2018年09月15日
今週ゲストにお迎えしたのは、9月28日から全国で公開される
映画「散り椿」の監督であり、撮影もされた木村大作さんです。
木村監督は、1939年東京都生まれ。
1958年、東宝の撮影部に入り、黒澤明監督の数々の作品で撮影助手を務められました。
73年に『野獣狩り』で撮影監督デビュー。
以後、『八甲田山』『追憶』『鉄道員』『北のカナリアたち』など、
数多くの作品にかかわり、名実ともに日本映画界を代表するカメラマンとして活躍してこられました。
2009年、『劔岳 点の記』で、初の監督作品。
この作品で、第33回日本アカデミー賞で最優秀監督賞、最優秀撮影賞を含む6部門を制覇されました。
2003年紫綬褒章、10年旭日小綬章を受章されていらっしゃいます。
木村大作さんにお話を伺っていきました。
【映画「散り椿」】
作品の舞台は、享保15年。藩の不正を訴え出たために藩を追われた、主人公の瓜生新兵衛。追放後も連れ添い続け、病に倒れた妻・篠は、死の床で最期の願いを新兵衛に託す。それは、新兵衛のかつての友にしてライバルであり、藩追放に関しても大きな因縁を持つ人物榊原采女を助けてほしいというものだった。
妻の願いをかなえるため故郷へ戻った新兵衛は、やがてある確証を得て采女と対峙する。過去の不正事件の真相や妻の本当の思いを知る新兵衛だったが、その裏では大きな力が彼を襲おうとしていた。
──一芸に秀でる
茂木:今回の、映画「散り椿」もオールロケということで、これはまさに本物ですね。
木村:本物!黒澤明は本物を作っちゃう人なんですよ。例えば「用心棒」の宿場町、それも道幅いっぱいで対決するようなね、あんな宿場町嘘ですよ。
嘘なんだけど、さもありなん、全部本格建築なんですよ。
そういうものを作り上げちゃって、そこで撮る人。
茂木:はい。
木村:だから黒澤明は本物を作っちゃう人。僕はそれだけのお金を引っ張る力がないので、本物があるところで撮ると、それが僕の監督術の一つですかね。
茂木:本物を作る、本物を見抜く黒澤監督が、木村監督が撮影をされていた時に「あいつはいい」と。
有名な「用心棒」の冒頭のシーンで、手をくわえて犬が歩いてくるところを当時撮影されていた木村監督は見事に合わせたと。
木村:あれはもう一回見ればわかるんですけど、犬だからどこへ行くかわからないんですよ。
だから目測、自分の目測っていうのはものすごい正確じゃないと送れないっていうのと、よく見たら手のしわまで見えますよ。
そこまでピントを送る、現代でそんなピント送りをできるやつは誰もいない!僕の助手でもいないね。
茂木:でも、そこがあったから黒澤監督がそういう難しい撮影は木村に任せろと。
木村:撮影じゃなくて、ピントに関してはね。
だから、よく若いやつに言うんだけど「一芸に秀でろ」って、それで今があるので。もしピント送りがダメだったら、とっくにクビになっていますね。
茂木:当時、東宝だけでも年間80本とか撮っていたわけですもんね。
ということは、スタッフもものすごくいたわけじゃないですか?
木村:撮影所に2000人いましたよ。
茂木:その中でね、黒澤監督に認められたっていうのはすごいことじゃないですかね。
木村:それで、今があるんだと思っていますよ(笑)。
──美しい佇まい
茂木:レジェンドの木村監督が撮られたのが、今回の映画「散り椿」ということですが、岡田准一さんという俳優は素晴らしいですね。
木村:「追憶」という映画で、僕はカメラマンとして岡田准一さんを見てます。
でも、この「散り椿」って企画は、その「追憶」をやる前から考えていたことなんです。
茂木:そうだったんですね。
木村:主役は岡田准一さんでやろうと思っていたんです。
他の作品も見て、いい俳優さんだなと思ったんですよ。
茂木:それはどういうところですか?
木村:人間としての佇まい、表情、じっと立っているところにある種の男の哀愁っていうのかな、そういうものを感じる俳優さんをキャスティングしたいなと思っていたところに、岡田准一が出てきたっていうことですね。
茂木:そういう意味においては、今回の「散り椿」では、岡田さんの佇まいの魅力が本当によく描かれていますよね。
木村:前の映画では、わーわー台詞言ってますよ。これはほとんど言ってないですよ。
茂木:じゃあ、あえて佇まいを生かした演出をされたんですか?
木村:そういうことです。
それと、「ただ、愛のために」と、女優さんが2人出るじゃないですか?麻生久美子さんと黒木華さん、この2人は姉妹ですよね。
その人との関係というか、それをペラペラ台詞を言うことで表現するのは違うね、愛って言葉じゃないもんね?茂木さん、違う?
茂木:違います!佇まいで表現する愛があるということだと思うんですけど、岡田さんの殺陣、速いですね。
木村:速いね。例えば「用心棒」の三船敏郎さんなんかを見てきたわけですよ、スピードに関しては岡田准一の方が速いね。
茂木:三船さんより速いんですか!
木村:彼は歌を歌ってる時からいろいろやっていたらしいんですよ。だから、免許皆伝みたいなのをいくつも持っていますよ。
茂木:剣術などの心得があると?
木村:ただの心得じゃなくて、ほとんど師範をできるくらいの実力を持った人です。
殺陣には殺陣師が付いているんですけど、「散り椿」の殺陣は100%岡田准一さんの殺陣です!
彼が演じて見せてくれる中で僕がチョイスしているんです。
茂木:エンドクレジットを見てて、まさに岡田さんが殺陣のところでもクレジットされていらっしゃいました。
木村:そうそう、撮影者にも入ってるよ、回してるんだよ。
茂木:カメラを回されたんですか!?
木村:そういう力を持っているんだよ。映画ってさ、表が俳優さんで裏側がスタッフ、その両方にものすごい興味を持っているというか。
“全部勉強したい”っていう気持ちがあって、その雰囲気があるので運動神経は抜群だから、僕が回させているんですよ。
茂木:岡田さんは、他の方が演技されているときにも現場にいらしたりするみたいですけど。
木村:そうだね、要するにそれの先達っていうか、すごい人は高倉健さんですよ。
あの人はみんなよく言ってるでしょ?現場で椅子に座らないって、八甲田山の雪の中でも一日中立ってますよ。
そういう人を見てるので、そういう雰囲気を岡田准一さんに感じますね。
茂木:岡田准一という俳優にとっても、今回「散り椿」に出たことで、自分の役者としての特徴、これを生かす佇まいの美しさが開眼したかもしれないですね。
木村:もしそうであったら嬉しいですね。
●映画『散り椿』公式サイト
●「映画『散り椿』 (@chiritsubaki928) | Twitter 」
来週も引き続き、映画「散り椿」の監督、木村大作さんをお迎えします。
どうぞお楽しみに。
映画「散り椿」の監督であり、撮影もされた木村大作さんです。
木村監督は、1939年東京都生まれ。
1958年、東宝の撮影部に入り、黒澤明監督の数々の作品で撮影助手を務められました。
73年に『野獣狩り』で撮影監督デビュー。
以後、『八甲田山』『追憶』『鉄道員』『北のカナリアたち』など、
数多くの作品にかかわり、名実ともに日本映画界を代表するカメラマンとして活躍してこられました。
2009年、『劔岳 点の記』で、初の監督作品。
この作品で、第33回日本アカデミー賞で最優秀監督賞、最優秀撮影賞を含む6部門を制覇されました。
2003年紫綬褒章、10年旭日小綬章を受章されていらっしゃいます。
木村大作さんにお話を伺っていきました。
【映画「散り椿」】
作品の舞台は、享保15年。藩の不正を訴え出たために藩を追われた、主人公の瓜生新兵衛。追放後も連れ添い続け、病に倒れた妻・篠は、死の床で最期の願いを新兵衛に託す。それは、新兵衛のかつての友にしてライバルであり、藩追放に関しても大きな因縁を持つ人物榊原采女を助けてほしいというものだった。
妻の願いをかなえるため故郷へ戻った新兵衛は、やがてある確証を得て采女と対峙する。過去の不正事件の真相や妻の本当の思いを知る新兵衛だったが、その裏では大きな力が彼を襲おうとしていた。
──一芸に秀でる
茂木:今回の、映画「散り椿」もオールロケということで、これはまさに本物ですね。
木村:本物!黒澤明は本物を作っちゃう人なんですよ。例えば「用心棒」の宿場町、それも道幅いっぱいで対決するようなね、あんな宿場町嘘ですよ。
嘘なんだけど、さもありなん、全部本格建築なんですよ。
そういうものを作り上げちゃって、そこで撮る人。
茂木:はい。
木村:だから黒澤明は本物を作っちゃう人。僕はそれだけのお金を引っ張る力がないので、本物があるところで撮ると、それが僕の監督術の一つですかね。
茂木:本物を作る、本物を見抜く黒澤監督が、木村監督が撮影をされていた時に「あいつはいい」と。
有名な「用心棒」の冒頭のシーンで、手をくわえて犬が歩いてくるところを当時撮影されていた木村監督は見事に合わせたと。
木村:あれはもう一回見ればわかるんですけど、犬だからどこへ行くかわからないんですよ。
だから目測、自分の目測っていうのはものすごい正確じゃないと送れないっていうのと、よく見たら手のしわまで見えますよ。
そこまでピントを送る、現代でそんなピント送りをできるやつは誰もいない!僕の助手でもいないね。
茂木:でも、そこがあったから黒澤監督がそういう難しい撮影は木村に任せろと。
木村:撮影じゃなくて、ピントに関してはね。
だから、よく若いやつに言うんだけど「一芸に秀でろ」って、それで今があるので。もしピント送りがダメだったら、とっくにクビになっていますね。
茂木:当時、東宝だけでも年間80本とか撮っていたわけですもんね。
ということは、スタッフもものすごくいたわけじゃないですか?
木村:撮影所に2000人いましたよ。
茂木:その中でね、黒澤監督に認められたっていうのはすごいことじゃないですかね。
木村:それで、今があるんだと思っていますよ(笑)。
──美しい佇まい
茂木:レジェンドの木村監督が撮られたのが、今回の映画「散り椿」ということですが、岡田准一さんという俳優は素晴らしいですね。
木村:「追憶」という映画で、僕はカメラマンとして岡田准一さんを見てます。
でも、この「散り椿」って企画は、その「追憶」をやる前から考えていたことなんです。
茂木:そうだったんですね。
木村:主役は岡田准一さんでやろうと思っていたんです。
他の作品も見て、いい俳優さんだなと思ったんですよ。
茂木:それはどういうところですか?
木村:人間としての佇まい、表情、じっと立っているところにある種の男の哀愁っていうのかな、そういうものを感じる俳優さんをキャスティングしたいなと思っていたところに、岡田准一が出てきたっていうことですね。
茂木:そういう意味においては、今回の「散り椿」では、岡田さんの佇まいの魅力が本当によく描かれていますよね。
木村:前の映画では、わーわー台詞言ってますよ。これはほとんど言ってないですよ。
茂木:じゃあ、あえて佇まいを生かした演出をされたんですか?
木村:そういうことです。
それと、「ただ、愛のために」と、女優さんが2人出るじゃないですか?麻生久美子さんと黒木華さん、この2人は姉妹ですよね。
その人との関係というか、それをペラペラ台詞を言うことで表現するのは違うね、愛って言葉じゃないもんね?茂木さん、違う?
茂木:違います!佇まいで表現する愛があるということだと思うんですけど、岡田さんの殺陣、速いですね。
木村:速いね。例えば「用心棒」の三船敏郎さんなんかを見てきたわけですよ、スピードに関しては岡田准一の方が速いね。
茂木:三船さんより速いんですか!
木村:彼は歌を歌ってる時からいろいろやっていたらしいんですよ。だから、免許皆伝みたいなのをいくつも持っていますよ。
茂木:剣術などの心得があると?
木村:ただの心得じゃなくて、ほとんど師範をできるくらいの実力を持った人です。
殺陣には殺陣師が付いているんですけど、「散り椿」の殺陣は100%岡田准一さんの殺陣です!
彼が演じて見せてくれる中で僕がチョイスしているんです。
茂木:エンドクレジットを見てて、まさに岡田さんが殺陣のところでもクレジットされていらっしゃいました。
木村:そうそう、撮影者にも入ってるよ、回してるんだよ。
茂木:カメラを回されたんですか!?
木村:そういう力を持っているんだよ。映画ってさ、表が俳優さんで裏側がスタッフ、その両方にものすごい興味を持っているというか。
“全部勉強したい”っていう気持ちがあって、その雰囲気があるので運動神経は抜群だから、僕が回させているんですよ。
茂木:岡田さんは、他の方が演技されているときにも現場にいらしたりするみたいですけど。
木村:そうだね、要するにそれの先達っていうか、すごい人は高倉健さんですよ。
あの人はみんなよく言ってるでしょ?現場で椅子に座らないって、八甲田山の雪の中でも一日中立ってますよ。
そういう人を見てるので、そういう雰囲気を岡田准一さんに感じますね。
茂木:岡田准一という俳優にとっても、今回「散り椿」に出たことで、自分の役者としての特徴、これを生かす佇まいの美しさが開眼したかもしれないですね。
木村:もしそうであったら嬉しいですね。
●映画『散り椿』公式サイト
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来週も引き続き、映画「散り椿」の監督、木村大作さんをお迎えします。
どうぞお楽しみに。