今週の「ATHLETE NEWS」は、1月の全豪オープンで3年連続、8度目の優勝を飾った、車いすテニスの絶対王者・国枝慎吾選手です。
ダブルスと合わせて3年連続の2冠を達成し、2015年幸先の良いスタートを切りました。そんな国枝選手に現在のコンディションについて伺いました。
「全豪オープンの最中も、自分自身すごく自信がありました。テニスの調子だけではなく、身体のキレも昨年より増していて、今年も良いスタートが切れたので最高な年になるんじゃないかという予感はしています」
ー2006年から世界ランク1位の座を守るのは、プレッシャーもあり並大抵の事ではないですね。背中を追いかける側から、追いかけられる側に変わり、国枝選手にどのような変化が生まれたのか伺いました。
「世界1位になった時に感じた事は、それまでは上位の選手を倒すという事を目標にやっていました。その選手に勝つために、どう練習すればいいのか?という事を考えながらやっていました。1位になった瞬間に誰の背中も見えなくなって、「じゃぁ、自分は何でテニスをやっているのか?」と、シンプルな疑問に直面してしまって、2ヶ月位スランプに陥ってしまったこともありました。
そんな中でも試合に出続けなければいけないのがテニスで、試合中のミスはあるし、苦手なところもまだ残っていると感じました。それから、"対 誰か"で考えるのではなく、"対 自分"で考えるようになりました。
そうすると自分に何が足りないのかをすごく見つめることになりました。勝った負けたでブレることなく、自分自身が"今、何をやるべきなのか?"ということに集中できるので、それからは結果がより安定してきたと思います」
ー自分との勝負をしている国枝選手ですが、国枝さんはどのようにして、自分に打ち勝つ事ができたのでしょうか?
「2006年1月は、まだ世界10位だった僕がメンタルトレーニングを取り入れて、その年の12月に1位になりました。テニスの場合、自信を持ち続けることが安定したプレーに繋がります。「どうやって自信を持つのか考えましょう」という事が、僕にとってのメンタルトレーニングでした。
ラケットに「俺は最強だ!」と書いてあったりとか、トレーナーとカウンセリングを行った時に「世界10位の僕が、果たして1位になれるのでしょうか?」と質問したら、トレーナーの方は「世界一になりたい!」ではなく、「俺が世界1位なんだ!」と断言するトレーニングを始めてみましょう、という事から出たフレーズが「俺は最強だ!」なんです。
朝起きて鏡の前で「俺は最強だ!」と、身振りをつけて叫ぶトレーニングを365日、3年間続けました。初めてカウセリングした場所が全豪オープンのレストランだったのですが、会場中のライバルのいる前で「アイム ナンバーワン!」と叫びました(笑)。どう自分自身に自信を持ち続けられるかというのが断言トレーニングだったんですね。断言することで、コート内、コート外で「俺は最強だ!」という、オーラを纏うようなトレーニングをしてきました」
ー国枝選手は東日本大震災で被災した子ども達を訪問し、テニスを通じて交流を行っています。東日本大震災からまもなく4年。子ども達への思いを伺いました。
「最初に被災地を訪問したのが、2012年ロンドンのパラリンピック直後でした。小学校にも、ご両親を亡くされた子ども達が沢山いると聞いていたので、何を話したらいいのか悩んでいました。全校生徒に迎えられて、すごく喜んでもらえて、人間の持っている生きる力というのをまざまざと見ました。人間ってこんなに強いんだなと、自分自身もすごく感動しましたね。
自分自身、車いすになった理由は脊髄のガンだったんですね。小学4年当時の自分には、生きるか死ぬかという事が何も分からなかったけれど、自分の命がかかっていたことなので、無事だったという事に対して、車いすになった程度で良かったと思いました。
生きていれば楽しい事も沢山あるし、自分自身も毎日充実してますし、命さえあれば何も恐くないというか、一度きりの人生だから何でもチャレンジしていこうと思えている。逆に、僕にとってはあの経験があったからこそ、人生にすごく積極的になれていると思うので、悪いことばかりではなかったかなと思います。自分の人生を最も充実させる方法は、挑戦し続ける人生を歩むことだと思うのでそれを意識してもらえたら最高ですね」