Dream Heart(ドリームハート)

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Dream HEART vol.428 アルピニスト 野口健さん 著書「登り続ける、ということ。」

2021年06月12日

野口健さんは、1973年、アメリカ・ボストンのお生まれです。

1999年、エベレストの登頂に成功し
7大陸最高峰世界最年少登頂記録を25歳で樹立。

2000年からはエベレストや富士山での清掃登山を開始。
以後、全国の小中学生を主な対象とした「野口健・環境学校」を開校するなど、
積極的に環境問題への取り組みを行っていらっしゃいます。

現在は、清掃活動に加え、
地球温暖化による氷河の融解防止にむけた対策に力を入れており、
北海道洞爺湖サミットでは政府に対し現場の状況を訴える等、
精力的に活動を行っていらっしゃいます。

また、2015年4月、ヒマラヤ遠征中にネパール大震災に遭遇。
すぐに「ヒマラヤ大震災基金」を立ち上げ、ネパールの村々の支援活動を
継続的に行っていらっしゃいます。


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──世の中の『A面』『B面』

茂木:野口さんが今回、学研プラスから出された『登り続ける、ということ。』。これを読むと、野口さんはとてもいい人ですね! 実際、いいことをされてますよね。富士山のゴミ拾いはみなさん良くご存知だと思うんですけど、エベレストでもゴミ拾いをされていて、あと現地(ヒマラヤ)で学校も作られていて、子供たちにランドセルを贈っていて…。

野口:ランドセルをあんなに喜ぶと思わなくてね。エベレスト街道に学校がいっぱいあるんですけど、じゃあ全部に届けるか、と言って始まって…去年、全部届け終えました。

茂木:そして、熊本で地震があったら、テントを持って駆けつける、と。

野口:僕らは山屋なので、山屋の発想なんですけどね。避難所があっても人が入れない、とか。特に子供さんは、揺れてガタガタッと音がするから建物に入ることが怖いんですよね。

茂木:ああ、そうか。ヒマラヤの大地震は現地で体験されたんですよね。

野口:そう。ちょうどエベレストのベースキャンプの入り口にいたんです。そこでドーン、と来て…。石も落ちて来るし、雪崩もあったし、ベースキャンプではものすごく多くの方が亡くなったし。村に降りたら、シェルパの村は家がみんな壊れてるし、もちろん避難所はないし。
そこで「テントだ」ということで、テントを集めてヒマラヤに配って行きました。という活動から、その1年後に今度は熊本の地震があったので、「じゃあ熊本でもテントだな」という…まぁ、山屋の考えることです。

茂木:シェルパの方々に向ける目も本当に暖かくて。ご著書の中で『A面』『B面』と書かれていますが、『B面』に対する目の優しさというのがね。

野口:あれは僕の親父の影響があります。親父は外交官で、ODAが主な仕事でした。中近東が多くて、アフリカとかアラブとか、子供の頃に僕も一緒にそこにいるわけじゃないですか。そうすると、親父が色んな現場に連れて行くんですよ。難民キャンプとか、紛争地域とか。
イエメンの時は野戦病院みたいなところに連れて行かれたんです。救急車もないので、運ばれてくる方々が輸血ができないまま運ばれてくるじゃないですか。医者も少ないので、廊下でパッと見て「あ、これはもう駄目だな」と思ったら、廊下に置くわけですよ。そして、助かる人だけを診るわけですね。
僕はその廊下にずっといて、横で残された方がだんだん弱っていって最後に息を引き取る、というのを子供の頃に見せられて…結構ヘビーじゃないですか。

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茂木:それはヘビーだし、もし医療体制が整っていれば、助かっている命ですよね。

野口:それが子供ながらにショックで、親父に「なんでそんなところばっかり僕を連れて行くの?」と聞いたんですよね。そしたら、「世の中には『A面』と『B面』があって、『A面』は本当によく目に入るけど、『B面』というのはあえて行かなきゃ見えない」、「世の中のテーマは『B面』だ。お前も『B面』を見ろ」と。それが小・中・高校の頃ずっとそうで、色んな現場に連れて行かれて、「世の中には『A面』『B面』がある」ということを植え付けられました。
例えば、僕らがエベレストに登って話題になるのは『A面』で、でもその陰でシェルパが亡くなったことは表に出ない『B面』じゃないですか。富士山も遠くから見て美しいのは『A面』だけど、樹海なんかに入って行ったら不法投棄の山で、これは『B面』ですよね。
だから『A面』『B面』というのが親の教育で、その影響ですね。

──『世界文化遺産』“霊峰富士”の宿題

茂木:日本人でも、世界遺産に登録されている富士山に登られる方が多いらしいんですけど、最近富士山の登山では困ったことがあるんですか。

野口:はい。富士山の周りで起きていることで、ふもとにキャンプ場とかがあったりするじゃないですか。新型コロナになって、「キャンプ場は安心だ」ということで、今“キャンプブーム”がすごいんですよ。

茂木:らしいですね。

野口:こういう時こそ自然と接するというのはすごく精神的にいいので、キャンプブームはいいと思うんですけど…。ただ問題は、ゴミがすごい!

茂木:皆置いて行っちゃうんですか?

野口:置いていかれる方が多いんですよ。車で来る方も、車からのポイ捨てもすごく増えています。去年、富士山の国道周辺の清掃をやってきましたけど、車からのポイ捨てのゴミはむしろ増えている印象すらあるんです。

茂木:酷いね…。

野口:例えば、家族で来るからだと思うんですけど、ポイ捨てされているゴミの中に“使用済みの紙おむつ”が袋にあったり…。あとは、ペットボトルがいっぱい落ちてるんですけど、中身が入ってるんですよ。最初、清掃している時に「麦茶かな? お茶かな?」と思うんですね。

茂木:まさか…!

野口:まさかのまさか! それを開けた時に熱を持ってると、ファーッと噴くんですよ。“おしっこ”ですよね。

茂木:うわぁ!

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野口:“おしっこが入っているペットボトル”がすっごく増えていて、僕らは『富士山クラブ』というNPOで活動してるんですけど、去年は回収したペットボトル何千本かの3分の1ぐらいが…3分の1ぐらいが、ですよ? おしっこ入り!

茂木:これは本当に困りますよね。当然、ちゃんとした環境教育とかを受けていないと言うか、自然のことを知らない・愛していない人たちなのかなぁ?

野口:うーん、本当にそれは僕も分からないんですけどね。ただ、山の上は綺麗になってきましたよ。

茂木:これはもう野口さんの功績じゃないですか。だって、世界遺産に登録された時に、「登録されるのをいいことじゃないかもしれない」と思ったんですよね。

野口:僕は、『世界遺産』というブランドはどうかな、と思っています。僕は今、富士山の清掃をやって22年目なんですよ。だいぶ順調にゴミも無くなってきて、でもまだある。だから課題はたくさんある。
例えば、世界遺産にするためには、ゴミの問題もそうだし、人がたくさん来るので人数制限をある程度しなきゃいけないよね、とか、色んなルールを決めていけば良かったんです。でも、先に世界遺産になっちゃった。なっちゃうと、多くの日本人からすると「富士山は合格点」だと感じてしまう。

茂木:今のままでいいんだと思っちゃう。

野口:そう。でも実は、この世界遺産は宿題がいっぱい付いたんですね。これだけ宿題がいっぱい付いた世界遺産は過去にそれほどないんじゃないか、というぐらいに“条件付き”の世界遺産なのに、その“条件付き”のところが余り表に出ないので、「これでいいんだ」と思ってしまう。そうなってしまうと、ゴミが増える。実際に、世界遺産になってゴミが増えたんですよ。

茂木:そうなんだ…。

野口:やっぱりたくさん人がいらっしゃるしね。ですから、「何のための世界遺産か?」というね。そこが一番大事じゃないですか。
富士山が“霊峰富士”ということが評価されて『文化遺産』になったのに、多くの日本人はそこを知らない・理解していないんです。ですから、世界遺産になったきっかけで、そういうことも知られればいいんですよ。でも、何となく「世界遺産バンザーイ!」で終わっちゃうことがもったいないなと思いますね。

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野口健公式ウェブサイト


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