2016年07月17日
今夜、お迎えしたのは、哲学者の岸見一郎さんです。
岸見さんは、京都生まれ。
高校生の頃から哲学を志し、京都大学大学院文学研究科に進学します。
専門だった西洋古代哲学と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。
精力的にアドラー心理学や西洋古代哲学の執筆・講演活動、
そして精神科医院などで多くの「青年」のカウンセリングを行っています。
岸見さんの著書には、「アドラー心理学入門」や、古賀史健さんとの共著「嫌われる勇気」など多数ありますが、
どの作品も人気を集め、次々と、電子書籍化や翻訳されるなど、いま、多くの人達に読まれています。
なぜ、今、アドラー心理学が人気なのか?
アドラー心理学の第一人者である、岸見一郎さんにお話を伺いました。
──アルフレッド・アドラーに学ぶ
茂木:岸見先生のご専門は、西洋古代哲学ですか?
岸見:プラトンが専門ですね。哲学というのは言葉も概念もギリシャのものです。
哲学を学ぶためには、ギリシャから始めないと意味がないんですね。
茂木:1989年頃から、アドラー心理学を研究されていますがアドラーとの出会いは?
岸見:子育てですね。子供の保育園の送り迎えを始めた頃に、保育園の行く時間になっても動かないし、
朝起きるのが遅かったり……そういう子供とどう関わっていけばいいか悩んでいた時に、アルフレッド・アドラーの心理学に出会ったんです。
茂木:プラトンは哲学の源流で、アドラーは子育てという…リスナーにとっても身近な問題ですが、アドラーとはどのような形で出会ったんですか?
岸見:友人の紹介なんですよね。「困ってるみたいだから、こんな本あるから読まない?」と、それで読んだのがきっかけです。アドラーは、1870年生まれのオーストリアの精神科医ですね。
茂木:この方の研究を始めて、著書「嫌われる勇気」が日本だけで135万部ですね、ベストセラーになってご自身としてはいかがですか?
岸見:それまでずっと研究していて、あまり注目されていなかったので正直驚きですね。
ここまで支持されると思わなかったです。
茂木:先生、これでかなり人生忙しくなってしまったんじゃないですか(笑)。
岸見:沢山の人に知られることは悪くないですね。こういう思想を知ってほしいと思って、もともと研究していたわけですから。
これだけの人に知られることが、まず、ありがたいなと思っています。
それだけ、知られる価値があると思っています。
──嫌われる勇気
茂木:私も読ませていただいて、大変感銘を受けました。
読んでいただくのが一番いいんですが、”ここが一番のポイントなんだ”というのはありますか?
岸見:タイトルに則して言うと、”嫌われなさい”という意味ではなくて、”嫌われることを恐れるな”という意味です。
人が自分をどう思うかというのは、自分にはどうすることもできない。
だったら、人が自分をどう思うかということについては、思い煩うことはないということです。
茂木:多くの方は、まさにそこに悩んでいると思うんですけど、先生ご自身は最初からできていらしたんですか?
岸見:できていないから、こういう考えかたに惹かれたわけですよね(笑)。
息子に言われたことがありますね、「そんなに人に嫌われることが怖いのか」と。
茂木:息子さんが、いつくらいですか?
岸見:息子が大学生くらいのとき、息子は僕とは違って、人から嫌われることを恐れないんですよね。
僕の様子を見ると、気持ちを配慮してると言えば聞こえはいいですけど、人の顔色を伺うとまではいかなくても、常に気にしているのではないかということを、指摘してくれたんです。
茂木:もう一つ大きなポイントだと思ったのが、フロイトのトラウマの考え方。
”幼少期に親との何かがあって、今、これが出来ない”という、この考え方は違うと?
岸見:過去のことに、今の問題の原因があるとしたら、過去に戻れないでしょ?
そうすると、今の問題が解決しなくなってしまう。だから、過去のことを今振り返っても仕方ないということです。
茂木:例えば、「私はトラウマがあるので、今これが出来ない」と言ってる方は、考え方を変える必要があるということですか?
岸見:あると思いますね。もちろん、過去に経験したことが、いまの自分に影響を与えなかったとは思わないんですけど、これから何が出来るかということだけに注目する、意識的にやっていくしかないですね。
──いい劣等感、よくない劣等感
茂木:岸見先生の「嫌われる勇気」「生きる勇気とは何か」「人生に悩んだらアドラーを読もう。」「老いた親を愛せますか? それでも介護はやってくる」いろんな形でアドラー心理から学ぶ、どうしてこの時代に必要とされているんだと思いますか?
岸見:人に合わせ過ぎてきたのではないか、ということですね。
例えば、「空気を読まないといけない」と言われ、自分の言いたい事、したいことを言わず、しないで生きて来た人が多い。
特に若い人は、大人から言われたことに「はいはい」と言っていたら、とんでもないことになるという危機感を持っているのではないかと思うんですね。
改めて文字として、「自分の人生を生きていいんだよ」と言われた時に、そこで勇気をもらう人が多いように思います。
茂木:先生は、いろんな方のカウンセリング、ご相談を受けていると思いますが、どういう悩みが多いですか?
岸見:仕事に就いたけれど続かなくなったとか、別の仕事をしたいという方もいますし、あと恋愛相談は多いですね。
アドラー自身も、一番多かったのは恋愛相談だったんですよ。広い意味で、対人関係の悩みを訴える人が多いですね。
茂木:相手が自分のことを好きになってくれるかどうか、どう思うかとか、そういうことですか?
岸見:そうですね。そういうのは無理なんだと、あなたが相手のことを好きであるのは、あなたが決められる。
でも、相手があなたの気持ちに応えてくれるかどうかは分からない、というところから話は始まります。
茂木:それで、納得されますか?
岸見:納得してもらいます(笑)。
茂木:アドラー心理学の非常に大きな概念が、「劣等感」だと思うのですが?
岸見:劣等感自体に問題があるんじゃなくて、いまの状態よりも、より優れた状態になるために劣等感っていうのはすごく大事なことだと思います。
病気になったんですけど、少しでも良くなりたい、健康を完全に取り戻せなくても、リハビリをして少しでも良くなりたいと思う。
いま、健康ではないということは劣等感なんですけど。その劣等感をバネに、より、今よりも優れた状態になりたいと思うのは非常に健全。ただし、他の人との競争関係が問題であると、たちまち不健全になるとアドラーは考えています。
茂木:他人との比較ではなくて、自分が向上したり、改善するための出発点としては劣等感はいいんですね。
岸見:英語が話せないという人がいれば、勉強すればいいんです。その勉強は、他者との競争とは関係ないんです。
茂木:非常に実践的な哲学でもあるということなんですね。
●「岸見一郎 | 株式会社 幻冬舎」 オフィシャルサイト
次回も、哲学者の岸見一郎さんをお迎えしてお話を伺います。
どうぞお楽しみに。
岸見さんは、京都生まれ。
高校生の頃から哲学を志し、京都大学大学院文学研究科に進学します。
専門だった西洋古代哲学と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。
精力的にアドラー心理学や西洋古代哲学の執筆・講演活動、
そして精神科医院などで多くの「青年」のカウンセリングを行っています。
岸見さんの著書には、「アドラー心理学入門」や、古賀史健さんとの共著「嫌われる勇気」など多数ありますが、
どの作品も人気を集め、次々と、電子書籍化や翻訳されるなど、いま、多くの人達に読まれています。
なぜ、今、アドラー心理学が人気なのか?
アドラー心理学の第一人者である、岸見一郎さんにお話を伺いました。
──アルフレッド・アドラーに学ぶ
茂木:岸見先生のご専門は、西洋古代哲学ですか?
岸見:プラトンが専門ですね。哲学というのは言葉も概念もギリシャのものです。
哲学を学ぶためには、ギリシャから始めないと意味がないんですね。
茂木:1989年頃から、アドラー心理学を研究されていますがアドラーとの出会いは?
岸見:子育てですね。子供の保育園の送り迎えを始めた頃に、保育園の行く時間になっても動かないし、
朝起きるのが遅かったり……そういう子供とどう関わっていけばいいか悩んでいた時に、アルフレッド・アドラーの心理学に出会ったんです。
茂木:プラトンは哲学の源流で、アドラーは子育てという…リスナーにとっても身近な問題ですが、アドラーとはどのような形で出会ったんですか?
岸見:友人の紹介なんですよね。「困ってるみたいだから、こんな本あるから読まない?」と、それで読んだのがきっかけです。アドラーは、1870年生まれのオーストリアの精神科医ですね。
茂木:この方の研究を始めて、著書「嫌われる勇気」が日本だけで135万部ですね、ベストセラーになってご自身としてはいかがですか?
岸見:それまでずっと研究していて、あまり注目されていなかったので正直驚きですね。
ここまで支持されると思わなかったです。
茂木:先生、これでかなり人生忙しくなってしまったんじゃないですか(笑)。
岸見:沢山の人に知られることは悪くないですね。こういう思想を知ってほしいと思って、もともと研究していたわけですから。
これだけの人に知られることが、まず、ありがたいなと思っています。
それだけ、知られる価値があると思っています。
──嫌われる勇気
茂木:私も読ませていただいて、大変感銘を受けました。
読んでいただくのが一番いいんですが、”ここが一番のポイントなんだ”というのはありますか?
岸見:タイトルに則して言うと、”嫌われなさい”という意味ではなくて、”嫌われることを恐れるな”という意味です。
人が自分をどう思うかというのは、自分にはどうすることもできない。
だったら、人が自分をどう思うかということについては、思い煩うことはないということです。
茂木:多くの方は、まさにそこに悩んでいると思うんですけど、先生ご自身は最初からできていらしたんですか?
岸見:できていないから、こういう考えかたに惹かれたわけですよね(笑)。
息子に言われたことがありますね、「そんなに人に嫌われることが怖いのか」と。
茂木:息子さんが、いつくらいですか?
岸見:息子が大学生くらいのとき、息子は僕とは違って、人から嫌われることを恐れないんですよね。
僕の様子を見ると、気持ちを配慮してると言えば聞こえはいいですけど、人の顔色を伺うとまではいかなくても、常に気にしているのではないかということを、指摘してくれたんです。
茂木:もう一つ大きなポイントだと思ったのが、フロイトのトラウマの考え方。
”幼少期に親との何かがあって、今、これが出来ない”という、この考え方は違うと?
岸見:過去のことに、今の問題の原因があるとしたら、過去に戻れないでしょ?
そうすると、今の問題が解決しなくなってしまう。だから、過去のことを今振り返っても仕方ないということです。
茂木:例えば、「私はトラウマがあるので、今これが出来ない」と言ってる方は、考え方を変える必要があるということですか?
岸見:あると思いますね。もちろん、過去に経験したことが、いまの自分に影響を与えなかったとは思わないんですけど、これから何が出来るかということだけに注目する、意識的にやっていくしかないですね。
──いい劣等感、よくない劣等感
茂木:岸見先生の「嫌われる勇気」「生きる勇気とは何か」「人生に悩んだらアドラーを読もう。」「老いた親を愛せますか? それでも介護はやってくる」いろんな形でアドラー心理から学ぶ、どうしてこの時代に必要とされているんだと思いますか?
岸見:人に合わせ過ぎてきたのではないか、ということですね。
例えば、「空気を読まないといけない」と言われ、自分の言いたい事、したいことを言わず、しないで生きて来た人が多い。
特に若い人は、大人から言われたことに「はいはい」と言っていたら、とんでもないことになるという危機感を持っているのではないかと思うんですね。
改めて文字として、「自分の人生を生きていいんだよ」と言われた時に、そこで勇気をもらう人が多いように思います。
茂木:先生は、いろんな方のカウンセリング、ご相談を受けていると思いますが、どういう悩みが多いですか?
岸見:仕事に就いたけれど続かなくなったとか、別の仕事をしたいという方もいますし、あと恋愛相談は多いですね。
アドラー自身も、一番多かったのは恋愛相談だったんですよ。広い意味で、対人関係の悩みを訴える人が多いですね。
茂木:相手が自分のことを好きになってくれるかどうか、どう思うかとか、そういうことですか?
岸見:そうですね。そういうのは無理なんだと、あなたが相手のことを好きであるのは、あなたが決められる。
でも、相手があなたの気持ちに応えてくれるかどうかは分からない、というところから話は始まります。
茂木:それで、納得されますか?
岸見:納得してもらいます(笑)。
茂木:アドラー心理学の非常に大きな概念が、「劣等感」だと思うのですが?
岸見:劣等感自体に問題があるんじゃなくて、いまの状態よりも、より優れた状態になるために劣等感っていうのはすごく大事なことだと思います。
病気になったんですけど、少しでも良くなりたい、健康を完全に取り戻せなくても、リハビリをして少しでも良くなりたいと思う。
いま、健康ではないということは劣等感なんですけど。その劣等感をバネに、より、今よりも優れた状態になりたいと思うのは非常に健全。ただし、他の人との競争関係が問題であると、たちまち不健全になるとアドラーは考えています。
茂木:他人との比較ではなくて、自分が向上したり、改善するための出発点としては劣等感はいいんですね。
岸見:英語が話せないという人がいれば、勉強すればいいんです。その勉強は、他者との競争とは関係ないんです。
茂木:非常に実践的な哲学でもあるということなんですね。
●「岸見一郎 | 株式会社 幻冬舎」 オフィシャルサイト
次回も、哲学者の岸見一郎さんをお迎えしてお話を伺います。
どうぞお楽しみに。