出てきて、まさかバンカーがそんなことまで関わるような仕事しているとは想像してなかったんで、すごいなと思いました。

黒木:融資というものは、ありとあらゆるものが影響してきますので、何が起きるかわからない。まさに『バタフライ効果』という、茂木さんが本に書かれてたようなことが起きる、と。それを可能な限り予測しなきゃいけない、と。これが非常に難しいですよね。

茂木:ロンドンのシティには、黒木さんもそうでしたけど、外国の方も含めて才能とお金が集まってくる中で、東京はどうしたらいいですか。

黒木:いや東京は、もうずっとローカルのマーケットですよね。やはり世界の金融センターになるには、英語が自由に通じるところじゃないと難しいですよね。ですから、香港、シンガポール、ロンドン、ニューヨークですね。

茂木:東京はどうしたらいいですか?

黒木:難しいですね…。それが分かったら苦労はしないのかもしれないんですけれども…。中々ドメスティックなマーケットから抜け出せないですよね。バブルの頃は「世界の金融センター」と言ったんですけれど、それはバブル経済で活動が活発だったというだけで、世界の金融センターにはなり得ていなかったです。
それはもう東京に限らず、パリとかフランクフルトなんかも、何とかロンドンの地位を脅かしたいと昔から思ってるんですけど、やっぱり揺るがないですよね。

茂木:皆さん、とにかくこの黒木亮さんの『メイク・バンカブル!』…、よく難易度が高いものを「rocket science」と言ったり、「素粒子物理学より難しい」みたいなことを例えて言いますけど、これを読むと国際金融のトップ・オブ・ザ・トップは、ものすごい複雑なことやっているんだなというのが分かります。

黒木:でも私でもできるようなことですから、そんなに複雑でもないですよ(笑)。

茂木:いや、ある種のリスペクトを持って、本当に伝わってきました。今の世界は、この上に動いてるんですもんね。

黒木:やっぱり人間のやることですから。本当にせめぎ合いみたいなものは常にありますよね。

茂木:ぜひ皆さん、現代のグローバルな経済の動きを理解する上でもこれは必読書だと思います。黒木亮さんの『メイク・バンカブル! イギリス国際金融浪漫』。集英社から出ています。これから読者になる方も多いと思うので、黒木さん、『メイク・バンカブル!』について一言、お願いします

黒木:私が国際金融市場でやっていたことを、昔の勤務先に気を遣わずに洗いざらいぶちまけた本ですので、必ずいい意味でも悪い意味でも参考になると思います。ぜひ読んでいただければと思います。

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