2018年10月06日
今週ゲストにお迎えしたのは、マガジンハウスから「人騒がせな名画たち」を刊行されました、西洋美術史家の木村泰司さんをお迎えしました。
木村泰司さんは、1966年生まれ。
米国カリフォルニア大学バークレー校で美術史学士号を修めた後、ロンドンサザビーズの美術教養講座にて WORKS OF ART 修了。
ロンドンでは、歴史的なアート、インテリア、食器等、本物に触れながら学ばれました。
東京・大阪などで講演活動されて木村さんの軽やかなテンポの講義にたくさんの方々が魅了されていらっしゃいます。
ご著書もたくさんあるということで、美術史ブームのど真ん中にいらっしゃる方でもあります。
今週は、木村泰司さんが西洋美術史家になるまでのお話を伺っていきます。
──西洋美術史家への道のり
茂木:西洋美術史って我々みんな興味を持ってると思うんですけど、木村さんが西洋美術史をやろうと思ったのってどういうきっかけだったんですか?
木村:たまたまだったんですけど、大学に入りまして、文系の中のいわゆる純文学系で。
クリスマスに日本に帰ってきた際にそろそろ専攻を決めなきゃいけないということで父に相談したんですね。
そしたら、「大学時代ぐらいしか本当に好きなことなんて勉強できないから、就職のこととかあまり考えずに返って就職に不利なものでも専攻したら?」って父が言ったんです。
アメリカに戻りましたら、アメリカの大学ですからアルファベット順に専攻が出てますよね。ですから当然、Aから始まりますので「ART History」ってすぐに出て来て。なんか面白そうだな、って思って専攻する前に取ったんです。
そしたらとても面白かったのでそのまま取ることになったんです。
茂木:カリフォルニア大学バークレー校というと本当に名門中の名門で、私たちの分野で言うとやっぱり自然科学のイメージが強いんですが、
木村さんは、このカリフォルニア大学バークレー校で美術学士号を納められて、その後ロンドンサザビーズの美術教養講座にてWORKS OF ARTを修了されています。これはどういう課程だったんですか?
木村:バークレーは大学院への進学率がものすごく高い大学ですから、自分も当然大学院に行くつもりだったんですね。
美術史の教授というのがアドバイザーでつきますから、そこに相談に行きましたら「泰治、君はちょっと大学院ってタイプじゃないね」って言われたんです(笑)。
茂木:どういうことですか?
木村:教授曰く、美術史で大学院に行ってしまうと、学芸員になるか教授になるしかないと。
君はどちらかと言うと日本人にしては社交的だから、大学院よりは、サザビーズかクリスティーズのオークション会社の方が合うと思うから、そこの教養講座を取ったらどうだ?というアドバイスだったんですね。
茂木:サザビーズといえば、世界有数のオークションハウスなんですけど、行かれてみていかがでした?
木村:オークションハウスっていうのは外から見ますととても華やかな世界ですよね。
特にあの頃はバブルははじける直前でしたので、それこそ日本でもテレビでピカソが何十億だとか、そのような場面ばっかり映ってました。
ただ、組織というのは外から見るときと、中に入って見るときでは全然違うから、中から見なさいと。それでキャリアを決めた方がいいと教授から言われたんですね。そこは日本とは自分違うアプローチですよね。
茂木:日々の営みをご覧になってみて、実際はどういう感じでしたか?
木村:日本の美術史よりも欧米の美術史は背景を学ぶ傾向が多いですね。日本はどうしても造形面にスポットが当たりがちです。
ただ、サザビーズ、クリスティーズの教育というのは絵画だけじゃないんです。私たちは美術館で絵画を見ますけど、本来はそういうものじゃないですよね。宮殿や邸宅、または教会とか。
ですからサザビーズでは、絵画だけでなく、銀器や家具、タペストリー、磁器…。そういった授業もあるわけです。トータルでいろいろ物が見えてきたことは大変良かったと思います。
茂木:今は多くの会社で美術史とか美術を教養で身につけるという動きがあって、
それは木村さんのご活動もあったと思うんですけど、日本社会や日本経済の環境が変わって来たことも関係あるのでしょうか?
木村:そうですね。格差社会になってきたのかな、と思うところがあるんですね。例えば、金融機関などは富裕層のクライアント向けにそういったセミナーを依頼されたりですとか、
そういった方のお相手をする社員たちもそれなりのレベルになっていかないと信頼されないわけですよね。
そういった意味では美術館に行く人口は確かに増えましたけれども、もう少し海外経験の多い方などは背景にあるものを学ばないことには絵画が何を描いてるのか、背景にあるものは何なのかということが分からない。
やっぱり、知ったらその方が断然楽しいわけですし、美術館に行くことも100倍楽しくなるわけですね。海外に行くことも100倍楽しくなります。
茂木:そういう意味では比較的余裕のある方々が学ばれているってことですか?
木村:そうではないですね。カルチャーセンターなんかですと若いOLさんやサラリーマンの方もいらしてます。
美術史という言葉自体が10年前は全然浸透してませんでしたけど、ただ鑑賞するのではなく、背景から学ぶという風に日本もシフトをしていってるんだと思うんです。
茂木:そして、木村さんの最新の著作が「人騒がせな名画たち」。マガジンハウスから刊行されたんですけど、まさに“絵の読み方”が書かれているんですよね。
ミステリー小説を読んでいるような、そういう意味だったんだ!と驚くこともたくさん書かれています。
木村:意味が見えてくると、絵画っていうのは大変面白いと思うんですね。
茂木:例えば、エドゥアール・マネの「層状の昼食」。これも本当に有名な作品ですけど、この作品も色んな意味が読み取れるんですよね。
木村:今でこそ19世紀半ば以降の近代絵画、マネですとか印象派というのは、まるでフランス絵画の主流のように言われますけど、当時としては大アバンギャルドで、異端中の異端だったんです。
それがちゃんと描かれている世界が当時のフランス人にとってはスキャンダラスだったということがあるんですね。
●木村泰司 公式サイト
●人騒がせな名画たち / 木村泰司 (マガジンハウス)
(Amazon)
来週も引き続き、マガジンハウスから「人騒がせな名画たち」を刊行されました、西洋美術史家 木村泰司さんです。
どうぞお楽しみに。
木村泰司さんは、1966年生まれ。
米国カリフォルニア大学バークレー校で美術史学士号を修めた後、ロンドンサザビーズの美術教養講座にて WORKS OF ART 修了。
ロンドンでは、歴史的なアート、インテリア、食器等、本物に触れながら学ばれました。
東京・大阪などで講演活動されて木村さんの軽やかなテンポの講義にたくさんの方々が魅了されていらっしゃいます。
ご著書もたくさんあるということで、美術史ブームのど真ん中にいらっしゃる方でもあります。
今週は、木村泰司さんが西洋美術史家になるまでのお話を伺っていきます。
──西洋美術史家への道のり
茂木:西洋美術史って我々みんな興味を持ってると思うんですけど、木村さんが西洋美術史をやろうと思ったのってどういうきっかけだったんですか?
木村:たまたまだったんですけど、大学に入りまして、文系の中のいわゆる純文学系で。
クリスマスに日本に帰ってきた際にそろそろ専攻を決めなきゃいけないということで父に相談したんですね。
そしたら、「大学時代ぐらいしか本当に好きなことなんて勉強できないから、就職のこととかあまり考えずに返って就職に不利なものでも専攻したら?」って父が言ったんです。
アメリカに戻りましたら、アメリカの大学ですからアルファベット順に専攻が出てますよね。ですから当然、Aから始まりますので「ART History」ってすぐに出て来て。なんか面白そうだな、って思って専攻する前に取ったんです。
そしたらとても面白かったのでそのまま取ることになったんです。
茂木:カリフォルニア大学バークレー校というと本当に名門中の名門で、私たちの分野で言うとやっぱり自然科学のイメージが強いんですが、
木村さんは、このカリフォルニア大学バークレー校で美術学士号を納められて、その後ロンドンサザビーズの美術教養講座にてWORKS OF ARTを修了されています。これはどういう課程だったんですか?
木村:バークレーは大学院への進学率がものすごく高い大学ですから、自分も当然大学院に行くつもりだったんですね。
美術史の教授というのがアドバイザーでつきますから、そこに相談に行きましたら「泰治、君はちょっと大学院ってタイプじゃないね」って言われたんです(笑)。
茂木:どういうことですか?
木村:教授曰く、美術史で大学院に行ってしまうと、学芸員になるか教授になるしかないと。
君はどちらかと言うと日本人にしては社交的だから、大学院よりは、サザビーズかクリスティーズのオークション会社の方が合うと思うから、そこの教養講座を取ったらどうだ?というアドバイスだったんですね。
茂木:サザビーズといえば、世界有数のオークションハウスなんですけど、行かれてみていかがでした?
木村:オークションハウスっていうのは外から見ますととても華やかな世界ですよね。
特にあの頃はバブルははじける直前でしたので、それこそ日本でもテレビでピカソが何十億だとか、そのような場面ばっかり映ってました。
ただ、組織というのは外から見るときと、中に入って見るときでは全然違うから、中から見なさいと。それでキャリアを決めた方がいいと教授から言われたんですね。そこは日本とは自分違うアプローチですよね。
茂木:日々の営みをご覧になってみて、実際はどういう感じでしたか?
木村:日本の美術史よりも欧米の美術史は背景を学ぶ傾向が多いですね。日本はどうしても造形面にスポットが当たりがちです。
ただ、サザビーズ、クリスティーズの教育というのは絵画だけじゃないんです。私たちは美術館で絵画を見ますけど、本来はそういうものじゃないですよね。宮殿や邸宅、または教会とか。
ですからサザビーズでは、絵画だけでなく、銀器や家具、タペストリー、磁器…。そういった授業もあるわけです。トータルでいろいろ物が見えてきたことは大変良かったと思います。
茂木:今は多くの会社で美術史とか美術を教養で身につけるという動きがあって、
それは木村さんのご活動もあったと思うんですけど、日本社会や日本経済の環境が変わって来たことも関係あるのでしょうか?
木村:そうですね。格差社会になってきたのかな、と思うところがあるんですね。例えば、金融機関などは富裕層のクライアント向けにそういったセミナーを依頼されたりですとか、
そういった方のお相手をする社員たちもそれなりのレベルになっていかないと信頼されないわけですよね。
そういった意味では美術館に行く人口は確かに増えましたけれども、もう少し海外経験の多い方などは背景にあるものを学ばないことには絵画が何を描いてるのか、背景にあるものは何なのかということが分からない。
やっぱり、知ったらその方が断然楽しいわけですし、美術館に行くことも100倍楽しくなるわけですね。海外に行くことも100倍楽しくなります。
茂木:そういう意味では比較的余裕のある方々が学ばれているってことですか?
木村:そうではないですね。カルチャーセンターなんかですと若いOLさんやサラリーマンの方もいらしてます。
美術史という言葉自体が10年前は全然浸透してませんでしたけど、ただ鑑賞するのではなく、背景から学ぶという風に日本もシフトをしていってるんだと思うんです。
茂木:そして、木村さんの最新の著作が「人騒がせな名画たち」。マガジンハウスから刊行されたんですけど、まさに“絵の読み方”が書かれているんですよね。
ミステリー小説を読んでいるような、そういう意味だったんだ!と驚くこともたくさん書かれています。
木村:意味が見えてくると、絵画っていうのは大変面白いと思うんですね。
茂木:例えば、エドゥアール・マネの「層状の昼食」。これも本当に有名な作品ですけど、この作品も色んな意味が読み取れるんですよね。
木村:今でこそ19世紀半ば以降の近代絵画、マネですとか印象派というのは、まるでフランス絵画の主流のように言われますけど、当時としては大アバンギャルドで、異端中の異端だったんです。
それがちゃんと描かれている世界が当時のフランス人にとってはスキャンダラスだったということがあるんですね。
●木村泰司 公式サイト
●人騒がせな名画たち / 木村泰司 (マガジンハウス)
(Amazon)
来週も引き続き、マガジンハウスから「人騒がせな名画たち」を刊行されました、西洋美術史家 木村泰司さんです。
どうぞお楽しみに。