2018年11月24日
今週ゲストにお迎えしたのは、先週に引き続き、作家の川内有緒さんです。
川内さんは1972年、東京都生まれ。
日本大学芸術学部卒業後、アメリカのジョージタウン大学で、中南米地域研究学で修士号を取得。
その後、アメリカ企業、日本のシンクタンク、フランス・パリの国連機関などに勤務し、国際協力分野で12年間勤務後、2010年フリーのライターに転身。
2013年には、バングラデシュの吟遊詩人たちを追った、『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』で、第33回新田次郎文学賞を受賞。
そして、今年の7月、現代美術のスーパースター蔡國強(ツァイ・グオチャン)と
福島県いわき市で会社を経営されている、志賀忠重の、およそ30年にわたる交流を追い、アートの「力」で起こした奇跡に迫った、
「空をゆく巨人」で、第16回開高健ノンフィクション賞を受賞されました。
──1人じゃなくて2人
茂木:蔡國強さんは、どういうアーティストですか?
川内:火薬を利用した作品が有名で、火薬の爆発をキャンバスに焼き付けて描く火薬画。
あとはインスタレーション的に、花火を使って屋外でいろんなものを爆発させたり、爆発で有名なアーティスですね。
茂木:まさに「芸術は爆発だ」を地でいってるんですね。
川内:有名なのは北京オリンピックの開会式の時に「歴史の足跡」っていう作品を発表したのが有名な作品の一つですね。
茂木:蔡國強さんがアーティストとして成長したのが、実はこの日本なんですよね?
川内:出発点になったのは日本だったということなんですね。
茂木:実はサポートしてきたのが、この志賀忠重さんなんですよね。
川内:そうですね。日本から来て最初の個展がいわきだったということで、その時に志賀さんが200万円分の作品を買って生活を支えたという、これが一番大きいですね。
茂木:蔡國強さんが無名だった時にサポートしたってことは、本当に恩人ですよね。
川内:志賀さんは、そういう意識はあまりないんですよね。
茂木:どういう感じなんですか?
川内:“頼まれたから買ったけど”みたいな。
茂木:じゃあ、アートコレクターでもない?
川内:全然ですね。作品も見ないで、頼まれたからって「じゃあいくらぐらい?200万ぐらいだったらいいよ」みたいな感じで、持ってきた作品を買って家に運び込んだけど、なんとなく合わなかったから倉庫にしまってたみたいな(笑)。
茂木:買ったのに倉庫にしまっちゃってたんですか(笑)。
川内:今、また新たに出して飾ったりとかしてるみたいですけど。
茂木:無欲な方というか?
川内:そうですね、面白いことに対してはすごい貪欲なんだけど。一般世間で言うような得したいとか、あんまり感じさせない人ですね。
茂木:志賀さんは2011年の東日本大震災のあとに、いわきも大変なことがあって、今とてつもないプロジェクトをされてるんでしょ?
川内:「いわき万本桜」というプロジェクトで、99000本の桜をいわきの山々に植えるっていうプロジェクトで。
今、だいたい60人ぐらいの地主の人が参加して、あの山を提供してるっていうプロジェクトですね。
茂木:99000本って一言で言いますけど大変な数ですよね?
川内:すごい大変な数ですね。いま、4000本くらいって言ってました。
茂木:先は長いですね。
川内:250年って言ってましたね(笑)。
ものによっては、400年ぐらい生きられるものもあるそうなんですよ。
茂木:スケールの大きい方なんですね。
川内:そうなんですよね。“自分が生きてる間じゃなくてもいい”っていうのが、私にとっても最初衝撃的で。
私たちすごい短期的な目標の中に生きてるのに、“自分が死んだ後でもいいっていう人もいるのか”と思いましたね。
茂木:蔡國強さんとの出会いも、そういう意味では運命的ですね。
川内:そうですね、2人は全然違う生き方をしてるけど、なんかどこか似たものを持ってて。お互いにずっと惹かれあってるような感じがしますね。
茂木:「いわき万本桜プロジェクト」にも、さ蔡國強さんは関わっているんですか?
川内:そうなんですよ。最初はね、“なんで日本にはいっぱい桜があるのに、今更そんな桜いっぱい植えなくても”って思ったらしいんですよね。
でも、志賀さんの“故郷に素晴らしい場所を作りたい、今だからこそやりたい”っていう思いを聞いて、じゃあ自分も参加したいってことで桜の植樹にも参加してるし、自分の展覧会とかで告知をしたりとかもしていますね。
茂木:そういう意味においては「空をゆく巨人」は、現在進行形のことを書かれているんですよね。
川内:そうなんですよ。どんどん変わっちゃって、書き終わった後もどんどん展開が移ってるんですよね。
茂木:この「空をゆく巨人」というタイトルは何に由来するんですか?
川内:いくつか意味があって、一つは蔡國強さんの作品の中に「歴史の足跡」という、ビッグフットと呼ばれる国境を越えていく巨人っていう作品があるんですよね。
人工的な国境を越えて、巨人だったら自由に旅をしていくだろうという、そういう思いが込められた作品ですね。
茂木:うんうん。
川内:もう一つは、2人が空を愛する人達で、2人は自分にとって巨人みたいな存在なので。
2人のことを言って「空をゆく巨人」。
茂木:とても印象的なタイトルで、スケール感もあって、これは川内さんの作品を読んだ方の多くが「気持ちが楽になった」とか、「自由に生きていいんだ」って思ったっていう。この作品は特にそれを強く感じますね。
川内:2人が生まれるところから始まるので、約60年間の人生と30年間の交流を追っているので。
茂木:ジブリの鈴木敏夫さんも絶賛されていまして、鈴木さんとはどういう関係なんですか?
川内:私に影響を与えた映画関係者って、鈴木さんなのかもしれないです(笑)。子供の頃に私が映画を作るきっかけになった人っていうのは、鈴木敏夫さんですね。
茂木:鈴木敏夫さんね、こんなこと書いてますよ「マンションの8階に僕の一家が、9階に彼女の一家が暮らしていた。僕は今でも彼女のことをこう呼ぶ、『あっちゃん、やったね! 開高健賞、おめでとう!」って、本当に親戚のおじさんみたいな(笑)。
川内:それまで私、同じマンションに住んでるっていうことは言ってなかったんですけど。今回、帯を頼むっていうのでいったらこの帯が出てきたので。
鈴木さんがここまで言っちゃったんだったら、じゃあ私も言ってもいいかと思って、今解禁になりました(笑)。
茂木:この話すごいな、「ぼくは、この話を他人事として読むことは出来なかった。蔡國強と宮崎駿が折り重なった」ということは、自分は志賀忠重さんだと思ってるってことだよね?
川内:きっとそうですね。
茂木:これいい話だわ! 志賀忠重さんと蔡國強さんの関係は、鈴木敏夫さんと宮崎駿さんの関係と同じだっていう。
川内:そういう風に読んでいたんだなと思って。
茂木:ってことは「空をゆく巨人」っていうのは、ナウシカの世界ですね!
川内:そこまで繋げちゃっていいのかな(笑)。
茂木:そう考えると宮崎さんというアーティストを大きく育てる上で、鈴木敏夫さんの力は大きかったし。
蔡國強さんが世界のスーパースターになる上で、志賀忠重さんの力は大きかったということで、そこらへんは人間の出会いの素晴らしさですよね。
川内:そうですね。1人じゃなくて、2人だったっていうことですよね。
■プレゼントのお知らせ
今夜、ご紹介してきました、第16回開高健ノンフィクション賞を受賞作、
「空をゆく巨人」に川内有緒さんのサインを入れて、3名さまにプレゼントいたします。
ご希望の方は、必要事項を明記の上、ドリームハートの番組ホームページメッセージフォームより、ご応募ください。
番組へのご意見など、メッセージを添えていただけると嬉しいです。
尚、当選者の発表は、商品の発送をもってかえさせていただきます。
たくさんのご応募、お待ちしております。
●川内有緒さん オフィシャルウェブサイト
●川内有緒 (@ArioKawauchi) | Twitter
●川内有緒 |note
●河出書房新社 公式サイト
空をゆく巨人 / 川内有緒
(Amazon)
来週は、ダンボールアーティストの島津冬樹さんをお迎えします。
どうぞお楽しみに。
川内さんは1972年、東京都生まれ。
日本大学芸術学部卒業後、アメリカのジョージタウン大学で、中南米地域研究学で修士号を取得。
その後、アメリカ企業、日本のシンクタンク、フランス・パリの国連機関などに勤務し、国際協力分野で12年間勤務後、2010年フリーのライターに転身。
2013年には、バングラデシュの吟遊詩人たちを追った、『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』で、第33回新田次郎文学賞を受賞。
そして、今年の7月、現代美術のスーパースター蔡國強(ツァイ・グオチャン)と
福島県いわき市で会社を経営されている、志賀忠重の、およそ30年にわたる交流を追い、アートの「力」で起こした奇跡に迫った、
「空をゆく巨人」で、第16回開高健ノンフィクション賞を受賞されました。
──1人じゃなくて2人
茂木:蔡國強さんは、どういうアーティストですか?
川内:火薬を利用した作品が有名で、火薬の爆発をキャンバスに焼き付けて描く火薬画。
あとはインスタレーション的に、花火を使って屋外でいろんなものを爆発させたり、爆発で有名なアーティスですね。
茂木:まさに「芸術は爆発だ」を地でいってるんですね。
川内:有名なのは北京オリンピックの開会式の時に「歴史の足跡」っていう作品を発表したのが有名な作品の一つですね。
茂木:蔡國強さんがアーティストとして成長したのが、実はこの日本なんですよね?
川内:出発点になったのは日本だったということなんですね。
茂木:実はサポートしてきたのが、この志賀忠重さんなんですよね。
川内:そうですね。日本から来て最初の個展がいわきだったということで、その時に志賀さんが200万円分の作品を買って生活を支えたという、これが一番大きいですね。
茂木:蔡國強さんが無名だった時にサポートしたってことは、本当に恩人ですよね。
川内:志賀さんは、そういう意識はあまりないんですよね。
茂木:どういう感じなんですか?
川内:“頼まれたから買ったけど”みたいな。
茂木:じゃあ、アートコレクターでもない?
川内:全然ですね。作品も見ないで、頼まれたからって「じゃあいくらぐらい?200万ぐらいだったらいいよ」みたいな感じで、持ってきた作品を買って家に運び込んだけど、なんとなく合わなかったから倉庫にしまってたみたいな(笑)。
茂木:買ったのに倉庫にしまっちゃってたんですか(笑)。
川内:今、また新たに出して飾ったりとかしてるみたいですけど。
茂木:無欲な方というか?
川内:そうですね、面白いことに対してはすごい貪欲なんだけど。一般世間で言うような得したいとか、あんまり感じさせない人ですね。
茂木:志賀さんは2011年の東日本大震災のあとに、いわきも大変なことがあって、今とてつもないプロジェクトをされてるんでしょ?
川内:「いわき万本桜」というプロジェクトで、99000本の桜をいわきの山々に植えるっていうプロジェクトで。
今、だいたい60人ぐらいの地主の人が参加して、あの山を提供してるっていうプロジェクトですね。
茂木:99000本って一言で言いますけど大変な数ですよね?
川内:すごい大変な数ですね。いま、4000本くらいって言ってました。
茂木:先は長いですね。
川内:250年って言ってましたね(笑)。
ものによっては、400年ぐらい生きられるものもあるそうなんですよ。
茂木:スケールの大きい方なんですね。
川内:そうなんですよね。“自分が生きてる間じゃなくてもいい”っていうのが、私にとっても最初衝撃的で。
私たちすごい短期的な目標の中に生きてるのに、“自分が死んだ後でもいいっていう人もいるのか”と思いましたね。
茂木:蔡國強さんとの出会いも、そういう意味では運命的ですね。
川内:そうですね、2人は全然違う生き方をしてるけど、なんかどこか似たものを持ってて。お互いにずっと惹かれあってるような感じがしますね。
茂木:「いわき万本桜プロジェクト」にも、さ蔡國強さんは関わっているんですか?
川内:そうなんですよ。最初はね、“なんで日本にはいっぱい桜があるのに、今更そんな桜いっぱい植えなくても”って思ったらしいんですよね。
でも、志賀さんの“故郷に素晴らしい場所を作りたい、今だからこそやりたい”っていう思いを聞いて、じゃあ自分も参加したいってことで桜の植樹にも参加してるし、自分の展覧会とかで告知をしたりとかもしていますね。
茂木:そういう意味においては「空をゆく巨人」は、現在進行形のことを書かれているんですよね。
川内:そうなんですよ。どんどん変わっちゃって、書き終わった後もどんどん展開が移ってるんですよね。
茂木:この「空をゆく巨人」というタイトルは何に由来するんですか?
川内:いくつか意味があって、一つは蔡國強さんの作品の中に「歴史の足跡」という、ビッグフットと呼ばれる国境を越えていく巨人っていう作品があるんですよね。
人工的な国境を越えて、巨人だったら自由に旅をしていくだろうという、そういう思いが込められた作品ですね。
茂木:うんうん。
川内:もう一つは、2人が空を愛する人達で、2人は自分にとって巨人みたいな存在なので。
2人のことを言って「空をゆく巨人」。
茂木:とても印象的なタイトルで、スケール感もあって、これは川内さんの作品を読んだ方の多くが「気持ちが楽になった」とか、「自由に生きていいんだ」って思ったっていう。この作品は特にそれを強く感じますね。
川内:2人が生まれるところから始まるので、約60年間の人生と30年間の交流を追っているので。
茂木:ジブリの鈴木敏夫さんも絶賛されていまして、鈴木さんとはどういう関係なんですか?
川内:私に影響を与えた映画関係者って、鈴木さんなのかもしれないです(笑)。子供の頃に私が映画を作るきっかけになった人っていうのは、鈴木敏夫さんですね。
茂木:鈴木敏夫さんね、こんなこと書いてますよ「マンションの8階に僕の一家が、9階に彼女の一家が暮らしていた。僕は今でも彼女のことをこう呼ぶ、『あっちゃん、やったね! 開高健賞、おめでとう!」って、本当に親戚のおじさんみたいな(笑)。
川内:それまで私、同じマンションに住んでるっていうことは言ってなかったんですけど。今回、帯を頼むっていうのでいったらこの帯が出てきたので。
鈴木さんがここまで言っちゃったんだったら、じゃあ私も言ってもいいかと思って、今解禁になりました(笑)。
茂木:この話すごいな、「ぼくは、この話を他人事として読むことは出来なかった。蔡國強と宮崎駿が折り重なった」ということは、自分は志賀忠重さんだと思ってるってことだよね?
川内:きっとそうですね。
茂木:これいい話だわ! 志賀忠重さんと蔡國強さんの関係は、鈴木敏夫さんと宮崎駿さんの関係と同じだっていう。
川内:そういう風に読んでいたんだなと思って。
茂木:ってことは「空をゆく巨人」っていうのは、ナウシカの世界ですね!
川内:そこまで繋げちゃっていいのかな(笑)。
茂木:そう考えると宮崎さんというアーティストを大きく育てる上で、鈴木敏夫さんの力は大きかったし。
蔡國強さんが世界のスーパースターになる上で、志賀忠重さんの力は大きかったということで、そこらへんは人間の出会いの素晴らしさですよね。
川内:そうですね。1人じゃなくて、2人だったっていうことですよね。
■プレゼントのお知らせ
今夜、ご紹介してきました、第16回開高健ノンフィクション賞を受賞作、
「空をゆく巨人」に川内有緒さんのサインを入れて、3名さまにプレゼントいたします。
ご希望の方は、必要事項を明記の上、ドリームハートの番組ホームページメッセージフォームより、ご応募ください。
番組へのご意見など、メッセージを添えていただけると嬉しいです。
尚、当選者の発表は、商品の発送をもってかえさせていただきます。
たくさんのご応募、お待ちしております。
●川内有緒さん オフィシャルウェブサイト
●川内有緒 (@ArioKawauchi) | Twitter
●川内有緒 |note
●河出書房新社 公式サイト
空をゆく巨人 / 川内有緒
(Amazon)
来週は、ダンボールアーティストの島津冬樹さんをお迎えします。
どうぞお楽しみに。