Dream Heart(ドリームハート)

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Dream HEART vol.454 作家 綿矢りささん 著書「あのころなにしてた?」

2021年12月11日

綿矢さんは、1984年、京都府のお生まれ。

高校在学中の2001年に、『インストール』で文藝賞を受賞し、作家デビュー。

2004年に、早稲田大学教育学部在学中に、
『蹴りたい背中』で、芥川賞を受賞されます。

2012年には、『かわいそうだね?』で、大江健三郎賞を、
さらに、2020年には、『生のみ生のままで』で、島清恋愛文学賞を受賞されます。

そのほかの著書に、『ひらいて』、『夢を与える』、『勝手にふるえてろ』、『手のひらの京』、
『私をくいとめて』、『意識のリボン』、『オーラの発表会』など、多数ございます。

そして、今年、9月に、新潮社から、綿矢さん初のエッセイ
『あのころなにしてた?』を発売されていらっしゃいます。


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──コロナ禍での日常

茂木:ご著書『あのころなにしてた?』は、今回は初のエッセイになるんですね。

綿矢:そうですね。初めて“エッセイという形の日記”で書かせて頂きました。

茂木:『あのころなにしてた?』の『ころな』の字の色が変わっているんですが?

綿矢:はい。コロナの時に書いた日記で、ほぼコロナのことについて書いてるので、そこだけ色が変わってる感じです。

茂木:綿矢さんの日常がありのままに綴られていて、これは本当に日記ですね。

綿矢:そうですね(笑)。コロナが始まった時は、「一体この感染病がどういうものか」全く分からなくて、それをリアルタイムで日記で付けてたという感じです。

茂木:普段は、日記を書かれる習慣はない?

綿矢:全くないです。コロナの報道とかが始まった時に自分が日記を書き始めて、それを編集者さんに言ってみたら、「じゃあ連載で日記を」という風な感じで(笑)。

茂木:そうなんですか! 僕は拝読していて、淡々と「あ、確かにそうだったよな」とか、本当に共感できるようなことがたくさん書かれていましたが、最後のあとがきがどんどん“綿矢ワールド”になっていって(笑)。ここから小説が離陸するんだな、と、不思議な読み味のあとがきでした。

綿矢:あとがきは、思ってたよりも長めに書くことになって(笑)。日記を書いてから出版されるまでに、結構間があるから、その間に起ったことをあとがきで全部書いて行ったら結構長くなったというような(笑)。

茂木:コロナ文学と言うか、小説家として、このコロナ禍というのはどのようにお感じなって、今後作品に生きて行きそうですか?

綿矢:今書く小説では、コロナの世界で皆マスクを着けてたりするんですけど、始まりの頃は、本当にいつまで続くかも分からないし、どういう病気かも分からなかったので、自分の小説に書くのは難しいなと思っていました。でも、年月が経って長引いて来てるものですから、それでだんだん普通に書けるようになってきました。

茂木:なるほど。このエッセイ、あの年月がこうやって一冊の本になってるんですが、今ご自身としてはどうですか?

綿矢:読んでくださった方は、「もう既に懐かしい」と書いてくださっている方が多くて。私も出来上がってから読んだら、「感染者数とかもこんな少ないのにこんなに怖がってたんだな」とか、あと「初期の頃は、消毒液とかをお店の人がわざわざ手にかけてくれたりしてたな」とか思い出して、懐かしいと言うか、今も大変やけど、この頃の方がもっと大変だったなと思います。

茂木:そうですよね。

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──映画の原作として

茂木:綿矢さんの作品はよく映画化されていますけど、いかがですか? 今回の『ひらいて』もそうですし、『私をくいとめて』もそうですが、ご自身の作品が映画になるというのはどんなお気持ちですか?

綿矢:はじめはすごく嬉しいんですけど、その映画作品の完成度がすごく高くて、それを観ると自分の原作としての反省みたいなのが…(笑)。映画で足されている要素を観た時に、「何で私はこの登場人物のこういう側面とかに気づかなかったんだろう? 膨らませられなかったんだろう?」と思ったりして(笑)、反省するんです。その監督の創意工夫みたいなのを見て、「あ、足りないところを足して頂いたな」という気持ちになったりします。

茂木:そうなるんですか。『ひらいて』では、男の子のお父さんがちょっと困った人だというのを、原作ではどう困っているか分からないと言うか抽象的なのに、映画ではかなり具体的に描かれていましたよね。

綿矢:はい、そうです、そこです! 主要人物ではないけど、結構重要な登場人物の背景について、私はあの時まだ20代で大人の男性の職業的な背景や性格的な背景についてまで思いが及んでいなかったんです。原作ではかなり触れられずに終わってしまったので、その部分を映画でキャラ付けしてあるのを観ると、「ああ、そっか。やっぱりこういうところは大切やな」と思ったりしました(笑)。

茂木:綿矢さんはいい人ですね。

綿矢:いやいや…。そんな感じで、映画を観ることによって自分の作品も見直せるな、と思います。

茂木:なるほど。皆さん、ぜひ、映画『ひらいて』もどこが付け加わったかというのも楽しみに観て頂きたいなと思うんですが。
綿矢さん、今回の綿矢さん初のエッセイ『あのころなにしてた?』は、どういう方に読んで頂きたいですか?

綿矢:コロナが世間にいっぱい感染者を増やして、正体不明なまま皆巻き込まれて行ったから、その時のストレスはまだ自分達の中に残っている気がしています。普通に生活が戻ったとしても、「あの時期は一体何やったんやろう?」と思い返す時が来ると思うんですよね。その時にちょっと「虚しいな」とか思う人がもしいたら、こういう日記を読んでくださったら「ああ、皆こういう気持ちを味わってたんだな」と思えるかな、と。だから、そういう「あれは何やったんやろう? 今でも続いてるけど」と思ってる人に読んで欲しいですね。

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●あのころなにしてた? / 綿矢りさ
(Amazon)


新潮社 公式サイト


映画『ひらいて』(@hiraite_movie) Twitter

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