2021年03月13日
尾崎さんは、1984年東京都のお生まれ。
2001年結成のロックバンド「クリープハイプ」の
ヴォーカルとギターを担当されていらっしゃいます。
2012年、アルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」で、メジャーデビュー。
また、2016年には、初の小説「祐介」を書き下ろしで刊行。
その他、ご著書に、「苦汁100%」「苦汁200%」、
「泣きたくなるほど嬉しい日々に」などがございます。
そして、先月の29日に新潮社より刊行された、
尾崎さんにとって初の純文学作品『母影(おもかげ)』は、
第164回芥川賞にノミネートされ話題となりました。
──言葉を知らない子供が感じる苦しさ
茂木:「母影(おもかげ)」は、女の子から見たお母さん…シングルマザーのお話なんですけど。“女の子が子供から大人になる、大人の世界をちょっと覗く”という、このテーマはどこから来たんですか?
尾崎:ライブの前によく整体に行ったりするんですけど、何年か前に通っていたところで、たまたま隣のベッドで小学生ぐらいの女の子が宿題をしてたんですよ。娘さんだと思うんですけど。それを見て、自分がすごく悪いことをしているような気がして、お母さんを遠くに連れて行く悪魔のような、自分が汚いものに思えたんですよ。
それで、「でも、これは一つの小説のテーマとしては面白いかもしれないな」と思って、その時から温めてましたね。
茂木:小学校の女の子が『字は読めるけど書けない』というキャラクター設定になっていますね。デビュー作の「祐介」もそうでしたが、尾崎さんの字に対するこだわりは何ですか?
尾崎:僕は元々字が汚いんです。本当に「ミミズが這ったような字だ」とよく言われるんですけど、字を書くことにそんなにいい思い出がなくて、だからかもしれないですね。
自分がコンプレックスだと思っているので、字が上手い人はいいなと思うし、結構その人の字で判断しますね。
茂木:女の子の揺れ動く姿も素晴らしいんですけれども。『カーテンの向こうにお母さんがいる』だから「母影(おもかげ)だ」という、これがある意味では社会的な問題を背景にして書かれていくんですけど、最後に見せられるアレがあるから、この文学がすごいと言うか。あれは何なんですか?
尾崎:最後はかなり何回も書き直してましたね。5〜6回書き直して、自分でも「何かこれじゃないな」と思いながら、でも他のものが思いつかないという状態から、何とかあの形に落ち着いたんです。
茂木:「すごいものを読んじゃった」という感覚が残りますよね。
尾崎:ありがとうございます。
茂木:しかも、すごく“変なところ”があるじゃないですか。“ある・なし”の話で、あの辺りの妙な感じと言うのがすごいなと思いました。
尾崎:子供の頃に、大人が何かをしているものを「“自分は理解できないだろう”と思われてるんだろうな」、ということだけ理解できて。それだけ分かるけど、実際、本当に理解できないから悔しいとよく思っていました。ああいう、大人の悪意だけがこちらに入ってくる理不尽な感じが、印象に残っていたんです。
自分で吐き出せないという、受信するだけの苦しさがあるじゃないですか。それは言葉を知らないからなんですけど、ただ言葉を知ったところで本当にそれが吐き出せるかと言うと、大人になった今、それも疑問だなと思っています。
茂木:そうか。大人の側から見ると、別に吐き出せるわけでもない、という。
尾崎:そうなんですよ。言葉を使って喋っているんだけど、何か「本当に痒いところが掻けてないな」ということをよく思うんですよね。
それで、今回は子供の視点で、余り言葉を持たない立場からものを書いている時に、「でも、大人よりも言えた気がする」という瞬間があったんですよね。
茂木:担当の編集者は何とおっしゃっていました? 設定など、小説はそこら辺でかなり決まってしまうじゃないですか。
尾崎:設定を先に面白がってくれたので、これで書き進められるなと思いましたね。
ただ、「世界との交わりをしっかり書かなければいらない」ということは言ってもらいました。確かにそうだよなと思って。「そもそも、自分は世界と交わったことがあるのか」ということも考えて、本当にすごく勉強になりましたね。『世界』と言ってもすごく色んな世界があるじゃないですか。この場合は閉じた世界を書いていたので、それを想像して。
結局、自分自身なのかなと思っています。自分が納得できるものを書く。自分の内側に入っていくような意識で書きました。
茂木:曲の歌詞もものすごくいいなと思っている方が多くいらっしゃいますが、歌詞を書く時と小説を書く時はどんな感じなんですか?
尾崎:歌詞を書く時は、やっぱりメロディがあるので、どこに言葉を置いても大体成立してしまうんですね。まぁ自分で作っているメロディなので、それはちゃんと自分がやっているから納得はできるんですけど、でも100%言葉でやれていないなという不満がずっとあったんですよ。
「小説だけで勝負したい」と思った時に、今度は難し過ぎて、その間でいつも迷っている感じはありますね。
茂木:歌はメロディの力に助けられるところがあって、でも小説はそれがなくて言葉だけだから、ということですか。
尾崎:そうですね。でも、たまに、小説の中でも文章だけ書いていても、メロディのようなものが成り立つ瞬間があるんですよ。そこはずっと探していますね。そういうふうに、何か文章・リズムを使ってちょっとでも歌うような文章の組み立て方を目指したり、そういう研究もずっとしています。
●クリープハイプ オフィシャルサイト
●クリープハイプ (@creephyp)Twitter
●尾崎世界観(@ozakisekaikan) Twitter
●母影(おもかげ) / 尾崎世界観
(Amazon)
2001年結成のロックバンド「クリープハイプ」の
ヴォーカルとギターを担当されていらっしゃいます。
2012年、アルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」で、メジャーデビュー。
また、2016年には、初の小説「祐介」を書き下ろしで刊行。
その他、ご著書に、「苦汁100%」「苦汁200%」、
「泣きたくなるほど嬉しい日々に」などがございます。
そして、先月の29日に新潮社より刊行された、
尾崎さんにとって初の純文学作品『母影(おもかげ)』は、
第164回芥川賞にノミネートされ話題となりました。
──言葉を知らない子供が感じる苦しさ
茂木:「母影(おもかげ)」は、女の子から見たお母さん…シングルマザーのお話なんですけど。“女の子が子供から大人になる、大人の世界をちょっと覗く”という、このテーマはどこから来たんですか?
尾崎:ライブの前によく整体に行ったりするんですけど、何年か前に通っていたところで、たまたま隣のベッドで小学生ぐらいの女の子が宿題をしてたんですよ。娘さんだと思うんですけど。それを見て、自分がすごく悪いことをしているような気がして、お母さんを遠くに連れて行く悪魔のような、自分が汚いものに思えたんですよ。
それで、「でも、これは一つの小説のテーマとしては面白いかもしれないな」と思って、その時から温めてましたね。
茂木:小学校の女の子が『字は読めるけど書けない』というキャラクター設定になっていますね。デビュー作の「祐介」もそうでしたが、尾崎さんの字に対するこだわりは何ですか?
尾崎:僕は元々字が汚いんです。本当に「ミミズが這ったような字だ」とよく言われるんですけど、字を書くことにそんなにいい思い出がなくて、だからかもしれないですね。
自分がコンプレックスだと思っているので、字が上手い人はいいなと思うし、結構その人の字で判断しますね。
茂木:女の子の揺れ動く姿も素晴らしいんですけれども。『カーテンの向こうにお母さんがいる』だから「母影(おもかげ)だ」という、これがある意味では社会的な問題を背景にして書かれていくんですけど、最後に見せられるアレがあるから、この文学がすごいと言うか。あれは何なんですか?
尾崎:最後はかなり何回も書き直してましたね。5〜6回書き直して、自分でも「何かこれじゃないな」と思いながら、でも他のものが思いつかないという状態から、何とかあの形に落ち着いたんです。
茂木:「すごいものを読んじゃった」という感覚が残りますよね。
尾崎:ありがとうございます。
茂木:しかも、すごく“変なところ”があるじゃないですか。“ある・なし”の話で、あの辺りの妙な感じと言うのがすごいなと思いました。
尾崎:子供の頃に、大人が何かをしているものを「“自分は理解できないだろう”と思われてるんだろうな」、ということだけ理解できて。それだけ分かるけど、実際、本当に理解できないから悔しいとよく思っていました。ああいう、大人の悪意だけがこちらに入ってくる理不尽な感じが、印象に残っていたんです。
自分で吐き出せないという、受信するだけの苦しさがあるじゃないですか。それは言葉を知らないからなんですけど、ただ言葉を知ったところで本当にそれが吐き出せるかと言うと、大人になった今、それも疑問だなと思っています。
茂木:そうか。大人の側から見ると、別に吐き出せるわけでもない、という。
尾崎:そうなんですよ。言葉を使って喋っているんだけど、何か「本当に痒いところが掻けてないな」ということをよく思うんですよね。
それで、今回は子供の視点で、余り言葉を持たない立場からものを書いている時に、「でも、大人よりも言えた気がする」という瞬間があったんですよね。
茂木:担当の編集者は何とおっしゃっていました? 設定など、小説はそこら辺でかなり決まってしまうじゃないですか。
尾崎:設定を先に面白がってくれたので、これで書き進められるなと思いましたね。
ただ、「世界との交わりをしっかり書かなければいらない」ということは言ってもらいました。確かにそうだよなと思って。「そもそも、自分は世界と交わったことがあるのか」ということも考えて、本当にすごく勉強になりましたね。『世界』と言ってもすごく色んな世界があるじゃないですか。この場合は閉じた世界を書いていたので、それを想像して。
結局、自分自身なのかなと思っています。自分が納得できるものを書く。自分の内側に入っていくような意識で書きました。
茂木:曲の歌詞もものすごくいいなと思っている方が多くいらっしゃいますが、歌詞を書く時と小説を書く時はどんな感じなんですか?
尾崎:歌詞を書く時は、やっぱりメロディがあるので、どこに言葉を置いても大体成立してしまうんですね。まぁ自分で作っているメロディなので、それはちゃんと自分がやっているから納得はできるんですけど、でも100%言葉でやれていないなという不満がずっとあったんですよ。
「小説だけで勝負したい」と思った時に、今度は難し過ぎて、その間でいつも迷っている感じはありますね。
茂木:歌はメロディの力に助けられるところがあって、でも小説はそれがなくて言葉だけだから、ということですか。
尾崎:そうですね。でも、たまに、小説の中でも文章だけ書いていても、メロディのようなものが成り立つ瞬間があるんですよ。そこはずっと探していますね。そういうふうに、何か文章・リズムを使ってちょっとでも歌うような文章の組み立て方を目指したり、そういう研究もずっとしています。
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●母影(おもかげ) / 尾崎世界観
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