今週の「ATHLETE NEWS」は、いいピッチャーがいると聞けば、率先してその球を受けに行く”流しのブルペンキャッチャー”こと、野球ライターの安倍昌彦さんをゲストにお迎えしました。
安倍さんは、プロのキャッチャーではありませんが、自らブルペンに座り、投手の球を受けた体感を元に記事を書いてらっしゃいます。
ー始めたきっかけは何だったんですか?
「今から15年くらい前「野球小僧」という雑誌で仕事をさせてもらっていて、今のジャイアンツのエース格、内海投手。彼が敦賀気比高校の3年生の秋ですね。インタビュー取材に行く事になっていて、その2〜3日前に編集長と立ち話をしていたんですよ。
『内海投手って、どんなボール投げるんですかね。受けてみたいですね』と、ポロッと言うと『それ面白いですね!やっちゃいましょうよ』って(笑)」
ー内海投手以外だと、どんな選手の球を受けてきたんですか?
「最近だと、日本ハムの大谷翔平投手、西武の菊池 雄星投手、ジャイアンツの菅野投手などですね。菅野投手は怖い思いをさせられましたね(笑)。唸りを上げてくるようなボールで、全く勢いが落ちない、むしろ勢いが加速されるんですよ。蒸気をあげてくるような球ですね。
加えて、菅野投手の姿が怖いんですよ。マウンド上でこっちを睨みつけている姿、顔つき、この凄みというのがマウンド上で発揮されれば、バッターはひるむ。ボールが来る前に5割負けているなって、ボールを受けてても分かりますね」
ー安倍さんが思う、いい投手の条件は何でしょうか?
「ボールを投げるということに関しては、踏み込んでからどれくらいボールを持てるか、ボールが体の後ろに隠れている状態がどれだけ保たれているか。ボールも強く投げられるし、コントロールもつく、バッターのタイミングも難しい。フィジカルで言えば、それですね。
内面で言うと、精神年齢の高いピッチャー。打てば響くというか、会話をしていて楽しい、勉強になる。こちらが期待している答え以上の次元で、回答が返って来たり。僕の質問を自分で膨らませて、自分の言葉で話せる人とか。社会性もあるんでしょうね。
逆に、『こいつは騙されそうだな、油断出来ないな』っていう意味の精神年齢の高さもね、ああいう騙し合いがある世界ですから、そうすると良い子ばかりが通用するわけじゃない」
ー相手の裏をかいたり、というのはありますよね。
「僕が質問するときのパターンなんですけど、ホームランを打ったバッターがいますよね。そのバッターの値打ちっていうのは、素晴らしいバッティングをした次の打席だと思うんですよ。高校生くらいだと、舞い上がっちゃって”もう一本打ちたい!”と、なるじゃないですか。それで、振り回して、つまらない打球で終わっちゃうっていう残念な事が多いんですよ。
僕は『前の打席で素晴らしいホームランを打ったけど、次の打席では何を考えて打席入ってた?』と言うと、”え!?”っていう顔をするんですよ」
ー確かに、なかなかない質問ですね
「僕はそれが聞きたいんですよ。そして、それを知ってほしいんですよね。人間って、良い仕事すると言うけど、本当に値打ちがあるのは、次も、その次も同じ事が出来るかですよね。
プロと呼ばれる人の値打ちは、野球選手に限らず、いつも同じ仕事が出来てるってことじゃないかと思います。それを、レベル高いなと思う高校生に求めたいんですよ。それがクリア出来てないと、上にいって自己実現出来ないわけですよ。気が付いてほしいということもあって、意地悪な事を聞いてみたりもするんですよね」
ー毎回、ゲストの方のお気に入りの一曲を伺っています。安倍さんが野球場を訪れるとよく耳にする曲や印象的な曲、心に残っている曲はありますか?
「一青窈さんの「ハナミズキ」ですね。覚えているのは、この曲を聴きながら、甲子園のネット裏の記者席に座ってるとき『今年もこの記者席で、高校野球を観られて幸せだな〜』と、つくづく感じたので、それを声に出して言ったら仲間の記者みんなに笑われたんですよ(笑)」
ー取材をされた、球を受けたピッチャーが、プロに行ってからも取材をされることはあるんですか?
「ほとんど無いですね。自分の勝手なプランとして考えてるんですけど、5年も10年も、150キロを受ける取材は無理だろうから、ボールが受けられなくなったら、僕が受けたピッチャーを取材にいってみようかなと思っているんですよね。
このあいだ、中日の吉見投手がそうだったんですよ。他の選手の取材で伺ったんですけど、僕が、10何年前の話だからたぶん覚えてないだろうと思って。囲み取材を受けている吉見投手が、真っ直ぐ向いてる視線の前に立ってたんですよね。そしたら、『安倍さん!今日、何ですか?』と、吉見投手の方から声をかけてくれた時は、嬉しかったですね(笑)」