2016年05月15日
今夜お迎えしたお客様は、奇想天外だけど実在する様々な生物を取り扱った、
『へんないきもの』シリーズが人気の著作家で書籍デザイナーの、早川いくをさんです。
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、広告制作会社、出版社勤務を経て独立。
2004年には、奇想天外だが実在する様々な生物を取り扱った『へんないきもの』を出版。
累計55万部のベストセラーとなり、その後も「へんないきもの」シリーズは大ヒット。
本格的な作家活動を始めます。
現在は、「へんないきもの」シリーズをはじめ、より広い分野での活動を続けていらっしゃいます。
早川さんの、”へんないきもの”との出会いは何だったのか?など、いろいろなお話を伺いました。
──ヒットの理由は”癒し”
茂木:ごめんなさい、初めてお会いして、爽やか系のイケメンじゃないですか!
僕は、荒俣宏みたいかと思ってましたよ(笑)。
早川:皆さん、よく”ぬらりひょんみたいなのが来る”と思ってらっしゃるんですけど、生き物をやってるというだけで、オタクな…というか、社会的不適格者みたいな(笑)。
茂木:「へんないきもの」シリーズ、あれは10年以上前ですよね。
どういう経緯でできたんですか?
早川:出版社の社長が、飲み屋でふと思いついた企画、それをいきなり振られちゃったという。
蓋を開けてみると、そういう話なんですよ。
茂木:もともとは、美大のデザイン科じゃないですか?
そのあとお仕事は、どんなジャンルだったんですか?
早川:書籍の装丁を中心にやってきたんですけど、それと同時に、昔ミニコミブームってあったじゃないですか?
それにライターとしてやっていました。
茂木:もともと、文章も書いてらっしゃったんですね。
完成度の高い短い文章の中に、非常にユーモアがあって…あの文体はその頃からですか?
早川:そうですね。あんな調子で、書いてましたね(笑)。
茂木:それがいきなり大ヒットで、
そもそも、社長が振ったんですか?
早川:「これを早川に書かせたら面白いんじゃないか」っていうことで、単なる思いつきで(笑)。
茂木:それが55万部で、最初はそんなに刷らなかったんですよね?
早川:最初は5000部とか、6000部とか、それくらいで終わるんだろうと思ったんですけど。
あれよあれよと売れてくれまして。
茂木:書籍のデザインをされるということで、あの本の世界観みたいなのを、早川さんが作ったと考えていいんですか?
早川:そうですね。出版社は全然ヘルプしてくれないので(笑)。
わたし1人で、内容から、書籍のデザイン、広告までやりましたね。
茂木:なんであんなに売れたんですかね?
早川:それまで、珍獣図鑑的な切り口のものはあったんですけど、それこそ専門家の方が噛み砕いて、専門の分野を説明する。
鳥類の専門家なら鳥の話、ジャンル・分野に分かれてというのが当然のスタイルだったんです。
哺乳類から、爬虫類から全部跨いで、それを俯瞰して語ろうっていうのが、あんまりなかったんですね。
しかも、素人目線で語るっていう本が意外になかったんですよ。
茂木:どういう方が読んだんですか?
早川:意外だったのが、女性の読者が多かったんですよね。
茂木:ひょっとして、”かわいい〜!”っていう反応ですか?
早川:癒されるっていう反応がありまして、最初は、”何言ってるのかな?”と思ったんです。
本を読んで、
「これだけいろんな珍妙な生き物が頑張って生きてる、この世界はなんて広いんだ。それに比べて、わたしの悩みはなんてちっぽけなんでしょう、癒されました」
という感想をいただいたりして。
茂木:それ、正しい癒され方ですよね。
早川:僕のような中年オタクが、こっそり買って終わるのかと思ってたんですけど。
そういう風な読まれ方をしたので、いろんな方に読んでいただいたようなんですね。
茂木:早川さんご自身の興味は、もともとは広いってことですよね。
たまたま、”変な生き物”というだけで、もともとは生物少年とか、そういうわけではないんですか?
早川:普通の男の子が好きなように、昆虫とか生き物が好きというのはありました。
中学では自然研究部で、好きだったけど、マニアとか”これ一筋”というわけではなかったですね。
茂木:そのへんの微妙な距離感というか、目のつけ所が、あの大ヒットになったのかなと思うんですけどね。
──奇跡な一冊
茂木:今回、写真集版というか「へんな生きもの へんな生きざま」を出されました。これ、圧倒的に面白いですね。これだけページ数があって、写真も綺麗で2800円ですよ!
早川:こういう本は、不可能かと思っていんたんです。
これだけのクオリティの高い写真を集めて、価格がこんなというのは、現実的には無理かと思っていました。
茂木:どうやって実現したんですか?
早川:出版社さんと、制作会社さん、いろんな人の繋がりなど、たまたま好条件が重なって。これだけの大量のクオリティの高い写真が集まって、ならばやろうかと思って。
茂木:「へんな生きもの」の時は、イラストだったじゃないですか。
今回写真になって、著者としてはどういう印象ですか?
早川:それぞれ良さがあって、イラストのいいところは好きなように演出ができる。
”こういうシチュエーションで、こういう具合に、こういうところを見せたい”と、ディレクションができるんです。
写真は有無を言わさないんですね。初めから、”こういう写真がある”ということなので、写真と文章を調和させるというか、別の苦労がありますね。
茂木:例えばリュウグウノツカイ、この写真なんて貴重なものですよね?
早川:これはかなり珍しいと思いますね。
「リュウグウノツカイ」(『へんな生きもの へんな生きざま』(エクスナレッジ刊)より)
茂木:写真が最初に決まって、文章を書かれたんですか?
早川:基本的にはそうですね。
茂木:ズキンアザラシというのもすごいですね。
これだけの写真が集まったというのも、ある意味じゃ奇跡な一冊ですよね。
そして、早川さんの定評のある文章、本当に面白いですよね。
早川:ありがとうございます(笑)。
「ズキンアザラシ」(『へんな生きもの へんな生きざま』(エクスナレッジ刊)より)
茂木:微妙に抜けた感じというか、ご本人としてはどういう文体だと思われていますか?
早川:私は真面目に書いてるつもりなんですけど、”こんなに珍しいものがあるのかと、こんなに不思議なことがあるのかと、これを例えるならどういうものか”とか、つい、そういうことを考えちゃうんですよね。
茂木:なるほど。
早川:自然界には、信じられないような巧妙な手段で狩りをしたりとか、罠を仕掛けたりとか、人間の常識からすると、超能力みたいな能力を持った生物がいるんですけど。
そういうのが人間界にいたら、郵便ポストかと思っていたら、実は人食いの怪物で手紙を投函したらバクっと食われちゃうとか。荒唐無稽な感じがしますけど、実際、生物たちはそういう環境で暮らしているんだろうなと思ったりするんですね。
茂木:いま、ご本人は真面目に仰っているんでしょうけど、かなり面白いですね(笑)。
早川:わけの分かんないことを言ってると思います(笑)。
──ある視点
茂木:僕、早川さんの物の見方が面白いなと思って。生き物って、ずっと地球上にいたわけじゃないですか。
今回「へんな生きもの」で、早川さんがスターダムに上げたというか、普段から、そういうところに注目するところがあるんですか?
早川:どうなんでしょうね。思ったまま、正直に書いてるつもりなんですけど。
それまでの生物の本を見ると、どう考えても、”それはおかしいだろ”っていうところに、言及してくれてなかったりするんですよ。
例えば、オオグチボヤとか、どう考えても口が大きいじゃないですか。
ご専門の方だと、それは当たり前のことなので、アカデミックな視点でいうと、”これは単なる入水口であって、それが肥大化したんだよね”っていう。そういうことなんですけど。
こっちから見ると、”ちょっと、そこは待ってください”というね。
「オオグチボヤ」(『へんな生きもの へんな生きざま』(エクスナレッジ刊)より)
茂木:突っ込んでほしいところなのに、突っ込んでくれないと。
早川:”なんで、そこ言ってくれないかな?”っていう物足りなさがありますね。
茂木:他にも、吉田茂のことも書いてるんですよね?
これは、どんな視点で?
早川:キャラクターが面白すぎるので、現代の視点から見ても、やっぱり変で。
あの厚かましさというか、キャラクターとして強いですね。どうしても、面白さに惹かれるというのはありました。
茂木:あと、変な事件みたいなものも書いてましたね?
早川:これも、出版社の社長の思いつきだったんですけど(笑)。戦後の混乱期に、おかしな事件がいっぱいあったろうと、それをテーマにやってみたらどうかということで、国会図書館に通い詰めて、「縮刷版」とか、昭和20年代の新聞の、マイクロフィルムとかですね。
毎日見まして、おかげで目を悪くしましたけど(笑)。
茂木:その甲斐があって?(笑)
早川:三面記事の、さらに片隅の、さらに片隅みたいな、小さいわけのわかんない事件がいっぱいあるんですね。そういうのを集大成にして、ご紹介して。
「取るに足らない事件」っていう、タイトルなんですけど(笑)。
茂木:ということは、早川さんはいろんな本を出されてるということですよね。
早川:そうですね、あちこち、目移りしながらやっていますね(笑)。
●「早川いくを(@phagetypet40) | Twitter」
『へんな生きもの へんな生きざま』(Amazon)
来週も、著作家・書籍デザイナーの早川いくをさんをお迎えして、お話の続きを伺います。
どうぞ、お聴き逃しなく!
『へんないきもの』シリーズが人気の著作家で書籍デザイナーの、早川いくをさんです。
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、広告制作会社、出版社勤務を経て独立。
2004年には、奇想天外だが実在する様々な生物を取り扱った『へんないきもの』を出版。
累計55万部のベストセラーとなり、その後も「へんないきもの」シリーズは大ヒット。
本格的な作家活動を始めます。
現在は、「へんないきもの」シリーズをはじめ、より広い分野での活動を続けていらっしゃいます。
早川さんの、”へんないきもの”との出会いは何だったのか?など、いろいろなお話を伺いました。
──ヒットの理由は”癒し”
茂木:ごめんなさい、初めてお会いして、爽やか系のイケメンじゃないですか!
僕は、荒俣宏みたいかと思ってましたよ(笑)。
早川:皆さん、よく”ぬらりひょんみたいなのが来る”と思ってらっしゃるんですけど、生き物をやってるというだけで、オタクな…というか、社会的不適格者みたいな(笑)。
茂木:「へんないきもの」シリーズ、あれは10年以上前ですよね。
どういう経緯でできたんですか?
早川:出版社の社長が、飲み屋でふと思いついた企画、それをいきなり振られちゃったという。
蓋を開けてみると、そういう話なんですよ。
茂木:もともとは、美大のデザイン科じゃないですか?
そのあとお仕事は、どんなジャンルだったんですか?
早川:書籍の装丁を中心にやってきたんですけど、それと同時に、昔ミニコミブームってあったじゃないですか?
それにライターとしてやっていました。
茂木:もともと、文章も書いてらっしゃったんですね。
完成度の高い短い文章の中に、非常にユーモアがあって…あの文体はその頃からですか?
早川:そうですね。あんな調子で、書いてましたね(笑)。
茂木:それがいきなり大ヒットで、
そもそも、社長が振ったんですか?
早川:「これを早川に書かせたら面白いんじゃないか」っていうことで、単なる思いつきで(笑)。
茂木:それが55万部で、最初はそんなに刷らなかったんですよね?
早川:最初は5000部とか、6000部とか、それくらいで終わるんだろうと思ったんですけど。
あれよあれよと売れてくれまして。
茂木:書籍のデザインをされるということで、あの本の世界観みたいなのを、早川さんが作ったと考えていいんですか?
早川:そうですね。出版社は全然ヘルプしてくれないので(笑)。
わたし1人で、内容から、書籍のデザイン、広告までやりましたね。
茂木:なんであんなに売れたんですかね?
早川:それまで、珍獣図鑑的な切り口のものはあったんですけど、それこそ専門家の方が噛み砕いて、専門の分野を説明する。
鳥類の専門家なら鳥の話、ジャンル・分野に分かれてというのが当然のスタイルだったんです。
哺乳類から、爬虫類から全部跨いで、それを俯瞰して語ろうっていうのが、あんまりなかったんですね。
しかも、素人目線で語るっていう本が意外になかったんですよ。
茂木:どういう方が読んだんですか?
早川:意外だったのが、女性の読者が多かったんですよね。
茂木:ひょっとして、”かわいい〜!”っていう反応ですか?
早川:癒されるっていう反応がありまして、最初は、”何言ってるのかな?”と思ったんです。
本を読んで、
「これだけいろんな珍妙な生き物が頑張って生きてる、この世界はなんて広いんだ。それに比べて、わたしの悩みはなんてちっぽけなんでしょう、癒されました」
という感想をいただいたりして。
茂木:それ、正しい癒され方ですよね。
早川:僕のような中年オタクが、こっそり買って終わるのかと思ってたんですけど。
そういう風な読まれ方をしたので、いろんな方に読んでいただいたようなんですね。
茂木:早川さんご自身の興味は、もともとは広いってことですよね。
たまたま、”変な生き物”というだけで、もともとは生物少年とか、そういうわけではないんですか?
早川:普通の男の子が好きなように、昆虫とか生き物が好きというのはありました。
中学では自然研究部で、好きだったけど、マニアとか”これ一筋”というわけではなかったですね。
茂木:そのへんの微妙な距離感というか、目のつけ所が、あの大ヒットになったのかなと思うんですけどね。
──奇跡な一冊
茂木:今回、写真集版というか「へんな生きもの へんな生きざま」を出されました。これ、圧倒的に面白いですね。これだけページ数があって、写真も綺麗で2800円ですよ!
早川:こういう本は、不可能かと思っていんたんです。
これだけのクオリティの高い写真を集めて、価格がこんなというのは、現実的には無理かと思っていました。
茂木:どうやって実現したんですか?
早川:出版社さんと、制作会社さん、いろんな人の繋がりなど、たまたま好条件が重なって。これだけの大量のクオリティの高い写真が集まって、ならばやろうかと思って。
茂木:「へんな生きもの」の時は、イラストだったじゃないですか。
今回写真になって、著者としてはどういう印象ですか?
早川:それぞれ良さがあって、イラストのいいところは好きなように演出ができる。
”こういうシチュエーションで、こういう具合に、こういうところを見せたい”と、ディレクションができるんです。
写真は有無を言わさないんですね。初めから、”こういう写真がある”ということなので、写真と文章を調和させるというか、別の苦労がありますね。
茂木:例えばリュウグウノツカイ、この写真なんて貴重なものですよね?
早川:これはかなり珍しいと思いますね。
「リュウグウノツカイ」(『へんな生きもの へんな生きざま』(エクスナレッジ刊)より)
茂木:写真が最初に決まって、文章を書かれたんですか?
早川:基本的にはそうですね。
茂木:ズキンアザラシというのもすごいですね。
これだけの写真が集まったというのも、ある意味じゃ奇跡な一冊ですよね。
そして、早川さんの定評のある文章、本当に面白いですよね。
早川:ありがとうございます(笑)。
「ズキンアザラシ」(『へんな生きもの へんな生きざま』(エクスナレッジ刊)より)
茂木:微妙に抜けた感じというか、ご本人としてはどういう文体だと思われていますか?
早川:私は真面目に書いてるつもりなんですけど、”こんなに珍しいものがあるのかと、こんなに不思議なことがあるのかと、これを例えるならどういうものか”とか、つい、そういうことを考えちゃうんですよね。
茂木:なるほど。
早川:自然界には、信じられないような巧妙な手段で狩りをしたりとか、罠を仕掛けたりとか、人間の常識からすると、超能力みたいな能力を持った生物がいるんですけど。
そういうのが人間界にいたら、郵便ポストかと思っていたら、実は人食いの怪物で手紙を投函したらバクっと食われちゃうとか。荒唐無稽な感じがしますけど、実際、生物たちはそういう環境で暮らしているんだろうなと思ったりするんですね。
茂木:いま、ご本人は真面目に仰っているんでしょうけど、かなり面白いですね(笑)。
早川:わけの分かんないことを言ってると思います(笑)。
──ある視点
茂木:僕、早川さんの物の見方が面白いなと思って。生き物って、ずっと地球上にいたわけじゃないですか。
今回「へんな生きもの」で、早川さんがスターダムに上げたというか、普段から、そういうところに注目するところがあるんですか?
早川:どうなんでしょうね。思ったまま、正直に書いてるつもりなんですけど。
それまでの生物の本を見ると、どう考えても、”それはおかしいだろ”っていうところに、言及してくれてなかったりするんですよ。
例えば、オオグチボヤとか、どう考えても口が大きいじゃないですか。
ご専門の方だと、それは当たり前のことなので、アカデミックな視点でいうと、”これは単なる入水口であって、それが肥大化したんだよね”っていう。そういうことなんですけど。
こっちから見ると、”ちょっと、そこは待ってください”というね。
「オオグチボヤ」(『へんな生きもの へんな生きざま』(エクスナレッジ刊)より)
茂木:突っ込んでほしいところなのに、突っ込んでくれないと。
早川:”なんで、そこ言ってくれないかな?”っていう物足りなさがありますね。
茂木:他にも、吉田茂のことも書いてるんですよね?
これは、どんな視点で?
早川:キャラクターが面白すぎるので、現代の視点から見ても、やっぱり変で。
あの厚かましさというか、キャラクターとして強いですね。どうしても、面白さに惹かれるというのはありました。
茂木:あと、変な事件みたいなものも書いてましたね?
早川:これも、出版社の社長の思いつきだったんですけど(笑)。戦後の混乱期に、おかしな事件がいっぱいあったろうと、それをテーマにやってみたらどうかということで、国会図書館に通い詰めて、「縮刷版」とか、昭和20年代の新聞の、マイクロフィルムとかですね。
毎日見まして、おかげで目を悪くしましたけど(笑)。
茂木:その甲斐があって?(笑)
早川:三面記事の、さらに片隅の、さらに片隅みたいな、小さいわけのわかんない事件がいっぱいあるんですね。そういうのを集大成にして、ご紹介して。
「取るに足らない事件」っていう、タイトルなんですけど(笑)。
茂木:ということは、早川さんはいろんな本を出されてるということですよね。
早川:そうですね、あちこち、目移りしながらやっていますね(笑)。
●「早川いくを(@phagetypet40) | Twitter」
『へんな生きもの へんな生きざま』(Amazon)
来週も、著作家・書籍デザイナーの早川いくをさんをお迎えして、お話の続きを伺います。
どうぞ、お聴き逃しなく!