Dream Heart(ドリームハート)

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Dream HEART vol.426 ダンサー・俳優 田中泯さん 映画「HOKUSAI」

2021年05月29日

田中泯さんは、1945年、東京都のお生まれ。

1974年にダンサーとして活動を開始し、1978年にルーブル美術館において海外デビュー。
2002年の『たそがれ清兵衛』でスクリーンデビューし、
第26回日本アカデミー賞新人俳優賞、最優秀助演男優賞を受賞されました。

その後も国内のみならず、ハリウッドからアジア圏にわたって映画、ドラマなど、
映像作品に多数、ご出演されていらっしゃいます。

そして、現在全国で公開中の映画『HOKUSAI』で、柳楽優弥さんとダブル主演で、
江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎を演じられていらっしゃいます。


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──葛飾北斎はものすごく新しい人

茂木:田中さんは昨日5月28日から全国公開された映画『HOKUSAI』で、柳楽優弥さんとダブル主演で、江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎を演じていらっしゃいます。この映画はすごい映画になりましたね! 演じられていかがでしたか?

田中:北斎の絵は好きだったんですけど、でもまさかその北斎の晩年の演技をやらせて貰えるなんて思ってもいなかったので、それで飛び上がって喜んだんですが…。そこから先が苦労で、「一体どうやったら北斎なんだろう?」というのが、すごく苦しいところでしたね。
人間は死ぬと何も残らないじゃないですか。絵は残っているけれども、北斎が絵に至るどんな思考だったり、あるいは日常的に何に目が行っている人だったのか、とか、もろもろ、恐らく死んでしまうとそれらのほとんどが消えて行って。彼がもし、絵と同じくらいに物を書いていたりとかすれば、色んなことを想像できるんだけども、そういう資料が全くない、ということで、結構大変な思いをしましたね。

茂木:拝見しますと、田中泯さんはもちろんダンサーでいらっしゃいますから、体の表現が、北斎の身振り手振りですごい存在感と説得力を感じました。
絵を描くところなどはどうされたんですか?

田中:それは研究している方がいらっしゃって、しっかり教わりました。それで自分で練習して…ということなんですけども。
想像つかないんですけど、北斎は恐らく世界でも初めてで最後ぐらいの、人間の瞬間の体を描き留めると言うか、「どんな目をしてたのかな?」と思いますね。普通絵描きは、モデルを止めて描くじゃないですか。でも、北斎は常に生きて動いている人たちの体を描くんですよね。それはもう昔から本当にすごいと思っていました。

茂木:田中泯さんも、山梨で農作業をしながら踊られるということを構想された頃に、現地の農家の方々の佇まいを見て「これだ!」と思われたとお話されていますね。そこら辺と繋がるところがあるんじゃないですか?

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田中:うん。やっぱり人の体は、“どういう形”とか“どういう動き”とかということよりも、人間が今に至る生き物の歴史の中で、人間の体を獲得したということが、もし言わせてもらえるんだったら、僕は“人類の最大の伝統”だと思うんです。この伝統を抜きに伝統を語ってはいけないんじゃないか、というぐらいに、僕はその体の伝統を信じる方なんですね。

茂木:はぁ〜…。
映画を通して、改めて北斎の生き方について色々お考えになられたと思うんですけど、田中泯さんにとって北斎とはどういう芸術家でしょう?

田中:彼の『富嶽三十六景』なんかはそうですけど、もう既に、“とても西洋的なモノの見方”とか、“空間をどう捉えているか”、とか、もっと言うと、“人の営みと自然との関わり”、“一人一人の肉体がどう見えているのか”、ということを、バーンと僕らに明らかに広げて見せてくれているという、ものすごい新しい人だと思いました。

茂木:新しい人! 北斎は、「世界でモナリザの次に有名」とも言われています、『神奈川沖浪裏』のあの波の表現。あれを描いた時にはもう70歳を超えていたと言われていますけど…。田中泯さんご自身も、歳を重ねて行く中で新しい境地を拓いていくという芸術家のあり方については、どうお考えですか?

田中:踊りは、そういった意味では他の表現と違って、要するに「自分自身の体を所有していると思い込んでいる」か、それとも自分のこの体全部が私ではあるんだけれども、「対象化して見ている」か、とか、体の関わり合い方ひとつが表現の方向になっていくと思うんですよ。
だから踊りというのは体を動かして表現するものだと、大雑把に言われてはいますけど、じゃあ「その体はあなたにとって何なんだ?」というようなことになってくると、動きというものもまた考え方が変わってきますよね。人間の体の動きなんて、新しいものなんて1個もないですよ。

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茂木:そうですよね。
今回『HOKUSAI』にご出演なさって北斎を演じられたからこそ、是非お聞きしたんですけども。田中泯さんの踊りは、今国際的には土方巽さんのいわゆる“舞踏”とはまた違う、田中泯さんならではの踊りとして評価されていると思うんですよ。そういうふうにして世界で受け入れられるという秘密というのは? 北斎の『神奈川沖浪裏』は、今や世界中の人が知っている絵になっている…ある芸術が世界で愛されるというのは何なんですかね?

田中:北斎と一緒にはとてもできないですけど…。僕は初めてパリで踊ったんですけれども、その時に「あなたは日本人で、日本から来たんだよね」と。「我々は、あなたのやっていることは日本の文化のひとつだと思う」と。でも僕は、「それは当たってないかもしれない。僕は皆さんに違いを見て貰うために来たんじゃなくて、似たものを見つけて欲しくて踊りに来たんだ」というふうに言ったんです。

茂木:なるほど…!

田中:何故なら僕は、皮膚を土色に塗って、どっちかと言ったら日本人には見えないですよね。それで恥も外聞もなく裸になって、個的だと思われるものを綺麗に見えなくして、それで踊ったわけです。これは、「私は皆さんと共通するものを踊りたい」と言って、「表現ではなくて探しに来ているんです」という言い方をしたんですよ。それがうけちゃったんです。ところが、日本ではそれを分かって貰えなかった(笑)。

茂木:北斎の『神奈川沖浪裏』も、幕末に陶磁器を輸出した時の充てん材と言われてますもんね(笑)。

田中:そうですよ。陶器を目的で輸入したはずなのに、そこに差し込まれていたものが北斎漫画だったり、北斎の版画だったりしたわけですよね。

茂木:そのことと、田中さんがそういう形で外国で発見されたというのは、何か繋がる気がするんですけど…。

田中:どうなんでしょうね? そうだったらすごく嬉しいですよね(笑)。

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●映画『HOKUSAI』90秒予告(2021年5月28日公開)



↓5月28日(金)から全国公開!(※一部、地域を除く)
 上映している映画館など、詳しくは公式サイトをご覧ください。

映画『HOKUSAI』公式ホームページ


映画「HOKUSAI」🌊 Twitter(@hokusai2020)


田中泯 Twitter(@MadadaDance)