2018年07月07日
今週ゲストにお迎えしたのは、先週に引き続き、PHP新書から「半分生きて、半分死んでいる」を刊行されました養老孟司さんです。
養老孟司さんは、1937年 神奈川県鎌倉市のご出身。
1962年に東京大学医学部を卒業された後、1年のインターンを経て解剖学教室に入り、以後解剖学を専攻されました。
東京大学の医学部の教授を務めていらっしゃいましたが、
1995年に退官され、現在東京大学名誉教授でいらっしゃいます。
著書には「からだの見方」、「形を読む−生物の形態をめぐって」、
「唯脳論」、「バカの壁」など多数ございます。
今週も、養老孟司さんの著書「半分生きて、半分死んでいる」について、お話しを伺っていきたいと思います。
──自然と共に生きる
茂木:自然とか田舎というものが徐々に失われて来ている今、
今回の本『半分生きて、半分死んでいる』の中でもーユーモラスに『参勤交代』とおっしゃっていますが、都会と田舎を半々生きるのが良い、と。
養老:やってみてどうなりますか?って聞かれても人によって違うので一概には言えないんですけど、やったほうがいいと思いますよ。
やってみて、田舎はもう勘弁してほしいって思うのなら、それはそれでいいんですね。
田舎の人も都会を毛嫌いしないで都会を知らなきゃいけませんから、極端に言えば家を交代してもいいんですけどね。
茂木:家を交換する!それは一番楽そうですね。
昆虫採集に関しては、いかがでしょう?最近はなんでも禁止にされることが多いですけども…。
養老:禁止っていうのは野暮ですね。だって禁止にしたってしょうがないじゃないですか。自分がどれだけ虫を殺してると思う?って話ですよ。
茂木:気づかずにってことですよね。
養老:そうなんです。虫はいないほうがいいっていう風に思ってる人が多いんじゃないですかね。
茂木:その割には保護運動とか非常に盛んですよね。
養老:だから、世界が歪んじゃうんですよ。
そういう趣旨もあって、僕は虫塚っていうのを作って虫供養をやってるんですけど…。
茂木:6月4日に行ってらっしゃるんですよね。
養老:だって、採集して虫がいなくなるってよっぽど特殊な状況ですよ。例えば、イラクのオアシスで蝶を取ったら、それはいなくなります。
茂木:元々の生態系が小さいと。
養老:そうです。そういうことは当然ありますけど、普通の状況では全く違いますね。昨日東海道線に乗ってたら、電車の窓にてんとう虫張り付いてて。
そういう風景が頻繁にあっていいんですけど、飛行機の中にそんなものが居ようものなら殺虫剤を撒くでしょ。でも、別にいたっていいじゃないですか。
茂木:昔はそれが当たり前でしたもんね。今回の『半分生きて、半分死んでいる』でも、”五月の蝿”と書いて、かつては五月蝿い(うるさい)と読んでいたのが、今だと珍しいですもんね。
養老先生は、人間が作ったものとそうじゃないものを非常に区別されて気にされてますよね。
養老:人が作ったもの、しつらえたもの以外は認めないっていう人が大量に発生した。
これを都市住民と僕は言っているんですけどね。だから、そういう人が田舎に行って、虫がいてどうしようもないっていう体験をしてもらった方がいいんじゃないかなって。
茂木:田舎に行くとそういう都市住民の世界観の限界に当たると。
世の中がそういう方向に動けばいいんですけど、養老先生はそういう取り組みも色々応援されたりされているんですよね。
養老:そうですね。しょうがないから自分でしょっちゅう田舎に行ってます(笑)。
茂木:でも、養老先生は絶対に東大をお辞めになられた頃に比べると元気になられてますよね!
養老:世間から見れば立派だというところで働いていることが本当に良いことかっていうのは、やっぱり誰かが時々チェックしなきゃいけないことじゃないかな。
人間の本来の生き方っていうのを年を取ると考えるようになりますから。どういう一生が本当に良いのか。最終的には人が成熟するってどういうことか。
お年寄りが増えましたから、一生を全うするとはどういうことなんだろう、っていうのは考えますね。
そうすると、出発点は自然ですから。そこと切れるはずがないと思うんですよね。
──インターネットとの関わり方
茂木:現在、世の中はインターネット内で起こる”炎上”などで次から次へと話題が変わって、みんな慌ただしくしているんですけど、そこからの距離の置き方はどうしたら良いのでしょうか?
養老:やっぱり、自分で落ち着くしかないんじゃないですか。うろうろしないで落ち着けばいいと思いますよ。
二通りありますよね。人生たかが知れてるからどうでもいい。いい加減に生きるっていうのが一つ。
たかが知れてるんだから何か一生懸命やってもいいでしょう。っていう考え方が一つ。どちらも同じだよね。どっちが人間としてハッピーか。
茂木:なるほど。
養老:バーバラ・マクリントックという女性の科学者の方がいるんですけど、あの人も、子供の時からものすごい集中力の持ち主なんですよ。
物事に集中すると考えるし、スポーツなんかでも集中力のある人が強いでしょ。
集中力を身につけるようにするということ。もしかすると良い人生を送るための大事なことかもしれないですね。
仕事もそうで、僕15分しか集中できないってよく言うんですけど、15分あれば結構書けるんですよね。
茂木:養老先生、書くのが早いですもんね!
養老先生がこの本の中で書かれている、良い昆虫の標本を作るということが、本当に大事な仕事で、子供達によく作られた標本を見せると全然反応が違うと。
養老:ものを見る目が出来るんです。芸術でもよく言いますよね。
ある作家が絵の目利きをやっていたんですけど、なぜかというと、彼は画廊の下働きをやっていて唯一学んだのが絵の見方だったと。
茂木:たくさん良いものを見ていたから。
養老:そうです。やっぱり、良いものをたくさん見ないとダメなんですよね。
本なんかもそうで、ピンからキリまでありますからやたら読むんですけど、でもたくさん読めばひとりでに良いものが分かってくる。
茂木:その辺りに、現代において幸せに生きるための秘密がありそうですね。
養老:そういう意味ではネットもそのうちだんだん良くなってくんじゃないですか。だんだん定評ができて、誰かのなら読むに値するけど、こんなの読んでもしょうがないって感じで(笑)。
私は、自然選択って情報に関するルールだと思っているんです。生き物の情報としてみるから自然選択に見えるんですよ。
茂木:ということは、インターネットもひょっとしたら…。
養老:徹底的に自然選択がかかるでしょうね。みんなの頭に入らないものはどんどん滅びるんですよ。
そして、面白い話はどんどん面白くなるんです。
●半分生きて、半分死んでいる | 養老孟司著 | 書籍 | PHP研究所
(Amazon)
来週は、政治学者・白井聡さんをお迎えします。
どうぞお楽しみに。
養老孟司さんは、1937年 神奈川県鎌倉市のご出身。
1962年に東京大学医学部を卒業された後、1年のインターンを経て解剖学教室に入り、以後解剖学を専攻されました。
東京大学の医学部の教授を務めていらっしゃいましたが、
1995年に退官され、現在東京大学名誉教授でいらっしゃいます。
著書には「からだの見方」、「形を読む−生物の形態をめぐって」、
「唯脳論」、「バカの壁」など多数ございます。
今週も、養老孟司さんの著書「半分生きて、半分死んでいる」について、お話しを伺っていきたいと思います。
──自然と共に生きる
茂木:自然とか田舎というものが徐々に失われて来ている今、
今回の本『半分生きて、半分死んでいる』の中でもーユーモラスに『参勤交代』とおっしゃっていますが、都会と田舎を半々生きるのが良い、と。
養老:やってみてどうなりますか?って聞かれても人によって違うので一概には言えないんですけど、やったほうがいいと思いますよ。
やってみて、田舎はもう勘弁してほしいって思うのなら、それはそれでいいんですね。
田舎の人も都会を毛嫌いしないで都会を知らなきゃいけませんから、極端に言えば家を交代してもいいんですけどね。
茂木:家を交換する!それは一番楽そうですね。
昆虫採集に関しては、いかがでしょう?最近はなんでも禁止にされることが多いですけども…。
養老:禁止っていうのは野暮ですね。だって禁止にしたってしょうがないじゃないですか。自分がどれだけ虫を殺してると思う?って話ですよ。
茂木:気づかずにってことですよね。
養老:そうなんです。虫はいないほうがいいっていう風に思ってる人が多いんじゃないですかね。
茂木:その割には保護運動とか非常に盛んですよね。
養老:だから、世界が歪んじゃうんですよ。
そういう趣旨もあって、僕は虫塚っていうのを作って虫供養をやってるんですけど…。
茂木:6月4日に行ってらっしゃるんですよね。
養老:だって、採集して虫がいなくなるってよっぽど特殊な状況ですよ。例えば、イラクのオアシスで蝶を取ったら、それはいなくなります。
茂木:元々の生態系が小さいと。
養老:そうです。そういうことは当然ありますけど、普通の状況では全く違いますね。昨日東海道線に乗ってたら、電車の窓にてんとう虫張り付いてて。
そういう風景が頻繁にあっていいんですけど、飛行機の中にそんなものが居ようものなら殺虫剤を撒くでしょ。でも、別にいたっていいじゃないですか。
茂木:昔はそれが当たり前でしたもんね。今回の『半分生きて、半分死んでいる』でも、”五月の蝿”と書いて、かつては五月蝿い(うるさい)と読んでいたのが、今だと珍しいですもんね。
養老先生は、人間が作ったものとそうじゃないものを非常に区別されて気にされてますよね。
養老:人が作ったもの、しつらえたもの以外は認めないっていう人が大量に発生した。
これを都市住民と僕は言っているんですけどね。だから、そういう人が田舎に行って、虫がいてどうしようもないっていう体験をしてもらった方がいいんじゃないかなって。
茂木:田舎に行くとそういう都市住民の世界観の限界に当たると。
世の中がそういう方向に動けばいいんですけど、養老先生はそういう取り組みも色々応援されたりされているんですよね。
養老:そうですね。しょうがないから自分でしょっちゅう田舎に行ってます(笑)。
茂木:でも、養老先生は絶対に東大をお辞めになられた頃に比べると元気になられてますよね!
養老:世間から見れば立派だというところで働いていることが本当に良いことかっていうのは、やっぱり誰かが時々チェックしなきゃいけないことじゃないかな。
人間の本来の生き方っていうのを年を取ると考えるようになりますから。どういう一生が本当に良いのか。最終的には人が成熟するってどういうことか。
お年寄りが増えましたから、一生を全うするとはどういうことなんだろう、っていうのは考えますね。
そうすると、出発点は自然ですから。そこと切れるはずがないと思うんですよね。
──インターネットとの関わり方
茂木:現在、世の中はインターネット内で起こる”炎上”などで次から次へと話題が変わって、みんな慌ただしくしているんですけど、そこからの距離の置き方はどうしたら良いのでしょうか?
養老:やっぱり、自分で落ち着くしかないんじゃないですか。うろうろしないで落ち着けばいいと思いますよ。
二通りありますよね。人生たかが知れてるからどうでもいい。いい加減に生きるっていうのが一つ。
たかが知れてるんだから何か一生懸命やってもいいでしょう。っていう考え方が一つ。どちらも同じだよね。どっちが人間としてハッピーか。
茂木:なるほど。
養老:バーバラ・マクリントックという女性の科学者の方がいるんですけど、あの人も、子供の時からものすごい集中力の持ち主なんですよ。
物事に集中すると考えるし、スポーツなんかでも集中力のある人が強いでしょ。
集中力を身につけるようにするということ。もしかすると良い人生を送るための大事なことかもしれないですね。
仕事もそうで、僕15分しか集中できないってよく言うんですけど、15分あれば結構書けるんですよね。
茂木:養老先生、書くのが早いですもんね!
養老先生がこの本の中で書かれている、良い昆虫の標本を作るということが、本当に大事な仕事で、子供達によく作られた標本を見せると全然反応が違うと。
養老:ものを見る目が出来るんです。芸術でもよく言いますよね。
ある作家が絵の目利きをやっていたんですけど、なぜかというと、彼は画廊の下働きをやっていて唯一学んだのが絵の見方だったと。
茂木:たくさん良いものを見ていたから。
養老:そうです。やっぱり、良いものをたくさん見ないとダメなんですよね。
本なんかもそうで、ピンからキリまでありますからやたら読むんですけど、でもたくさん読めばひとりでに良いものが分かってくる。
茂木:その辺りに、現代において幸せに生きるための秘密がありそうですね。
養老:そういう意味ではネットもそのうちだんだん良くなってくんじゃないですか。だんだん定評ができて、誰かのなら読むに値するけど、こんなの読んでもしょうがないって感じで(笑)。
私は、自然選択って情報に関するルールだと思っているんです。生き物の情報としてみるから自然選択に見えるんですよ。
茂木:ということは、インターネットもひょっとしたら…。
養老:徹底的に自然選択がかかるでしょうね。みんなの頭に入らないものはどんどん滅びるんですよ。
そして、面白い話はどんどん面白くなるんです。
●半分生きて、半分死んでいる | 養老孟司著 | 書籍 | PHP研究所
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来週は、政治学者・白井聡さんをお迎えします。
どうぞお楽しみに。