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Dream HEART vol.274 養老孟司さん

2018年06月30日

今週ゲストにお迎えしたのは、PHP新書から「半分生きて、半分死んでいる」を刊行されました養老孟司さんです。

養老孟司さんは、1937年 神奈川県鎌倉市のご出身。
1962年に東京大学医学部を卒業された後、1年のインターンを経て解剖学教室に入り、以後解剖学を専攻されました。

東京大学の医学部の教授を務めていらっしゃいましたが、
1995年に退官され、現在東京大学名誉教授でいらっしゃいます。

著書には「からだの見方」、「形を読む−生物の形態をめぐって」、
「唯脳論」、「バカの壁」など多数ございます。

今週は、養老孟司さんの著書「半分生きて、半分死んでいる」について、お話しを伺っていきたいと思います。




──情報化の裏に潜むもの


茂木:今回の『半分生きて、半分死んでいる』は、いわゆる時評、その時々だけのニュースだとか世評について書かれたという、養老先生としては大変珍しい本ですよね。

養老:確か一年の連載のつもりだったんですよ。そしたら、「本1冊になるまでやってください」って言われて(笑)。

茂木:今、手元に本があるんですけど、拝読していて養老節としか言いようがないというか。普通の時評ではないですね!

養老:そうですね。何かを参考にして書いたってことではないし、本当に思うままっていう感じですから。

茂木:養老先生がこの中で書かれていることの非常に大きなテーマが情報化の問題かと思うんですが、
ますます世の中がそのようになって来てますけど、いかがですか?

養老:それはそれで別に構わないんだけど、それには裏があって。情報化の裏にはもう一つ実際の事情というか、現物があるんです。
虫がそうですけど、僕が虫をずっといじってるのは解剖によく似てて、解剖って実物があるわけですよ。その実物から物を起こすというか、そういうところが手抜きになってくる。
情報だけをいう学校の仕事が増えてきちゃうと結構危ないなあ、ていうのが僕の子供の時からの感覚なんですね。
それはもう一つ裏を言えば、戦争があったからですよ。

茂木:これだけ長い間、養老先生に色々教えていただいている中で僕にとってもショックだったのが、
養老先生にとって、戦争はまだ終わってないという様なことを『半分生きて、半分死んでいる』の中で書かれてましたね。
これは非常に衝撃的な言葉だったのですが…。

養老:僕らの世代っていうのは基本的にそういう想いを持っているんじゃないでしょうか。実際に戦争に行ってませんから。
だけど、疎開する時は食糧難などで色んなことをいわば矯正されていた。例えば、僕は典型的な左利きだったんですけど、学校に入る時に右利きに直されましたからね。

茂木:養老先生が常々お書きになってらっしゃいますが、戦後すぐに教科書に墨を塗らされたと…。

養老:そうですね。それは、気にした人と全然気にしない人と分かれると思いますけど、僕は非常に大きな影響を受けたなと思います。”言論って何だ”と、思いました。

茂木:言葉というものは、物あるいは行動に比較するとそれほどの価値や意味がないんだけど、現代はそれを巡って色んなことが起きていますよね。

養老:大臣が言葉でクビになったりね。口先で大臣になったから口先でクビになるんだ、って書いたことがありますけど、
実際にその人は何をしてるか、みんながそういうもの見なくなった傾向があるんじゃないですかね。
で、実際にしてることっていうとセクハラだとか女性問題だとか、そういうのが出るばっかりで。
仕事は何してるんだか誰も分からない、そんな訳の分からない社会になってるなって気がしているんです。




──グローバルとローカル

茂木:今回、書き下ろしということで平成という時代について色々とお書きになっていて。平成は万事が煮詰まった時代と書かれています。これはどういうことでしょうか?

養老:23年もいわゆるデフレ状態で、安倍政権はデフレ脱却って言って出てきましたけど、少なくとも今までのところ顕著な効果が出てない。
で、企業は調子が良いって言ってますけど、5年間ぐらい一所懸命やった訳ですから、ある意味良くて当然で。
それこそ言論を見てると、一方で財政出動を強く言う。一方でプライマリーバランス、収支が均衡じゃないといけない。対立してますよね。でも、意見が対立する時は両方ちゃんと言い分があるんですよね。

茂木:なるほど。

養老:当然、財政出動をしないと景気が良くならないと。それはそれで一方としてあって、財務省が頑として借金を増やすなと言ってる。
僕、官僚に聞いたことがあるんですけど、なんで支出を抑えるか、国民がたかるからですね。
上手に支出しなきゃいけないんだけど、ただ支出を増やせというのは危ない面がある訳です。
逆に言うとここまでデフレ状態をずっと維持できたっていうのは、日本人ってものすごく忠実に守るんでしょうね。だからこういう状態になってるんだと思います。
そこを緩めて、思い切って金を使わせようとすると、今度はろくでもない物に使うというとちょっとおかしいんだけど、そこら辺が煮詰まってないんじゃないかな。

茂木:また、『半分生きて、半分死んでいる』の大きなテーマの一つは、
グローバルとローカルってことだと思うんですけど、今まさにあの若い世代が非常にそこで苦しんでるんですが、これはどうしたらいいですかね?

養老:やっぱり、徹底するしかないんですよね。ある程度やることは必要ですけど、ある程度まで行ったら自分で決めなきゃいけませんね。自分の母国語は日本語であるとか英語であるとか。
僕は英語で論語を書く時には英語で考えて、英語になるまで書きませんでした。

茂木:英語で考えてたんですか!

養老:そうです。日本語で書いて英語に訳すって普通は思うんですけど、それはやりません。英語の適切な表現、考え方が見つかるまで書きません。
それでやると一文書一文書、えらい時間がかかる。そしたら論文のレフリーが、「これはネイティブが書いた英語だ」って言ってきたんです。
つまり、お前が書いたんじゃないだろうっていう批評があったんですよ。

茂木:それぐらい徹していたということですね。

養老:そういう訓練したおかげで、僕の手紙を読んだドイツの教授がヨーロッパ人よりヨーロッパ人らしい考え方するって言ったんです。

茂木:これは養老孟司先生の様な特別な方だからできたのであって、
皆さんどうしても英語と日本語で迷ってるところがあると思うんですが、どうしたらいいんですかね?

養老:一つの忠告としては、若い人だったら詰めるところまで詰めたらいい。それは非常に大切だと思います。

茂木:じゃあ、中途半端に英語をやっているから良くないんですね。中途半端な人が英語を振り回していると。

養老:そう思います。







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来週も引き続き、養老孟司さんをお迎えします。
どうぞお楽しみに。