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Dream HEART vol.482 映画監督 是枝裕和さん 映画「ベイビー・ブローカー」

2022年06月25日

是枝裕和監督は、 1962年、東京都のお生まれ。

1987年に早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、
テレビマンユニオンに参加され、主にドキュメンタリー番組を演出されます。
1995年、『幻の光』で映画監督デビュー。

『誰も知らない』(2004年)、『歩いても 歩いても』(2008年)、
『そして父になる』(2013年)、『海街diary』(2015年)などで、
国内外の主要な映画賞を数々受賞。

2014年に独立し、制作者集団「分福」を立ち上げられました。
2018年には、『万引き家族』が、第71回カンヌ国際映画祭で
最高賞であるパルムドールを受賞。
第91回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされました。

そして、自身初となる韓国映画『ベイビー・ブローカー』が、
第75回カンヌ国際映画祭の【コンペティション部門】に選出され、
主要部門の授賞式前に発表される独立賞の「エキュメニカル審査員賞」を受賞、
そして、主演のソン・ガンホさんが、男優賞を受賞と2冠を達成。
昨日6月24日より、全国で公開となり、話題を集めていらっしゃいます。


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──韓国のベイビー・ボックス

茂木:素晴らしい成果を生みました、韓国映画『ベイビー・ブローカー』なんですけど、まずはどんな作品かご紹介したいと思います。

「古びたクリーニング店を営みながら借金に追われる(ソン・ガンホさん演じる)サンヒョンと、ベイビー・ボックスがある教会で働く児童養護施設出身の(カン・ドンウォンさん演じる)ドンスの2人は、ベイビー・ボックスに預けられた赤ちゃんをこっそり売り飛ばす“ベイビー・ブローカー”という裏稼業に手を染めていました。
そんなある夜、彼らは、(イ・ジウンさん演じる)若い女・ソヨンがベイビー・ボックスに預けた赤ちゃんを連れ去るんですけれども、翌日思い直して戻ってきたソヨンに犯行を気づかれてしまいます。
警察に通報されそうになった2人は『養父母を探すために引き取った』と言い訳をして、その成り行きから3人で養父母探しの旅に出ることになります。
一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた(ぺ・ドゥナさん演じる)刑事スジンと(イ・ジュヨンさん演じる)後輩のイ刑事は、現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていく。」という内容なのですが…。

デビュー作の『幻の光』以外は、全部監督の単独脚本ですよね? 今回の『ベイビー・ブローカー』も是枝監督の脚本で、“是枝イズム”と言うか、もともと縁もゆかりもなかった方々が疑似家族みたいになっていく…、というのは、今回もそうですもんね。

是枝:そうですね。いくつかの物語を並行して走らせているんですけども、一番大きいのはそれですね。「車に乗り合わせた人たちが、1つの家族になっていく話」というのをベースに考えました。

茂木:監督は本当に社会問題に対する視点も非常に鋭いんですけれども、この映画の背景になっています、“赤ちゃんポスト”ですね。“ベイビー・ボックス”、日本でも内密出産など問題になっていますが、監督がこれに注目されたのはかなり前のことらしいですね。

是枝:2013年に『そして父になる』という映画を作った時に、日本の養子縁組制度や里親制度のことをリサーチをしまして、熊本にそういう施設があるということを知りました。そこで関心を持って調べたのが最初でした。

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茂木:これは韓国でも社会問題となっているんでしょうか。

是枝:日本の熊本の慈恵病院の取り組みで預かってる赤ちゃんの数の、10倍ぐらいの赤ちゃんを預かっている施設が、ソウルにあります。最初のリサーチでは3つぐらいあると聞いていたので、もう少し社会的な広がりがあるのかなと思っていたんですが、行ってみたら、今運用されているのがそこだけで。ただ、今までに2,000人以上の赤ちゃんの命をそこで救っているということがありまして、認知度も高かったです。
ただ、韓国でもすごく賛否があります。賛否があるからこそ、取り上げる題材としてはいいのかな、と思いました。

茂木:「エキュメニカル審査員賞」の『エキュメニカル』というのは、クリスチャンの思想を背景にした賞だったと思うんですが。韓国ではかなりキリスト教を信じていらっしゃる方が多いと思いますけど、その辺りも背景にはあるんでしょうか。

是枝:養子縁組制度が日本よりすごく定着しているのは、そうですね。施設から赤ちゃんを引き受けて実子として育てていく方々の多くは、やっぱりクリスチャンでした。

茂木:そして今回の『ベイビー・ブローカー』ももちろん“是枝イズム”があるんですけど、韓国映画ならではのダイナミズムと言うか、私はプロットが非常に興味深かったんです。「どうなんだろう?」と、もうドキドキしちゃって…。

是枝:良かったです…(笑)。

茂木:韓国で撮ったというのはどうでしたか?

是枝:あの韓国の風景・街並みが魅力的だというのを、映画祭で何度か行って見ていたので、その街前提で脚本を書きつつ…。あれが家の中の話だとすごく停滞するんですけれども、旅の話にしていくことで、“車の中を一つの家として描く”という感覚でした。それが移動して行く中で出会うものを、どういう風に描き込んでいくか、ということで、ダイナミックと言うより“変化をどういう風に付けていくか”、ということは考えました。

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──養護施設で育った、ある男の子に向けて

茂木:『ベイビー・ブローカー』は作品としてももちろん素晴らしいし、観た後の感覚が良かったんです。きっと大ヒットすると思うんですけども、今回の映画は、どういう方に観て頂きたいですか?

是枝:確かに、今回は僕もいい読後感が作れたなと思っていて、お客様を限定せずに観て頂けるものになったんじゃないかな、という気がしています。

茂木:僕、是枝監督は作風が多彩な方だなと思っていまして。『万引き家族』はケン・ローチ監督的な社会批評ということも随分あったように思うんですが、『歩いても 歩いても』なんて、本当に静かな映画ですもんね。だから、『ベイビー・ブローカー』の中には、皆が知らない是枝監督がいる感じがしました。

是枝:(笑)。ああ、そうかもしれないです。でもそれは、僕の中に何かいると言うより、やっぱり“出会い”なんですよね。“誰と出会って誰と作るか”で、たぶん大きく変わるので。
今回で言うと、取材の過程で、親と離れて養護施設で育った男の子が、「“自分が生まれて来て本当に良かったんだろうか?”ということに確信が持てないまま、大人になっている」、ということを話してくれたんです。そういう声に触れて、彼にそう思わせてしまうのは、それは母親の責任じゃなくて、社会の責任だと僕は思いました。僕は大人としてその側にいるから、「彼に対して何か言えることはないだろうか?」と思いながら作ったんですね。

茂木:その方に向けて作った映画、と。

是枝:今回は、その人に向けて作りました。その子がこれを観たいか、とか、そういうことは分からないですけれども、ただ、特定の誰かに向けて作った方が、結果的には多くの人に届くと言うのは、テレビ時代からそう言われて実践していることなので。今回はその子に向かって作っていることが、今までの他の作品とちょっと違う着地点になったのかな、と思っています。

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映画『ベイビー・ブローカー』公式サイト


映画『ベイビー・ブローカー』公式 Twitter (@babybroker_jp)


是枝裕和 (@hkoreeda) Twitter


是枝裕和 公式サイト