2021年04月17日
手嶋さんは、1949年、北海道のお生まれ。
慶應義塾大学経済学部をご卒業後、NHKに入局されます。
そしてNHKワシントン支局長をされていた2001年、9.11テロに遭遇。
11日間にわたり、24時間連続の中継放送を担当され、
その冷静で的確な分析が視聴者の圧倒的な信頼を得ました。
その後、NHKを退局。
独立後の2006年に上梓した、世界各地に張り巡らされた極秘の情報源を駆使し、
北の独裁国家の謎に挑んだ『ウルトラ・ダラー』、
続編の『スギハラ・サバイバル』が、ベストセラーとなります。
そのほか、ノンフィクション作品も多数発表されていらっしゃいます。
そんな手嶋さんは、先日、小学館より、前作から11年ぶり、3冊目となる小説、
『鳴かずのカッコウ』を発表され話題を集めていらっしゃいます。
──日本はインテリジェンス後進国
茂木:『鳴かずのカッコウ』漫画好きのオタク青年の主人公が、情報機関である、公安調査庁で一人前のインテリジェンス・オフィサー、情報員となっていく姿を描いた内容になっているんですよね。初めて、日本人のインテリジェンス・オフィサーが主人公ですね。
手嶋:日本人が主人公ではあるんですけど。前二作(『ウルトラ・ダラー』『スギハラ・サバイバル』)は、大変ハンサムなイギリス秘密情報部員…イギリス人でしたね。
まさに『カッコウ』というのはスパイの隠語でもあるんですけれども、しかしまだ“鳴かず飛ばず”のカッコウ…つまり、日本の余り意識しないで間違って情報機関に入ってしまった青年が主人公なんです。しかしようやく日本が舞台であるのみならず、主人公も日本というのは、とても大きな意味があります。
ちょうど10以上前は、東京は世界屈指の経済大国でもあり、情報の集積地でした。いわんや、目の前に、まさに勃興する新しい大国・中国を控えてる、ということになって、情報のるつぼ、インテリジェンスの宝庫ではあるんです。ですから、その宝庫のところに釣り糸を垂れて、世界各地から名うてのインテリジェンス・オフィサー…つまりスパイがやってくる。ということではあったので、その物語をかなり忠実に書いた、これが『ウルトラ・ダラー』から『スギハラ・サバイバル』ということでした。
しかし、残念ながら、主人公が日本人でなかったんですよね。何故ならば、当時、日本の情報機関もそうですし、そういう人材も、ということになりますと、もう世界のインテリジェンスのワールドから言いますと、遥かに劣後してしまうんです。
茂木:そうなんですね。
手嶋:一週間遅れの、ということです。しかし、まさに『必要は発明の母』と言いますけれども、今は当時から比べて、誰が見ても中国が東シナ海で、台湾海峡の波が高くなってくる。ということになりますので、潜在的には、危機意識が高まってるのみならず、現実にうねりが少しずつ高くなって来ている。
その時に、同盟国であるアメリカは助けてくれるのか? 少し前までアメリカを率いていた、あの異様の大統領、トランプさんは本当に助けてくれるのか、ということになりますと、余程のん気な人でない限りは、そんなことは思いませんよね。
ところが、日本は強大な牙…例えばミサイルとか、空母、機動部隊というものは持っていないわけですから、牙がない。牙がないとすれば、うさぎがそうであるように、せめて“長い耳”を持っていないと…。ところが日本は、専門のインテリジェンス・オフィサー…スパイを海外に独自に配して、そこから情報を集めるような機関(MI6、モサド、CIAなど)を持っていない、G7の中では唯一の、経済大国になりますよね。
「それでいいのか?」ということになりますし、危機意識も高まっている。そういう情勢、素地がようやく整ってきたので、11年前は日本人として主人公を書けませんでしたけれど、現実を写し取るような形で、この『鳴かずのカッコウ』という、まだ鳴いてはいない、“鳴かず飛ばず”のカッコウが生息する素地ができてきた、と申し上げていいんだと思います。
茂木:なるほど!
茂木:リスナーの方は、この『インテリジェンス』がお分かりになるでしょうか? 手嶋さん、インテリジェンスをリスナーの方に一番分かりやすく伝えるとすると、何なんでしょう?
手嶋:とても重要ですよね。僕はことさら英語を使ったりするタイプの人間ではないんですけど、“(『インテリジェンス』に該当する)日本語がない”んですね。
つまり、若き日の茂木さんが、「この女性と付き合おうか? しかし、背景が分からない」。噂話とかどこに住んでいるとか、あらゆる情報が集まってきますよね。これは『インフォメーション』。ちりあくたのたぐいの、フェイクニュースも誤りもあります。
その中から、「どんな人なのか?」、更に一歩進んで「付き合うべきなのか?」、更に「結婚すべきなのか?」、という時には、この膨大なちりあくたの情報の中から、ダイヤモンドの原石かもしれないというものを自分の勘で選り抜いて、しかもそれを色んな形で配置し直すと、ひとつの像が浮かんでくる。その最後のひとしずく、これが『インテリジェンス』ということになります。
茂木:格好いい…!
手嶋:インテリジェンスはその時点で、その女性に対する極秘情報に留まらないんですね。インテリジェンスは、近未来に一歩踏み出す…つまり、「付き合う」とか「結婚をする」という決断をする拠り所になります。
なので、ちりあくたの『インフォメーション』と『インテリジェンス』は全く違うんですけれども、これを日本語にしてしまうと、『情報』ですよね。
茂木:同じになってしまう、と。
手嶋:したがって、このことから見て、日本はどれほどのインテリジェンスの後進国であるのか。何故ならば、『インフォメーション』と『インテリジェンス』の違いがないんですから。
茂木:ないんだよね。手嶋さんの『鳴かずのカッコウ』を読むと、“インテリジェンスとはこういうものなのか”と、何となく伝わってきますね。
手嶋:それは、大学で教えたこともあるんですけれども、そんな時に用語解説なんかで言ってもやっぱり伝わらなくて、こういう物語の形だと伝わりやすいんです。しかも物語ならば、肝心なところは情報源が秘匿できるので…。実は『インテリジェンス』の世界は、言ってみればノンフィクションよりも、こういう小説・物語の方が、より真実に近くて正確なんです。
● 手嶋龍一 公式ホームページ
↑手嶋さんの最新情報は、こちらをご覧ください。
●手嶋龍一オフィシャル(@RTeshima0711)Twitter
●鳴かずのカッコウ / 手嶋龍一
(Amazon)
慶應義塾大学経済学部をご卒業後、NHKに入局されます。
そしてNHKワシントン支局長をされていた2001年、9.11テロに遭遇。
11日間にわたり、24時間連続の中継放送を担当され、
その冷静で的確な分析が視聴者の圧倒的な信頼を得ました。
その後、NHKを退局。
独立後の2006年に上梓した、世界各地に張り巡らされた極秘の情報源を駆使し、
北の独裁国家の謎に挑んだ『ウルトラ・ダラー』、
続編の『スギハラ・サバイバル』が、ベストセラーとなります。
そのほか、ノンフィクション作品も多数発表されていらっしゃいます。
そんな手嶋さんは、先日、小学館より、前作から11年ぶり、3冊目となる小説、
『鳴かずのカッコウ』を発表され話題を集めていらっしゃいます。
──日本はインテリジェンス後進国
茂木:『鳴かずのカッコウ』漫画好きのオタク青年の主人公が、情報機関である、公安調査庁で一人前のインテリジェンス・オフィサー、情報員となっていく姿を描いた内容になっているんですよね。初めて、日本人のインテリジェンス・オフィサーが主人公ですね。
手嶋:日本人が主人公ではあるんですけど。前二作(『ウルトラ・ダラー』『スギハラ・サバイバル』)は、大変ハンサムなイギリス秘密情報部員…イギリス人でしたね。
まさに『カッコウ』というのはスパイの隠語でもあるんですけれども、しかしまだ“鳴かず飛ばず”のカッコウ…つまり、日本の余り意識しないで間違って情報機関に入ってしまった青年が主人公なんです。しかしようやく日本が舞台であるのみならず、主人公も日本というのは、とても大きな意味があります。
ちょうど10以上前は、東京は世界屈指の経済大国でもあり、情報の集積地でした。いわんや、目の前に、まさに勃興する新しい大国・中国を控えてる、ということになって、情報のるつぼ、インテリジェンスの宝庫ではあるんです。ですから、その宝庫のところに釣り糸を垂れて、世界各地から名うてのインテリジェンス・オフィサー…つまりスパイがやってくる。ということではあったので、その物語をかなり忠実に書いた、これが『ウルトラ・ダラー』から『スギハラ・サバイバル』ということでした。
しかし、残念ながら、主人公が日本人でなかったんですよね。何故ならば、当時、日本の情報機関もそうですし、そういう人材も、ということになりますと、もう世界のインテリジェンスのワールドから言いますと、遥かに劣後してしまうんです。
茂木:そうなんですね。
手嶋:一週間遅れの、ということです。しかし、まさに『必要は発明の母』と言いますけれども、今は当時から比べて、誰が見ても中国が東シナ海で、台湾海峡の波が高くなってくる。ということになりますので、潜在的には、危機意識が高まってるのみならず、現実にうねりが少しずつ高くなって来ている。
その時に、同盟国であるアメリカは助けてくれるのか? 少し前までアメリカを率いていた、あの異様の大統領、トランプさんは本当に助けてくれるのか、ということになりますと、余程のん気な人でない限りは、そんなことは思いませんよね。
ところが、日本は強大な牙…例えばミサイルとか、空母、機動部隊というものは持っていないわけですから、牙がない。牙がないとすれば、うさぎがそうであるように、せめて“長い耳”を持っていないと…。ところが日本は、専門のインテリジェンス・オフィサー…スパイを海外に独自に配して、そこから情報を集めるような機関(MI6、モサド、CIAなど)を持っていない、G7の中では唯一の、経済大国になりますよね。
「それでいいのか?」ということになりますし、危機意識も高まっている。そういう情勢、素地がようやく整ってきたので、11年前は日本人として主人公を書けませんでしたけれど、現実を写し取るような形で、この『鳴かずのカッコウ』という、まだ鳴いてはいない、“鳴かず飛ばず”のカッコウが生息する素地ができてきた、と申し上げていいんだと思います。
茂木:なるほど!
茂木:リスナーの方は、この『インテリジェンス』がお分かりになるでしょうか? 手嶋さん、インテリジェンスをリスナーの方に一番分かりやすく伝えるとすると、何なんでしょう?
手嶋:とても重要ですよね。僕はことさら英語を使ったりするタイプの人間ではないんですけど、“(『インテリジェンス』に該当する)日本語がない”んですね。
つまり、若き日の茂木さんが、「この女性と付き合おうか? しかし、背景が分からない」。噂話とかどこに住んでいるとか、あらゆる情報が集まってきますよね。これは『インフォメーション』。ちりあくたのたぐいの、フェイクニュースも誤りもあります。
その中から、「どんな人なのか?」、更に一歩進んで「付き合うべきなのか?」、更に「結婚すべきなのか?」、という時には、この膨大なちりあくたの情報の中から、ダイヤモンドの原石かもしれないというものを自分の勘で選り抜いて、しかもそれを色んな形で配置し直すと、ひとつの像が浮かんでくる。その最後のひとしずく、これが『インテリジェンス』ということになります。
茂木:格好いい…!
手嶋:インテリジェンスはその時点で、その女性に対する極秘情報に留まらないんですね。インテリジェンスは、近未来に一歩踏み出す…つまり、「付き合う」とか「結婚をする」という決断をする拠り所になります。
なので、ちりあくたの『インフォメーション』と『インテリジェンス』は全く違うんですけれども、これを日本語にしてしまうと、『情報』ですよね。
茂木:同じになってしまう、と。
手嶋:したがって、このことから見て、日本はどれほどのインテリジェンスの後進国であるのか。何故ならば、『インフォメーション』と『インテリジェンス』の違いがないんですから。
茂木:ないんだよね。手嶋さんの『鳴かずのカッコウ』を読むと、“インテリジェンスとはこういうものなのか”と、何となく伝わってきますね。
手嶋:それは、大学で教えたこともあるんですけれども、そんな時に用語解説なんかで言ってもやっぱり伝わらなくて、こういう物語の形だと伝わりやすいんです。しかも物語ならば、肝心なところは情報源が秘匿できるので…。実は『インテリジェンス』の世界は、言ってみればノンフィクションよりも、こういう小説・物語の方が、より真実に近くて正確なんです。
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