Dream Heart(ドリームハート)

土曜22:00-22:30 TOKYO FM/全国38局でON AIR 各局放送時間

REPORT 最新のオンエアレポート

Dream HEART vol.509 特別編

2022年12月31日

「Dream Heart」は日本、そして世界で、挑戦をテーマにチャレンジしている人々を毎週ゲストに迎え、その挑戦に迫っていきますが、今週はスペシャルバージョン!

みなさんからお送りいただいたメッセージを、番組パーソナリティの茂木健一郎が、脳科学者として答えていきます!


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──“頭の良さ”とは

茂木:では、まずこちらのメッセージから。神奈川県 ラジオネーム <ゆきだるま>さんです。

初めてメッセージ送らせていただきます。

脳科学的に、頭を良くする方法ってあるのでしょうか?
また、頭が良い、悪いとは、一体、何でしょうか、どんな違いがあるのでしょうか?

そして、茂木さんは、色んな方に会ってこられた中で、どんな人が、頭の良い人、賢い人だと思われますか?お聴きしてみたいです。


茂木:脳科学的に頭の良さということを研究する分野がありまして、その分野のコンセンサスは、結局こういうことなんです。「今、自分が向き合っている課題に、どれぐらい集中して脳を使えるか」。まずはこれが、“頭の良さ”だと考えられているんですね。

脳の中には色んな回路があって、その回路を…例えば、問題を解く時とか、或いは人生の課題を色々解決する時とかに、いかに脳の中にある回路をそこに上手く使えるか、というのが“頭の良さ”。それは世間的に言えば、「集中力」とかということになってくるんですね。
ですから、「頭を良くするためには、集中力を上げる」というのが、実はいいんです。

そしてこの集中力を上げる方法として、僕が学生さんたちにお勧めしているのが、「少しノイズがある煩い所で勉強する」とか、「何か“ながら”でやる」ということです。それが意外と脳に良いんです。
ですからこのラジオを聴いて頂く時も、例えば家事をしながらとか、運転をしながらとか、お掃除をしながら、作業しながら聴いている方がいらっしゃると思うんですけど、そのようにして、何かをしながらラジオを聴いて頂くということが、頭を良くする方法だとされています。

ですから、この「集中する」というのが、まず頭がいい第一のポイントなんですけど、もう一個、第二のポイントとして、「柔軟性」です。

今の世の中は、どんどん変わっていきます。そして、人生では正解がない課題がたくさんあるんです。
ですので、その時々に自分が今まで経験したこととか知識とかも総動員しつつ、周りの状況を見ながら“柔軟に”対応をする、と。この「柔軟性」というのが、“頭の良さ”ということでは非常に大事だということが分かっています。

で、これがまた意外なんですけど、柔軟性の高い人というのは、いつも脳の同じ回路を使っているんです。
全く新しいことだと我々はちょっとパニックになって、頭が真っ白になったりすることもあると思うんですけど、いつも自分を失わないで、新しい時でも今まで使った知識だとか、手に入れた経験とか、そういう過去の色んなものが繋がって、振り返って、「何かこの状況に使えることはないのかな?」と、あくまでも自分を見失わずに向き合える方が、結果として頭のいい方だということなのかな、と。

ですから、「集中する力」と「柔軟さ」、これが、私は頭の良さの大事なポイントかなと思います。

そして、『私が今まで会って来た中で、どういう人が頭のいい人だと思われるか』、ということなんですけど、これもちょっとまた意外な答えになるかもしれませんが…「他人の気持ちが分かる方」ですかね。

脳科学では、相手の気持ちが分かるというのは、実は一番難しいことだとされているんです。
ですから、数学の問題が解けるとか、たくさん知識がある、というのはもちろん頭の良さなんですけど、今目の前にいる人の気持ちが分かるというのが、実は一番難しい。コンピューター…人工知能にも中々できない。

ということで、ゆきだるまさんも、年末年始には、普段会っていない親戚の方とか、地元の友達とかに会うということも多いと思うので、その時にはぜひ、「ああ、この人は今どういう気持ちなのかなぁ?」とか「どんな人生を歩んでいるのかな?」ということをちょっと想像して思い巡らせる、という時間帯を持って頂けると、きっとこの年末年始に、頭がいい人になれると思います。

──物忘れ対策と脳のアンチエイジング

茂木:続きまして、岐阜県 ラジオネーム <きゆみ>さんからのメッセージです。

私は50代に入り、ついに物忘れが激しくなりました。

その対策として私の1日は出来るだけルーティン化しています。
特に平日の朝は、起床時間から玄関を出るまで、分刻みで通勤準備をしています。

しかし 一瞬でもルーティンが崩れると忘れ物が出来てしまいます。
もっと効果のある忘れ物対策は無いものでしょうか?


茂木:僕はまず、きゆみさんはすごいな、と思いました。分刻みで通勤準備をされるのは、さすがですね。

この「習慣化することで、何か忘れ物をしないようにする」というのは、確かに有効なんです。
例えば、イチロー選手が野球の試合の時に、いつも同じ順番で同じことをやる、と。後は、色んな現場のプロフェッショナルの方が、指差し確認みたいなものもありますが、いつもやるべきことを確認しながら、その順番の通りにやっていく、と。
これは色んなプロの方が、忘れ物をしない対策として有効だということを確認しているわけですし、脳科学的にも、「習慣化する」というのは、“余り意識の努力なしで、無意識のうちにあることをする”ということなので、これは有効なんですね。

我々は無意識で習慣化したことは自動的にできるんですけど、意識すると、それはクリエイティブ…創造的なことにも繋がるんですけど、一方で物忘れと言うか、安定しないんですね。
ですので、どうしても忘れたくないことについては、もう「無意識の中で習慣化してできるようになる」というのは、これはいいことだと思うんです。

一方、「ルーティン化」だけでは、記憶の回路の若返りははかれません。
むしろ、ルーティン化の逆に行く時間帯も作って頂きたいんですね。

新しいこととか、予想ができないこととか、そういうことに、柔軟にその場その場で対応するという脳の回路が、「ルーティン化」の回路とはまた別にあるんです。むしろ、どちらかと言うと「意識的な努力をする」回路、と言うんでしょうか。
これは、恐らくきゆみさんも気付いてらっしゃると思うんですけども、安定はしません。だから、ある時は成功するかもしれないし、ある時は失敗するかもしれない、と。
だけど、新しいことに向き合う時は、この「意識的な努力をする」という回路も使うことが必要なんです。」

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茂木:「脳の回路というのは中が見えないので、我々は中々全部を把握できないんですけど、実は「ルーティン化」の回路もあれば、「意識的に努力する」回路もあれば、「何かを選び取る」回路もあるし、それから「予想できないことが起こった時に、それに対応する」という回路もあるんですね。
そういう回路を満遍なく使って頂くことで、全体的に脳のアンチエイジングがはかれるのではないかな、と。
イメージで言うと、ラジオ体操があるじゃないですか。ラジオ体操をやると、体の色んなところを鍛えますよね。もし“脳のラジオ体操”というものがあるとするならば、ルーティン化するところ以外の脳の回路を、ぜひ使って頂けたらなと思います。

その為に有効なのは、「お友達とかと話す」ことです。

他人は、大体予想通りに動かないので(笑)。他人がいると、大体ルーティン化は崩れるんですよね。
もう子供一人いたら、ルーティン化というのは崩れますからね。子育てされているお母さま方などが朝とかに大変パニックになるのは、いつもと同じ通勤準備をしようと思っても、「ママー!」とか言いながら子供が来るから、「わー!」となってしまう。

あれは「ルーティン化」からは外れてるんですけど、脳のアンチエイジングと言うか、脳を若々しく保つという意味ではいいので…どうでしょう? もしお子さんがいなかったら、ペットとかもいいかもしれませんよ。
通勤準備している時にペットの猫ちゃんが「ニャーン」とか言って来たら、「しょうがないな、餌やろうか」となる、みたいな感じで(笑)。

そういう、生き物とか他の人間を相手にすると、今言ったような柔軟な脳回路が鍛えられるのかな、と思います。

──ゲーム好きな子供に宿題をさせるには

茂木:では続きまして、兵庫県 ラジオネーム <のび太君ママ>さん

茂木先生、こんばんは。いつも、放送楽しみにしています。

我が家の小学5年の息子は、毎日、宿題をなかなかしません。
気が済むまで、先に遊んだり、ゲームをした方が良いようです。

なので、「夕食が終わったら、取り組もうね。」…と声をかけて、静かに勉強が出来る環境を作り、その後、私は、30分程、ウォーキングに行くようにするなど、ガミガミ言わないようにしています。

ですが、息子はフォートナイトの戦うゲームばかりしており、平日は3時間以上、土日などは、ほぼ丸一日していて、心配になります。

息子は、「勉強はなぜしないといけないの?宿題はしたくない。学校に行きたくない。」…とよく言います。宿題はしなければいけないと、分かっているようなのですが、本人のやる気を出させるには、どうしたらよいか、アドバイスをお願いします。


茂木:これは、のび太君ママさん、多くのお母さんの悩みなんですよね。

これは、文明史的に、と大げさなことを言うと、恐らく、今の学校のカリキュラムと、これからの子供達が必要としてるスキルというものが、ミスマッチなところがあるのかな、と。
ですから、ゲームということについて、ちょっと否定的に見る見方もあるんですけど、見方を変えると、“オンラインで様々な方と協力し合って、目的を達成する”という視点から見ると、オンラインゲームというのは、決して否定すべきところばかりでもないんですよね。
子供は基本的に、自分の未来のことを何となく本能的に分かっているところがあって、何となく「学校の勉強よりもゲームの方が楽しい」と思ってしまう気持ちが分からないわけではないんですね。

ただ一方で、僕は子供達とよく話すんですけど、例えば将来、学校へ進学する、という時に、受験というものがどこかであるかもしれない、と。そうなってくると、『フォートナイト』みたいなオンラインゲームが、入試で出題されるということはないわけなんですよね。
やっぱり、科目の成績が良くないと進学できないので、恐らく、そういうことも息子さんは分かってらっしゃると思います。
ですから、一方でオンラインの様々な楽しい世界があり、一方では、従来型の学力も必要ないわけではないので、そういうことが必要ということもあり、中々今の子供たちは大変だな、と思うんですけど。

僕の提案は、いわゆる『ゲーミフィケーション』と言うんですけども、「ルールを作る」ことが大事だと思います。
例えば、『フォートナイト』みたいなゲームをやりたいんだと思うんですが、「“宿題を先に終わらせてからゲームをやる”というように決める」んです。

例えばゲームで言うと、ラスボスを倒す前に、まずダンジョンに入って色々アイテムとか面倒くさいものを取らないと、ラスボスを倒すところまで行けない、という、ゲームのルールがあるじゃないですか。
それと同じように、人生というゲームで、「宿題を終えると、その後はゲームをやっていいよ」、或いは、「教科書のここからここまでを読んだら、ゲームをやっていいよ」というように決めると、意外と子供というのは、最初はブーブー言うと思うんですけど、適応するものなんですよね。

ですから、「何故勉強をしなくてはいけないのか」ということを、子供はよく聞くと思うんですけど、脳科学的な視点からすると、目的というのは大抵後から出てくるんです。とにかく楽しいからやっている、と。でもそのことの意味はずっと後から分かってくる、と。
今はゲームが楽しいんだと思うんですけど、息子さんが、宿題やるとか勉強するのは、何か理由は分からないけど楽しいな、と、そういう風に思って頂けたら、しめたものなんですね。

どうでしょうか? もし必要でしたら、通信制のそういう学びをするような、色んな会とかがあるじゃないですか。そういうことをやったりとか、或いは、ポイントだけ教えてくれる家庭教師の方がいらっしゃるとか。或いは、塾なんかに行ってもいいのかな、と。
つまり、「勉強をするということが、ゲームとして楽しい」と実感して頂けると、息子さんもちょっとやる気になるのかな、と。

もちろん、大げさな話を言うと、「人生では、勉強しないと色んな仕事ができない」とかそういう言い方もできるんだけど、子供にとってはやっぱり目の前の楽しさというのが大事なので、そう言う意味では、目の前のゲームと同じぐらい、目の前の勉強が楽しく感じられる、と。
脳の部位で言うとドーパミン系なんですけど、特にこの線条体(striatum)という部分とかこういうところが、実は脳の“何かを選び取る”とか、“実際に運動として行動する”という関係しているんですけど、そこら辺の部位を使って、「ゲームと同じぐらい勉強も楽しいんだな」と、そういう風に思って頂けると嬉しいです。

僕もかつて、『脳を活かす勉強法』という本を書いたこともあるので。『脳を活かす勉強法』は、まさに『ゲーミフィケーション』と言うかゲーム感覚で勉強を楽しむ方法なんかも書いてあるので、参考にして頂けたらな、と思います。

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