2021年11月13日
津田寛治さんは、1965年、福井県のお生まれです。
1993年、北野武監督の映画『ソナチネ』で映画デビュー。
以降、『模倣犯』、『トウキョウソナタ』、『シン・ゴジラ』など、多数出演。
また、『水戸黄門』、『特捜9』、『ラーメン刑事』、大河ドラマ『晴天を衝け』など、ドラマの出演や、
自身の脚本・監督作『カタラズのまちで』、『あのまちの夫婦』が公開されるなど、
多方面でご活躍されていらっしゃいます。
──30年間ジャングルと向き合った男
茂木:現在、全国で公開中の映画『ONODA 一万夜を越えて』。本当に素晴らしい映画ですね。(ジャングルの中で)30年ですもんね。だけどその長い時間を小野田さんと一緒に過ごしたような、そんな気持ちになりました。
津田:本当ですか! それは本当に嬉しいです! 3時間という尺が長いのか・短いのか、制作に携わっている当事者としては、やっぱりそこが気になるんですよね。30年という月日を、トリップして貰うには短すぎるのか、3時間というのが長すぎて飽きてしまうのか、どうだったんだろうな、というのは気になりましたね。
茂木:僕は本当に、あっという間に時間が経ってしまいました。
この『ONODA 一万夜を越えて』なんですけれども、「太平洋戦争終戦を知らされないまま、フィリピンのルバング島で孤独な日々を過ごし、およそ30年後の1974年に51歳で日本に帰還し社会現象になった、旧陸軍少尉、小野田寛郎の潜伏期間の史実を元に着想を得て描かれた作品」です。
この映画は、フランス、日本、ドイツ、ベルギー、イタリアの国際共同製作映画でありながら、監督はフランスのアンチュール・アラリ監督です。こういう制作体制ながらも、なんとほぼ日本人キャストで、ほぼ全編が日本語のセリフで描かれています。
フランス人のアラリ監督が、小野田さんのような旧日本兵の生き方に興味を持つ、ということは凄いことですが、これはどこから来ていると感じられました?
津田:最初、オーディションの話が来た時に、「フランスの新進気鋭の若手監督が、小野田寛郎さんの話を映画にするんだ」と言われてびっくりしまして(笑)。海外の人が日本軍を描いた『硫黄島からの手紙』などもあったりしますけど、僕らからすると、小野田さんは第二次世界大戦・大東亜戦争とはちょっと違う感じですよね。だから「この微妙なニュアンスというのを、フランスの監督がどんな風に描くんだろうな?」という二重の驚きがありました。
茂木:そして、監督の指示としては「なるべく脚本以外を読むな」とおっしゃったそうですが、これはどういうことなんですか?
津田:これがね、青年期を演じた遠藤(雄弥)くんと、僕は壮年期の小野田寛郎さんを演じているわけですけど、僕と遠藤くんで指示が違っていたんですよ。遠藤くんは小野田さんの資料を読んで、「この映画を観ておけ」など色々言われたらしいんですけど、僕が監督に「何を観たり読んだりしておけばいいですか?」と聞いたら「台本以外一切読まないでくれ。何も観ないでくれ」と言われて(笑)。
茂木:どういうことなんですかね?
津田:現場に入って気づいたんですけど、壮年期の小野田寛郎に関して、監督は“実際の小野田さん”と言うよりは、“ジャングルの中で、そのジャングルと30年間向き合った一人の男(人間)”を描きたかったんだ、という感じがしましたね。
茂木:監督はドキュメンタリーを撮ろうとしたわけではない、ということなんですよね。
津田:そうですね。“小野田寛郎さんの史実”を撮ろうとしたわけではなく、あくまで“30年間ジャングルで潜伏した男”の映画を撮りたかったんだな、とすごく感じました。
茂木:津田さんは、実際に小野田寛郎という人物を演じてみて、小野田さんはどういう人だったと感じられました?
津田:すごく瞑想をする時の気持ちに似てると言うか、小野田さんはジャングルの中で無の心境になったところがすごくたくさんあったんだろうな、という気がしました。その中で、人の何百倍も自分自身と向き合って、そこで一つ答えを出されて、日本に帰って来られた方なんだ、というのは、撮影の中で感じましたね。
茂木:最後に青年が小野田さんに会いに行くんですけど、じゃあ、小野田さんとしても、あそこは自分で(ジャングルから出ることを)決めた、と。
津田:僕はそう思っています。これは本当に僕の考え方なので、正しいとか間違いとかないと思うんですけれども…。僕自身の考えでは、小野田さんというのは、たぶん自分がそこに居たくて30年間ジャングルにいたんじゃないかな、という気がしているんです。
茂木:出ようと思ったらいつでも出られたんだけど、敢えて居たかった?
津田:そこで、「もう十分だろう」と思われて、帰って来られたんじゃないかな、と、僕自身は思っていますね。もう少し長く居たら、自分の中で腑に落ちる何かがあったのかな、という気はしましたね。
ただ、やっぱり小塚という盟友が亡くなった、というのが一つ大きくあったと思うんですけれども。小塚が亡くなったことで本当に一人ぼっちになっちゃったじゃないですか。僕の中での組み立てでは、そこでジャングルに飲み込まれそうになってしまう、と言うんでしょうか。ジャングルの大きな循環の中の一つの生き物となってしまって、過去に亡くなって行った戦友たちや、小塚のこと、何のためにルバング島に来たか、という兵士としての自分とか、色んなものを忘れて、ただ単にそのサイクルに入って行きそうになってしまって、そこが怖かったというのもあるんだろうな、という気がしました。
茂木:この映画は、津田寛治さんの役者人生においても、凄く大きな作品になりましたね。
津田:そうですね、本当になりましたね。
茂木:今我々は現代日本に生きているんですけど、この映画をどういう風に観てもらいたいと思っていらっしゃいますか?
津田:僕はどちらかと言うと若い人に観てもらいたいなと思っています。もちろん老若男女皆さんが楽しめる映画ではあると思うんです。小野田さんの史実として観ても面白いと思うし。ただ僕は、今の若い人は、逆に日本のことにすごく興味を持っているんじゃないかな、と思うんですね。「僕たちの国は、本当はどんな国なんだろう?」と。「ここまで海外などにも揉みくちゃにされて、色々大変なことになってしまっているけれども、もっともっと辿っていくと、本当は素晴らしい国だったんじゃないのか」と思われている若い人がすごく多いなと思うんです。
そういう人たちがこの映画を観て、“昔、こういう日本兵が一人いたんだ”と。“その人が一つ想いを持って日本に帰ろうと思ったんだ”というのをこの映画で体験して頂くことによって、それをきっかけにして小野田さんのことを色々調べてもらうと面白いことが分かってくるんじゃないかな、という気がします。
茂木:皆さん、是非、ご覧頂きたいと思います。
●映画『ONODA 一万夜を越えて』予告編
2021年10月8日(金)全国公開
配給:エレファントハウス
@cbathysphere ‐ To Be Continued ‐ Ascent film ‐ Chipangu ‐ Frakas Productions ‐ Pandora Film Produktion ‐ Arte France Cinéma
●映画『ONODA 一万夜を越えて』公式サイト
↑現在上映中の映画館など、詳しい情報は公式サイトでご確認ください。
●映画「ONODA」公式Twitter (@OfficialOnoda)
●津田寛治 公式サイト
1993年、北野武監督の映画『ソナチネ』で映画デビュー。
以降、『模倣犯』、『トウキョウソナタ』、『シン・ゴジラ』など、多数出演。
また、『水戸黄門』、『特捜9』、『ラーメン刑事』、大河ドラマ『晴天を衝け』など、ドラマの出演や、
自身の脚本・監督作『カタラズのまちで』、『あのまちの夫婦』が公開されるなど、
多方面でご活躍されていらっしゃいます。
──30年間ジャングルと向き合った男
茂木:現在、全国で公開中の映画『ONODA 一万夜を越えて』。本当に素晴らしい映画ですね。(ジャングルの中で)30年ですもんね。だけどその長い時間を小野田さんと一緒に過ごしたような、そんな気持ちになりました。
津田:本当ですか! それは本当に嬉しいです! 3時間という尺が長いのか・短いのか、制作に携わっている当事者としては、やっぱりそこが気になるんですよね。30年という月日を、トリップして貰うには短すぎるのか、3時間というのが長すぎて飽きてしまうのか、どうだったんだろうな、というのは気になりましたね。
茂木:僕は本当に、あっという間に時間が経ってしまいました。
この『ONODA 一万夜を越えて』なんですけれども、「太平洋戦争終戦を知らされないまま、フィリピンのルバング島で孤独な日々を過ごし、およそ30年後の1974年に51歳で日本に帰還し社会現象になった、旧陸軍少尉、小野田寛郎の潜伏期間の史実を元に着想を得て描かれた作品」です。
この映画は、フランス、日本、ドイツ、ベルギー、イタリアの国際共同製作映画でありながら、監督はフランスのアンチュール・アラリ監督です。こういう制作体制ながらも、なんとほぼ日本人キャストで、ほぼ全編が日本語のセリフで描かれています。
フランス人のアラリ監督が、小野田さんのような旧日本兵の生き方に興味を持つ、ということは凄いことですが、これはどこから来ていると感じられました?
津田:最初、オーディションの話が来た時に、「フランスの新進気鋭の若手監督が、小野田寛郎さんの話を映画にするんだ」と言われてびっくりしまして(笑)。海外の人が日本軍を描いた『硫黄島からの手紙』などもあったりしますけど、僕らからすると、小野田さんは第二次世界大戦・大東亜戦争とはちょっと違う感じですよね。だから「この微妙なニュアンスというのを、フランスの監督がどんな風に描くんだろうな?」という二重の驚きがありました。
茂木:そして、監督の指示としては「なるべく脚本以外を読むな」とおっしゃったそうですが、これはどういうことなんですか?
津田:これがね、青年期を演じた遠藤(雄弥)くんと、僕は壮年期の小野田寛郎さんを演じているわけですけど、僕と遠藤くんで指示が違っていたんですよ。遠藤くんは小野田さんの資料を読んで、「この映画を観ておけ」など色々言われたらしいんですけど、僕が監督に「何を観たり読んだりしておけばいいですか?」と聞いたら「台本以外一切読まないでくれ。何も観ないでくれ」と言われて(笑)。
茂木:どういうことなんですかね?
津田:現場に入って気づいたんですけど、壮年期の小野田寛郎に関して、監督は“実際の小野田さん”と言うよりは、“ジャングルの中で、そのジャングルと30年間向き合った一人の男(人間)”を描きたかったんだ、という感じがしましたね。
茂木:監督はドキュメンタリーを撮ろうとしたわけではない、ということなんですよね。
津田:そうですね。“小野田寛郎さんの史実”を撮ろうとしたわけではなく、あくまで“30年間ジャングルで潜伏した男”の映画を撮りたかったんだな、とすごく感じました。
茂木:津田さんは、実際に小野田寛郎という人物を演じてみて、小野田さんはどういう人だったと感じられました?
津田:すごく瞑想をする時の気持ちに似てると言うか、小野田さんはジャングルの中で無の心境になったところがすごくたくさんあったんだろうな、という気がしました。その中で、人の何百倍も自分自身と向き合って、そこで一つ答えを出されて、日本に帰って来られた方なんだ、というのは、撮影の中で感じましたね。
茂木:最後に青年が小野田さんに会いに行くんですけど、じゃあ、小野田さんとしても、あそこは自分で(ジャングルから出ることを)決めた、と。
津田:僕はそう思っています。これは本当に僕の考え方なので、正しいとか間違いとかないと思うんですけれども…。僕自身の考えでは、小野田さんというのは、たぶん自分がそこに居たくて30年間ジャングルにいたんじゃないかな、という気がしているんです。
茂木:出ようと思ったらいつでも出られたんだけど、敢えて居たかった?
津田:そこで、「もう十分だろう」と思われて、帰って来られたんじゃないかな、と、僕自身は思っていますね。もう少し長く居たら、自分の中で腑に落ちる何かがあったのかな、という気はしましたね。
ただ、やっぱり小塚という盟友が亡くなった、というのが一つ大きくあったと思うんですけれども。小塚が亡くなったことで本当に一人ぼっちになっちゃったじゃないですか。僕の中での組み立てでは、そこでジャングルに飲み込まれそうになってしまう、と言うんでしょうか。ジャングルの大きな循環の中の一つの生き物となってしまって、過去に亡くなって行った戦友たちや、小塚のこと、何のためにルバング島に来たか、という兵士としての自分とか、色んなものを忘れて、ただ単にそのサイクルに入って行きそうになってしまって、そこが怖かったというのもあるんだろうな、という気がしました。
茂木:この映画は、津田寛治さんの役者人生においても、凄く大きな作品になりましたね。
津田:そうですね、本当になりましたね。
茂木:今我々は現代日本に生きているんですけど、この映画をどういう風に観てもらいたいと思っていらっしゃいますか?
津田:僕はどちらかと言うと若い人に観てもらいたいなと思っています。もちろん老若男女皆さんが楽しめる映画ではあると思うんです。小野田さんの史実として観ても面白いと思うし。ただ僕は、今の若い人は、逆に日本のことにすごく興味を持っているんじゃないかな、と思うんですね。「僕たちの国は、本当はどんな国なんだろう?」と。「ここまで海外などにも揉みくちゃにされて、色々大変なことになってしまっているけれども、もっともっと辿っていくと、本当は素晴らしい国だったんじゃないのか」と思われている若い人がすごく多いなと思うんです。
そういう人たちがこの映画を観て、“昔、こういう日本兵が一人いたんだ”と。“その人が一つ想いを持って日本に帰ろうと思ったんだ”というのをこの映画で体験して頂くことによって、それをきっかけにして小野田さんのことを色々調べてもらうと面白いことが分かってくるんじゃないかな、という気がします。
茂木:皆さん、是非、ご覧頂きたいと思います。
●映画『ONODA 一万夜を越えて』予告編
2021年10月8日(金)全国公開
配給:エレファントハウス
@cbathysphere ‐ To Be Continued ‐ Ascent film ‐ Chipangu ‐ Frakas Productions ‐ Pandora Film Produktion ‐ Arte France Cinéma
●映画『ONODA 一万夜を越えて』公式サイト
↑現在上映中の映画館など、詳しい情報は公式サイトでご確認ください。
●映画「ONODA」公式Twitter (@OfficialOnoda)
●津田寛治 公式サイト