2016年10月23日
今夜も、先週に引き続き、芥川賞作家の村田沙耶香さんをお迎えしました。
村田さんは、玉川大学文学部芸術文化コースを卒業後、2003年「授乳」で
第46回群像新人文学賞優秀作を受賞してデビューしました。
そして、最新作「コンビニ人間」で、第155回芥川龍之介賞を受賞されました。
今夜は、村田さんが作家になるまでの道のり、今後の夢について伺いました。
──人間の解剖
茂木:作家デビューが2003年の「授乳」。これが純文学の新人の登竜門のひとつと言われている、群像新人文学賞を受賞されたということで、応募は何回目くらいだったんですか?
村田:1回目の応募です。
茂木:やっぱり才能があるんですね。小説家を志されたのはいつからですか?
村田:あれを小説を呼ぶなら、という話なのですが…小学校の頃から遊びで小説を書いていて、6年生くらいでワープロを手に入れて、フロッピーにいっぱい文章は書いていたので。
その当時から、小説家になりたいという気持ちはありました。
茂木:ずっと描き続けていたということですか?
村田:高校生くらいで書けなくなって、大学2年生くらいまでは5年間くらい書けませんでした。
茂木:そのあと書き始めて、2003年の「授乳」は、卒業後2年くらいですかね。
この作品で、すでに人間の危うさ、暗黒部分みたいなものを書かれているんですが、ああいう人間の奥の部分を意識し始めたはいつからですか?
村田:大学に入って、再び小説を書き始めてからだと思うんですけど、人間の嫌な部分を書くのが楽しかったんですよね。
生々しくて、それでも人間の一番面白いような部分な気がして。
綺麗なところよりも、不気味な部分を書いてる方が人間を解剖してるような、すごい楽しい気持ちになって嫌な人間ばかり書いてましたね。
茂木:ご本人はこんな素敵な方なのに(笑)。どういう感じで出てくるんですか?
村田:書きながらなんですが、私は誰かをモデルにして書くということが得意じゃなくて。
一から似顔絵を書いて作った人物なんですが、その人に嫌な部分が出てくるんですよね。
茂木:書いているうちに出てきちゃうんですか。
村田:そうですね。現実の世界で見てきた何かを…もっと凝縮したようなものが、書いている人物の中に発生すると思うんです。
普段から、人間の嫌な部分を好きだなという気持ちで見ているんだと思います。
茂木:例えば、第26回三島由紀夫賞を受賞した「しろいろの街の、その骨の体温の」というのは、ある種、他人を道具として使うみたいな話ですよね。あのモチーフは、どういうところから出てくるんですか?
村田:私の主人公は、攻撃的な主人公が多くて。それは欲望とか…フラストレーションを抱えてる主人公が多いので、
ああいう風に他人を支配したり、それは書きながら怖いことでもあるんですが、単純に好きなんでしょうね。人間の傲慢さというか、誰かを犠牲にしても生き延びる命の強さみたいな。
ある意味では、命が強い力で引っ張られているような感じ。それで、誰かを攻撃してしまう感じが、モチーフとして好きなんだと思います。
茂木:実は生命賛歌でもあるんですかね。
村田:書きながら、そういう気持ちがあるから主人公に対して嫌な感情を持たないのかもしれません。
茂木:確かに、読者からしても、それほど嫌な感じがしないんですよね。
あと、特徴なのは、女性がそれをやるっていうのがね、そのあたりはどうなんですか?
村田:自分自身が、どちらかというと生きづらさを抱えていて。すごく内気でおとなしくて、むしろ支配される側にまわることが多いので、支配する側の人に興味があるんだと思うんです。
──空想が好き
茂木:日常生活はクレイジーじゃないんですか?
村田:クレイジーじゃないと思います。コンビニで働きながら、いまだに書いてるっていうこと自体を「変だね」みたいに言われるくらいで。
むしろ、おとなしい方だと思います。
茂木:コンビニで働き続けることについては、「変だね」って言われているんですか?
村田:作家仲間は、みんな「コンビニで働かないと、沙耶香ちゃんは書けないから」って、分かってくれてはいるんですけど。
「変だね」って言われます(笑)。
茂木:村田さんくらい実績があったら、作家専業というのが普通ですよね。
村田:作家専業で小説が進んだら一番いいんですけど、残念ながらサボってしまうという…。
茂木:サボって何をしているんですか?
村田:サボって何をしているかというと、小説じゃないお話を頭で作って遊ぶのが好きなんですよ。
茂木:書くんじゃなくて、頭の中で?
村田:そうです。頭の中でお話を作ったり…小さい頃からやっていたのは、「フランダースの犬」とかを、どうやってハッピーエンドにするかっていうのをずっと考えたり。
茂木:空想してるということですか?
村田:ずっと頭の中で話を作っていて、小説とはまったく別の行為でそれに没頭してしまうんです。
茂木:何百、何千のお話が、村田さんの頭の中を通り過ぎていってるってことですね。
村田:書き留めることはほぼないので、小さい頃からですから膨大なお話を作っていると思います(笑)。
茂木:そのうちの何かが、小説になるっていうことはないですか?
村田:それがまったくないんですよ。だから無駄なんですが、そっちに没頭してしまうんですよね。
──世界の中で
茂木:今、お書きになっている作品はあるんですか?
村田:受賞前から書き始めている作品があって、なかなか進まず…コンビニで働いてないからだと思うんですが(笑)。
茂木:編集者は待っていますよ(笑)。
村田:そうですね、順番待ちをしてくださってる方がいるので。
茂木:ちなみに、何個先まで注文があるんですか?
村田:10個以上は溜めないことにしていて、きっちり並んでくださっているのは10件くらいだと思います。
茂木:1年に1作としても、10年ですよね。
村田:そう思うと恐ろしいですね(笑)。
茂木:村田さんの夢は何ですか?
村田:何年か前に体験したことなんですが、自分の作品が「GRANTA」というイギリスの文芸誌に「清潔な結婚」という短編を載せていただいたことがあって。
海外の編集さんが「めちゃくちゃびっくりしたよ!」と仰ってくださって、それが楽しかったんですね。
それもあって、自分の作品が翻訳してもらって感想を聞きたいんですね。
茂木:どういう受け止め方をするか…ですよね。
村田:英語で、文化も日本とは違うと思うんですけど「すごく笑った」という風に仰ってくださって。
その喜怒哀楽、笑うっていう気持ちになってくださる海外の人がいて、それを英語で伝えてくださる…文化が違う人が笑ってくれたんだということが面白かったんです。フィンランドとかブラジル、いろんな国で、「GRANTA」経由で翻訳していただいて。
私、ブラジルの方がどういう風に読んだんだろうとか気になっているんですよね。
茂木:そういう形で、自分の作品が世界の文化圏で読まれていくような形になればいいなと。
村田:しかも、感想を聞きたいという欲があるんですよね。
茂木:再び、コンビニで働こうという予定はあるんですか?
村田:はい、その予定でいます。店長とも相談して、お店に戻るつもりです(笑)。
●文芸春秋「コンビニ人間 / 村田沙耶香」
来週は指揮者の井上道義さんをお迎えして、お話をうかがっていきます。
どうぞお楽しみに。
村田さんは、玉川大学文学部芸術文化コースを卒業後、2003年「授乳」で
第46回群像新人文学賞優秀作を受賞してデビューしました。
そして、最新作「コンビニ人間」で、第155回芥川龍之介賞を受賞されました。
今夜は、村田さんが作家になるまでの道のり、今後の夢について伺いました。
──人間の解剖
茂木:作家デビューが2003年の「授乳」。これが純文学の新人の登竜門のひとつと言われている、群像新人文学賞を受賞されたということで、応募は何回目くらいだったんですか?
村田:1回目の応募です。
茂木:やっぱり才能があるんですね。小説家を志されたのはいつからですか?
村田:あれを小説を呼ぶなら、という話なのですが…小学校の頃から遊びで小説を書いていて、6年生くらいでワープロを手に入れて、フロッピーにいっぱい文章は書いていたので。
その当時から、小説家になりたいという気持ちはありました。
茂木:ずっと描き続けていたということですか?
村田:高校生くらいで書けなくなって、大学2年生くらいまでは5年間くらい書けませんでした。
茂木:そのあと書き始めて、2003年の「授乳」は、卒業後2年くらいですかね。
この作品で、すでに人間の危うさ、暗黒部分みたいなものを書かれているんですが、ああいう人間の奥の部分を意識し始めたはいつからですか?
村田:大学に入って、再び小説を書き始めてからだと思うんですけど、人間の嫌な部分を書くのが楽しかったんですよね。
生々しくて、それでも人間の一番面白いような部分な気がして。
綺麗なところよりも、不気味な部分を書いてる方が人間を解剖してるような、すごい楽しい気持ちになって嫌な人間ばかり書いてましたね。
茂木:ご本人はこんな素敵な方なのに(笑)。どういう感じで出てくるんですか?
村田:書きながらなんですが、私は誰かをモデルにして書くということが得意じゃなくて。
一から似顔絵を書いて作った人物なんですが、その人に嫌な部分が出てくるんですよね。
茂木:書いているうちに出てきちゃうんですか。
村田:そうですね。現実の世界で見てきた何かを…もっと凝縮したようなものが、書いている人物の中に発生すると思うんです。
普段から、人間の嫌な部分を好きだなという気持ちで見ているんだと思います。
茂木:例えば、第26回三島由紀夫賞を受賞した「しろいろの街の、その骨の体温の」というのは、ある種、他人を道具として使うみたいな話ですよね。あのモチーフは、どういうところから出てくるんですか?
村田:私の主人公は、攻撃的な主人公が多くて。それは欲望とか…フラストレーションを抱えてる主人公が多いので、
ああいう風に他人を支配したり、それは書きながら怖いことでもあるんですが、単純に好きなんでしょうね。人間の傲慢さというか、誰かを犠牲にしても生き延びる命の強さみたいな。
ある意味では、命が強い力で引っ張られているような感じ。それで、誰かを攻撃してしまう感じが、モチーフとして好きなんだと思います。
茂木:実は生命賛歌でもあるんですかね。
村田:書きながら、そういう気持ちがあるから主人公に対して嫌な感情を持たないのかもしれません。
茂木:確かに、読者からしても、それほど嫌な感じがしないんですよね。
あと、特徴なのは、女性がそれをやるっていうのがね、そのあたりはどうなんですか?
村田:自分自身が、どちらかというと生きづらさを抱えていて。すごく内気でおとなしくて、むしろ支配される側にまわることが多いので、支配する側の人に興味があるんだと思うんです。
──空想が好き
茂木:日常生活はクレイジーじゃないんですか?
村田:クレイジーじゃないと思います。コンビニで働きながら、いまだに書いてるっていうこと自体を「変だね」みたいに言われるくらいで。
むしろ、おとなしい方だと思います。
茂木:コンビニで働き続けることについては、「変だね」って言われているんですか?
村田:作家仲間は、みんな「コンビニで働かないと、沙耶香ちゃんは書けないから」って、分かってくれてはいるんですけど。
「変だね」って言われます(笑)。
茂木:村田さんくらい実績があったら、作家専業というのが普通ですよね。
村田:作家専業で小説が進んだら一番いいんですけど、残念ながらサボってしまうという…。
茂木:サボって何をしているんですか?
村田:サボって何をしているかというと、小説じゃないお話を頭で作って遊ぶのが好きなんですよ。
茂木:書くんじゃなくて、頭の中で?
村田:そうです。頭の中でお話を作ったり…小さい頃からやっていたのは、「フランダースの犬」とかを、どうやってハッピーエンドにするかっていうのをずっと考えたり。
茂木:空想してるということですか?
村田:ずっと頭の中で話を作っていて、小説とはまったく別の行為でそれに没頭してしまうんです。
茂木:何百、何千のお話が、村田さんの頭の中を通り過ぎていってるってことですね。
村田:書き留めることはほぼないので、小さい頃からですから膨大なお話を作っていると思います(笑)。
茂木:そのうちの何かが、小説になるっていうことはないですか?
村田:それがまったくないんですよ。だから無駄なんですが、そっちに没頭してしまうんですよね。
──世界の中で
茂木:今、お書きになっている作品はあるんですか?
村田:受賞前から書き始めている作品があって、なかなか進まず…コンビニで働いてないからだと思うんですが(笑)。
茂木:編集者は待っていますよ(笑)。
村田:そうですね、順番待ちをしてくださってる方がいるので。
茂木:ちなみに、何個先まで注文があるんですか?
村田:10個以上は溜めないことにしていて、きっちり並んでくださっているのは10件くらいだと思います。
茂木:1年に1作としても、10年ですよね。
村田:そう思うと恐ろしいですね(笑)。
茂木:村田さんの夢は何ですか?
村田:何年か前に体験したことなんですが、自分の作品が「GRANTA」というイギリスの文芸誌に「清潔な結婚」という短編を載せていただいたことがあって。
海外の編集さんが「めちゃくちゃびっくりしたよ!」と仰ってくださって、それが楽しかったんですね。
それもあって、自分の作品が翻訳してもらって感想を聞きたいんですね。
茂木:どういう受け止め方をするか…ですよね。
村田:英語で、文化も日本とは違うと思うんですけど「すごく笑った」という風に仰ってくださって。
その喜怒哀楽、笑うっていう気持ちになってくださる海外の人がいて、それを英語で伝えてくださる…文化が違う人が笑ってくれたんだということが面白かったんです。フィンランドとかブラジル、いろんな国で、「GRANTA」経由で翻訳していただいて。
私、ブラジルの方がどういう風に読んだんだろうとか気になっているんですよね。
茂木:そういう形で、自分の作品が世界の文化圏で読まれていくような形になればいいなと。
村田:しかも、感想を聞きたいという欲があるんですよね。
茂木:再び、コンビニで働こうという予定はあるんですか?
村田:はい、その予定でいます。店長とも相談して、お店に戻るつもりです(笑)。
●文芸春秋「コンビニ人間 / 村田沙耶香」
来週は指揮者の井上道義さんをお迎えして、お話をうかがっていきます。
どうぞお楽しみに。