2016年05月08日
今夜お迎えしたお客様は、先週に引き続き、映画監督の大友啓史さんです。
大友さんは、岩手県盛岡市生まれ。
慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、90年にNHKに入局。
その後、南カリフォルニア大学やUCLAなど、
ハリウッドの教育機関や撮影現場で脚本や映像演出を学び、
帰国後、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ、ドラマ「ハゲタカ」
「龍馬伝」等の演出、映画『ハゲタカ』の監督を務められます。
2011年4月にNHKを退局し、独立。
「るろうに剣心」シリーズや、「プラチナデータ」などヒット作を発表。
そして、今年の夏、8月6日に最新作、「秘密 THE TOP SECRET」の公開が控えています。
今夜は、大友監督の今までの道のりにスポットを当てて、お話を伺いました。
──海外留学で得たもの
茂木:「ハゲタカ」を撮られた時点では、映画制作に定評のある南カリフォルニア大学に留学をされた、後なんですよね?
大友:そうですね。戻ってきて、ちょうど5年経ったくらいでしたかね。
茂木:カリフォルニアでは、どういうことをされたんですか?
大友:映画学部がありますから、そこの面白そうな授業に入り込んでいって……。
茂木:どんな授業なんですか?
大友:例えば、インディペンデントフィルムメーカーの為のクラスみたいなのがあって、7〜8人でチームを組むんですよ。
脚本を書いて、1人がディレクター役をやって、1人が録音やって、1人が撮影やって、1人がプロデューサーやって、それで全員の映画を1本ずつ作って、それを論評して…っていうことを、延々と繰り返していくんですよ。
茂木:じゃあ、実践的なんですね。
大友:いま為になっているのは、僕もブームを持ったりとかね(笑)、一通り全部やったんですよ。
システムについてとか、録音なら録音の連中の気持ち、技術が分かるようになったというのは、すごく大きいですね。
茂木:なるほど(笑)。
大友:やっぱり、ハリウッドはビジネスとしてしっかりしてるんですよね。
UCLAの夜学とか行くと、キャリアアップのためにハリウッドの人達が来てるんですよ。すると、そこで知り合えるんですよ。
僕の狙いはそこで知り合っちゃって、現場に入り込んで、あわよくばそのまま……っていうのがプランだったんですよ(笑)。
茂木:NHKは良い環境だったんですよね。
大友:すごくいいですね。いい意味で、僕は大学みたいな感じだと思っているんですよね。
プロかどうかと言うと、仕事の対価としてサラリーをもらうわけではなくて、そういう意味で言うと公務員に近いじゃないですか。そこで、平等にいろんなことを学べるところですよね。
視聴率とかに一喜一憂せずに…っていうことで言うと、放送の軸というか、作る人間の軸みたいなものは座ってくる気がしますけど。
茂木:NHKをお辞めになられたのが、44歳、管理職になるくらいですよね。
そうだとしたら、現場から離れていたかもしれないってことですよね。
大友:ちょっと堅苦しくは、なり始めましたね。
例えば、「秘密 THE TOP SECRET」もそうですけど、ベースはジャーナリズムであり、公共放送ですから、リスクの高いネタには踏み込めないところはありますよね。
茂木: 「秘密 THE TOP SECRET」は、かなりリスクが高いでしょうね(笑)。
大友:バイオレンス、ヌーディティ、裸とか、いろんな表現の枠は枷があるっちゃあるので、放送自体がそうですから。
茂木:そういう意味でいうと、「ハゲタカ」の映画化をきっかけに、独立ということでいいんですかね?
大友:あの頃ネットで動画が始まって、ネット系からのヘッドハントも来たんですよ。
いろんな方と会って、”外に行って自分が何をできるのかな?”みたいなことは、「ハゲタカ」を撮りながら、考え始めていたっていう感じですかね。
茂木:そのあと、「るろうに剣心」シリーズも、外国でも人気が高くて。
1人の表現者の生き様として、組織人から独立した表現者への移行を、見事にやったということにおいては、大友さんは若い映像作家たちのロールモデルですよね。
大友:そうなってくれていれば、光栄ですけどね。
マーケットを広げていかないと、日本の映画の中でやれることって、限られているっちゃ限られているので。
──『彼らが、僕の書いてるプランに血肉を足してくれるような気がしていて』
茂木:大友さんの映画って、映像から伝わってくる濃密な……なんていうのかな、監督としてはどう分析されていますか?
大友:難しいんですけどね。現場っていうのは基本的に大事だと思っていて。
結局、プロジェクト立ち上げて脚本書くまでは、すごく少人数の作業ですけど。そこから、スタッフ、キャスト含めて、ものすごい人数が関わりますから。
どっちかと言うと、僕は自分のプランをそのまま押し通して彼らを使ってやる、というよりも、彼らが持っているものを全部欲しいんですよね。
茂木:全部ですか。
大友:100人集まるなら、100人のパワーとか知恵、プラン、全精力をもらって、少しでも面白くしたいみたいな感覚でやっていて。
現場的には、変なヒエラルキーは作りたくないというか。僕が言ったことを全部きくんじゃなくて、むしろ”好きなこと言ってよ”みたいな感じなんですよ。
茂木:「こうじゃないですか?」みたいなことも聞くと…。
大友:”僕が言ったことを実現しても、そんなに面白くないよ”って、”もっと面白いことって、世の中いっぱいあるよね”っていう気がしていて。
自分の頭の中のことっていうのは、絵空事ですから。実は、世の中で起きてることの方がよっぽど面白くて、僕にとっては、スタッフとかが世の中そのものなんですよね。彼らが、僕の書いてるプランに血肉を足してくれるような気がしていて。
いろんなアイデア、プランを取り込んで、大きく大きく太らせていきたいっていう感覚かもしれないですね。
茂木:大友さんの作品って、役者さんが世界観の中にちゃんといらっしゃる感じがするんですけど、役者さんへの接し方っていうのは、どうしているんですか?
大友:俳優は、とにかく自分が演じる役だけのことを考えてくださいと、だから、スタッフには役者に対して、「照明がこうだから、立ち位置がここ」とか、そういうことも言ってほしくないんですよ。
1人の人間の、他者の人生を演じるって、自分で考えたら恐ろしいことだと思うんですよ。
本来、”そのことを考えるだけで、いっぱいっぱいでしょ”って思うんですよ。
そのための準備と、そのための事だけを考えてやってほしいと、求めているのはそれだけですね。
茂木:それが、独特の没入感みたいなのに繋がっていくのかな〜。
大友:それがあると嬉しいですね。
──健康で1本でも多く撮り続ける
茂木:監督は、怒ったりとか、怖いこともあるんですか?
大友:前よりは穏やかになりましたね。
茂木:前は、もっと激しかったんですか?(笑)
大友:映画の「ハゲタカ」をやっていた頃は、みんなに言われましたね。「あなたは、ひどいね」って(笑)
茂木:作品のためですからね(笑)。テイクはかなり撮られるほうなんですか?
大友:テイクというよりも、アングルを変えて何回も撮りますね。
生田くんが、「しんどい」って言ってましたよ(笑)。
茂木:生田さん、お疲れ様でしたね〜(笑)。
大友:僕の場合は、ワンシーンをぶっ通しでやるので。それがしんどいシーンだと、1回通すだけで、ものすごいしんどいと思います。
茂木:オフのときは、何されてるんですか?
大友:映画を観たりしますね。頭を、今関わっているプロジェクトから引きはがしたいので、とにかく違う映画を観たりとか。
茂木:大友さんにインスピレーションを与えた、過去の映像作家って、どこらへんの方になるんですか?
大友:僕は、ミロス・フォアマンとか大好きなんですよね。「アマデウス」とか、「カッコーの巣の上で」とか…。
茂木:「カッコーの巣の上で」とかは、通じるものを感じますね。
大友:ミロス・フォアマンは、アメリカに2年いた時にお会いしに行きました。
茂木:どんな方でしたか?
大友:底が見えない、何を考えてるか分からない。
ハードな体験をされてきたんだろうなという感じで、第二次世界大戦のときに、ヨーロッパから逃げて来られた方ですからね、僕らの知らないものを見てきてる感じがありました。
茂木:いま、そういう方々の影響を受けつつ…大友さんの作品が、また、いろんな方に影響を与えていくということでですよね。
この番組のテーマが夢なんですけど、これから先はどういう方向にいくんですか?
大友:シンプルで、スタンスとして1本、1本を”この1本で辞めてもいいや”くらいのつもりでやっていることも多いので。健康で1本でも多く撮り続けるっていう、ささやかな夢ですみません(笑)。
茂木:それは大事なことですよね。
●「大友啓史 | KEISHIOTOMO.com」
映画「秘密 THE TOP SECRET」
大友さんは、岩手県盛岡市生まれ。
慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、90年にNHKに入局。
その後、南カリフォルニア大学やUCLAなど、
ハリウッドの教育機関や撮影現場で脚本や映像演出を学び、
帰国後、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ、ドラマ「ハゲタカ」
「龍馬伝」等の演出、映画『ハゲタカ』の監督を務められます。
2011年4月にNHKを退局し、独立。
「るろうに剣心」シリーズや、「プラチナデータ」などヒット作を発表。
そして、今年の夏、8月6日に最新作、「秘密 THE TOP SECRET」の公開が控えています。
今夜は、大友監督の今までの道のりにスポットを当てて、お話を伺いました。
──海外留学で得たもの
茂木:「ハゲタカ」を撮られた時点では、映画制作に定評のある南カリフォルニア大学に留学をされた、後なんですよね?
大友:そうですね。戻ってきて、ちょうど5年経ったくらいでしたかね。
茂木:カリフォルニアでは、どういうことをされたんですか?
大友:映画学部がありますから、そこの面白そうな授業に入り込んでいって……。
茂木:どんな授業なんですか?
大友:例えば、インディペンデントフィルムメーカーの為のクラスみたいなのがあって、7〜8人でチームを組むんですよ。
脚本を書いて、1人がディレクター役をやって、1人が録音やって、1人が撮影やって、1人がプロデューサーやって、それで全員の映画を1本ずつ作って、それを論評して…っていうことを、延々と繰り返していくんですよ。
茂木:じゃあ、実践的なんですね。
大友:いま為になっているのは、僕もブームを持ったりとかね(笑)、一通り全部やったんですよ。
システムについてとか、録音なら録音の連中の気持ち、技術が分かるようになったというのは、すごく大きいですね。
茂木:なるほど(笑)。
大友:やっぱり、ハリウッドはビジネスとしてしっかりしてるんですよね。
UCLAの夜学とか行くと、キャリアアップのためにハリウッドの人達が来てるんですよ。すると、そこで知り合えるんですよ。
僕の狙いはそこで知り合っちゃって、現場に入り込んで、あわよくばそのまま……っていうのがプランだったんですよ(笑)。
茂木:NHKは良い環境だったんですよね。
大友:すごくいいですね。いい意味で、僕は大学みたいな感じだと思っているんですよね。
プロかどうかと言うと、仕事の対価としてサラリーをもらうわけではなくて、そういう意味で言うと公務員に近いじゃないですか。そこで、平等にいろんなことを学べるところですよね。
視聴率とかに一喜一憂せずに…っていうことで言うと、放送の軸というか、作る人間の軸みたいなものは座ってくる気がしますけど。
茂木:NHKをお辞めになられたのが、44歳、管理職になるくらいですよね。
そうだとしたら、現場から離れていたかもしれないってことですよね。
大友:ちょっと堅苦しくは、なり始めましたね。
例えば、「秘密 THE TOP SECRET」もそうですけど、ベースはジャーナリズムであり、公共放送ですから、リスクの高いネタには踏み込めないところはありますよね。
茂木: 「秘密 THE TOP SECRET」は、かなりリスクが高いでしょうね(笑)。
大友:バイオレンス、ヌーディティ、裸とか、いろんな表現の枠は枷があるっちゃあるので、放送自体がそうですから。
茂木:そういう意味でいうと、「ハゲタカ」の映画化をきっかけに、独立ということでいいんですかね?
大友:あの頃ネットで動画が始まって、ネット系からのヘッドハントも来たんですよ。
いろんな方と会って、”外に行って自分が何をできるのかな?”みたいなことは、「ハゲタカ」を撮りながら、考え始めていたっていう感じですかね。
茂木:そのあと、「るろうに剣心」シリーズも、外国でも人気が高くて。
1人の表現者の生き様として、組織人から独立した表現者への移行を、見事にやったということにおいては、大友さんは若い映像作家たちのロールモデルですよね。
大友:そうなってくれていれば、光栄ですけどね。
マーケットを広げていかないと、日本の映画の中でやれることって、限られているっちゃ限られているので。
──『彼らが、僕の書いてるプランに血肉を足してくれるような気がしていて』
茂木:大友さんの映画って、映像から伝わってくる濃密な……なんていうのかな、監督としてはどう分析されていますか?
大友:難しいんですけどね。現場っていうのは基本的に大事だと思っていて。
結局、プロジェクト立ち上げて脚本書くまでは、すごく少人数の作業ですけど。そこから、スタッフ、キャスト含めて、ものすごい人数が関わりますから。
どっちかと言うと、僕は自分のプランをそのまま押し通して彼らを使ってやる、というよりも、彼らが持っているものを全部欲しいんですよね。
茂木:全部ですか。
大友:100人集まるなら、100人のパワーとか知恵、プラン、全精力をもらって、少しでも面白くしたいみたいな感覚でやっていて。
現場的には、変なヒエラルキーは作りたくないというか。僕が言ったことを全部きくんじゃなくて、むしろ”好きなこと言ってよ”みたいな感じなんですよ。
茂木:「こうじゃないですか?」みたいなことも聞くと…。
大友:”僕が言ったことを実現しても、そんなに面白くないよ”って、”もっと面白いことって、世の中いっぱいあるよね”っていう気がしていて。
自分の頭の中のことっていうのは、絵空事ですから。実は、世の中で起きてることの方がよっぽど面白くて、僕にとっては、スタッフとかが世の中そのものなんですよね。彼らが、僕の書いてるプランに血肉を足してくれるような気がしていて。
いろんなアイデア、プランを取り込んで、大きく大きく太らせていきたいっていう感覚かもしれないですね。
茂木:大友さんの作品って、役者さんが世界観の中にちゃんといらっしゃる感じがするんですけど、役者さんへの接し方っていうのは、どうしているんですか?
大友:俳優は、とにかく自分が演じる役だけのことを考えてくださいと、だから、スタッフには役者に対して、「照明がこうだから、立ち位置がここ」とか、そういうことも言ってほしくないんですよ。
1人の人間の、他者の人生を演じるって、自分で考えたら恐ろしいことだと思うんですよ。
本来、”そのことを考えるだけで、いっぱいっぱいでしょ”って思うんですよ。
そのための準備と、そのための事だけを考えてやってほしいと、求めているのはそれだけですね。
茂木:それが、独特の没入感みたいなのに繋がっていくのかな〜。
大友:それがあると嬉しいですね。
──健康で1本でも多く撮り続ける
茂木:監督は、怒ったりとか、怖いこともあるんですか?
大友:前よりは穏やかになりましたね。
茂木:前は、もっと激しかったんですか?(笑)
大友:映画の「ハゲタカ」をやっていた頃は、みんなに言われましたね。「あなたは、ひどいね」って(笑)
茂木:作品のためですからね(笑)。テイクはかなり撮られるほうなんですか?
大友:テイクというよりも、アングルを変えて何回も撮りますね。
生田くんが、「しんどい」って言ってましたよ(笑)。
茂木:生田さん、お疲れ様でしたね〜(笑)。
大友:僕の場合は、ワンシーンをぶっ通しでやるので。それがしんどいシーンだと、1回通すだけで、ものすごいしんどいと思います。
茂木:オフのときは、何されてるんですか?
大友:映画を観たりしますね。頭を、今関わっているプロジェクトから引きはがしたいので、とにかく違う映画を観たりとか。
茂木:大友さんにインスピレーションを与えた、過去の映像作家って、どこらへんの方になるんですか?
大友:僕は、ミロス・フォアマンとか大好きなんですよね。「アマデウス」とか、「カッコーの巣の上で」とか…。
茂木:「カッコーの巣の上で」とかは、通じるものを感じますね。
大友:ミロス・フォアマンは、アメリカに2年いた時にお会いしに行きました。
茂木:どんな方でしたか?
大友:底が見えない、何を考えてるか分からない。
ハードな体験をされてきたんだろうなという感じで、第二次世界大戦のときに、ヨーロッパから逃げて来られた方ですからね、僕らの知らないものを見てきてる感じがありました。
茂木:いま、そういう方々の影響を受けつつ…大友さんの作品が、また、いろんな方に影響を与えていくということでですよね。
この番組のテーマが夢なんですけど、これから先はどういう方向にいくんですか?
大友:シンプルで、スタンスとして1本、1本を”この1本で辞めてもいいや”くらいのつもりでやっていることも多いので。健康で1本でも多く撮り続けるっていう、ささやかな夢ですみません(笑)。
茂木:それは大事なことですよね。
●「大友啓史 | KEISHIOTOMO.com」
映画「秘密 THE TOP SECRET」