2022年09月24日
キリーロバ・ナージャさんは、ソ連のレニングラード、
現在の、ロシア、サンクトペテルブルクのお生まれ。
数学者のお父さまと物理学者のお母さまの転勤とともに、
ロシア、日本、イギリス、フランス、アメリカ、カナダと6ヵ国それぞれの現地校で、
さまざまな教育を受けた、幼少時代を過ごされます。
その後、株式会社電通に入社。
さまざまな広告を企画され、世界の広告賞を総ナメにし、
2015年の世界コピーライターランキング1位に。
国内外の広告やデザインアワードの審査員歴を持つ、
電通のクリエイティブディレクターとして、現在もご活躍中でいらっしゃいます。
──各国の教育が違っていてもいい
茂木:今回、集英社インターナショナルから『6カ国転校生 ナージャの発見』という素晴らしい本を出されています。この凄いところは、全部ナージャさんが自分で経験したことだということですね。
最初にご紹介すると、“椅子と机が各国で全く違う”ということに、僕は「えー!?」と思いました。日本は、皆さんもよく知っているように1人ずつですよね。アメリカはどうなんでしたっけ?
ナージャ:アメリカは、私の学校では、机自体はコの字に並んでいるんですけど、その真ん中に絨毯とソファが置いてありました。算数などは書かなきゃいけないので机ですけど、国語、社会、他の科目は、ソファでゴロゴロしたり床であぐらをかいたりして、先生の話を聞くというスタイルでした。
茂木:イギリスはどういうふうに並んでいるんですか?
ナージャ:イギリスは、いつも同じ5〜6人だけでチームになっていました。その5〜6人で全部先生の話を聞いて、「これはどういうことかな?」とか問題を解いて。そして噂によれば、成績もチームみんな一緒なので、全員同じようにできないと駄目なんです。
茂木:え!? チームで成績がついちゃうんですか?
ナージャ:はい。当時“グループワークを鍛えたい”というのがあって。皆得意科目がバラバラなので、できる子ができない子を教えて、お互いに苦手なことを教え合って、皆で成績を良くしていく、というスタイルでしたね。
茂木:今、クリエイティブディレクターとして大活躍をされていますが、その想像性には、こういう色んな経験をしたことが役立っていると思いますか?
ナージャ:今思うとすごく役立っています。子供の時から色んなところに行って、「布団で寝るのか」とか、「え? ソファでゴロゴロ?」みたいな様々なことが起きた時に、どうやってそれを乗り越えていくかというアイデアを考えるようになったんですよ。“テストで問題が読めないけど、そのテストをどうパスするか”とか。それを試して、やり方を見つけるんです。“喋られないのに、でも合格できる”みたいな。
サバイブしなきゃいけないから、そういう発想力がどんどん閃くようになってしまい、それが今の仕事と同じじゃないですか。“困っている人がいる”とか、“こういう話題がある”とか。“どうやってクリアすればいいんだろう?”ということに、まさに昔、色んな学校で鍛えられた…と言うか、自分が勝手にやっていたことが活かされていたりします。
あとは、色んな人の目線に立てるから、引き出しが増えているとか、そういうところではすごく役立っています。
茂木:やっぱり“困った時の想像性”という感じですかね。そのお陰でこれだけ想像的になれたと思えば、嬉しいですね。
ナージャ:今となったら本当に財産ですけど、当時は大変でした(笑)。
茂木:ナージャさんのこの想像性を育んだ、各国の、余りにも違い過ぎる教育ですが、でも、どれもいいんですよね。例えば、フランスの学校では100点満点というのがなくて、ちょっと中途半端な点数を付けるんですって?
ナージャ:そうなんです。国語とかだと作文があるじゃないですか。日本の学校では、上手く書けると『二重丸』がついてきますが、でもフランスだと、頑張っても、日本で言う80点しか点数をくれないんですよ。こっちは100点を取りたいと思っているから、凄くいい作文を書いて、先生に「なんでこれは100点じゃないんですか?」と聞いたら、「100点というのは、パーフェクトじゃん」と。「パーフェクトというのは、そんなに頻繁に現れる物事じゃないでしょ?」と言われました。80点ぐらいだと、「もっと頑張ればもっと上がいる」みたいな、そういう余白を作って、“どうすればパーフェクトというものを達成できるのか”、自分なりに考えさせられました。
あえて100点を与えないことによって、世の中の厳しさを…現実にそうじゃないですか。完璧な瞬間というものは、そんなに人生で何回も訪れないから、その先生はそういう考え方を、子供の頃から私達に教えていました。
茂木:とんでもない国ですね。ある意味では、フランスは「デカルトぐらいのことを書いたらパーフェクトだよ」と思っているのかもしれないですね。
ナージャ:そうかもしれないですね。
茂木:今回の著書『6カ国転校生 ナージャの発見』は、電通でやっている「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」の活動の一環として、連載をしたんですか。
ナージャ:はい。ここに書かれていることは、私にとっては普通と言うか。それしか知らないから、まさかこれが面白いなんて全然気付かなかったんですよ。
茂木:凄く面白いですよ!
ナージャ:「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を立ち上げた時に、どういう教育があるかを皆で話し合ったんです。私がそういう話をしたら、「めっちゃ面白いじゃん! 何で今までそんなこと教えてくれなかったの!?」と言われ、「え、これ面白いんだ!」と思って、他に何があるかなぁと色々思い出してみました。
もちろん記憶の中にはあっても、全部を並べたことがあるわけではなかったんですけど、こうやって並べてみると「全部違うじゃん!」とか。そういうところを書き始めたところ、皆が面白がってくれたりしました。そして「こんなに違いがあってもいいんだ」ということに気付かされた方がいました。先生方とかもそうですよね。「なんでこのやり方をするといいんだろう?」というのを、論文で学んでも、子供の目線から話を聞いたことが余りなかったということで、面白がってくれました。
茂木:ですから、『6カ国転校生 ナージャの発見』は比較教育学なんですけど、よくある「日本の教育は駄目だけど、アメリカの教育はこんなにいい」というようなタイプではなくて、そもそも6か国も入っているから、最後には「どの教育もいいところがあるんじゃないの?」という、これが素敵ですね。
ナージャ:本当に、それぞれの国で学んだ、とても大切なことがあるので。日本の教育もすごくいいところがいっぱいあるから、もったいないなといつも思っています。
●ウェブ電通報 | キリーロバ ナージャさん 公式ページ
●キリーロバ ナージャさん(@naaadyaaa) Twitter
●集英社インターナショナル 公式サイト
●6ヵ国転校生 ナージャの発見 / キリーロバ・ナージャ (著)
(Amazon)
現在の、ロシア、サンクトペテルブルクのお生まれ。
数学者のお父さまと物理学者のお母さまの転勤とともに、
ロシア、日本、イギリス、フランス、アメリカ、カナダと6ヵ国それぞれの現地校で、
さまざまな教育を受けた、幼少時代を過ごされます。
その後、株式会社電通に入社。
さまざまな広告を企画され、世界の広告賞を総ナメにし、
2015年の世界コピーライターランキング1位に。
国内外の広告やデザインアワードの審査員歴を持つ、
電通のクリエイティブディレクターとして、現在もご活躍中でいらっしゃいます。
──各国の教育が違っていてもいい
茂木:今回、集英社インターナショナルから『6カ国転校生 ナージャの発見』という素晴らしい本を出されています。この凄いところは、全部ナージャさんが自分で経験したことだということですね。
最初にご紹介すると、“椅子と机が各国で全く違う”ということに、僕は「えー!?」と思いました。日本は、皆さんもよく知っているように1人ずつですよね。アメリカはどうなんでしたっけ?
ナージャ:アメリカは、私の学校では、机自体はコの字に並んでいるんですけど、その真ん中に絨毯とソファが置いてありました。算数などは書かなきゃいけないので机ですけど、国語、社会、他の科目は、ソファでゴロゴロしたり床であぐらをかいたりして、先生の話を聞くというスタイルでした。
茂木:イギリスはどういうふうに並んでいるんですか?
ナージャ:イギリスは、いつも同じ5〜6人だけでチームになっていました。その5〜6人で全部先生の話を聞いて、「これはどういうことかな?」とか問題を解いて。そして噂によれば、成績もチームみんな一緒なので、全員同じようにできないと駄目なんです。
茂木:え!? チームで成績がついちゃうんですか?
ナージャ:はい。当時“グループワークを鍛えたい”というのがあって。皆得意科目がバラバラなので、できる子ができない子を教えて、お互いに苦手なことを教え合って、皆で成績を良くしていく、というスタイルでしたね。
茂木:今、クリエイティブディレクターとして大活躍をされていますが、その想像性には、こういう色んな経験をしたことが役立っていると思いますか?
ナージャ:今思うとすごく役立っています。子供の時から色んなところに行って、「布団で寝るのか」とか、「え? ソファでゴロゴロ?」みたいな様々なことが起きた時に、どうやってそれを乗り越えていくかというアイデアを考えるようになったんですよ。“テストで問題が読めないけど、そのテストをどうパスするか”とか。それを試して、やり方を見つけるんです。“喋られないのに、でも合格できる”みたいな。
サバイブしなきゃいけないから、そういう発想力がどんどん閃くようになってしまい、それが今の仕事と同じじゃないですか。“困っている人がいる”とか、“こういう話題がある”とか。“どうやってクリアすればいいんだろう?”ということに、まさに昔、色んな学校で鍛えられた…と言うか、自分が勝手にやっていたことが活かされていたりします。
あとは、色んな人の目線に立てるから、引き出しが増えているとか、そういうところではすごく役立っています。
茂木:やっぱり“困った時の想像性”という感じですかね。そのお陰でこれだけ想像的になれたと思えば、嬉しいですね。
ナージャ:今となったら本当に財産ですけど、当時は大変でした(笑)。
茂木:ナージャさんのこの想像性を育んだ、各国の、余りにも違い過ぎる教育ですが、でも、どれもいいんですよね。例えば、フランスの学校では100点満点というのがなくて、ちょっと中途半端な点数を付けるんですって?
ナージャ:そうなんです。国語とかだと作文があるじゃないですか。日本の学校では、上手く書けると『二重丸』がついてきますが、でもフランスだと、頑張っても、日本で言う80点しか点数をくれないんですよ。こっちは100点を取りたいと思っているから、凄くいい作文を書いて、先生に「なんでこれは100点じゃないんですか?」と聞いたら、「100点というのは、パーフェクトじゃん」と。「パーフェクトというのは、そんなに頻繁に現れる物事じゃないでしょ?」と言われました。80点ぐらいだと、「もっと頑張ればもっと上がいる」みたいな、そういう余白を作って、“どうすればパーフェクトというものを達成できるのか”、自分なりに考えさせられました。
あえて100点を与えないことによって、世の中の厳しさを…現実にそうじゃないですか。完璧な瞬間というものは、そんなに人生で何回も訪れないから、その先生はそういう考え方を、子供の頃から私達に教えていました。
茂木:とんでもない国ですね。ある意味では、フランスは「デカルトぐらいのことを書いたらパーフェクトだよ」と思っているのかもしれないですね。
ナージャ:そうかもしれないですね。
茂木:今回の著書『6カ国転校生 ナージャの発見』は、電通でやっている「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」の活動の一環として、連載をしたんですか。
ナージャ:はい。ここに書かれていることは、私にとっては普通と言うか。それしか知らないから、まさかこれが面白いなんて全然気付かなかったんですよ。
茂木:凄く面白いですよ!
ナージャ:「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を立ち上げた時に、どういう教育があるかを皆で話し合ったんです。私がそういう話をしたら、「めっちゃ面白いじゃん! 何で今までそんなこと教えてくれなかったの!?」と言われ、「え、これ面白いんだ!」と思って、他に何があるかなぁと色々思い出してみました。
もちろん記憶の中にはあっても、全部を並べたことがあるわけではなかったんですけど、こうやって並べてみると「全部違うじゃん!」とか。そういうところを書き始めたところ、皆が面白がってくれたりしました。そして「こんなに違いがあってもいいんだ」ということに気付かされた方がいました。先生方とかもそうですよね。「なんでこのやり方をするといいんだろう?」というのを、論文で学んでも、子供の目線から話を聞いたことが余りなかったということで、面白がってくれました。
茂木:ですから、『6カ国転校生 ナージャの発見』は比較教育学なんですけど、よくある「日本の教育は駄目だけど、アメリカの教育はこんなにいい」というようなタイプではなくて、そもそも6か国も入っているから、最後には「どの教育もいいところがあるんじゃないの?」という、これが素敵ですね。
ナージャ:本当に、それぞれの国で学んだ、とても大切なことがあるので。日本の教育もすごくいいところがいっぱいあるから、もったいないなといつも思っています。
●ウェブ電通報 | キリーロバ ナージャさん 公式ページ
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●集英社インターナショナル 公式サイト
●6ヵ国転校生 ナージャの発見 / キリーロバ・ナージャ (著)
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