1996年アトランタ・オリンピック、“水の女王”と呼ばれた一人のスイマーが、競技生活にピリオドを打った。
“競泳王国アメリカ”の象徴的存在だったジャネット・エバンス、24歳。
その経歴は輝きに満ちている。

1988年のソウル・オリンピックに17歳で出場、400メートル自由形は世界新記録、800メートル自由形はオリンピック新記録、さらに400メートル個人メドレーと合わせて3冠に輝いた。
　　　
400メートル自由形の世界記録は18年間破られず、ソウル大会の翌年樹立した800メートル自由形の世界記録は、高速水着が登場した北京オリンピックまで19年間も頂点に在り続けた。

身長164センチ、体重48キロ。
泳ぎのフォームは決して美しいとは言えなかった。
呼吸の度に顔を大きく上げ、伸ばした腕を水面にたたきつけ、強引に水を切る。
それでも、他国の大柄な選手たちを小柄なエバンスが圧勝。
表彰台では、愛くるしい笑顔を見せ、レースのたびにスタンドからはUSAコールが沸き起こった。

バルセロナ・オリンピックでは、800メートル自由形で金メダルを獲得し、2連覇。
そして、エバンスにとって最後のオリンピックとなったアトランタ大会。
800メートル自由形決勝。
第7コース、エバンスがコールされるとスタンドが大きく揺れ、スタートの瞬間には、カメラのフラッシュが無数に光った。
　　　
力強く泳ぐそのフォームは全盛期と同じ、しかし、徐々にトップから引き離される。
タイムは8分38秒で6位。
新女王となったチームメイトのベネットに近づくと抱きしめて祝福した。
「競技生活の最後を生まれ育ったこの国で終えて幸せ」ジャネット・エバンスは爽やかな笑顔でプールを去った。　


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