2016年07月31日
今夜、お迎えしたお客様は、作家の村山由佳さんです。
村山さんは、東京都出身。
立教大学文学部日本文学科卒業後、不動産会社勤務、塾講師などを経て、
1993年、「天使の卵〜エンジェルス・エッグ〜」で、第6回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。
2003年の「星々の舟」では、第129回直木賞を受賞されました。
そのほかの著書に、「ダブルファンタジー」、「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズ、
200万部を超える「天使」シリーズや「ワンダフルワールド」、
母との長年の葛藤を描いた自伝的小説「放蕩記」などがあります。
その村山さんが、今月の26日に集英社から、「LaVie en Rose」を刊行されました。
この新刊のお話しはもちろん、最近の近況など、お話を伺いました。
──過去の自分との決別の書
茂木:村山ワールドをよくご存知の方も、これから読んでみたい方もいらっしゃると思うので、私の方からあらすじを紹介させていただくと……
薔薇の咲き誇る家で、優しい夫の道彦と暮らしていて、予約のとれないフラワーアレンジメント教室の講師、カリスマ主婦として人気を集めている咲季子。
平穏な毎日が続いていくはずだったのですが、年下のデザイナー堂本と出会ったことによって、夫からどういうモラハラを受けていたかを知って、そこから羽ばたこうとするのですが……という、恋愛小説であると同時にサスペンス小説ですね。
村山:そうですね。先にネタバレと言っちゃ言えるかもしれないんですけど、私、初めて自分の作品の中で人を殺しました。
茂木:言っても大丈夫ですか?(笑)
村山:そこはミソじゃないので、大丈夫です(笑)。
茂木:僕もビックリしました。そういう意味では新境地と言ってもいいんじゃないですか?
村山:今まで唐突に人が死んでしまうとか、愛した人が亡くなってしまうという小説は書いたことがありますけど。
23年目にして初めて、殺意があったかなかったは別にして、自分で手を下してしまう。
茂木:あのプロットは、どの時点で思いつかれたんですか?
村山:最初からですね。私自身の人生の中で、一回だけ、本当に殺意を覚えたことがあるという話を、たまたま編集者にお話ししたんですよ。
すると編集長さんが、「そのまま小説になるから、フィクションとして書いてほしい」って言われて。だから、ストーリーはフィクションなんですが、彼女が抱く殺意の場面は限りなく現実に近いです。
茂木:主人公は素敵な女性で、仕事もよくやってらして、だけど夫が嫉妬するというか…コントロール下に置きたいというモチーフが出てきますよね。
あれは、そういうところが男性にはあるんですか?
村山:男女ということよりも、一対一になったときに、どういう問題がお互いの間に起こってくるかっていうのは多かれ少なかれ、みんな共通して持っているんじゃないのかな〜って。支配と、被支配みたいな関係が出来ちゃうんですよね。
茂木:今回の作品では、「私にとって、過去の自分との決別の書」とも仰っていますよね。
村山:今まで、「放蕩記」っていう、同じ集英社の本なんですけど。
あの作品を通して、私自身の人間としての成り立ちというか、それをモデルにして母と私のことをフィクションにして書いたのが、あの小説だったんですけど。あれも一つの決別の書だったと思うんです。
茂木:そうなんですね。
村山:母と私の関係性が、支配する側と支配される側だったということを含めて。そのあと男性と恋愛をしても、まるで母と自分のように、相手を支配者にしてしまうっていう悪い癖がありまして。
相手の言動にビクビクしたり、怒らせないように先回りして立ち回ったりとか、そういうことがずっと続いていたんですけど。
この「LaVie en Rose」を書き終えたことで、かつてのそういう自分にピリオドを打ったというか…。
茂木:ピリオドを打っちゃったんですね。
村山:私は人を殺してはいませんけれども、そういう場面も全部書いて、一つのことを終わりにしたなという実感はありますね。
茂木:そこらへんが作家の方はすごいですね。フィクションの中で新しい人生のフェーズを自ら切り開ける。
村山:それはありがたい職業だと思いますね。
──読んで元気が湧いてくる小説
茂木:頭の中であんなことを考えるとは(笑)、作家の業というやつですか?
村山:自分の羽を抜いて機を織るみたいなところって、多かれ少なかれ、どの作家も持っていると思いますよ。
どんなに辛い思いをしても、”これも書ける”と思うと、”ごちそうさま”な気持ちになるし(笑)。
茂木:そういう意味においては、読んで元気が湧いてくる小説なのかな。読んでて不思議な感じでした。
村山:最終的には、主人公の咲季子は”自分の人生をどう生きていくか”ということに直面するわけですけども。
茂木:どうなっちゃうんだろうって思うんですけど、フィクションとして読んでいるから、おそらく読者の方は元気になるんじゃないですかね。
村山:よく分かります。現実にない力をもたらしてくれるのがフィクションだと思うんですよね。
私は今まで、現実に救われたことよりも、優れたフィクションに救われた気持ちの方が大きいですよ。
茂木:そういう意味で言ったら、この作品もそういう形で読者の方に届いたらいいなと思います。
──枯れたら恋愛小説は書けない
茂木:よく聞かれる質問だと思うんですけど、ご自身の恋愛がどれくらい作品に投影されているんですか?
村山:現実に行ったお店とか具体的なことは変えていますけど、その人とのあいだで交わされた、とても大事なやりとりだとか、こういう言葉に急に心動かされたとか、そういうのは自動書記的に頭に残っているので。
茂木:ということは、相手の男性は村山さんの小説を読むと……。
村山:”これは俺が言った台詞だ”とか、分かっちゃうこともあると思います。
だって、そういう感情の頂点で口にした言葉って、ただの想像では出てこないですよ。
茂木:やはり、実生活でもかなり恋多き方ですか?
村山:自分ではそんなに多いと思ってないんですけど、ひとつの恋愛にのめり込む度合いが強いんだと思います。
”何もかもほったらかして、どんな長距離でも走る!”みたいな、そういうことしちゃいますね。
茂木:そうなんですか。
村山:今は亡き、作家として大先輩の渡辺淳一さんが、私の顔を見るたびに挨拶よりも先に「村山くん、恋をしてるかね?」とお聞きになったんですよ。
「枯れたら恋愛小説は書けないよ、恋をしなさい」と、それは忠実に守っておこうと思って(笑)。
●「村山由佳 Twitter」
「村山由佳 | 集英社」オフィシャルサイト
来週も、作家の村山由佳さんをお迎えします。
どうぞお楽しみに。
村山さんは、東京都出身。
立教大学文学部日本文学科卒業後、不動産会社勤務、塾講師などを経て、
1993年、「天使の卵〜エンジェルス・エッグ〜」で、第6回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。
2003年の「星々の舟」では、第129回直木賞を受賞されました。
そのほかの著書に、「ダブルファンタジー」、「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズ、
200万部を超える「天使」シリーズや「ワンダフルワールド」、
母との長年の葛藤を描いた自伝的小説「放蕩記」などがあります。
その村山さんが、今月の26日に集英社から、「LaVie en Rose」を刊行されました。
この新刊のお話しはもちろん、最近の近況など、お話を伺いました。
──過去の自分との決別の書
茂木:村山ワールドをよくご存知の方も、これから読んでみたい方もいらっしゃると思うので、私の方からあらすじを紹介させていただくと……
薔薇の咲き誇る家で、優しい夫の道彦と暮らしていて、予約のとれないフラワーアレンジメント教室の講師、カリスマ主婦として人気を集めている咲季子。
平穏な毎日が続いていくはずだったのですが、年下のデザイナー堂本と出会ったことによって、夫からどういうモラハラを受けていたかを知って、そこから羽ばたこうとするのですが……という、恋愛小説であると同時にサスペンス小説ですね。
村山:そうですね。先にネタバレと言っちゃ言えるかもしれないんですけど、私、初めて自分の作品の中で人を殺しました。
茂木:言っても大丈夫ですか?(笑)
村山:そこはミソじゃないので、大丈夫です(笑)。
茂木:僕もビックリしました。そういう意味では新境地と言ってもいいんじゃないですか?
村山:今まで唐突に人が死んでしまうとか、愛した人が亡くなってしまうという小説は書いたことがありますけど。
23年目にして初めて、殺意があったかなかったは別にして、自分で手を下してしまう。
茂木:あのプロットは、どの時点で思いつかれたんですか?
村山:最初からですね。私自身の人生の中で、一回だけ、本当に殺意を覚えたことがあるという話を、たまたま編集者にお話ししたんですよ。
すると編集長さんが、「そのまま小説になるから、フィクションとして書いてほしい」って言われて。だから、ストーリーはフィクションなんですが、彼女が抱く殺意の場面は限りなく現実に近いです。
茂木:主人公は素敵な女性で、仕事もよくやってらして、だけど夫が嫉妬するというか…コントロール下に置きたいというモチーフが出てきますよね。
あれは、そういうところが男性にはあるんですか?
村山:男女ということよりも、一対一になったときに、どういう問題がお互いの間に起こってくるかっていうのは多かれ少なかれ、みんな共通して持っているんじゃないのかな〜って。支配と、被支配みたいな関係が出来ちゃうんですよね。
茂木:今回の作品では、「私にとって、過去の自分との決別の書」とも仰っていますよね。
村山:今まで、「放蕩記」っていう、同じ集英社の本なんですけど。
あの作品を通して、私自身の人間としての成り立ちというか、それをモデルにして母と私のことをフィクションにして書いたのが、あの小説だったんですけど。あれも一つの決別の書だったと思うんです。
茂木:そうなんですね。
村山:母と私の関係性が、支配する側と支配される側だったということを含めて。そのあと男性と恋愛をしても、まるで母と自分のように、相手を支配者にしてしまうっていう悪い癖がありまして。
相手の言動にビクビクしたり、怒らせないように先回りして立ち回ったりとか、そういうことがずっと続いていたんですけど。
この「LaVie en Rose」を書き終えたことで、かつてのそういう自分にピリオドを打ったというか…。
茂木:ピリオドを打っちゃったんですね。
村山:私は人を殺してはいませんけれども、そういう場面も全部書いて、一つのことを終わりにしたなという実感はありますね。
茂木:そこらへんが作家の方はすごいですね。フィクションの中で新しい人生のフェーズを自ら切り開ける。
村山:それはありがたい職業だと思いますね。
──読んで元気が湧いてくる小説
茂木:頭の中であんなことを考えるとは(笑)、作家の業というやつですか?
村山:自分の羽を抜いて機を織るみたいなところって、多かれ少なかれ、どの作家も持っていると思いますよ。
どんなに辛い思いをしても、”これも書ける”と思うと、”ごちそうさま”な気持ちになるし(笑)。
茂木:そういう意味においては、読んで元気が湧いてくる小説なのかな。読んでて不思議な感じでした。
村山:最終的には、主人公の咲季子は”自分の人生をどう生きていくか”ということに直面するわけですけども。
茂木:どうなっちゃうんだろうって思うんですけど、フィクションとして読んでいるから、おそらく読者の方は元気になるんじゃないですかね。
村山:よく分かります。現実にない力をもたらしてくれるのがフィクションだと思うんですよね。
私は今まで、現実に救われたことよりも、優れたフィクションに救われた気持ちの方が大きいですよ。
茂木:そういう意味で言ったら、この作品もそういう形で読者の方に届いたらいいなと思います。
──枯れたら恋愛小説は書けない
茂木:よく聞かれる質問だと思うんですけど、ご自身の恋愛がどれくらい作品に投影されているんですか?
村山:現実に行ったお店とか具体的なことは変えていますけど、その人とのあいだで交わされた、とても大事なやりとりだとか、こういう言葉に急に心動かされたとか、そういうのは自動書記的に頭に残っているので。
茂木:ということは、相手の男性は村山さんの小説を読むと……。
村山:”これは俺が言った台詞だ”とか、分かっちゃうこともあると思います。
だって、そういう感情の頂点で口にした言葉って、ただの想像では出てこないですよ。
茂木:やはり、実生活でもかなり恋多き方ですか?
村山:自分ではそんなに多いと思ってないんですけど、ひとつの恋愛にのめり込む度合いが強いんだと思います。
”何もかもほったらかして、どんな長距離でも走る!”みたいな、そういうことしちゃいますね。
茂木:そうなんですか。
村山:今は亡き、作家として大先輩の渡辺淳一さんが、私の顔を見るたびに挨拶よりも先に「村山くん、恋をしてるかね?」とお聞きになったんですよ。
「枯れたら恋愛小説は書けないよ、恋をしなさい」と、それは忠実に守っておこうと思って(笑)。
●「村山由佳 Twitter」
「村山由佳 | 集英社」オフィシャルサイト
来週も、作家の村山由佳さんをお迎えします。
どうぞお楽しみに。