2020年08月08日
ブレイディみかこさんは、1965年、福岡県福岡市のお生まれです。
音楽好きが高じてアルバイトとイギリスへの渡航を繰り返し、
1996年から、イギリスのブライトンにお住まいでいらっしゃいます。
ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち、イギリスで保育士資格を取得。
イギリスの「最底辺保育所」で働きながら、ライター活動を開始されます。
そして2017年に刊行された、『子どもたちの階級闘争』で、
第16回新潮ドキュメント賞を受賞。
2019年には、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で、
第73回毎日出版文化賞特別賞受賞、
第2回Yahoo!ニュース本屋大賞 ノンフィクション本大賞受賞、
第7回ブクログ大賞を受賞され、大きな話題と集めました。
そして、現在、『ワイルドサイドをほっつき歩け―ハマータウンのおっさんたち』を
筑摩書房より発売されていらっしゃいます。
──ワーキングクラスを誇る60年代イギリス
茂木:比較的若い時から、イギリスには頻繁に行かれていたということですか?
ブレイディ:そうですね。もう20代の時から。イギリスのロックとかが好きだったので、どうしても行ってみたいなというのがありました。アルバイトしてお金を貯めては行って、語学学生として半年とか1年とか滞在してビザが切れたら戻ってきて、またアルバイトしてお金を貯めて行って…というようなことを、何回か続けていましたね。
茂木:なるほど。みかこさんにとって、イギリスのその頃の魅力とはどういうものだったんでしょうか?
ブレイディ:私が高校生の時に、日本はちょうどバブルの時代だったじゃないですか。私は家が貧しかったりしたので、その頃にあまり合わなかったんですよ。“日本ではみんなバブルで浮かれてるし、私は何か浮いてるな”と思っていたんですね。
そういう時に、イギリスのロックというのが、『ワーキングクラス(労働者階級)』ということをすごく言うじゃないですか。「私たちはワーキングクラスで」とか、ロックの歌詞を読んでも「お金がない」とか「貧乏だ」ということを、すごく誇らしく言いますよね。それが日本の80年代にはなかったと言うか。
私は自分が若い時には、「貧乏だ」と言いづらい、ダサいという感じがあったので、“ワーキングクラスという人たちに会ってみたいな”と思ったんですよ。こういう、誇りを持って「自分たちは貧乏だ」と言ってそれを表現できる人たちと会ってみたいし、“もしかしたら私も日本のワーキングクラスなんじゃないかな”と思って、それでイギリスに行ったんです。
一緒にライブとかに行って出会った人とパブに行ったりとか、付き合ったりとかしているうちに、若い人たちがすごく政治の話をしたりして…。日本だと居酒屋に行ってもそんなに政治の話とかしないですよね。でも向こうの人たちは、昼間は塗装の仕事をやっているような、そういう人たちが、普通に政治の話とかをするんですよね。これはすごく面白いなと思って、ロックにも惹かれたし、ワーキングクラスのカルチャーとかそういうものにもすごく惹かれた部分がありますね。
茂木:今おっしゃったような、イギリスの一般の社会の中で暮らしている人たちの力強さとか、賢さとか、そういうものはどこから来るんでしょう? 日本の場合は教育が駄目なのか、そういう方がなかなかいないですけど、イギリスのワーキングクラスの方々はどうしてそういう生き方ができてたんですかね?
ブレイディ:そうですよね。これも私がイギリスに継続的に住むようになって、いろんなことを調べてわかったんですけど、イギリスは日本と違って政権交代しますよね。1945年の終戦の時に、なぜかチャーチルが負けて、労働党のアトリー政権が誕生して、それがのちに『ゆりかごから墓場まで』と言われることになる福祉国家の礎(いしずえ)を築いたわけじゃないですか。
その時に、NHSとか無料の医療制度とかありますけど、ああいうのをしたわけで、教育なんかもその時に無償化に向けて動き出しました。その時の、福祉を充実させて、労働者階級の子供たちが教育を受けやすくしたという、その政府が始めたことが芽を出し始めたのが50年代や60年代になってからなんです。
60年代というのはすごくワーキングクラスがかっこよかった時代だったらしいんですよ。いろんなメディアとかファッション界のモデルとか、演劇の世界だとか音楽の世界だとかにも、その時代の前は中流階級の人しかいなかったものが、貧しい階級の子供でも教育を受けられるようになったからどんどん進出していったのが60年代で、すごく新しい才能が出てきたらしいんですよね。
その時に「労働者階級がすごくクールだ」というのが一般的な認識になっていたみたいで、逆にすごく育ちのいい人が、「自分はワーキングクラスだ」と嘘をついていたぐらいの時代だったらしいんですよ。
その時に、「自分たちはワーキングクラスなんだ」という『誇り』が生まれて、自分たちも勉強したりとか、芸術であろうとも文学であろうともやりたいことができるというのが、すごくあったと思うんですよね。そういう意識がその時にできたみたいなんですよ。
だから「ワーキングクラスはクールだ」という誇りみたいなものが、日本にはあんまりないのかな、という気がしますよね。日本でワーキングクラスと言えば、もうヤンキーとか、ちょっと蔑むような見方をされちゃって、「ワーキングクラスがクールだ」というのは日本にはないコンセプトだな、と私は思いましたね。
茂木:みかこさん、今のお話を伺っていても、観察眼と言うか、いろいろ鋭い人間の見方ができる方だな、と思うんですが、それはどの辺りでそうなっていったんですか?
ブレイディ:どうなんでしょうね? 私の場合は書き始めたのがすごく遅いというか、本が出始めたのはここ2〜3年とかの話なので、言ってみれば50代になってからですから、私は半世紀ぐらい全然書いていなかった時があったわけですよね(笑)。だから、たぶんその時にいろいろ見てきたこととか、人との付き合いの中で得たものとか、経験したこととかが、たぶん今滋養になって生きているという感じはします。
これが、もし私が20代とか30代とかで書き始めていたら、たぶん人のことをあんまり今みたいには見られなかったんだろうな、という気はします。
●ワイルドサイドをほっつき歩け --ハマータウンのおっさんたち / ブレイディみかこ
(Amazon)
●筑摩書房(@chikumashobo) 公式Twitter
●ブレイディみかこさんOfficial Blog
●筑摩書房 公式サイト
音楽好きが高じてアルバイトとイギリスへの渡航を繰り返し、
1996年から、イギリスのブライトンにお住まいでいらっしゃいます。
ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち、イギリスで保育士資格を取得。
イギリスの「最底辺保育所」で働きながら、ライター活動を開始されます。
そして2017年に刊行された、『子どもたちの階級闘争』で、
第16回新潮ドキュメント賞を受賞。
2019年には、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で、
第73回毎日出版文化賞特別賞受賞、
第2回Yahoo!ニュース本屋大賞 ノンフィクション本大賞受賞、
第7回ブクログ大賞を受賞され、大きな話題と集めました。
そして、現在、『ワイルドサイドをほっつき歩け―ハマータウンのおっさんたち』を
筑摩書房より発売されていらっしゃいます。
──ワーキングクラスを誇る60年代イギリス
茂木:比較的若い時から、イギリスには頻繁に行かれていたということですか?
ブレイディ:そうですね。もう20代の時から。イギリスのロックとかが好きだったので、どうしても行ってみたいなというのがありました。アルバイトしてお金を貯めては行って、語学学生として半年とか1年とか滞在してビザが切れたら戻ってきて、またアルバイトしてお金を貯めて行って…というようなことを、何回か続けていましたね。
茂木:なるほど。みかこさんにとって、イギリスのその頃の魅力とはどういうものだったんでしょうか?
ブレイディ:私が高校生の時に、日本はちょうどバブルの時代だったじゃないですか。私は家が貧しかったりしたので、その頃にあまり合わなかったんですよ。“日本ではみんなバブルで浮かれてるし、私は何か浮いてるな”と思っていたんですね。
そういう時に、イギリスのロックというのが、『ワーキングクラス(労働者階級)』ということをすごく言うじゃないですか。「私たちはワーキングクラスで」とか、ロックの歌詞を読んでも「お金がない」とか「貧乏だ」ということを、すごく誇らしく言いますよね。それが日本の80年代にはなかったと言うか。
私は自分が若い時には、「貧乏だ」と言いづらい、ダサいという感じがあったので、“ワーキングクラスという人たちに会ってみたいな”と思ったんですよ。こういう、誇りを持って「自分たちは貧乏だ」と言ってそれを表現できる人たちと会ってみたいし、“もしかしたら私も日本のワーキングクラスなんじゃないかな”と思って、それでイギリスに行ったんです。
一緒にライブとかに行って出会った人とパブに行ったりとか、付き合ったりとかしているうちに、若い人たちがすごく政治の話をしたりして…。日本だと居酒屋に行ってもそんなに政治の話とかしないですよね。でも向こうの人たちは、昼間は塗装の仕事をやっているような、そういう人たちが、普通に政治の話とかをするんですよね。これはすごく面白いなと思って、ロックにも惹かれたし、ワーキングクラスのカルチャーとかそういうものにもすごく惹かれた部分がありますね。
茂木:今おっしゃったような、イギリスの一般の社会の中で暮らしている人たちの力強さとか、賢さとか、そういうものはどこから来るんでしょう? 日本の場合は教育が駄目なのか、そういう方がなかなかいないですけど、イギリスのワーキングクラスの方々はどうしてそういう生き方ができてたんですかね?
ブレイディ:そうですよね。これも私がイギリスに継続的に住むようになって、いろんなことを調べてわかったんですけど、イギリスは日本と違って政権交代しますよね。1945年の終戦の時に、なぜかチャーチルが負けて、労働党のアトリー政権が誕生して、それがのちに『ゆりかごから墓場まで』と言われることになる福祉国家の礎(いしずえ)を築いたわけじゃないですか。
その時に、NHSとか無料の医療制度とかありますけど、ああいうのをしたわけで、教育なんかもその時に無償化に向けて動き出しました。その時の、福祉を充実させて、労働者階級の子供たちが教育を受けやすくしたという、その政府が始めたことが芽を出し始めたのが50年代や60年代になってからなんです。
60年代というのはすごくワーキングクラスがかっこよかった時代だったらしいんですよ。いろんなメディアとかファッション界のモデルとか、演劇の世界だとか音楽の世界だとかにも、その時代の前は中流階級の人しかいなかったものが、貧しい階級の子供でも教育を受けられるようになったからどんどん進出していったのが60年代で、すごく新しい才能が出てきたらしいんですよね。
その時に「労働者階級がすごくクールだ」というのが一般的な認識になっていたみたいで、逆にすごく育ちのいい人が、「自分はワーキングクラスだ」と嘘をついていたぐらいの時代だったらしいんですよ。
その時に、「自分たちはワーキングクラスなんだ」という『誇り』が生まれて、自分たちも勉強したりとか、芸術であろうとも文学であろうともやりたいことができるというのが、すごくあったと思うんですよね。そういう意識がその時にできたみたいなんですよ。
だから「ワーキングクラスはクールだ」という誇りみたいなものが、日本にはあんまりないのかな、という気がしますよね。日本でワーキングクラスと言えば、もうヤンキーとか、ちょっと蔑むような見方をされちゃって、「ワーキングクラスがクールだ」というのは日本にはないコンセプトだな、と私は思いましたね。
茂木:みかこさん、今のお話を伺っていても、観察眼と言うか、いろいろ鋭い人間の見方ができる方だな、と思うんですが、それはどの辺りでそうなっていったんですか?
ブレイディ:どうなんでしょうね? 私の場合は書き始めたのがすごく遅いというか、本が出始めたのはここ2〜3年とかの話なので、言ってみれば50代になってからですから、私は半世紀ぐらい全然書いていなかった時があったわけですよね(笑)。だから、たぶんその時にいろいろ見てきたこととか、人との付き合いの中で得たものとか、経験したこととかが、たぶん今滋養になって生きているという感じはします。
これが、もし私が20代とか30代とかで書き始めていたら、たぶん人のことをあんまり今みたいには見られなかったんだろうな、という気はします。
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