2017年04月15日
今週も、先週に引き続き、4月8日から、シネスイッチ銀座他にて、全国順次ロードショーされる、映画「ぼくと魔法の言葉たち」の監督、ロジャー・ロス・ウィリアムズさんをお迎えしました。
ロジャー・ロス・ウィリアムズさんは、TVプロデューサー、演出家として15年以上に渡り、第一線で活躍された後、映画監督に転身されました。現在、公開されている映画「ぼくと魔法の言葉たち」でも、第89回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされるなど、世界中から注目されている監督です。
今週は、ロジャー・ロス・ウィリアムズさん自身にスポットを当ててお話を伺いました
──人と人は違うからこそ素晴らしい
茂木:ロジャー監督は、アメリカの3大ネットワークでもあるABC、NBC、CNNなど、様々な放送局で15年以上にわたり活躍されたという事なんですけど、TVの世界で経験されたことはドキュメンタリー映画を作るうえで役に立っていますか?
ロジャー:TV業界での仕事というのが、映画作家としての自分のベースを作ってくれたという風に感じています。ジャーナリストとしてTV業界に身を置いていた事でドキュメンタリーを作る時もどういう風に製作すればいいのか、という事を学びました。
それに加えて、レポートをするという立場ですから、客観性を持って向き合っていく姿勢が身に着いたと思います。
ただ、今の僕はアメリカのメインストリームのニュースが役目を果たしていないと思うんです。その代わりにドキュメンタリーがその役目を果たしていると感じたので、ジャーナリストであることを辞め、映画作家になりました。
きっかけになったのはサンダンス映画祭で素晴らしいドキュメンタリーをたくさん観たことなんです。
茂木:我々、日本人から見ますと、アメリカはトランプ大統領になってから活躍されていたTVや新聞などのメディアが困難な時期を迎えているように思うんですけど、その辺りについて感じるところはありますか?
ロジャー:まさに、今はフェイクニュースが強くなってしまっています。それは、ある意味国が支配されているかのような状況なんですね。
歴史があり、信頼性のあった「The New York Times」のような媒体を大統領の動向を知らせる記者会見から取材することを禁じてしまうような大統領のもとで、それは民主主義ではないのではないかと、皆、今の状況を怖く思っています。
茂木:そんな時代だからこそ、監督がされているようなドキュメンタリー映画も新しい可能性が見えてくるのかなと思います。今までの作品では少数派の方々の側に立った題材を選ばれてきているんですけど、そういう題材とはどのようにして出会うのですか?
ロジャー:そこはやはり、ジャーナリストとしてのトレーニングが大きいんだと思います。ただ、それぞれの作品は、自分にとってパーソナルな作品でもあるんです。
自分の場合は実は教会育ちで、父もそういう仕事をしていました。しかし、自分はゲイであって、そういうセクシュアリティを受け入れてもらえなかったという経験をしています。
「God Loves Uganda」では、福音派の伝道師が登場するんですが、彼らの使う言語というのも理解していますし、実際に現地に赴いてその世界に入り込んで作っていきました。
今回の「ぼくと魔法の言葉たち」のように、サスカインド家を通してすごく勇気を与えてくれるような、人間として生きるという事の意味を経験できるような、そんな作品も作っていきたいと思っています。
これからもアウトサイダーに声を与え、人と人は違うからこそ素晴らしいんだ、と祝福するような映画を作っていきたいと思います。
茂木:素晴らしいですね!僕は、監督のそういうスタンスが大好きで、非常に尊敬しています。
──映像作家としてワクワクするような企画
茂木:ロジャー監督がこれから取り上げたい題材として、「プリズン・コンプレックス」刑務所でのコンプレックスを追っているということを伺ったのですが……
ロジャー:実は、たくさんワクワクするような企画に着手しています。一つは、物語性のある映画。もう一つはCNN、BBCで作っている、非常にパーソナルな物語になるんですが、茂木さんがおっしゃった刑務所が題材になります。
今、アメリカの刑務所が商業化されているので、そのシステムについて。それと、自分の家族や自分のコミュニティにどういう影響があったのかという事を掘り下げていきます。
他にも、「The New York Times」とやっているVR=Virtual Realityの企画なんですけど、アフリカ系黒人の旅行体験というものを題材にした企画も進めています。
また、音楽のドキュメンタリーで、たくさんの名だたるアーティストが発見され、排出されたブラックミュージックの神殿たる「ハーレム」にあるアポロ・シアターのドキュメンタリーも作っています。
今、ドキュメンタリーの映像作家として仕事をする事にとてもワクワクしている、そんな時期に来ていると思います。
茂木:2017年のアカデミー賞では、作品賞発表の際にハプニングがありましたけど、監督がアカデミー賞を受賞された時の受賞スピーチでもちょっと面白いことがありましたよね。
ロジャー:はい、そうなんです。スピーチをしている時に以前のプロデューサーがやってきて、スピーチの途中で取って代わられるという、大変ショッキングな出来事がありました。
通常、短編ドキュメンタリーの受賞スピーチというのは、ナチョスなどのスナックを食べに行ったりと、席を外される方も多いんですけど、そんなことがあった為に観客はみんな残ってご覧になり、翌日にはすべてのTV局で報道されるような大事件に発展しました。
中でも、僕が一番光栄に思ったのは、アニメーションの「シンプソンズ」でその事件を1エピソードかけて描いてくれた事だったんです。
茂木:最後に、この放送を聴いて「ぼくと魔法の言葉たち」を観てみたいと思った方に向けて、一言いただけますでしょうか?
ロジャー:この「ぼくと魔法の言葉たち」という作品は、アメリカ国内でも、そして世界中でもたくさんの方に響いている作品です。
それが叶ったのは、自分が作り手としてオーウェンの世界の中に皆さんを誘い、彼の視点からこの物語を綴った事で、共感を得られたからだと思います。
おそらく、日本の方も自閉症というものに先入観を持ってこの映画をご覧になるかもしれません。けれど、内なるオーウェンの世界に足を踏み入れ、豊かで美しいアニメーションに溢れた世界に触れたことで、観終わった時に自閉症というものがどういう事なのか、人間というものに対してリスペクトを感じて劇場を後にしていただけると思います。
この作品というのは、家族と愛と人生を祝福する、そんな映画なのです。
●映画『ぼくと魔法の言葉たち』公式サイト
※上映する劇場については、公式サイトでご確認ください。
●『ぼくと魔法の言葉たち』 (@bokutomahou) | Twitter
来週は、アーティストの渋谷慶一郎さんをお迎えしてお話をうかがっていきます。
どうぞお楽しみに。
ロジャー・ロス・ウィリアムズさんは、TVプロデューサー、演出家として15年以上に渡り、第一線で活躍された後、映画監督に転身されました。現在、公開されている映画「ぼくと魔法の言葉たち」でも、第89回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされるなど、世界中から注目されている監督です。
今週は、ロジャー・ロス・ウィリアムズさん自身にスポットを当ててお話を伺いました
──人と人は違うからこそ素晴らしい
茂木:ロジャー監督は、アメリカの3大ネットワークでもあるABC、NBC、CNNなど、様々な放送局で15年以上にわたり活躍されたという事なんですけど、TVの世界で経験されたことはドキュメンタリー映画を作るうえで役に立っていますか?
ロジャー:TV業界での仕事というのが、映画作家としての自分のベースを作ってくれたという風に感じています。ジャーナリストとしてTV業界に身を置いていた事でドキュメンタリーを作る時もどういう風に製作すればいいのか、という事を学びました。
それに加えて、レポートをするという立場ですから、客観性を持って向き合っていく姿勢が身に着いたと思います。
ただ、今の僕はアメリカのメインストリームのニュースが役目を果たしていないと思うんです。その代わりにドキュメンタリーがその役目を果たしていると感じたので、ジャーナリストであることを辞め、映画作家になりました。
きっかけになったのはサンダンス映画祭で素晴らしいドキュメンタリーをたくさん観たことなんです。
茂木:我々、日本人から見ますと、アメリカはトランプ大統領になってから活躍されていたTVや新聞などのメディアが困難な時期を迎えているように思うんですけど、その辺りについて感じるところはありますか?
ロジャー:まさに、今はフェイクニュースが強くなってしまっています。それは、ある意味国が支配されているかのような状況なんですね。
歴史があり、信頼性のあった「The New York Times」のような媒体を大統領の動向を知らせる記者会見から取材することを禁じてしまうような大統領のもとで、それは民主主義ではないのではないかと、皆、今の状況を怖く思っています。
茂木:そんな時代だからこそ、監督がされているようなドキュメンタリー映画も新しい可能性が見えてくるのかなと思います。今までの作品では少数派の方々の側に立った題材を選ばれてきているんですけど、そういう題材とはどのようにして出会うのですか?
ロジャー:そこはやはり、ジャーナリストとしてのトレーニングが大きいんだと思います。ただ、それぞれの作品は、自分にとってパーソナルな作品でもあるんです。
自分の場合は実は教会育ちで、父もそういう仕事をしていました。しかし、自分はゲイであって、そういうセクシュアリティを受け入れてもらえなかったという経験をしています。
「God Loves Uganda」では、福音派の伝道師が登場するんですが、彼らの使う言語というのも理解していますし、実際に現地に赴いてその世界に入り込んで作っていきました。
今回の「ぼくと魔法の言葉たち」のように、サスカインド家を通してすごく勇気を与えてくれるような、人間として生きるという事の意味を経験できるような、そんな作品も作っていきたいと思っています。
これからもアウトサイダーに声を与え、人と人は違うからこそ素晴らしいんだ、と祝福するような映画を作っていきたいと思います。
茂木:素晴らしいですね!僕は、監督のそういうスタンスが大好きで、非常に尊敬しています。
──映像作家としてワクワクするような企画
茂木:ロジャー監督がこれから取り上げたい題材として、「プリズン・コンプレックス」刑務所でのコンプレックスを追っているということを伺ったのですが……
ロジャー:実は、たくさんワクワクするような企画に着手しています。一つは、物語性のある映画。もう一つはCNN、BBCで作っている、非常にパーソナルな物語になるんですが、茂木さんがおっしゃった刑務所が題材になります。
今、アメリカの刑務所が商業化されているので、そのシステムについて。それと、自分の家族や自分のコミュニティにどういう影響があったのかという事を掘り下げていきます。
他にも、「The New York Times」とやっているVR=Virtual Realityの企画なんですけど、アフリカ系黒人の旅行体験というものを題材にした企画も進めています。
また、音楽のドキュメンタリーで、たくさんの名だたるアーティストが発見され、排出されたブラックミュージックの神殿たる「ハーレム」にあるアポロ・シアターのドキュメンタリーも作っています。
今、ドキュメンタリーの映像作家として仕事をする事にとてもワクワクしている、そんな時期に来ていると思います。
茂木:2017年のアカデミー賞では、作品賞発表の際にハプニングがありましたけど、監督がアカデミー賞を受賞された時の受賞スピーチでもちょっと面白いことがありましたよね。
ロジャー:はい、そうなんです。スピーチをしている時に以前のプロデューサーがやってきて、スピーチの途中で取って代わられるという、大変ショッキングな出来事がありました。
通常、短編ドキュメンタリーの受賞スピーチというのは、ナチョスなどのスナックを食べに行ったりと、席を外される方も多いんですけど、そんなことがあった為に観客はみんな残ってご覧になり、翌日にはすべてのTV局で報道されるような大事件に発展しました。
中でも、僕が一番光栄に思ったのは、アニメーションの「シンプソンズ」でその事件を1エピソードかけて描いてくれた事だったんです。
茂木:最後に、この放送を聴いて「ぼくと魔法の言葉たち」を観てみたいと思った方に向けて、一言いただけますでしょうか?
ロジャー:この「ぼくと魔法の言葉たち」という作品は、アメリカ国内でも、そして世界中でもたくさんの方に響いている作品です。
それが叶ったのは、自分が作り手としてオーウェンの世界の中に皆さんを誘い、彼の視点からこの物語を綴った事で、共感を得られたからだと思います。
おそらく、日本の方も自閉症というものに先入観を持ってこの映画をご覧になるかもしれません。けれど、内なるオーウェンの世界に足を踏み入れ、豊かで美しいアニメーションに溢れた世界に触れたことで、観終わった時に自閉症というものがどういう事なのか、人間というものに対してリスペクトを感じて劇場を後にしていただけると思います。
この作品というのは、家族と愛と人生を祝福する、そんな映画なのです。
●映画『ぼくと魔法の言葉たち』公式サイト
※上映する劇場については、公式サイトでご確認ください。
●『ぼくと魔法の言葉たち』 (@bokutomahou) | Twitter
来週は、アーティストの渋谷慶一郎さんをお迎えしてお話をうかがっていきます。
どうぞお楽しみに。