鉢の中に植物の生命力が息づく盆栽は、一緒に四季を感じ、年を重ねることで、人の心に潤いと豊かな日々を届けてくれます。なじみのない方もいらっしゃるかも知れませんが、身近に自然を置く幸せを感じてみませんか。
植物と素敵に関わる人を紹介する「ボタニスト」。今回は江戸時代より続く老舗盆栽園「清香園」の五代目・山田香織さんが教えてくれる、盆栽の魅力と植物と触れ合う喜びです。
盆栽のある暮らしの魅力とは?
鉢の中に再現された、見事な枝ぶりの自然の造形。鉢の中で時間とともに生を育み、成長を重ねる盆栽。「鉢の中の小宇宙」とも言われる盆栽の源流は諸説ありますが、もともとは山水画や詩の大家が「都市に住みながら、山深い地の情景を求めたこと」からとされています。鉢植えが植物そのものを鑑賞するのに対して、盆栽は植物を通して、自然の世界や風景を鉢の中に映し出すもの。盆栽は「自然の風景を見立てる遊び」とも言われており、 鉢の中に自然の風景を作る行為は、自然を感じたいという人間の本能を刺激して人生に喜びをもたらしてくれます。また、盆栽は通常の鉢植えと比べて長く育てるので、ゆっくりと姿を変えてゆくそのさまは、自然界の悠久の時の流れも感じさせてくれます。草木や植物が植えられた庭がなくても、一鉢の盆栽を通じて四季折々の自然や植物の生命力を間近に感じることができるのです。
老舗盆栽園五代目・山田香織さんの盆栽への思い
実家の盆栽園が幼い頃の遊び場だったという山田香織さん。幼少期より盆栽を通じて草花に親しみ、一人娘として家業を継ぐことを意識していたものの、思春期の女の子にとって、盆栽が魅力的だったわけではありません。盆栽イコール年配者の趣味というイメージに、家業が少し重荷に感じていました。大学卒業後の進路にシステムエンジニアとしての道も目指していましたが、最終的に、盆栽の道へと進む心を決めたのは、「もっと若い方や女性にも盆栽を広めたい」という思いでした。
折りにふれて両親に教えられた盆栽の知識や魅力、そして幼い頃から盆栽に間近に触れて感じたことなどを、同世代の人に伝え共感してもらうため、卒業を待たずに実家の「清香園」の中に自らの盆栽教室を立ち上げます。 「盆栽で生きて行こう!」そう決心したとき、生まれて初めて晴れ晴れとした思いを心に持つことができたそうです。
四季の積み重ねの中、ゆっくりと成長してゆく盆栽。急ぎがちな世の中でつい前のめりになったり、自分を失いかけた時にも、盆栽は心にブレーキをかけてくれたそうです。「落ち着いた心の状態を作ってくれる盆栽の魅力を、忙しい現役世代の方にこそ体験して欲しい」とおっしゃいます。
「彩花盆栽」で楽しむ小さな自然
もともと盆栽は一本の木で自然の風景を表現するものですが、この風景作りをより具体化するために、木だけではなく草花を寄せ植えして、より季節感を楽しめるものにしたのが、清香園のオリジナル盆栽「彩花盆栽」です。「盆栽は敷居が高い、費用がかかる」そんな声を受けて、花束を買う感覚で盆栽を楽しんでもらいたい、とその魅力を伝えています。
盆栽で使う木は針葉樹が多い中、「彩花盆栽」では落葉樹や桜、梅などの花も多く使い、春の花、夏の青葉、秋の紅葉、冬を耐える木の枝の感触、などまさに自然の野原、森を自由にイメージして鉢の中に再現しています。また、パステルカラーの鉢を使うなどの工夫もして、楽しく盆栽の世界観が伝わるようにしています。この「彩花盆栽」を集合住宅のベランダやモダンな家具のあるお部屋の一角に置くことで、身近に自然を息づかせることができます。そして、この小さな自然が届けてくれる、日常の中での心潤う豊かな時間。「もっと若い方や女性にも盆栽を広めたい」、そんな山田香織さんの思いを込めた新しい盆栽の形が、この「彩花盆栽」です。
春を待つ今の時期は盆栽を始めるにはとても良い季節です。特にこれからの季節におすすめなのが、「小さな桜の木を植えた彩花盆栽」。冬の寒さが開花へのシグナルとなる「桜」。これから春までの間、水をやったり、置き場所を考えたり。待ちこがれた春には自分が手をかけ咲かせた花で、きっといつもと違う春の到来を味わうことができるでしょう。
TOKYO FM
「クロノス」では、毎週金曜日、8時38分から、毎週週替わりのテーマでボタニカルな暮らしをご紹介するノエビア「BOTANICAL LIFE」をオンエアしています。
また、TOKYO FMで毎週土曜日、9時から放送している
ノエビア「Color of Life」。2月はスタイリストの高橋靖子さんを迎えてお届けします。どうぞ、お聞き逃しなく。
山田香織(やまだ・かおり)
盆栽家。盆栽「清香園」五代目。1999年に彩花盆栽教室を設立し、主宰。父、山田登美男氏の創始した彩花流盆栽の第一後継者として、雑誌、テレビなどで活躍。盆栽界に新風を吹き込む。NHK「趣味の園芸」のキャスターを2008年から2011年まで務め、その限られた空間に景色を表現する作風は、女性や若年層を魅了している。 二児の母。著書は「だれでもできる 小さな盆栽の作り方・育て方」(家の光協会)、「知識ゼロからの彩花盆栽入門」(幻冬舎)、「山田香織の盆栽スタイル」(NHK出版)。
2012年 大宮盆栽美術館にて 個展「祈りと喜」
2015年 大宮盆栽美術館にて 個展「Essence of Bonsai 山田香織の盆山十徳」