あなたのキレイと元気を磨く!「植物の力」で美しいライフスタイルを!

5000年以上の歴史を持ち、クレオパトラも愛した植物との暮らし。植物と向き合い、植物の声を聞くライフスタイルや、ボタニカル・フードのとっておきレシピ。植物の世界からあなたに届く「美しい贈り物」です。

―この番組は、2021年3月で終了しました。―

2016.10.28

Botanist7
京の和紙の里、黒谷。和紙職人ハタノワタルさんがこの地で暮らし紙を漉く思いとは。

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植物と素敵に関わる人を紹介する「ボタニスト」。今月は和紙職人、ハタノワタルさんが登場。800年の歴史を持つ黒谷和紙の魅力と、和紙職人として生きる思いをご紹介します。

和紙の里、黒谷


木の皮から作られる和紙の魅力とは
様々な伝統が受け継がれる京都。その京都府、綾部で古くから「和紙の町」として栄えてきたのが黒谷町です。職人が一枚ずつ手漉きで作ることにこだわり、伝統を受け継いできた黒谷和紙。手作りだからこそ生まれる不均一な模様や質感は唯一無二のもの。京都府指定無形文化財に指定され、現在も大切に守られている伝統技術です。

日本独特の伝統の手法で作られる和紙。その原料になるのは楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)など日本に古くから野生する木の皮。黒谷和紙は楮を使いとても丈夫なため、古くから和傘やちょうちん、障子などの生活品のほか、お湯や水にさらしても破れないということから、染色屋が生地につける名札“渋札”として主に使われてきました。この丈夫さがあるからこそ生活の中に多用され、人々の生活に馴染んできた黒谷和紙。生活を支える“脇役”ながら、日本の文化に欠かすことの出来ない存在としてその歴史を歩んできました。



探し求めていた「紙」との出会い、そして紙漉の道へ
この黒谷で和紙職人として活躍するハタノワタルさん。ハタノさんと黒谷和紙との出会いは大学時代。油絵を専攻していたハタノさんが卒業制作のため、ペインティングナイフで少々乱暴にこすったり、削ったりしても破れない丈夫な紙を探していたところ、「日本で一番強い紙といったら黒谷」としてめぐり合ったのが、黒谷和紙でした。卒業後いくつかの仕事を経験してハタノさんが改めて思い出したのが、和紙の素晴らしさ。学生時代、自らの創作の原点になった黒谷の和紙の手触りが忘れられず、今度は自分の手でもその紙を漉きたいと黒谷で和紙職人の修行を始めたのです。

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黒谷の山で採られた楮、その楮にひと工程ずつ丁寧な人の手が加わり作られる和紙の原料、そして紙漉きの行程、乾燥まで、心から信じられるものだけを使い、心から信じられる人との絆で生み出される黒谷の和紙。職人に求められる厳格な紙の規格をクリアしながらも、一枚一枚に個性が光る手作りならではの不揃いさ。植物から生まれ、日本人ならではの美的感覚を刺激する、このぬくもりや尊さにハタノさんは強く魅せられてゆきます。


和紙職人として伝えたいこと
昔に比べて和紙の需要も減少し、同時に機械で量産できる和紙も生まれ、伝統ある黒谷和紙とはいえ、手漉き和紙の活躍する場も少なくなってきています。でも、1000枚の紙が必要であれば機械で量産可能ですが、たった10枚の和紙がどうしても必要だという声もあります。和紙を愛し、和紙を必要とするその声こそが和紙の未来、自らの和紙との向き合い方を教えてくれると、今ハタノさんは強く感じています。「たとえ量は少なくても、和紙を使いたいという人の想いに応えてゆきたい。かつて自分の描いた一枚一枚の絵が、その絵を気に入ってくれた人の手に渡り、愛されたように」。絵描きとしてもの創りの原点を体験したハタノさんが、職人であるが故のそんな喜びに気がついたのは、とても自然なことだったのかも知れません。

染め紙


木とその木から生まれた紙と、その木を育んだ土で出来た日本の伝統家屋や生活。その人の営みや暮らしを“脇役”的な存在として支え続けてきた和紙。「和紙が再びもっと生活の場で使われるようになることで、人はその土地の自然や文化、そして歴史によって生かされているということを思い出して欲しい」 。手漉きの紙を通してハタノさんが、今一番伝えたい熱い思いがそこにはあります。


TOKYO FM「クロノス」では、毎週金曜日、8時38分から、毎週週替わりのテーマでボタニカルな暮らしをご紹介するノエビア「BOTANICAL LIFE」をオンエアしています。

また、TOKYO FMで毎週土曜日、9時から放送しているノエビア「Color of Life」。10月29日は女優のとよた真帆さんを迎えてお届けします。どうぞ、お聞き逃しなく。


ハタノワタル
1971年、淡路島生まれ。多摩美術大学絵画科油画専攻卒。97年、黒谷和紙研修生となり、2000年、黒谷紙漉き師として独立。伝統ある和紙の里で紙を漉き、その黒谷和紙の可能性を広げる活動を行う。 04年、綾部ファインアートグラデーション(AFaG)立ち上げ。07年、京もの認定工芸師として認定される。様々なショップでのプロダクト販売のほか、個展、展覧会等を通して、黒谷和紙の魅力を世界に発信している。

2016.09.23

Botanist6
プラントアーティスト・川本諭さん
植物でスタイリングする「グリーンな時間と空間」

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靴の中から顔を出したシダの葉や蔓など、さりげない日常の空間に意表をついて現れる植物との出会い。プラントアーティスト・川本諭さんのアートワークはどれも、ひと目で「ちょっとした驚き」を感じる斬新なものばかりです。その誰にも真似できないセンスに、ニューヨークでも熱い注目が集まっています。


植物と素敵に関わる人を紹介する「ボタニスト」。今月はプラントアーティストの川本諭さんがグリーンで創る独自の世界観と、植物に託した思いをお届けします。


きっかけはミルクブッシュとの出会い
川本諭さんが植物に魅了されるきっかけとなったのは、高校生のとき。たまたま学校帰りに見つけた枯れかけの「ミルクブッシュ」を安く譲ってもらったのが、今に繋がる「グリーン」との出会いでした。

ミルクブッシュは、ほとんどが幹と枝だけで、小さな葉っぱがところどころについているユニークな見た目の多肉植物。自分で育ててみたところ、すごい勢いで2倍にも3倍にも大きく育っていく生命力に感動。当時は今よりも珍しい植物だったため、不思議な姿の植物がすくすく育っていく様に、まるでペットを飼っているような衝撃を受け、すぐに虜に。その後、セロームやサボテンなどの植物を育てるようになり、川本さんの生活空間もグリーンで溢れてゆきます。植物の魅力は、生活の空間に葉っぱ一枚でもあるだけで、命がフッと湧くような気持ちになれるところ。ミルクブッシュとの出会いによって感じた生命力で、植物こそが人々の暮らしに潤いを与える“理想のパートナー”だということを、無意識に感じとっていたのかもしれません。


グリーンの声が聞こえる! 川本諭のクリエイティブワーク
もともとフィットネスクラブのトレーナーをしていた川本さんは、その植物の趣味を仕事にしたいと考えて、23歳で職を変えることを決意。フラワーショップを新規に併設予定だったアンティークショップの門をたたき、7年間務めた後、自身のアンティーク&フラワーショップを運営、植物をとりいれたカフェのプロデュースやショップのディスプレイなどにも活躍の幅を広げていきます。もともと植物と同様にインテリアにも興味があり、ファッションも好きだったというセンスと経験をうまく混ぜ合わせ、独自の表現を作り上げてゆきます。


トートバッグに入れてさりげなく置かれた鉢植え。冷蔵庫の中に野菜と一緒に並べられた多肉植物の鉢植え。 アンティーク雑貨と個性的なプランツを組み合わせた空間演出やインテリア。 川本さんのクリエイティブに触れると、グリーンがまさに生きもののように私たちに語りかけてくる気分になり、植物と毎日の距離がぐっと縮まるのを実感します。


ニューヨークのライフスタイルショップ、「GREEN FINGERS MARKET」
「植物を人々のより身近なものにしたい」川本さんがこれまで発信し続けてきた自分のメッセージに、より自信を深めたのは、ニューヨークとの出会いです。植物に対して自由で自然体なニューヨーカーたち。普段、日用品や食品を買う街のデリでも必ず切り花が売られ、それを日常的に買って持ち歩く人々。鉢植えの植物を週末の気分転換にサラッと買ったり、出会いの感謝を表すためプレゼントする習慣。植物が生活に自然に溶け込んでいるそんな雰囲気が、川本さんの植物に対するスタンスとマッチ、自分でも驚くべき早さでニューヨークという街に自分の居場所を見つけ、馴染んでいくことができました。2015年にニューヨーク、ダウンタウンにオープンした川本さんのライフスタイルショップ「GREEN FINGERS MARKET」。すでに何十年もその場所にあるかのようなたたずまいを見せ、隣人に愛されています。


そして、もう一つのニューヨークでの象徴的な出会いが、カリスマスタイリストのパトリシア・フィールドとの出会い。テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」や映画「プラダを着た悪魔」などのヒット作を支えた彼女と意気投合。ニューヨークらしくワイルドでボヘミアンな「グリーン」の表現を認められ、彼女のショップにはじまり、その後、自宅の庭やグリーンインテリアの施工を手がけてゆきます。「植物のようにオーガニックでブレない生き方をしたい」自分がそうあるべきという哲学とコアにこだわる大切さを知るパトリシア・フィールドと川本さんの重なる思いです。


「GREEN HOTEL」
ニューヨークの隣人に愛される存在となった「GREEN FINGERS MARKET」。川本さんが目指す次なるチャレンジは、植物をメインとしたインテリアを取り入れてホテルを作ること。6部屋ぐらいの小さなホテルで、コンセプトはニューヨークの四季の生活感を感じられるような空間。1年中、世界各地からの観光客の集まるニューヨーク。植物を育てたことがない人が来て泊まったら、植物がある空間を楽しいと思ってもらえ、普段の生活に戻ってもグリーンにこだわってゆくような意識が芽生える、そんなホテルを作りたいのだそうです。植物に携わる仕事をはじめてから決してブレることのなかった「僕の作る空間を見て“何か”を感じて欲しい」という思い。その“何か”というのは、ファッションやライフスタイルと同じように、グリーンのある生活や時間をもっと楽しんで欲しいということです。

ちなみに、これから初めてグリーンを生活に取り入れようと考えている人に、川本さんがまずアドバイスするのが「ひと鉢から育てる」ということ。まず、ひとつ家に持ち帰り、育ててみる。植物と向かい合うことで、植物は何をあなたに語りかけてくれるでしょうか。


TOKYO FM「クロノス」では、毎週金曜日、8時38分から、毎週週替わりのテーマでボタニカルな暮らしをご紹介するノエビア「BOTANICAL LIFE」をオンエアしています。

また、TOKYO FMで毎週土曜日、9時から放送しているノエビア「Color of Life」。9月は草笛光子さんを迎えてお届けしています。どうぞ、お聞き逃しなく。


川本諭 (かわもと・さとし) 
GREEN FINGERSクリエイティブディレクター /プラントアーティスト。1974年 東京生まれ。グリーンがもつ本来の自然美と経年変化を魅せる、独自のスタイリングを提唱するプラントアーティストとして活動。三軒茶屋「GREEN FINGERS」をはじめとする、自身のディレクションによる植物を中心としたライフスタイルショップを、東京、NYなどに展開するほか、ショップの空間スタイリングなど、グリーンのみにとどまらず、幅広いジャンルのディレクターとしての活動も行う。近年はグリーンの美を表現する個展も展開し、グリーンと人との関わり方をより豊かに、身近に感じてもらえるフィールドを開拓している。著書は『DECO ROOM with PLANTS』(BNN 新社)、『DECO ROOM with PLANTS in New York』(BNN 新社)、『DECO ROOM with PLANTS here and there』(BNN 新社)など。

2016.08.26

Botanist5
写真家 小林廉宜さん〜森の撮りかた、愉しみかた

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未来に残したい森があると聞けば、世界中どこへでも出かけ、写真を撮り続けてきた写真家の小林廉宜さん。 その撮影でいつも心がけているのは、森を心の目で見つめ、森の声に耳を傾けることです。


植物と素敵に関わる人を紹介する「ボタニスト」。今月は小林廉宜さんの最新の旅と写真家としての原点、そして世界の森の撮影を通して知った、森を撮るよろこび、愉しみかたをご紹介します。


世界最古の樹との出会い
マダガスカルの「バオバブの森」、ドイツの「黒い森〜シュヴァルツヴァルト」、ブラジルの「アマゾン」、ロシアの「タイガ」、そして日本の「屋久島」、「白神山地」。 世界中の未来に残したい森を撮り続ける小林廉宜さんの最新のプロジェクトは、「世界最古の樹」に会いに行く旅でした。2008年に世界最古と認定されたスウェーデンのフルフジェーレットにある樹「ヨーロッパトウヒ」。その推定年齢は9550歳。 放射線炭素の測定によって明らかにされたその生命の歴史は、氷河期が終わって間もないころから続いている計算になります。

9000年以上生きる古木と言えば、巨大に成長した姿を連想しますが、この樹の高さは5メートルほど。厳しいツンドラ気候の中で一度は冷凍状態となりましたが、ここ1世紀の気候の変化で解凍され再び成長を続けています。小林さんがこの樹を目指した目的は、9000年以上生きる生命に触れ、その生命を育む土地や環境の中に自らを置く事で、何を感じることが出来るかを知るため。樹を濡らす雨、樹を揺らす風、天上に広がる雲、そして、太陽。ここではそのすべてが一体になって、この樹の存在を特別なものにしています。ひとり樹に寄り添い、この樹が聞く風の音を一緒に聞くことで、最も強く感じたことは、今、この時代にこの樹と会えたことへの感謝の気持ち。小林さんにとって樹は撮影の対象である前に、まず「会って語り合う存在」なのかも知れません。


子供の頃の夢は「未来に残したいものを撮ること」
小林廉宜さんの実家はカメラ屋さん。 幼い頃から父親の仕事にふれることでカメラに興味を持ち、家族写真や自然の風景などレンズがとらえた感動の瞬間に触れることで「何か残すべきものを撮影したい」、そんな思いを強く感じるようになったそうです。そして、同時に小林さんを育んだのが九州・福岡という土地と環境。都市での生活圏と自然が共存する福岡の街。より身近な場所にあった海や山での毎日の体験を通し、自然を感じる心、自然への興味を強くしてゆきます。その後、小林さんは写真家を目指して上京、たまたま誘われて同行した屋久島での撮影体験が、その後の写真家としての道を決定づけます。屋久島での撮影は雨が多く、土砂降りの中、足場の悪い山道を移動したり、機材を雨から守ったりと大変な状況でしたが、縄文杉を目指して濡れながら歩く中、心の底からこんな森の撮影が楽しいと思えたそうです。森の自然をすべて受け入れ、その中で見て、感じ、体験することを撮影して未来に残す喜び。小林さんは以後、森の撮影に没頭してゆきます。



小林廉宜さんが教えてくれる森の愉しみかた
20年に渡り世界各地の森をめぐり、撮影を続けてきた小林廉宜さん。「アマゾン」「タイガ」「シュヴァルツヴァルト」。 こんな世界有数の森を私たちが体験出来る機会はなかなかありませんが、小林さんおすすめの身近なところで体験できる森の愉しみかたもあります。それは「森で雨を待つこと」。もともと雨の中で体験した森の撮影の楽しさから、ライフワークを心に決めた小林さん。雨で森の樹々がかすんでも、森の風景の魅力は変わることなく、逆に水滴が放つ光と樹々や草からの甘い香りに包まれ、より魅力的な森を体験出来るそうです。

そして、「森で夜を過ごすこと」。本来、人に備わっている「見る」という能力は二つ。一つは光に反射されたものを見ること、もう一つが「気」という内面の感覚、心の目でものごとを見ること。もちろん安全な森という前提になりますが、人工の光がない森の暗闇で一晩でも過ごすことで、内面の「気」を感じ取る人の感性は研ぎ澄まされ、心の目で見る能力を取り戻すことができるそうです。小林さんおすすめの森の愉しみかた、機会があれば是非体験してはいかがでしょう。


『僕は本当に「みる」ということができているのだろうか? 目に見えるものだけを写そうとしているのではないだろうか!?』小林さんはこう自問自答しながら、光を写すカメラのレンズを見つめる目と心の目、両方を大切にしながら、森を愉しみ、森を撮影し続けています。


TOKYO FM「クロノス」では、毎週金曜日、8時38分から、毎週週替わりのテーマでボタニカルな暮らしをご紹介するノエビア「BOTANICAL LIFE」をオンエアしています。

また、TOKYO FMで毎週土曜日、9時から放送しているノエビア「Color of Life」。8月は小野リサさんを迎えてお届けしています。どうぞ、お聞き逃しなく。


小林廉宜(こばやし・やすのぶ)
写真家。1963年福岡県生まれ。九州造形短期大学写真学科卒業。写真家・三好和義氏に師事後、1992年に独立。希少な自然や文化を撮り続ける。雑誌・広告の分野でも活躍し、2003年には玄光社「コマーシャルフォト」において「今、活躍する100人の写真家」に選出された。著書は『森の惑星』(世界文化社)、『シルクロードを行く』(世界文化社)、『フェルメール 光の王国』(木楽舎)『森 PEACE OF FOREST』(世界文化社)など多数。

2016.07.22

Botanist4
写真家、今森光彦さんの「里山」への思い

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自然が大好きだった少年は、自然を扱う写真家に。写真家、今森光彦さんの創作の原点に常にあるのが、子供のころ遊んだ里山の記憶や、その後仕事を通して大自然の中で出会った命の素晴らしさや感動です。琵琶湖にほど近い里山のアトリエで、その「自然」への思いをうかがいました。



植物と素敵に関わる人を紹介する「ボタニスト」。今月は写真家の今森光彦さんが登場。その活動とメッセージをご紹介します。


命を育む林に囲まれたアトリエ
琵琶湖にほど近い山里の深い森を抜けると、突然ひらけた棚田の風景が目に飛びこんできます。そして、その棚田の先に緑の樹々に囲まれて建つのが、写真家、今森光彦さんのアトリエ兼自宅です。周辺には自ら耕す畑や巨大なヒノキの林。まるで自然の森を切り拓いて造られた別荘のようなたたずまいですが、実はこの自然環境は今森さん自身が、30年の歳月をかけて大切に育てたものです。

今森さんは約30年ほど前にこの場所に偶然出会い、即座にここにアトリエを建てて住もうと決心したそうです。もともとあったヒノキの林をほんの少し残し、自ら道を造り、池を造り、なんとクヌギとコナラも数百本、自身の手でひとつひとつ植えていきました。その後、その樹々に鳥があつまり、その鳥が食べ、フンと一緒に落としていった植物の種が育ち、自然の林が出来上がってゆきました。つまり、ここの自然をつくったのは今森さん自身と鳥たちだったのです。

「もともと僕は、この琵琶湖の近くで育ちました。ここの自然や生き物に育ててもらったと言っていいでしょう。だから、あの頃の自然環境をどうしても再現したかった。実は、このアトリエの林に鳥がいっぱい集まってくるのは、虫が豊富にいるからです。どんな小さなものでもこの世に必要とされていない生き物はいません。まず、植物という基本があって、虫がいて、鳥がいて、生命が繋がってゆく。 ここのアトリエの自然も今、やっと自分が作りたかった環境に近づきつつあります」


おいしく食べることも自然を守り育むこと
今森さんがアトリエを包む自然環境を守る上でとても大切な存在と語るのが「薪」です。今の日本が直面する自然破壊の問題の一つが放置林。自然はただそのままにしておけばいいという認識は間違いで、人が生活の中で林に手を入れる事で、そこによりよい自然環境が生まれるそうです。定期的に木を切る事で、林の中に日が差し込み、生き物も喜びます。そして、とれた薪はピザ釜やマキストーブにも使い、また、細い枝は落ち葉と一緒にして腐葉土を作り、無農薬の野菜をつくるときに活用。今森さんのアトリエでは全く無駄なくエネルギーが循環しています。

「僕は美食家ではありませんが、食にはこだわります。おいしいものをおいしく食べないと食材に失礼、自然に申し分けないと感じるからです。食べると言う行為も自然と強く繋がっています。林を守るために切った薪でおいしいピザや肉、魚を焼く事で、ここの環境整備に貢献出来ていると言うわけです。そんな事に気がつけたのも、ここの生活での学びを通してなんです」


里山の本当の意味を知って欲しい
今森さんは「里山」という言葉を、単なる「山」ではなく、そこに人が関わる事で作物を得、エネルギーを得て、また、それを自然に返してゆくという循環がある場所だと考えています。「里山」とは場所の定義ではなく、人の暮らしが入っている自然という意味。ここ半世紀、私達は、開発という名目でこの「里山」の環境を失って来ました。でも、今森さんは復活も可能だと語ります。

「大事なことは、自分が自然に参加している事実を認識することです。自分も常に自然の中で生きていて、自然に生かされているということを意識して欲しい。たとえそれが都会のベランダであっても、近くに街路樹など緑は必ずあり、そこには雨もおちて来ます。自然はどこに行こうと永遠になくなりません。人は常に自然の中で生きている。是非、それに気がついて、喜びを感じて欲しい。都会の小さなベランダ、部屋の中の小さな鉢植えであっても、そこは自然の一部であり、里山と繋がっているんです!」

ベランダで植物や花を育てることからでも、自然に生かされている自分の存在を認識し、そこから自然や里山の存在が復権して欲しいー。これが、今森さんの願いです。今森さんは、それを自身のアトリエを包む環境で自ら実験、実証しているのです。


「子供のころの里山や、その後、大自然の中で出会った命の素晴らしさや感動を伝えたい!」そう願う今森光彦さんが今、最も力を入れている表現方法が「ペーパーカット」。その「実物」を見る事ができる展覧会も開催中です。




今森光彦ペーパーカット展「どうぶつ島たんけん」
ブッシュの中のライオン、アボリジニーの家族と追いかけたカンガルー。熱帯雨林からサバンナまで世界中旅した今森さんの思い出がつまった動物のペーパーカット作品が展示されています。

会期:2016年7月4日(月)〜 9月2日(金)
開催時間:午前 10 時〜午後 6 時(土・日・祝日は午後 5 時まで)
会場:ノエビア銀座ギャラリー(株式会社ノエビア 銀座本社ビル 1F)
入場無料
主催:株式会社ノエビア


TOKYO FM「クロノス」では、毎週金曜日、8時38分から、毎週週替わりのテーマでボタニカルな暮らしをご紹介するノエビア「BOTANICAL LIFE」をオンエアしています。

また、TOKYO FMで毎週土曜日、9時から放送しているノエビア「Color of Life」。7月は、女優の浜美枝さんをお迎えしてお届けしています。どうぞ、お聞き逃しなく。


今森光彦(いまもり・みつひこ)
1954年滋賀県生まれ。写真家。切り紙作家。
大学卒業後、独学で写真技術を学び、1980年よりフリーランスの写真家となる。以後、琵琶湖を望む田園にアトリエを構え、自然と人との関わりを「里山」という概念で追う一方、世界各国を訪ね、熱帯雨林から砂漠まで、生物の生態を取材し続けている。切り絵作品集は『魔法のはさみ』(クレヴィス)、『むしのあいうえお』(童心社)、『どうぶつ島たんけん』(小学館)など多数。
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