Dream Heart(ドリームハート)

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REPORT 最新のオンエアレポート

Dream HEART vol.199 ヘレン・パンクハーストさん

2017年01月22日

今夜、お迎えしたのは、TIME誌による「20世紀で最も重要な偉大な100人」にも選ばれている
エメリン・パンクハーストさんのひ孫、ヘレン・パンクハーストさんです。

今回ヘレンさんが来日されたのは、曾祖母にあたる、エメリン・パンクハーストさんが
中心となって参政権を求めた女性たちの運動家「サフラジェット」をテーマに、実話をもとに描いた映画「未来を花束にして」のプロモーションのため。

東京の小池知事など、今、「女性リーダー」が注目される中、注目していただきたい作品です。






──「サフラジェット」運動


茂木:まず、今回の映画「未来を花束にして」の仕上がりをご覧になっていかがでしたか?

ヘレン:素晴らしい出来だと思いました。
脚本の段階から参加させていただいて、色々コメントもさせていただいたり、カメオ出演もさせていただいてるんですね。力のある役者さんが揃っているので、”良い作品になる”とは思っていたけど、ここまでいいものになるとは…という感じでした。
美しくエモーショナルで、アクションも満載。同時に道徳的な物語、そういった側面も持った作品だと思います。

茂木:私も観て本当に感動したんですけど。今回の映画は、イギリスの国会議事堂で初めてロケされた映画とも聞いているのですが、イギリスにとってはこの歴史的事実っていうのは、民主主義を考える上で重要だと考えられているということなのでしょうか?

ヘレン:体制側というのは、ある見方をされたい。特に民主化の中で行われた様々な活動のよりラジカルな部分は隠したがる、沈黙させたがる傾向があると思います。「サフラジェット」に関してもそうだと言えると思います。
同時に、今回の撮影が許されたという部分のひとつには、国会が国の民主主義の芯の部分にあるんだということを、見せたいという思いがあったのかもしれませんし。同時に、「サフラジェット」が運動している時に、自分たちが国会としてあるべき役割を果たさなかったという罪悪感があるのかもしれません。
映画の中では、当時の体制、政府のことを古い考え方をする大きな異物であると言っているんですね。ですから、そういう罪悪感を受け入れる、”今は違うんだ”ということの表明かもしれません。

茂木:リスナーの方の中には、この映画でエメリン・パンクハーストさんを初めて知ったという方もいらっしゃるかもしれません。
エメリン・パンクハーストさんは、女性の参政権を求め活動し、30歳以上の女性に選挙権を…そして、女性に男性と同等の参政権を得ることが出来るという時代の流れに大きく貢献した方ですね。
イギリスの国会議事堂の隣にあるヴィクトリア・タワー・ガーデンには、銅像が建てられてるということなんですが。実は、子供達が観ている「メリー・ポピンズ」の中で、歌で”エメリン・パンクハースト”のお名前が出てきますよね。
だから、名前は聞いたことがあるという子供たちも多いんじゃないかと思います。

ヘレン:確かに、そういう形で”エメリン・パンクハースト”という名前をご存知の方はたくさんいるかもしれません。
今回の映画にも登場する、彼女もまた運動のメンバーであった、非常に悲劇的な死を遂げたエミリー・ワイルティング・デイビスという女性がいます。
名前が、”エミリ”と”エメリン”ちょっと似ているので、これを混同する人は多いですね。
社会的な認識として、エメリン・パンクハーストという方がいて、なんとなくご存知の方は多いんですが、細いことは知らなかったという方が多いですね。
それも、学校の歴史や法律の勉強の中で学ぶ機会が多くなってきたので変わってきています。





──声をあげること


茂木:映画ではメリル・ストリープさんが、エメリン・パンクハーストさんを演じています。
メリル・ストリープさんの印象はいかがでしたか?

ヘレン:素晴らしかったと思います。メリル・ストリープは映画界のアイコンです、その方が、この運動のアイコンと言われているエメリンを演じているわけですから。
演技も素晴らしく、メリル・ストリープというお名前が付いたことで、より多くの方に作品が届いたと思うんですね。

茂木:エメリン・パンクハーストさんは、非常に演説が上手い方だったようですけど、そのあたりは家族の中で言い伝えられてきてるんですか?

ヘレン:すごく饒舌な、スピーチが上手い女性であったのは、家族の中、他の方から聞き及んでいます。
すごく存在感がある女性だったということもよく言われていることで、小柄ではあったんですけど、立ち方、手の動かし方、非常に印象に残る女性でした。
発した言葉がたくさん後世に残っていて、
「言葉よりも行動を」「奴隷であるよりは反抗者でありたい」あるいは、「法律を壊す者よりも、法律を作る者になりたい」
こういった言葉というのは、フェミニスト活動の中にずっと残っていくものとなりました。

茂木:映画でも描かれているんですけど、「言葉よりも行動を」というモットーのもと、やや過激な行動もしていましたよね。
あのような行動は、目的を達成するために必要だったと思いますか?他のやり方もあったと、今から考えると言えるんでしょうか?
そのあたりはいかがですか?

ヘレン:この質問は、これからも継続して考えていかなければいけない部分があると思います。
けれども、「サフラジェット運動」に関して、武闘派という言葉で片付けてしまうと、彼女たちが他に行った様々な活動を見過ごしてしまうことになると思うんですね。
彼女たちは革新的な、いろいろなやり方で自分たちの活動をアピールしていました。
様々な、時には奇策と言えるような方法でメディアの関心を持っていただくように活動していたことを忘れてはいけないと思います。
同時に、彼女たちの過激と言われる活動というのは、考えなければいけないところもあります。
けれども、そういう風にあろうと彼女たちが活動していたわけではありませんし、逆に言えば政府がより彼女たちを抑圧していた結果、自分たちの声を聞いてもらうための活動であったわけです。
ですから、「サフラジェット」の女性たちを裁くのであれば、同時に過激化していった国家をも裁かなければいけないと思います。
おそらく、どちらもこういった暴力的なことはしたくなかったんだけど、物事がエスカレートしてしまったんだと思います。

「サフラジェット」の活動が、たとえ過激と言われるようなことになっていった時も、彼女たちは他人を傷つけるようなことはすまいと活動していました。
逆に、自分たちがどんなに暴力を受けてもいいんだという気持ちも同時にあったんですね。
武闘派、過激と言ってしまうと、誰に対してその暴力が行われて、誰が受けたのかというのが見えなくなって、特にいまの現状だとなってしまうんですけど、当時はそうだったと思います。
もう一つ忘れてはいけないのが、彼女たちに民主的な声が与えられなかったこと、沈黙することを強要されていき、自分たちの声が聞いてもらえない。
そのために、こういう行動に出たのです。

茂木:もし、エメリン・パンクハーストさんがいなかったら、おそらくサッチャー首相も、メイ首相もいなかったと思うので、そういう意味においてはイギリスにおいて、女性の参政権をここまで進めた偉人だと思います。
イギリスは、EU離脱などの大きな政治的な動きがありました。このようなイギリスの現在の状況を見たときに、エメリン・パンクハーストさんの遺産、さらに発展する方向というのは、どういう意味があると思いますか?

ヘレン:いまの質問は非常に興味深く、同時に非常に答えが難しい質問でもあります。特に答えが明確にないからです。
いまのイギリスの民主主義というのは、理想の形から、まだまだかけ離れているというのが私の考えです。
その理由というのはたくさんあるんですけど、まず一つは、小選挙区制をとっているということ。それによって、有権者が票を投じても、”結局は意味がないんじゃないか”と思ってしまうことに繋がっていることがあると思うんですね。
特に、そういう方々というのは教育レベルが低く、貧困層であったりという方が非常に多いと思うんですね。
ですから、エメリンがいまの状況を見たらば、まだまだ向上しなければいけないし、変化を望むのであれば、望んでいる人ほど関わっていかなければいけないと、きっと言うと思います。

そして、フェミニズムの観点から言っても、このトレンドは非常に危険なものであると思うんですね。
「自分の権利が奪われた」「権利を持てていない」という風に思っている者ほど、本当は自分たちを表現しないといけない。自分たちの意見を反映してくれる人がいないといけないのだから、その人たちが声を上げられない状況というのは、あるいは声を上げても仕方がないと思う状況というのは、非常に危険な事だと思うんですね。

茂木:エメリン・パンクハーストさんは、ひとりの人間としては、どんな人だったんですか?

ヘレン:彼女は子供たちもいましたし、1人の母親でもありました。
息子さんがいたんですけど、1人はかなり小さいときに、もう1人は二十歳のときに亡くしています。
そして、夫を亡くしていたので、未亡人として1人で子育てをしなければいけなかったと同時に、天命のように、政治的な目的意識を持って活動もしていました。
けっこう小柄だったんですね、政治的な存在感が強かったので、そのコントラストを上手く使っていたというのは多くの方がコメントをされることです。
女性的な部分を生かしながら、自分たちの活動をしていく。視覚的にも印象に残っていたみたいで、彼女はそれを巧みに使って活動をしていきました。

彼女が相手にしていたのが、国であり、権力であり、構造であり、政治であり、それらは当時、非常に男性的な顔を持っていた。彼女はそれを変えたかったんです。
より幅広いものの見方を持った社会に変えたい、そんな意味でも自分の女性的な部分を生かしたんだと思います。
ですから、彼女の個人としての資質というものを、彼女の政治的な活動に上手く応用したのではないでしょうか。

茂木:最後に、この映画を観る人にメッセージをお願いします。

ヘレン:美しくパワフルで、感情的にもジェットコースターに乗っているようにいろいろ感じていただけると思います。
今日にも、いまの日本にも非常に関係している様々な問題にも触れています。
1人の人間がどう政治に目覚めていくのか、様々な社会的な問題に触れている作品なので、絶対に退屈する事はないと思います。





●1月27日(金)から、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開。
映画「未来を花束にして」公式サイト



来週も引き続き、ヘレン・パンクハーストさんをお迎えしてお話をうかがっていきます。
どうぞお楽しみに。