2019年05月11日
今週ゲストにお迎えしたのは、リトルモアブックスから写真集「この星の光の地図を写す」を発売された写真家の石川直樹さんです。
1977年 東京都ご出身。
早稲田大学を卒業されて、さらに東京藝術大学大学院 美術研究科博士後期課程を修了。
人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら作品を発表し続けていらっしゃいます。
「CORONA」により土門拳賞を受賞され、
「最後の冒険家 太平洋に消えた神田道夫」で開高健ノンフィクション賞を受賞されています。
この度、20年の旅の軌跡を収めた写真集「この星の光の地図を写す」をリトルモアブックスより発売されました。
今週は、写真集「この星の光の地図を写す」についてお話を伺いました。
──未知の風景に出会いたいという好奇心
茂木:展覧会も拝見させていただいて、写真が本当に素晴らしかったんですけど、文章にやられますね!
石川:ありがとうございます。
茂木:写真と文章の関係っていうのはどう考えればいいんですか?
石川:やっぱり写真と言葉、文章というのはデリケートな関係なので、多く説明しすぎると写真の見方を既定してしまうし、言葉がひとつもないとなかなか取っ掛かりもなかったりするので、微妙な塩梅で言葉を少しだけ入れさせて頂いてますね。
茂木:この本が連動した展覧会でも、会場で思わず立ち止まっちゃったんですけど、
「辺境というレッテルが先行するグリーンランドだが、これは中央にいると思い込んでる僕たちから見た時にしか当てはまらない。」と。
確かに、グリーンランドの人にとっては辺境じゃないですもんね。
石川:そうですね。グリーンランドの人はそこが中心にあって、海産物も取れるし、家の中は暖かいし、僕たちとそこまで変わらない生活を送ってるんですよね。
中央と辺境っていう括りっていうのは、ちょっと僕には違和感があって。人の数だけ中心があるんじゃないか、というのは常々思っているんですよ。
茂木:人の数だけ中心がある。カッコいいですね!石川直樹さんは、どうしてこの表現に辿り着いてきたんでしょう?
石川:高校生ぐらいの時からインドとかネパールへ旅をしていたんですけど、やっぱり、世界を体で知覚したいと思っていて。
自分の目と耳と体全体で理解して行きたいって気持ちが強くて、自分が行って感じたこととか体が反応したことを写真に撮って、さらに写真だけでは伝わりにくいディテールなんかを文章や言葉で表していくっていうスタイルを、本当に若い頃からずっとやってきてるんですよね。
茂木:旅をするということだけが共通点で、とにかく旅をしている距離が大きいというか、そこがすごい特徴ですよね。
石川:そうですね。自分の体をそこに晒さないと何もわからないという気持ちが強くて行っちゃうんですよね。
茂木:旅する写真家として20年の集大成が、「この星の光の地図を写す」なんですけど、こうやってまとめてみるといかがですか?
石川:今まであまり後ろを振り返らず走り続けてきたんですよ。20年以上の旅を振り返る機会が今までなかったので、改めて見直してみると本当にいろんな場所に行ってきたし、写真を撮っておいて良かったなって思いました。
記憶って薄れていっちゃうので、写真を撮っておくことによっていろんな記憶の引き出しが開いて、一つの思い出だったものが色んなものとくっついて蘇ってきたりして、また新しい道が開ける感じで…本当にこの写真集を作ってよかったなと思ってます。
茂木:写真家、作家としての石川直樹さんの履歴を振り返る写真集でもあるんですけど、
例えば、先史時代の洞窟絵画なんかもあったりして…自分なりに整理すると、何に興味を持ってるんでしょう?
石川:分からないことがあるとインターネットで調べたり、本を読んだりして知ってるつもりになっちゃうんだけど、そうじゃなくてその場所に行って世界を知りたいっていうことだけですよね。
未知のものと出会いたいし、未知の風景に出会って驚きを収めて行きたいっていう気持ちがすごく強いですね。
茂木:ヨーロッパの3倍もの面積があるという、ポリネシアトライアングルなんかは、学生時代からずっと追ってらっしゃるんですよね。
石川:そうですね。星を見ながら海を渡って行く航海技術があって、それを学生時代からフィールドワークしていて。
その延長でポリネシアに人類が拡散していった歴史に興味を持って、ポリネシアの島々を巡ってその痕跡を確かめに行こうということで、ハワイやイースター島、ニュージーランドとか、その中の島々をずっと巡ってましたね。
茂木:ニュージーランドのマウイの方々が守ってこられた原生林の写真も素晴らしくて…。普通、雪山の写真を撮る人ってこういう写真は撮らないよなって思うんですけど、石川直樹さんって何なんだろうって思いますよね!
石川:その場所を撮るっていうよりは、その場所で、自分とその場所との関係を僕は撮ろうと思っているんですよ。自分とその場所を切り離して”北アルプスを撮る”っていうことじゃなくて、
北アルプスで、自分と山との関わりを撮る。富士山を撮るんじゃなくて自分と富士山との関わりを撮ろうしている、そういう気持ちの問題ですかね。
固有名詞を撮るっていうよりは自分がそこにいる、その関わりを撮ってるという感じが自分ではしています。
茂木:この写真集の中ではペンギンの写真がすごく好きなんですけど……。
石川:これは、南極で見かけたペンギンの群れですね。緑の草が生えているような地面にペンギンがいる写真なんですけど、これ実は草じゃなくて、ペンギンのうんちなんですよ。
茂木:ウソ〜!
石川:バクテリアが繁殖して、ものすごい臭いんですよ。ペンギンかわいいなと思ってみんな写真を見てくれるんですけど、実はすごい臭くて。長靴が膝まで埋まるぐらい糞だらけになっていて、ぐっちゃぐちゃのところを写真に撮ってるんですよね。
茂木:牧草地に羊がいるような、のどかな光景に見えますよね。
石川:牧草地みたいに見えるんだけど、ぐっちゃぐちゃの足元で糞の臭いがすごいな〜ってなりながらペンギンは可愛いと思って撮っていた写真ですね(笑)。
茂木:素敵な写真なんですけど、まさかそんな苦労をされているとは思いませんでした(笑)。
本当にバラエティに富んだ奥深い写真が並んでる写真集「この星の光の地図を写す」なんですけど、著者として、どういう人に手にとってもらいたいですか?
石川:本当に、いろんな方に手に取ってもらいたいですね。老若男女、それぞれの人がそれぞれの記憶とか経験とリンクするようなポイントが一箇所ぐらいはあると思うので、旅をしない方もする方も、山に興味がある方もない方も、1回ページをめくっていただきたいなっていう気持ちはありますね。
●石川直樹 OFFICIAL WEB SITE
●石川直樹さん
(@straightree8848) • Instagram
●この星の光の地図を写す / 石川 直樹 (著)
(Amazon)
● リトルモアブックス
来週も引き続き、写真家の石川直樹さんをお迎えしてお送りいたします。
お楽しみに!
1977年 東京都ご出身。
早稲田大学を卒業されて、さらに東京藝術大学大学院 美術研究科博士後期課程を修了。
人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら作品を発表し続けていらっしゃいます。
「CORONA」により土門拳賞を受賞され、
「最後の冒険家 太平洋に消えた神田道夫」で開高健ノンフィクション賞を受賞されています。
この度、20年の旅の軌跡を収めた写真集「この星の光の地図を写す」をリトルモアブックスより発売されました。
今週は、写真集「この星の光の地図を写す」についてお話を伺いました。
──未知の風景に出会いたいという好奇心
茂木:展覧会も拝見させていただいて、写真が本当に素晴らしかったんですけど、文章にやられますね!
石川:ありがとうございます。
茂木:写真と文章の関係っていうのはどう考えればいいんですか?
石川:やっぱり写真と言葉、文章というのはデリケートな関係なので、多く説明しすぎると写真の見方を既定してしまうし、言葉がひとつもないとなかなか取っ掛かりもなかったりするので、微妙な塩梅で言葉を少しだけ入れさせて頂いてますね。
茂木:この本が連動した展覧会でも、会場で思わず立ち止まっちゃったんですけど、
「辺境というレッテルが先行するグリーンランドだが、これは中央にいると思い込んでる僕たちから見た時にしか当てはまらない。」と。
確かに、グリーンランドの人にとっては辺境じゃないですもんね。
石川:そうですね。グリーンランドの人はそこが中心にあって、海産物も取れるし、家の中は暖かいし、僕たちとそこまで変わらない生活を送ってるんですよね。
中央と辺境っていう括りっていうのは、ちょっと僕には違和感があって。人の数だけ中心があるんじゃないか、というのは常々思っているんですよ。
茂木:人の数だけ中心がある。カッコいいですね!石川直樹さんは、どうしてこの表現に辿り着いてきたんでしょう?
石川:高校生ぐらいの時からインドとかネパールへ旅をしていたんですけど、やっぱり、世界を体で知覚したいと思っていて。
自分の目と耳と体全体で理解して行きたいって気持ちが強くて、自分が行って感じたこととか体が反応したことを写真に撮って、さらに写真だけでは伝わりにくいディテールなんかを文章や言葉で表していくっていうスタイルを、本当に若い頃からずっとやってきてるんですよね。
茂木:旅をするということだけが共通点で、とにかく旅をしている距離が大きいというか、そこがすごい特徴ですよね。
石川:そうですね。自分の体をそこに晒さないと何もわからないという気持ちが強くて行っちゃうんですよね。
茂木:旅する写真家として20年の集大成が、「この星の光の地図を写す」なんですけど、こうやってまとめてみるといかがですか?
石川:今まであまり後ろを振り返らず走り続けてきたんですよ。20年以上の旅を振り返る機会が今までなかったので、改めて見直してみると本当にいろんな場所に行ってきたし、写真を撮っておいて良かったなって思いました。
記憶って薄れていっちゃうので、写真を撮っておくことによっていろんな記憶の引き出しが開いて、一つの思い出だったものが色んなものとくっついて蘇ってきたりして、また新しい道が開ける感じで…本当にこの写真集を作ってよかったなと思ってます。
茂木:写真家、作家としての石川直樹さんの履歴を振り返る写真集でもあるんですけど、
例えば、先史時代の洞窟絵画なんかもあったりして…自分なりに整理すると、何に興味を持ってるんでしょう?
石川:分からないことがあるとインターネットで調べたり、本を読んだりして知ってるつもりになっちゃうんだけど、そうじゃなくてその場所に行って世界を知りたいっていうことだけですよね。
未知のものと出会いたいし、未知の風景に出会って驚きを収めて行きたいっていう気持ちがすごく強いですね。
茂木:ヨーロッパの3倍もの面積があるという、ポリネシアトライアングルなんかは、学生時代からずっと追ってらっしゃるんですよね。
石川:そうですね。星を見ながら海を渡って行く航海技術があって、それを学生時代からフィールドワークしていて。
その延長でポリネシアに人類が拡散していった歴史に興味を持って、ポリネシアの島々を巡ってその痕跡を確かめに行こうということで、ハワイやイースター島、ニュージーランドとか、その中の島々をずっと巡ってましたね。
茂木:ニュージーランドのマウイの方々が守ってこられた原生林の写真も素晴らしくて…。普通、雪山の写真を撮る人ってこういう写真は撮らないよなって思うんですけど、石川直樹さんって何なんだろうって思いますよね!
石川:その場所を撮るっていうよりは、その場所で、自分とその場所との関係を僕は撮ろうと思っているんですよ。自分とその場所を切り離して”北アルプスを撮る”っていうことじゃなくて、
北アルプスで、自分と山との関わりを撮る。富士山を撮るんじゃなくて自分と富士山との関わりを撮ろうしている、そういう気持ちの問題ですかね。
固有名詞を撮るっていうよりは自分がそこにいる、その関わりを撮ってるという感じが自分ではしています。
茂木:この写真集の中ではペンギンの写真がすごく好きなんですけど……。
石川:これは、南極で見かけたペンギンの群れですね。緑の草が生えているような地面にペンギンがいる写真なんですけど、これ実は草じゃなくて、ペンギンのうんちなんですよ。
茂木:ウソ〜!
石川:バクテリアが繁殖して、ものすごい臭いんですよ。ペンギンかわいいなと思ってみんな写真を見てくれるんですけど、実はすごい臭くて。長靴が膝まで埋まるぐらい糞だらけになっていて、ぐっちゃぐちゃのところを写真に撮ってるんですよね。
茂木:牧草地に羊がいるような、のどかな光景に見えますよね。
石川:牧草地みたいに見えるんだけど、ぐっちゃぐちゃの足元で糞の臭いがすごいな〜ってなりながらペンギンは可愛いと思って撮っていた写真ですね(笑)。
茂木:素敵な写真なんですけど、まさかそんな苦労をされているとは思いませんでした(笑)。
本当にバラエティに富んだ奥深い写真が並んでる写真集「この星の光の地図を写す」なんですけど、著者として、どういう人に手にとってもらいたいですか?
石川:本当に、いろんな方に手に取ってもらいたいですね。老若男女、それぞれの人がそれぞれの記憶とか経験とリンクするようなポイントが一箇所ぐらいはあると思うので、旅をしない方もする方も、山に興味がある方もない方も、1回ページをめくっていただきたいなっていう気持ちはありますね。
●石川直樹 OFFICIAL WEB SITE
●石川直樹さん
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●この星の光の地図を写す / 石川 直樹 (著)
(Amazon)
● リトルモアブックス
来週も引き続き、写真家の石川直樹さんをお迎えしてお送りいたします。
お楽しみに!