2017年08月26日
今週お迎えしたのは、MITメディア・ラボ所長、伊藤穰一さんです。
1966年、京都生まれ。
少年時代をアメリカ・ミシガン州で過ごし、14歳で帰国。
アメリカ・タフツ大学、シカゴ大学などで物理学を学ぶ。
日本では、インターネット技術の普及に尽力。
インターネット事業への投資に携わり、これまでに Twitterなど、
ネットベンチャー企業の事業展開、事業育成を支援している。
2011年9月、日本人として初めて、マサチューセッツ工科大学のメディア・ラボの所長に就任。
そんな伊藤穰一に、お話を伺っていきました。
──コミュニティーの大切さ
茂木:伊藤穰一の出来方という意味においては、生まれてすぐアメリカに行って、14歳で帰国して。日本ではインターナショナルスクールに行ってたんですよね。
伊藤:日本語で教育を受けたことがないので、騙し騙しでやっています(笑)。
日本に戻ってきた時は母親としか話してなかったので、女の子言葉だったんですよ「そんなのわからないですもの」みたいな感じで(笑)。
茂木:DJもやっていた事があるんですか?
伊藤:シカゴ大学に行ってて、僕は東京でもクラブに行ってたんだけど。
シカゴに行ったら遊び場が近くになくて、北の方のクラブで遊んでて、そしたら面白いコミュニティーに出会ったんですよ。
茂木:はい。
伊藤:80年代でエイズが盛んになっていた時なので、コミュニティーがエイズの人だとか色んな人たちをケアするんですよ。
警察から犯罪者から、みんなひとつのコミュニティーになっているんですよね。
茂木:なるほど。
伊藤:多様な……変わったコミュニティーの方が、大学より人間性があってすごい勉強になったの。
もうひとつが、僕がDJやってる時に、マネージャーがバーの隣にいるんだけど、そこから電話で繋がってるの。
「今入ってきたヒスパニックの子達を踊らせろ」とか「踊ってる白人たち、汗かいてるから酒飲ませろ」とか、全部曲を変えてコントロールしてるんですよ。
お店の売り上げから、変な奴を追い出すのから、全部音楽で出来たんですよ。
茂木:おもしろいですね〜。
伊藤:僕はコミュニティーの勉強と音楽だけで、どれだけコミュニティーをマネージメントできるか…これ、実はメディアラボと同じなんですよ。
メディアラボは、あまり指示するのではなくて、雰囲気とか文化をいじることによってメディアラボの方向性を動かしている。
茂木:そうなんですね。
伊藤:例えばなんだけど、僕がメディアラボに入った時って女性は20%しかいなかったの。
大学の監査が「なんで、こんなにダメなんだ」と言うから、ちょっとしたことを書いたのね。失礼なことを言ったらメーリングリストにビシッとやったり、パーティーのやり方とか、ちょっとずつ文化をいじったんですよ。そしたら、50%まで上がったの。
茂木:20%が50%になったんですか!すごいですね。
伊藤:2年続けて、入ってくる半分の新入生は女性です。
茂木:細かいチューニングというか、パロメーターを変えて…。
伊藤:そういうのを意識する担当の人も雇ったけどね。
うちのスポンサーがちょっと差別的なことを女の人に言ったのね、うちのイベントは1000人くらいスポンサーがくるから、オープニングで、”うちはコミュニティーなんだ”と、”僕らのコミュニティーの中では差別、男尊女卑は一切なくて、皆さんも僕らのメンバーなので、そういう倫理観で入ってくれるのはハッピーだけど、そうじゃなかったらお金はいらないから帰って”って言ったんだよ。
そうすると、学生たちはサポートされている気分になるじゃない?
茂木:そうですね。
伊藤:そうすると他の女性にもレコメンドできるようになって。
DJにつなげると、ちょっとした音楽の雰囲気で、気持ちが良くなると行動パターンが変わるということなので。
世の中は法律よりも音楽で変えていくのが、すごく重要なテーマだと思います。
──能力より多様性
茂木:伊藤さんは、大学を二回やめたじゃないですか?日本国内では、伊藤さんがメディアラボの所長になったとき、「大学も二回やめちゃったし、学位もない、そういう人を所長にするんだ」と、驚きを持って受け止められたんですけど、どういうプロセスだったんですか?
伊藤:日本もそうだと思うんだけど、人を探すときにきちっとしたプロセスがあって、何百人の候補がいたのね。
ニコラス・ネグロポンテという創業者から「どお?」って聞かれて、彼も僕の経歴を見て「難しいかな〜」と言われて。
茂木:そうなんですね。
伊藤:でも、彼は半年くらいインタビューし続けて、誰も残らなかったの。『一度来てみたら』と言われて行ったの。
2日間学生とか先生とかスタッフと会ったら、あまりにもぴったりでお互いびっくりしちゃったのよ(笑)。
何が一番重要だったかというと、メディアラボってものすごい色んなことをやってるし、ひとりひとりの先生が全然違う分野…音楽もあれば、ロボットもあるし、教育もある。
学位がある人っていうと、自分の好きなものと興味がないものって必然的にありますよね、専門分野があるから。
茂木:そうですね。
伊藤:僕はすべてに興味があるし、今までそれが弱点だったわけなんですよ。全部に興味があると何も集中できていないから。
メディアラボっていうのは、みんなの話に興味が持てて、ある程度理解できる人じゃないと所長になれないんですよ。
したがって、学位持っている人たちは、みんな多少偏っちゃっていたところもあるんじゃないかと思います。
茂木:その仕事に合ってたってことですよね。
インタビューして決めるっていうのはアメリカでは一般的なんでしょうかね?
伊藤:一般的だけど、メディアラボもすごく特殊なんだよね。
茂木:今回の著書「9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために」の中の、能力より多様性というのを思い出したんですけど。
いま日本の大学とかだと点数つけちゃって、この人は論文何個書いてるから、何点だからっていう風に人事しちゃいがちなんですけど、それとは違う思想ですね。
伊藤:科学的な裏付けがあるんだけど、偏差値が高いけど同じようなバックグラウンドの人を集めるよりも、ちょっと偏差値が低くて、みんなそれぞれ違う人の方が、問題を解くときのクリエイティビティが高くて、問題を解く確率が高くなるので。
色んな角度からものを見る必要があるので、そういう意味でも、我々は一次元で測れる人じゃない方がいいんですよね。
●「9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために」
伊藤 穰一 (著), ジェフ・ ハウ (著), 山形 浩生 (翻訳)
(Amazon)
来週も引き続き、MITメディア・ラボ所長、伊藤穰一さんをお迎えしてお話をうかがっていきます。
どうぞお楽しみに。
1966年、京都生まれ。
少年時代をアメリカ・ミシガン州で過ごし、14歳で帰国。
アメリカ・タフツ大学、シカゴ大学などで物理学を学ぶ。
日本では、インターネット技術の普及に尽力。
インターネット事業への投資に携わり、これまでに Twitterなど、
ネットベンチャー企業の事業展開、事業育成を支援している。
2011年9月、日本人として初めて、マサチューセッツ工科大学のメディア・ラボの所長に就任。
そんな伊藤穰一に、お話を伺っていきました。
──コミュニティーの大切さ
茂木:伊藤穰一の出来方という意味においては、生まれてすぐアメリカに行って、14歳で帰国して。日本ではインターナショナルスクールに行ってたんですよね。
伊藤:日本語で教育を受けたことがないので、騙し騙しでやっています(笑)。
日本に戻ってきた時は母親としか話してなかったので、女の子言葉だったんですよ「そんなのわからないですもの」みたいな感じで(笑)。
茂木:DJもやっていた事があるんですか?
伊藤:シカゴ大学に行ってて、僕は東京でもクラブに行ってたんだけど。
シカゴに行ったら遊び場が近くになくて、北の方のクラブで遊んでて、そしたら面白いコミュニティーに出会ったんですよ。
茂木:はい。
伊藤:80年代でエイズが盛んになっていた時なので、コミュニティーがエイズの人だとか色んな人たちをケアするんですよ。
警察から犯罪者から、みんなひとつのコミュニティーになっているんですよね。
茂木:なるほど。
伊藤:多様な……変わったコミュニティーの方が、大学より人間性があってすごい勉強になったの。
もうひとつが、僕がDJやってる時に、マネージャーがバーの隣にいるんだけど、そこから電話で繋がってるの。
「今入ってきたヒスパニックの子達を踊らせろ」とか「踊ってる白人たち、汗かいてるから酒飲ませろ」とか、全部曲を変えてコントロールしてるんですよ。
お店の売り上げから、変な奴を追い出すのから、全部音楽で出来たんですよ。
茂木:おもしろいですね〜。
伊藤:僕はコミュニティーの勉強と音楽だけで、どれだけコミュニティーをマネージメントできるか…これ、実はメディアラボと同じなんですよ。
メディアラボは、あまり指示するのではなくて、雰囲気とか文化をいじることによってメディアラボの方向性を動かしている。
茂木:そうなんですね。
伊藤:例えばなんだけど、僕がメディアラボに入った時って女性は20%しかいなかったの。
大学の監査が「なんで、こんなにダメなんだ」と言うから、ちょっとしたことを書いたのね。失礼なことを言ったらメーリングリストにビシッとやったり、パーティーのやり方とか、ちょっとずつ文化をいじったんですよ。そしたら、50%まで上がったの。
茂木:20%が50%になったんですか!すごいですね。
伊藤:2年続けて、入ってくる半分の新入生は女性です。
茂木:細かいチューニングというか、パロメーターを変えて…。
伊藤:そういうのを意識する担当の人も雇ったけどね。
うちのスポンサーがちょっと差別的なことを女の人に言ったのね、うちのイベントは1000人くらいスポンサーがくるから、オープニングで、”うちはコミュニティーなんだ”と、”僕らのコミュニティーの中では差別、男尊女卑は一切なくて、皆さんも僕らのメンバーなので、そういう倫理観で入ってくれるのはハッピーだけど、そうじゃなかったらお金はいらないから帰って”って言ったんだよ。
そうすると、学生たちはサポートされている気分になるじゃない?
茂木:そうですね。
伊藤:そうすると他の女性にもレコメンドできるようになって。
DJにつなげると、ちょっとした音楽の雰囲気で、気持ちが良くなると行動パターンが変わるということなので。
世の中は法律よりも音楽で変えていくのが、すごく重要なテーマだと思います。
──能力より多様性
茂木:伊藤さんは、大学を二回やめたじゃないですか?日本国内では、伊藤さんがメディアラボの所長になったとき、「大学も二回やめちゃったし、学位もない、そういう人を所長にするんだ」と、驚きを持って受け止められたんですけど、どういうプロセスだったんですか?
伊藤:日本もそうだと思うんだけど、人を探すときにきちっとしたプロセスがあって、何百人の候補がいたのね。
ニコラス・ネグロポンテという創業者から「どお?」って聞かれて、彼も僕の経歴を見て「難しいかな〜」と言われて。
茂木:そうなんですね。
伊藤:でも、彼は半年くらいインタビューし続けて、誰も残らなかったの。『一度来てみたら』と言われて行ったの。
2日間学生とか先生とかスタッフと会ったら、あまりにもぴったりでお互いびっくりしちゃったのよ(笑)。
何が一番重要だったかというと、メディアラボってものすごい色んなことをやってるし、ひとりひとりの先生が全然違う分野…音楽もあれば、ロボットもあるし、教育もある。
学位がある人っていうと、自分の好きなものと興味がないものって必然的にありますよね、専門分野があるから。
茂木:そうですね。
伊藤:僕はすべてに興味があるし、今までそれが弱点だったわけなんですよ。全部に興味があると何も集中できていないから。
メディアラボっていうのは、みんなの話に興味が持てて、ある程度理解できる人じゃないと所長になれないんですよ。
したがって、学位持っている人たちは、みんな多少偏っちゃっていたところもあるんじゃないかと思います。
茂木:その仕事に合ってたってことですよね。
インタビューして決めるっていうのはアメリカでは一般的なんでしょうかね?
伊藤:一般的だけど、メディアラボもすごく特殊なんだよね。
茂木:今回の著書「9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために」の中の、能力より多様性というのを思い出したんですけど。
いま日本の大学とかだと点数つけちゃって、この人は論文何個書いてるから、何点だからっていう風に人事しちゃいがちなんですけど、それとは違う思想ですね。
伊藤:科学的な裏付けがあるんだけど、偏差値が高いけど同じようなバックグラウンドの人を集めるよりも、ちょっと偏差値が低くて、みんなそれぞれ違う人の方が、問題を解くときのクリエイティビティが高くて、問題を解く確率が高くなるので。
色んな角度からものを見る必要があるので、そういう意味でも、我々は一次元で測れる人じゃない方がいいんですよね。
●「9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために」
伊藤 穰一 (著), ジェフ・ ハウ (著), 山形 浩生 (翻訳)
(Amazon)
来週も引き続き、MITメディア・ラボ所長、伊藤穰一さんをお迎えしてお話をうかがっていきます。
どうぞお楽しみに。