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Dream HEART vol.493 映画「百花」の監督 川村元気さん 「大切な記憶は残る」

2022年09月10日

川村元気さんは、 1979年、神奈川県横浜市のお生まれ。

『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』
『怒り』『天気の子』『竜とそばかすの姫』などの映画を製作。
2010年、アメリカのThe Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、
翌年、2011年には、優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。

また、2012年、初の小説『世界から猫が消えたなら』を発表し、
23カ国で出版され累計200万部を突破。話題を集めました。

2018年には、初の監督作品『どちらを』が
カンヌ国際映画祭短編コンペティション部門に選出されるなど、
映画プロデューサー、脚本家、そして小説家、映画監督と、
各分野でご活躍中でいらっしゃいます。


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──テーマは“記憶”

茂木:9月9日より全国で公開になりました、映画『百花』なんですが。本当に現代的なテーマを扱っていますよね。とても皆さんも関心があるテーマだと思うんですが、書かれるに当たってかなり取材されたそうですね。

川村:そうですね。実際、僕のおばあちゃんが認知症になって、「あなただれ?」と言われて衝撃を受けて。一方で、「おばあちゃんの頭の中は一体どうなっているんだろう?」と興味を持ちました。
『君の名は。』でお互いの名前を忘れたりするように、SFとして、人が人のことを忘れるという作品を作ってきたのですが、肉親がそうなるというのは初めての体験でした。それを遠ざけると、どんどん怖いものとか分からないものになっていってしまうと思ったので、踏み込んで、まずはおばあちゃんと話すようにしたんです。
面白かったのが、例えば、「初めて一緒に旅行に行ったのが海だったよね」みたいなことを言うと、おばあちゃんは「湖だよね」と言ってくる。家に帰ってアルバムを見たら、湖で、おばあちゃんの方が正しくて、自分が忘れていたんです。
自分もさまざまな記憶を、書き換えたり、忘れて生きている。その“記憶の違い”みたいなことは、感動的なドラマにもなりうるし、ミステリとしてどんでん返しにもなりうる、ということを思いついて書いた小説が、『百花』でした。

茂木:予告編でも「半分の花火」というのが出てきますので、そこはお伝えしてもいいと思うんですが…。その“どんでん返し”のラストシーンが…不思議ですよね。認知症の方でも、ある記憶はちゃんと残っているという。

川村:はい。

茂木:主演の菅田将暉さんですが、川村元気さんは一貫して、ちょっと仄暗いところがあると思われていたんですか?

川村:彼は底抜けに明るいところもあるし、一方で、自分の中でグッと抱えているような不思議な部分もあって。今回“泉”という役が、ずっと紫色の服を着ていたんですけど、“夜明け前”みたいな印象があったんです。夜明け前は、不気味さと美しさが混じり合っている時間だと思うんですけど、何かそういう印象がずっとありますね。

茂木:原田美枝子さんの役は、黄色なんですよね。あれは意識してそういう色にしたんですか?

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川村:そうですね。アニメーションですと“カラーマネジメント”ということがあるわけですけど、実写では失敗するとリアリティがなくなるので、あまりやらないんです。でも今回はきちんとキャラクターごとに色を決めていて、その濃淡によって記憶が鮮明だったり薄くなっていくという様を、感覚的に味わってもらおうと思って、ちょっとそういうカラーマネジメントをしています。かつ、それを「いかにコスプレじゃなく見せるか」というのを、結構細かくトライしていますね。

──記憶を忘れる人間と、記憶を積み込むAI

茂木:映画の中で、非常に印象的な歌があるんですけど…。これはAIなんですよね?

川村:そうですね。“ヴァーチャル・ヒューマン”というものがありまして、基本的にはAIとCGで人工的に作った歌手です。主人公の泉がレコード会社で、その歌手をデビューさせるというプロジェクトが進んでいる。そのヴァーチャル・ヒューマンの“KOE”という女の子が、劇中にも出てくるし、映画全体の主題歌も歌っています。

茂木:この映画は“記憶”がテーマで、お母さんが認知症で記憶を失っていく…という話なんですけど、その中にこれを入れてきたというのは、どんな思いがあるんですか?

川村:「過去の人気アーティストの顔とか声とかメロディーとか色んなものを、AIにディープラーニングさせて作ったら、ヒット曲が生まれるんじゃないか」というプロジェクトを、主人公の泉のレコード会社がやっているという設定で。つまり、目の前で記憶を失っていく母親と向き合いながら、仕事場に行くと記憶を集積させてヴァーチャル・ヒューマンを作っているという、この対比が面白いんじゃないかな、と。
「人間というのは何でできているか?」ということを『百花』でやってみたくて。「記憶を詰め込んだ先に、人間が生まれるのか」、「じゃあ逆に記憶を失っていったら、それは人間ではないのか」みたいなところが、物語や映画を通じて見えてこないかな、と思ったんです。

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茂木:今は人工知能が作った絵とか、ボーカロイドなんかもあるし、随分人間とAIの境界が揺らいできていますけれども。実は小説の方でもかなりそこら辺が書き込まれていて。
僕は映画とまたちょっと違った面白さがあるなと思ったんですが、川村さんの中ではずっと“AIと人間”というテーマがあったんですか?

川村:実は、小説の方は人間のアーティストという設定で、映画にする時にヴァーチャル・ヒューマン…AIという設定に変えたんですね。
僕の周りには、小説家、漫画家、ミュージシャン、俳優と表現者たちがたくさんいるわけですが、「なんでこの人たちには才能があるんだろう?」ということをいつも考えるんですよ。そういう時に、「色んなことを学んだ・覚えた」ということよりも、幼少期や思春期に「こういうものを大きく失った」とか、「こういう記憶を失ってしまった」とか、どっちかと言うと、得たものよりも失ったものを取り戻そうとして、クリエイティブや個性というものが生まれているのかな、と感じる。そう考えると、「人間らしさや個性というものは、どっちかと言うと、覚えていることよりも忘れてしまったこと・失ってしまったことによって生まれているんじゃないか」という仮説が自分の中にありまして。
僕のおばあちゃんは最後は色んなことを忘れていったんですけど、むしろ僕にはそれが“狂い咲き”に見えました。余計なものがどんどん剥がれ落ちていって、その人にとっての一番大切な記憶…子供の頃に大好きだったお菓子とか、思春期にこういう恋愛をしていたとか、お母さんだったときの子供への愛とか、自分の中で強烈に忘れたくないものが、乱れ咲いていくという印象があったんですよね。だから、「忘れる」というよりも「大切なものが残る」という印象があって、それで『百花』というタイトルになりました。

茂木:この映画『百花』は大ヒット上映中でございます! これからご覧になる方に、監督からメッセージをお願いします!

川村:映画館で映画を観るという体験が、現代においてはすごく貴重な時間だと思うんですよ。スマートフォンを見ない1時間44分。だから、スクリーンに集中して、俳優の真剣勝負、ワンカットの中で写る表情とかを、ぜひ映画館で体験してもらえると嬉しいなと思っています。

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映画『百花』公式サイト


映画『百花』公式(@movie_hyakka) Twitter


KOE 公式サイト


川村元気さん (@seka_neko)Twitter


●『百花』予告