2016年05月01日
今夜、お迎えしたお客様は、映画監督の大友啓史さんです。
大友さんは、岩手県盛岡市生まれ。
慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、90年にNHKに入局。
その後、南カリフォルニア大学やUCLAなど、
ハリウッドの教育機関や撮影現場で脚本や映像演出を学び、
帰国後、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ、ドラマ「ハゲタカ」
「龍馬伝」等の演出、映画『ハゲタカ』の監督を務められます。
2011年4月にNHKを退局し、独立。
「るろうに剣心」シリーズや、「プラチナデータ」などヒット作を発表。
そして、今年の夏、8月6日に最新作、「秘密 THE TOP SECRET」の公開が控えています。
今夜は、最新作「秘密 THE TOP SECRET」について、お話を伺いました。
──映画「秘密 THE TOP SECRET」
映画「秘密 THE TOP SECRET」
【「死者の脳を(生きている人間の脳に)スキャンして、生前の記憶を映像化する」というシステムが発明され、その映像を手掛かりに、迷宮入りした凶悪事件の真相を暴いていくという内容】
茂木:「龍馬伝」なんかもね、あの斬新な映像、大友スタイルとしか言いようがないですよね。
大友:ありがとうございます。
茂木:NHKを辞めて、いま何年ですか?
大友:ちょうど5年です。
茂木:5年でこの活躍ぶりって、すごくないですか?
大友:とにかく、頑張んなきゃと思って(笑)。
茂木:実はこの夏、大変な新作を撮られました、映画「秘密 THE TOP SECRET」。
監督としてはどういう映画だと思いますか?
大友:死者の記憶を覗き見て謎を解決していく、ある種のミステリーのつもりで撮っています。
死者の脳を見て、そこに残っている映像を見るということは、人の記憶に残るものって必ずしも客観的ではないと思っていて。むしろ、人は混乱していくんじゃないかとも思ったりしていて。
そこらへんを、あまり難しくなく、エンターテインメントとして、どういう風に描くことができるか?という、チャレンジをしているんですけどね。
茂木:拝見させていただきましたけど、いいですね!
大友さんの作品って、始まりの10秒くらいで、映像のスタイルが”これ、大友さんだ!”と分かるのが、まず、すごいですよね。
今回のテーマは哲学的でもあるし、エンターテインメントでもあるし。あと、この映画ちょっと怖いですよね(笑)。
大友:夏なんでね、真面目にやっちゃうと真面目な映画になっちゃうので。
恐がってもらったり……ジェットコースターに乗っていったら、最後に思いがけないところに辿り着いてるみたいなことなので、いろんな要素を入れて作ってみたんです。
──モデル、俳優の資質の違い
茂木:あの女性キャラクター(絹子:織田梨沙)が、非常に怖いですね。
大友:彼女は初めて演技するんですよ。
モデルで、ビジュアル的な存在感はあるけど演技が初めてなので。演技したときの可能性も見極めないといけないですから。
そのあとの可能性も含めて、ナイーブなところもあるけど線の太いところもある、すごく面白い素材だと思ったんです。
茂木:大友組の常連になったりする可能性もある感じですよね。
それこそ、リリーフランキーさんとか、存在感のある役者さんが出てますけど、織田さんが食っちゃってましたね。
大友:初モノって、でかいですよね。これだけ情報があって、ほとんどの役者の顔も見たことがあって。
そういう意味でいうと、新しい強烈な子が入ってきたときに、”これ、誰?”っていう鮮度は、技術とか上手さを凌駕する場合があるんですよ。
芝居ということが、どういうことか分からないし。でも、それを分からせた瞬間に、他の役者と同じ土俵に立っちゃうから、こちらも分からせずに撮るっていうのが難しいんですよね。
茂木:じゃあ、モデルさんとしての資質と俳優さんとしての資質は違うっていうことですか?
大友:モデルさんというのは、歩き方や佇まいで、喋らなくても成立してしまう。
物語の場合、最初から内面が要求されますから、役に対する感情移入がどれくらいできるかっていう……。
茂木:今回の映画で絹子役の役割って、かなりハードル高いじゃないですか。
あのキャラクターをモデルさんがいきなり作るって、できると思っていました?
大友:彼女がある種、若き美しき殺人者なわけですよ。いま世の中でも、いろいろな事が起きてるじゃないですか?
脚本を書いてるときに、リサーチをしたかったんですよね。だけど、取材が難しい。
なので、こちらもある意味、ああいうキャラクターの内面を確定させることができないんですよね。
茂木:探りながらになるんですね。
大友:その分からなさを体現してくれる人を探してたんですよ。彼女の分からなさがいい。
織田梨沙さんが世の中に出ていない、”この子は誰なんだ?何を考えているんだ?”という、時として少女の顔をみせるし、大人っぽかったりするんですよ。日本人のようだけど、大陸的な香りもするし、みたいな。
そこのボーダーが分からない感じが、いいなと思ったんですね。
──『最後、ジェットコースターから降りるときに、ほっとしたいなみたいな(笑)』
茂木:この作品には「原作」があって、作者は清水玲子さんですね。
この作品は、どうやって出会われたんですか?
大友:NHKの頃から彼女の作品が好きで、ストーリーテリングとエピソードが濃密で、ドラマ化したいと思っていたけどNHKじゃできない(笑)。
茂木:当時からやりたかったんですね(笑)。
私も脳科学をやっているので、このテーマは非常に面白いテーマを扱っていますよね。
設定として面白いなと思ったのは、”死者の脳からじゃないと、データが吸い出せない”となっているじゃないですか、あれ、面白いですね。
大友:原作だと、まさに脳単体を取り出して見る、ということだったんですけど。リサーチしていくと、リアリティーという意味で難しいなということが分かりました。
そのままの、人間の死体の脳を繋いで捜査官が体験するんですよ。
”死者の記憶が生きてる”っていう感覚って、日本はお盆とかあるじゃないですか?
お盆の時期になると、親戚が帰ってくるみたいな感覚があるので、死んでしまった人の感情を共有するみたいな意識が、どこか日本人ってあるのかなと思って。
茂木:なるほど。
大友:そのへんのコンセプトを上手く、生きているものが死者の体験や感情を共有しながら捜査していくみたいな、物語の軸にできないかと思ったり。
茂木:捜査官が体験することによって、ダメージを受けたりっていう、あの設定がこの映画の核心かなと…。
単純にデータとして吸い出して、というのじゃなくて、他の人の体験を自分が体験するというところですよね。
大友:そうしないと、システムとして考えた時に、ものすごい量の感情とか体験が詰まっているはずなので、捜査に必要な資料が選別できないんじゃないかと思ったんですよ。
吹き出してきた中で、捜査官が、溢れてくる情報から無意識に必要な情報を選別して、それが可視化していく。
茂木:非常に感心したのが、脳から吸い出した記憶の映像は、必ずしも客観的な真実とは一致しないというところですよね。
大友:自分もそうですけど、いい記憶って、どんどん美化されていったり、脳の中で演出しているんですよね。
捜査というのは客観的な真実を探していくものだけど、必ずしも、そこに真実があるわけじゃなくて。
個人が見た感情によって演出された、まったく違うものが見えて来る。それが人間という生き物の面白さかなという気がしたんですよね。
茂木:僕はエンディングの映像で、ほっとしましたね(笑)。
大友:良かったです(笑)。僕的に言うと、死者の脳内映像を見るということがテーマなんですけど、それを小難しくやるんじゃなくて、お客さんにジェットコースターに乗ったように体験してもらうというつもりでやっているので。
最後、ジェットコースターから降りるときに、ほっとしたいなみたいな(笑)。
茂木:あの映像を見たときに、”これで、この恐いジェットコースターが終わったんだ”という、達成感というか……そういうことだったんですか(笑)。大友さんの映画って、編集はご自身でやられるんですか?
大友:いえ、編集者とですね。
基本的に編集者って、僕が現場で撮影しまくったものを、最初に冷静に見る人なんですよ。
お客さんに届けるものとして、客の目で繋いでもらうって、けっこう大事だと思っているんですよ。だから、最初は僕いないんです。
好きに繋げてもらって、僕に見せる形になったところで入っていって、そこから、細々と詰めていくというスタイルです。
茂木:編集の精度がすごいなと思って、それはNHK時代から培ったノウハウですか。
大友:テレビドラマって、鍛えられるんですよね(笑)。
映画と違ってスパンが短い時間で、締め切りもはっきりしているし。「龍馬伝」なんて、1年以上あれやってますから(笑)。あの密度でやっちゃうと、鍛えられますね。
●「大友啓史 | KEISHIOTOMO.com」
映画「秘密 THE TOP SECRET」
来週も、映画監督の大友啓史さんをお迎えして、お話の続きを伺います。
どうぞ、お聴き逃しなく!
大友さんは、岩手県盛岡市生まれ。
慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、90年にNHKに入局。
その後、南カリフォルニア大学やUCLAなど、
ハリウッドの教育機関や撮影現場で脚本や映像演出を学び、
帰国後、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ、ドラマ「ハゲタカ」
「龍馬伝」等の演出、映画『ハゲタカ』の監督を務められます。
2011年4月にNHKを退局し、独立。
「るろうに剣心」シリーズや、「プラチナデータ」などヒット作を発表。
そして、今年の夏、8月6日に最新作、「秘密 THE TOP SECRET」の公開が控えています。
今夜は、最新作「秘密 THE TOP SECRET」について、お話を伺いました。
──映画「秘密 THE TOP SECRET」
映画「秘密 THE TOP SECRET」
【「死者の脳を(生きている人間の脳に)スキャンして、生前の記憶を映像化する」というシステムが発明され、その映像を手掛かりに、迷宮入りした凶悪事件の真相を暴いていくという内容】
茂木:「龍馬伝」なんかもね、あの斬新な映像、大友スタイルとしか言いようがないですよね。
大友:ありがとうございます。
茂木:NHKを辞めて、いま何年ですか?
大友:ちょうど5年です。
茂木:5年でこの活躍ぶりって、すごくないですか?
大友:とにかく、頑張んなきゃと思って(笑)。
茂木:実はこの夏、大変な新作を撮られました、映画「秘密 THE TOP SECRET」。
監督としてはどういう映画だと思いますか?
大友:死者の記憶を覗き見て謎を解決していく、ある種のミステリーのつもりで撮っています。
死者の脳を見て、そこに残っている映像を見るということは、人の記憶に残るものって必ずしも客観的ではないと思っていて。むしろ、人は混乱していくんじゃないかとも思ったりしていて。
そこらへんを、あまり難しくなく、エンターテインメントとして、どういう風に描くことができるか?という、チャレンジをしているんですけどね。
茂木:拝見させていただきましたけど、いいですね!
大友さんの作品って、始まりの10秒くらいで、映像のスタイルが”これ、大友さんだ!”と分かるのが、まず、すごいですよね。
今回のテーマは哲学的でもあるし、エンターテインメントでもあるし。あと、この映画ちょっと怖いですよね(笑)。
大友:夏なんでね、真面目にやっちゃうと真面目な映画になっちゃうので。
恐がってもらったり……ジェットコースターに乗っていったら、最後に思いがけないところに辿り着いてるみたいなことなので、いろんな要素を入れて作ってみたんです。
──モデル、俳優の資質の違い
茂木:あの女性キャラクター(絹子:織田梨沙)が、非常に怖いですね。
大友:彼女は初めて演技するんですよ。
モデルで、ビジュアル的な存在感はあるけど演技が初めてなので。演技したときの可能性も見極めないといけないですから。
そのあとの可能性も含めて、ナイーブなところもあるけど線の太いところもある、すごく面白い素材だと思ったんです。
茂木:大友組の常連になったりする可能性もある感じですよね。
それこそ、リリーフランキーさんとか、存在感のある役者さんが出てますけど、織田さんが食っちゃってましたね。
大友:初モノって、でかいですよね。これだけ情報があって、ほとんどの役者の顔も見たことがあって。
そういう意味でいうと、新しい強烈な子が入ってきたときに、”これ、誰?”っていう鮮度は、技術とか上手さを凌駕する場合があるんですよ。
芝居ということが、どういうことか分からないし。でも、それを分からせた瞬間に、他の役者と同じ土俵に立っちゃうから、こちらも分からせずに撮るっていうのが難しいんですよね。
茂木:じゃあ、モデルさんとしての資質と俳優さんとしての資質は違うっていうことですか?
大友:モデルさんというのは、歩き方や佇まいで、喋らなくても成立してしまう。
物語の場合、最初から内面が要求されますから、役に対する感情移入がどれくらいできるかっていう……。
茂木:今回の映画で絹子役の役割って、かなりハードル高いじゃないですか。
あのキャラクターをモデルさんがいきなり作るって、できると思っていました?
大友:彼女がある種、若き美しき殺人者なわけですよ。いま世の中でも、いろいろな事が起きてるじゃないですか?
脚本を書いてるときに、リサーチをしたかったんですよね。だけど、取材が難しい。
なので、こちらもある意味、ああいうキャラクターの内面を確定させることができないんですよね。
茂木:探りながらになるんですね。
大友:その分からなさを体現してくれる人を探してたんですよ。彼女の分からなさがいい。
織田梨沙さんが世の中に出ていない、”この子は誰なんだ?何を考えているんだ?”という、時として少女の顔をみせるし、大人っぽかったりするんですよ。日本人のようだけど、大陸的な香りもするし、みたいな。
そこのボーダーが分からない感じが、いいなと思ったんですね。
──『最後、ジェットコースターから降りるときに、ほっとしたいなみたいな(笑)』
茂木:この作品には「原作」があって、作者は清水玲子さんですね。
この作品は、どうやって出会われたんですか?
大友:NHKの頃から彼女の作品が好きで、ストーリーテリングとエピソードが濃密で、ドラマ化したいと思っていたけどNHKじゃできない(笑)。
茂木:当時からやりたかったんですね(笑)。
私も脳科学をやっているので、このテーマは非常に面白いテーマを扱っていますよね。
設定として面白いなと思ったのは、”死者の脳からじゃないと、データが吸い出せない”となっているじゃないですか、あれ、面白いですね。
大友:原作だと、まさに脳単体を取り出して見る、ということだったんですけど。リサーチしていくと、リアリティーという意味で難しいなということが分かりました。
そのままの、人間の死体の脳を繋いで捜査官が体験するんですよ。
”死者の記憶が生きてる”っていう感覚って、日本はお盆とかあるじゃないですか?
お盆の時期になると、親戚が帰ってくるみたいな感覚があるので、死んでしまった人の感情を共有するみたいな意識が、どこか日本人ってあるのかなと思って。
茂木:なるほど。
大友:そのへんのコンセプトを上手く、生きているものが死者の体験や感情を共有しながら捜査していくみたいな、物語の軸にできないかと思ったり。
茂木:捜査官が体験することによって、ダメージを受けたりっていう、あの設定がこの映画の核心かなと…。
単純にデータとして吸い出して、というのじゃなくて、他の人の体験を自分が体験するというところですよね。
大友:そうしないと、システムとして考えた時に、ものすごい量の感情とか体験が詰まっているはずなので、捜査に必要な資料が選別できないんじゃないかと思ったんですよ。
吹き出してきた中で、捜査官が、溢れてくる情報から無意識に必要な情報を選別して、それが可視化していく。
茂木:非常に感心したのが、脳から吸い出した記憶の映像は、必ずしも客観的な真実とは一致しないというところですよね。
大友:自分もそうですけど、いい記憶って、どんどん美化されていったり、脳の中で演出しているんですよね。
捜査というのは客観的な真実を探していくものだけど、必ずしも、そこに真実があるわけじゃなくて。
個人が見た感情によって演出された、まったく違うものが見えて来る。それが人間という生き物の面白さかなという気がしたんですよね。
茂木:僕はエンディングの映像で、ほっとしましたね(笑)。
大友:良かったです(笑)。僕的に言うと、死者の脳内映像を見るということがテーマなんですけど、それを小難しくやるんじゃなくて、お客さんにジェットコースターに乗ったように体験してもらうというつもりでやっているので。
最後、ジェットコースターから降りるときに、ほっとしたいなみたいな(笑)。
茂木:あの映像を見たときに、”これで、この恐いジェットコースターが終わったんだ”という、達成感というか……そういうことだったんですか(笑)。大友さんの映画って、編集はご自身でやられるんですか?
大友:いえ、編集者とですね。
基本的に編集者って、僕が現場で撮影しまくったものを、最初に冷静に見る人なんですよ。
お客さんに届けるものとして、客の目で繋いでもらうって、けっこう大事だと思っているんですよ。だから、最初は僕いないんです。
好きに繋げてもらって、僕に見せる形になったところで入っていって、そこから、細々と詰めていくというスタイルです。
茂木:編集の精度がすごいなと思って、それはNHK時代から培ったノウハウですか。
大友:テレビドラマって、鍛えられるんですよね(笑)。
映画と違ってスパンが短い時間で、締め切りもはっきりしているし。「龍馬伝」なんて、1年以上あれやってますから(笑)。あの密度でやっちゃうと、鍛えられますね。
●「大友啓史 | KEISHIOTOMO.com」
映画「秘密 THE TOP SECRET」
来週も、映画監督の大友啓史さんをお迎えして、お話の続きを伺います。
どうぞ、お聴き逃しなく!