2020年03月28日
今週ゲストにお迎えしたのは、映画監督の三島有紀子さんです。
三島有紀子監督は1969年生まれ。大阪市のご出身です。
神戸女学院大学文学部を卒業後、NHKに入局されまして、
「NHK スペシャル」「トップランナー」をはじめ、ドキュメンタリー番組製作。
その後、劇映画を撮るために退局され独立しました。
助監督を経て、2009年、「刺青 匂月のごとく」で劇映画のデビュー。
その後、再婚者同士の家庭の苦悩を描く「幼な子われらに生まれ」で、
第41回モントリオール世界映画祭で審査員特別大賞と、
第42回報知映画賞では監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞を受賞されました。
その他、代表作に、オリジナル脚本の「しあわせのパン」、「ぶどうのなみだ」や
「繕い裁つ人」、「少女」、「ビブリア古書堂の事件手帖」などがあり、ご活躍中です。
そして、今回の「Red」は、2月21日より公開中です。
──現代版イプセン「人形の家」
茂木:監督は、「しあわせのパン」、「ぶどうのなみだ」で、特に女性の観客のハートを掴む監督として世間の中に認識されたと思うんですけど。
今回の「Red」も女性が見ると、生き方とか……。
三島:そうですね。最初に原作を読んだ時に、当然ロマンスの小説ではあるんですけども、現代版イプセン「人形の家」だなって思ったんですよね。
茂木:なるほど!
三島:すごくそう思ったので、ああ、結局、何百年経っても何千年経っても、女の人って変わらないなあ、と思ったんですよ。特に日本って、世界に比べて女性の位置が全然変わらずにいるんだな、って。
そういう、大きな差別とかそういうことではなくて、ちょっとした居心地の悪さっていうのを、どういうふうに気持ちを解放して次に進んで行くのか、というお話にできるんじゃないかな、と考えて、この映画をやりたいなって思ったんですよね。
茂木:この「Red」なんですけれども、"現代の女性の悩みを盛り込みつつ、自分の意志で人生を選択していく姿を描くロマンス映画"ということで。
主人公は、夫と可愛い娘にも恵まれて、世間的に見ると何不自由なく幸せに暮らしているように見えるんですが、かつての恋人と出会って想いが再燃してしまう、という……。そしてその後いろいろ難しいことが起こる映画なんですけど。
夫とかつての恋人って、男性として全くタイプ違いますね。妻夫木さんが演じてるかつての恋人はかなり強引な人ですよね。
三島:(笑) そうですね。妻夫木さんが演じてる鞍田という人間はある秘密を抱えているんですが、そうなった場合に後先を考えないと言うか、自分の想いを伝えたいし、迷惑はかけたくないけれども、やっぱりちょっとでも一緒にいたいっていう気持ちが明確な人なんです。そういう意味ではかなり強引ですね。
茂木:一方、夫は仕事もできるし、ある意味で常識人で頼りになるんだけど…。
監督、どうなんですか? 女性としては、違うタイプの男性2人に愛されてしまうというこの状況、娘もいるし、どう選択するか。その心の揺れ動きを描いてるわけですけども。
三島:だからこそ難しいと言うか。
間宮祥太朗くんが演じてくれた旦那さんの真という役は、別に全然悪い人じゃないんですよね。彼の常識の中ではとても当たり前のように愛してくれている人なんですけれども……。
でもやっぱり一緒にいるとどうしても、だんだん文化の違いが大きなずれになっていくってことってないですか?
茂木:あるんですよね! そして、さらにさらに、柄本佑さんの演じる、第三の男が現れる、と。
僕は柄本さんの演技がとても好きだったんです。
三島:そうですね。自然で、彼は達観した色気がある人なので、非常にするっと人の心に入れる役を、広げて…と言うか、とても豊かに演じてくれたと思いますね。
茂木:夏帆さんとは前にも一緒に作品を作られてるわけですけど、今回の演技も、揺れ動く女性を描いていて、お上手って言うと失礼ですけど、素晴らしいですね!
三島:素晴らしいですね。彼女は本当にいろんなことができるんですけど、器用であるがためにやれるところでやれてしまうところもあると思うんですよね。それが、「私は親なのか?」っていうぐらい忸怩(じくじ)たる思いがあって、「いやいや、この人はもっといろんな顔があるんだよ。そのいろんな顔を、私は全部見せたいんだ」って思って。もう鼻息荒く、「全部撮るよ」みたなことを言いながら、現場ではやってました(笑)
茂木:今回も島本さんは現場にいらしたりしたんですか?
三島:はい、現場も来てくださいましたし、初号試写で「最後の10分が特に素晴らしくて、自分はこの『女性の生き方』というものをテーマに深く描いたつもりなんですけれども、それをより強く出してもらえた」というふうに言ってくださったのが、すごく嬉しかったですね。
茂木:絶賛ですね。
三島:どうなんでしょう?(笑) でも、ありがとうございます、という感じでしたね。
茂木:今回、この結末を構成する時に、どんな想いで脚本を書かれたんですか?
三島:小説はものすごく長い時間をかけて描かれているんですけれども、映画は私の中で、新潟の夜が始まって、朝までの一晩の話にしたかったんですよ。そうなった時に、イプセンの「人形の家」にするためには、最後に彼女はどういうふうに自分の人生を選択していくのか、って考えたら、意外とシンプルに「あの選択をするだろうな」と思ったんです。
茂木:どんな選択かは、映画を観ていただきたいですね。
茂木:女性の生き方として、特に日本では“愛される”ということに幸せを感じる人が多い。でも、“愛する”というところに視点を変えた時に、違うことが見えて来る、ということを監督はインタビューでもおっしゃってますし。
今回の映画は、まさにそれがテーマだと思うんですが。どうでしょう? 女性の生き方って、いま変わりつつあるんでしょうか?
三島:変わりつつあるのかどうかわからないですけれども、ただ、“愛される”って、周りにイニシアチブがあるわけですよ。でも、“愛すると決める”っていうのは、自分が覚悟を決めればできることなので、自分の生き方を決めて生きるという女性の人はとても増えて来てるんではないかなって。
ただそれは、非常に重いことでもあるので、自分が愛すると決めるというのは周りを傷つけることもありますし、いろんなことがあるけれども、それも全部引き受ける、と。覚悟して愛せるのか、というのは、自分自身もいつも問うてますし、たぶん周りの見てる女性たちも、その覚悟が自分にできるのかどうか、というのをいつも自分に問いかけながら生きてる感じはするな、とは思いますね。
茂木:そういう意味においては、本当に現代女性の心に響くテーマを扱ってらっしゃる映画になったわけですけど。これは男性が観てもきっといろいろ考えさせられますよね。
世の男性って、女性のことをあんまりちゃんと見てない人も多いと思うんですよ。「可愛ければいい」とかね。
変な話、「女性ってこういう生き物なんだ」っていうことを男性が実感するのも、これは意義があることなんじゃないでしょうか。
三島:大事ですね。ぜひ、男性にも観てもらいたいですね。女性にはこういう一面があるということを、目を逸らさずに、ぜひ括目していただきたい。
茂木:僕はこの映画を素晴らしいと思うので、ぜひいろんな方に観ていただきたいんですけど。監督、これから観る方にひとことお願いします。
三島:自分もそうですけど、生きてて一番自分が大切にしてるものだったり、心から愛せるものっていうのは何なのかな、というのが見えなくなる時ってあると思うんですけれども、それを大事に育んでいくというのが大切なのかな、と思うので、この映画を観てみなさんそれぞれの一番大事なものを見つめてもらえると嬉しいな、と思います。
●映画「Red」 オフィシャルサイト
●映画『Red』公式 (@red_
movie2020) Twitter
三島有紀子監督は1969年生まれ。大阪市のご出身です。
神戸女学院大学文学部を卒業後、NHKに入局されまして、
「NHK スペシャル」「トップランナー」をはじめ、ドキュメンタリー番組製作。
その後、劇映画を撮るために退局され独立しました。
助監督を経て、2009年、「刺青 匂月のごとく」で劇映画のデビュー。
その後、再婚者同士の家庭の苦悩を描く「幼な子われらに生まれ」で、
第41回モントリオール世界映画祭で審査員特別大賞と、
第42回報知映画賞では監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞を受賞されました。
その他、代表作に、オリジナル脚本の「しあわせのパン」、「ぶどうのなみだ」や
「繕い裁つ人」、「少女」、「ビブリア古書堂の事件手帖」などがあり、ご活躍中です。
そして、今回の「Red」は、2月21日より公開中です。
──現代版イプセン「人形の家」
茂木:監督は、「しあわせのパン」、「ぶどうのなみだ」で、特に女性の観客のハートを掴む監督として世間の中に認識されたと思うんですけど。
今回の「Red」も女性が見ると、生き方とか……。
三島:そうですね。最初に原作を読んだ時に、当然ロマンスの小説ではあるんですけども、現代版イプセン「人形の家」だなって思ったんですよね。
茂木:なるほど!
三島:すごくそう思ったので、ああ、結局、何百年経っても何千年経っても、女の人って変わらないなあ、と思ったんですよ。特に日本って、世界に比べて女性の位置が全然変わらずにいるんだな、って。
そういう、大きな差別とかそういうことではなくて、ちょっとした居心地の悪さっていうのを、どういうふうに気持ちを解放して次に進んで行くのか、というお話にできるんじゃないかな、と考えて、この映画をやりたいなって思ったんですよね。
茂木:この「Red」なんですけれども、"現代の女性の悩みを盛り込みつつ、自分の意志で人生を選択していく姿を描くロマンス映画"ということで。
主人公は、夫と可愛い娘にも恵まれて、世間的に見ると何不自由なく幸せに暮らしているように見えるんですが、かつての恋人と出会って想いが再燃してしまう、という……。そしてその後いろいろ難しいことが起こる映画なんですけど。
夫とかつての恋人って、男性として全くタイプ違いますね。妻夫木さんが演じてるかつての恋人はかなり強引な人ですよね。
三島:(笑) そうですね。妻夫木さんが演じてる鞍田という人間はある秘密を抱えているんですが、そうなった場合に後先を考えないと言うか、自分の想いを伝えたいし、迷惑はかけたくないけれども、やっぱりちょっとでも一緒にいたいっていう気持ちが明確な人なんです。そういう意味ではかなり強引ですね。
茂木:一方、夫は仕事もできるし、ある意味で常識人で頼りになるんだけど…。
監督、どうなんですか? 女性としては、違うタイプの男性2人に愛されてしまうというこの状況、娘もいるし、どう選択するか。その心の揺れ動きを描いてるわけですけども。
三島:だからこそ難しいと言うか。
間宮祥太朗くんが演じてくれた旦那さんの真という役は、別に全然悪い人じゃないんですよね。彼の常識の中ではとても当たり前のように愛してくれている人なんですけれども……。
でもやっぱり一緒にいるとどうしても、だんだん文化の違いが大きなずれになっていくってことってないですか?
茂木:あるんですよね! そして、さらにさらに、柄本佑さんの演じる、第三の男が現れる、と。
僕は柄本さんの演技がとても好きだったんです。
三島:そうですね。自然で、彼は達観した色気がある人なので、非常にするっと人の心に入れる役を、広げて…と言うか、とても豊かに演じてくれたと思いますね。
茂木:夏帆さんとは前にも一緒に作品を作られてるわけですけど、今回の演技も、揺れ動く女性を描いていて、お上手って言うと失礼ですけど、素晴らしいですね!
三島:素晴らしいですね。彼女は本当にいろんなことができるんですけど、器用であるがためにやれるところでやれてしまうところもあると思うんですよね。それが、「私は親なのか?」っていうぐらい忸怩(じくじ)たる思いがあって、「いやいや、この人はもっといろんな顔があるんだよ。そのいろんな顔を、私は全部見せたいんだ」って思って。もう鼻息荒く、「全部撮るよ」みたなことを言いながら、現場ではやってました(笑)
茂木:今回も島本さんは現場にいらしたりしたんですか?
三島:はい、現場も来てくださいましたし、初号試写で「最後の10分が特に素晴らしくて、自分はこの『女性の生き方』というものをテーマに深く描いたつもりなんですけれども、それをより強く出してもらえた」というふうに言ってくださったのが、すごく嬉しかったですね。
茂木:絶賛ですね。
三島:どうなんでしょう?(笑) でも、ありがとうございます、という感じでしたね。
茂木:今回、この結末を構成する時に、どんな想いで脚本を書かれたんですか?
三島:小説はものすごく長い時間をかけて描かれているんですけれども、映画は私の中で、新潟の夜が始まって、朝までの一晩の話にしたかったんですよ。そうなった時に、イプセンの「人形の家」にするためには、最後に彼女はどういうふうに自分の人生を選択していくのか、って考えたら、意外とシンプルに「あの選択をするだろうな」と思ったんです。
茂木:どんな選択かは、映画を観ていただきたいですね。
茂木:女性の生き方として、特に日本では“愛される”ということに幸せを感じる人が多い。でも、“愛する”というところに視点を変えた時に、違うことが見えて来る、ということを監督はインタビューでもおっしゃってますし。
今回の映画は、まさにそれがテーマだと思うんですが。どうでしょう? 女性の生き方って、いま変わりつつあるんでしょうか?
三島:変わりつつあるのかどうかわからないですけれども、ただ、“愛される”って、周りにイニシアチブがあるわけですよ。でも、“愛すると決める”っていうのは、自分が覚悟を決めればできることなので、自分の生き方を決めて生きるという女性の人はとても増えて来てるんではないかなって。
ただそれは、非常に重いことでもあるので、自分が愛すると決めるというのは周りを傷つけることもありますし、いろんなことがあるけれども、それも全部引き受ける、と。覚悟して愛せるのか、というのは、自分自身もいつも問うてますし、たぶん周りの見てる女性たちも、その覚悟が自分にできるのかどうか、というのをいつも自分に問いかけながら生きてる感じはするな、とは思いますね。
茂木:そういう意味においては、本当に現代女性の心に響くテーマを扱ってらっしゃる映画になったわけですけど。これは男性が観てもきっといろいろ考えさせられますよね。
世の男性って、女性のことをあんまりちゃんと見てない人も多いと思うんですよ。「可愛ければいい」とかね。
変な話、「女性ってこういう生き物なんだ」っていうことを男性が実感するのも、これは意義があることなんじゃないでしょうか。
三島:大事ですね。ぜひ、男性にも観てもらいたいですね。女性にはこういう一面があるということを、目を逸らさずに、ぜひ括目していただきたい。
茂木:僕はこの映画を素晴らしいと思うので、ぜひいろんな方に観ていただきたいんですけど。監督、これから観る方にひとことお願いします。
三島:自分もそうですけど、生きてて一番自分が大切にしてるものだったり、心から愛せるものっていうのは何なのかな、というのが見えなくなる時ってあると思うんですけれども、それを大事に育んでいくというのが大切なのかな、と思うので、この映画を観てみなさんそれぞれの一番大事なものを見つめてもらえると嬉しいな、と思います。
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